1‐4 警報
「あれが王国騎士団本部だ。」
金髪の少年は約20メートル先の巨大な門がついている建物を指差した。
門は広く、縦3メートル×横2.5メートル程だ。
それにともなって、門に繋がっている壁も高くなっていた。
門や壁に隠れて、中の建物はよく見えない。
門前には剣を持った大柄の男性が二人立っていた。
「ほんとに門の前に人立ってんだな…」
陽向はライトに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
独り言だ。
ゲームやアニメでは門前に人が立っているのが定番だったので、陽向は少し感動した。
「それじゃあ騎士団に入らない?」
陽向が自然に呼び掛ける。
だが、返事がなかなか返ってこない。
陽向はライトのほうを向く。
すると、ライトはなんだか落ち着きがない。
「…その、悪いんだけど用事思い出したわ。あと頑張ってくれ!」
言い捨てると、ライトは慌てて走り去っていった。
なんだか不自然だった。
用事を思い出したというより、騎士団に入れない理由があるようにも見えた。
「ま、いっか。別に。」
そもそも、騎士団にさえこれればよかったのだから。
陽向は思った。
でも、いつかちゃんとお礼をしよう。
気を取り直し、陽向は騎士団の門前まで歩き出す。
「にしてもでけー建物だな。なんの施設だ?」
陽向がコメントした建物は騎士団の右隣にある建物だ。
騎士団と違って周りが柵で囲われているので、建物自体がよく見える。
手前には大きな庭があり、様々な草花が植えられていた。
建物本体は豪華な装飾がされており、大きさは小中学校より一回り小さいくらいだ。
「なんだ?なんか書いてあるな。」
この建物にも門のような入り口があり、そこに表札のようなものがあった。
だが、陽向は首をひねる。
表札にはなにかが書いてあるのだが、全く読めない。
日本語でも、英語でもない。
異世界語だろうか。
「日本語話しても通じるのに、書き言葉は通じないのか。」
これから勉強しなきゃいけないのか、と陽向は気分を落とす。
そして、豪華な建物の門を通り過ぎる。
「ん?ちょっとまてよ…表札?この建物、もしかして誰かの家?」
陽向は建物を二度見する。
だが、人の家にしては敷地が広すぎる気がする。
マンガやアニメじゃないんだから。
ないない、と陽向は首を横に振る。
「あの、すみません。」
騎士団の門前までたどり着いた陽向は警備をしている人に話しかける。
すると、少し武装している騎士団員は優しい表情で陽向の顔を見た。
「なんの用だい?」
なんだか爽やかな返事が返ってきた。
みると、その団員は18、19才くらいの青年だった。
身長はかなり高く180センチくらいだろうか。
陽向は首を上に向けながら質問に返答する。
「ルカっていう人に会いたいんですが…」
この発言を聞き、青年は一瞬困ったような顔をした。
後ろにいるもう一人の騎士団員も話を聞いていたのか青年のほうに近づいてきた。
すると、後から来た団員が青年に何か耳打ちをする。
それに対し青年は頷き、陽向の方に向き直った。
「すまないんだけど、ルカさんは今遠征帰りで休憩中なんだ。また後日出直してくれる?」
再び青年は爽やかに言った。
けれど、内容は陽向にとって厳しいものだった。
出直す、と言われてもそれまで居場所がない。
ここが踏ん張りどころだと、陽向は感じる。
「そこをなんとか…どうしても伝えたいことがあるんです!」
陽向は少し声のボリュームを上げた。
このまま、また街を徘徊するのは御免だ。
「それなら、伝言を預かりますが?」
今度は青年ではなく、さっき耳打ちしていた団員が言ってきた。
なんだか中年の強面で、体育教師のようだ。
「伝言ですか?」
陽向は考える。
ルカという人に伝えることはなんだ?
自分で言っておきながら考えていなかった。
ストレートに異世界から来ました、と言おうか。
これならば分かりやすいのではないか。
だが、これではきっとこの騎士団員に馬鹿にされてルカさんまで届かないだろう。
ならば何と言おうか。
考えても考えても浮かんでこない。
「伝言では伝えられない大切なことなんです。」
伝言は使えないと察した陽向がきっぱり言った。
そして、これを聞いた青年は確かめるように中年の団員を見た。
しかし、中年の団員は無情にも首を横に振った。
「すまないけど、やっぱりダメなんだ。ルカさんも今日知り合いが来るって言ってなかったし。」
やっぱりだめか…
陽向は目を伏せる。
だが、ここで引くわけにはいかない。
なにか、新たな手を考えなければ。
「こうなったら…」
陽向は小さな声で呟いた。
彼の頭には、一つの案が練られていた。
それは、彼の秘密とも言える情報を話す事。
その『秘密』とは…
「実は俺、異世界から来たんです。」
騎士団員たちは顔を見合わせた。
そして少し間があり、また中年の団員が口を開いた。
「えーっと、どうしようか。とりあえず騎士団にお医者さんいるから見てもらう?」
完全に失敗した。
陽向は思うのより早くに感じた。
こちらの世界でも『異世界から来た』などと言う人は頭がおかしいと思われるらしい。
「いや、嘘じゃなくてですね。ほら、これなんて…」
陽向はリュックの中から文明の証であるスマートフォンを取り出そうとする。
だが、なかなか見つからない。
プリント類が邪魔で中もよく見えないのだ。
「あれ、落とした?そんなはずは…」
中々見つからないので、陽向は自分を疑う。
騎士団員達はもう相手にしていないようだった。
門の警備に戻っている。
しかし、リュックをあさる陽向。
ついに硬い物が指先に触れたので、それを引っ張り出す。
「ほら、これなんてこっちにはない物で----
その時だった。
陽向の声に大きな音が重なり、陽向の言葉は騎士団員達に届かない。
なんだか、焦りを感じさせるような音だ。
二人の騎士団員はこの音を聞くと、すぐさま門を目一杯開き始めた。
陽向は勘で今何かが起きていることを感じた。
通りの方もなんだか騒がしい。
「すいません、どうしたんですか?」
音がうるさいので、陽向は声をあげる。
中年の騎士団員は、陽向が何かを言ったことに気づき、こちらに呼びかけた。
「こんなところにいないで、さっさと家に帰れ!騎士団が出発するぞ!」
陽向は困惑する。
この音は騎士団が出発するときの音なのだろうか。
それにしては、元の世界のサイレンのように騒がしい。
聞いていて良い気分じゃない。
早いテンポのメロディーがループしている。
『家に帰れ』と言われても、帰る家がない陽向はただ門際につっ立っていた。
厳密に言えばあるのだが、帰り方がわからない。
しばらくの間、そうしていると、サイレンのような音が終わり、人の声に切り替わった。
『魔獣警報です。南東門付近のランカーネ市で、魔獣多数出現。この警報が聞こえている地域の方は直ちに車道を空けてください。』
どうやら、街の中に魔獣が出現したらしい。
警報を発している女性は「繰り返します」と言ってまた同じことを伝えている。
陽向にとっては、ランカーネなどと地名を言われても近いのか、遠いのかわからない。
ただ、警報では避難しろとは言っていない。
「あーもう、俺エネルギーがかなり減ってきたのにここでイベント開始?」
少年はうなだれる。
ベッドでばったり眠りたい気分だった。