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魔法世界にようこそ!  作者: 冷鳥ルイ
第一章 ランカーネ襲撃編
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1‐3 道中


「ところで、一つ訊いてもいいか?」


「…?なんだ?」


ライトが突然、陽向に問いかけた。

陽向が対応すると、ライトは陽向の頭からつま先まで見渡してこう言った。


「ヒナの服装ってさ、どこの市のものなの?」


陽向は焦った。

効果音としてはギクッというのがあっているだろう。

ついに服装への質問が来てしまった。

陽向の装い、それは白いパーカーに灰色のジーンズというものだ。

今までこの世界を少し歩いた陽向だが、パーカー、ジーンズともに身に着けている人を見ていない。

つまり、陽向は珍しい服を着ている人、と認識されてしまう。


「あーえーっと…やっぱ珍しい?」


「うん。なかなか目立ってるし、面白い恰好だと思うよ。」


陽向の問いかけにライトは即答した。

先程も言ったように陽向のパーカーは白。

それもまぎれもない真っ白。

元の世界でも若干目につくのに、この世界ではジーンズと組み合わさってさらに目立つ。

ライトはそこを指摘した。


「フッ、ライトくん。この格好を知らないなんてこの先もてないよ。」


格好つけながら陽向は言った。

この服装をどうにかしてごまかさなければ。

ならば最先端のおしゃれをしているフリをすればどうにかなるかもしれない。

これはそういう作戦だ。


「この上半身に着ているのはパーカーっと言ってね、これから若者に大人気になるよ。」


なおも格好つけモードで話す陽向。

胸を張って自慢げに話しているが、もちろんそれは演技で、内心はこんなことでごまかせるのか、という不安でいっぱいである。

だがライトは


「あ、まじ?オレさ、そういうの疎いんだよな。」


作戦にまんまとかかっていた。


「今度、そのパーカだっけ?どこに売ってんのか教えてくれよ。」


陽向は何だか罪悪感を覚えた。

こんなに素直だったとは。

自分も見習いたい。


「あ、うん。いいよ。まあでも今日は忙しいからまた今度な。」


一生来ない今度である。

そして、出来ない約束をしてしまったことがさらに陽向に罪悪感を植え付ける。


「ああ、じゃあ今度頼むわ。ついでにファッションについて色々と教えてくれよ。」


ぐいぐいと話を進めるライト。

たまらず陽向は話題を変えようとする。


「な、なあ、あのご老人なにか困ってないか?」


咄嗟に目についた老婆の話をする。

そのおばあちゃんはなんだか挙動不審にまわりを見ている。

何かを探しているようだ。


「助けたほうがいいんじゃない?」


自分もさっきまであんな感じに挙動不審だったのかな、と考えながら陽向は提案した。

前の世界では年配の方に対し配慮もなかったのに。


「ああ、そうだな。ヒナって案外いいやつなのか?」


「心外だな。そういうライトはいいやつなのか?」


特に意味のない言葉を交わし、二人は話題の人物のもとまで向かう。

陽向としては、出会って数分だがライトとは仲良くできるかもしれない、と感じていた。


「なにかお困りですか?」


ライトが優しく年配の女性に話しかけた。

陽向は自分で言い出したのにもかかわらず、人助けなんて…、などと考えていた。

別に良いことをするのは嫌いではないし、逆に自分も気分が良くなって素敵だと思う。

けれど、率先して良いことをするのはなんだか恥ずかしい。

言葉にするのは難しいけど。


「ああ、お巡りさんかねぇ?」


その女性はライトの方を向いた。

ライトはそこまで身長が高いわけではないが、おばあちゃんが猫背のような態勢になってしまっているので、おばあちゃんは上を向いて話している。


「え?いや違いますけど。」


ライトが愛想よく返した。

どうやら、おばあちゃんは目がよく見えていないらしい。

そもそも、目がぱっちりと開いていないようだ。


「あら、ごめんなさいね。メガネを落としたみたいで、よく見えないの。」


女性は年季の入った声で答えた。

陽向はこれを聞き、同じ眼鏡っ子だったのかと謎の感動を覚える。

そもそもこちらの世界にもメガネがあったのか。


「どんなタイプの物ですか?」


ライトがすかさず質問した。

陽向はなにもできず、ただライトのコミュニケーション能力に圧倒されていた。

すると、年配の女性は両方の手で長さを示し、


「このくらいの茶色いやつなのだけど…」


と言った。

陽向はその辺の道を見てみるが、それらしい物はない。

それよりも、メガネを落とすという行為を初めて聞いて驚いていた。


「残念ながら見当たらないですね…とりあえず、配置所に行ってみましょうか。」


配置所、つまり交番にこの人を連れていくようだ。

メガネが見つからないのだからそれも賢明か、と陽向は感じた。


「それじゃ陽向、さっきのところまで連れて行ってあげて。」


ライトが陽向に言った。

さっきのところ、とは先程通った配置所のことで20メートル程前に戻ればある。


「え?いいけど?」


何故そこで自分に振るのか意味が分からず、困惑する陽向。

ここまでやったんだから、ライトが当然やるもの、と勘違いしていたようだ。


「それでは、どうぞ彼についていってください。」


女性は陽向の方へ近づいていく。

陽向は女性の歩くスピードに合わせてゆっくりと配置所に向かった。


「最近の子はやさしいのねぇ。」


「あ、はい。」


女性が話しかけてきたが、陽向はなかなかうまく返せない。

すぐに会話が終了してしまう。


「すいませーん。」


陽向は配置所の中に呼びかけた。

すると、


「はい、なんでしょう?」


少し間を置き、中から女の人がでてきた。

それも、陽向と年の変わらないくらいの少女だ。


「メガネの落とし物ってあったりします?」


陽向は若芽色をした頭髪の少女に問いかける。

すると、少女は微笑んでから


「わかりました。道端じゃなんですし、中入ってください。」


と言い、再び配置所の中に戻っていった。

陽向はおばあちゃんの手を取りながら配置所の中へと入っていった。


「どうぞ、こちらに腰掛けてください。」


少女は陽向たちに椅子を示した。

まんま交番のような内装に陽向はあっけにとられている。

前の世界では交番に入ったこともなかったのに、異世界に来て一日目でもうお世話になるとは。


「ああ、はい。ありがとうございます。」


少女が陽向が椅子に座るのを待っていたようなので、陽向は慌てて腰掛ける。

おばあちゃんはもう座っていたようだ。


「それじゃあ、質問なのですがメガネはメガネでもどんな物なのか教えてください。」


少女は陽向たちに向かって次々と質問する。

女性は時間がかかりながらも、全ての質問に答えている。

メガネの色、形、素材、メガネを落とした場所、時刻など様々な質問だ。

そして、最後に


「ちなみに、お二方はどのような関係なのですか?」


という質問が来た。

陽向は当然のように


「おばあちゃんが困っていたので、声をかけてここまで連れてきただけです。」


と返す。

ありのままだ。

すると、


「人助け…ということですか。素晴らしいですね!てっきりおばあちゃんと孫なのかと思いましたよ。」


少女は明るい顔で言った。

陽向は褒められたので照れて顔が赤くなる。

とても分かりやすい。


「ですが、ここからは個人情報を聞いていく形となりますので、席を外していただきたいのですが…」


少女は申し訳なさそうに言った。

陽向としてもこのままずっとおばあちゃんに付き合っている理由もないので、「はい」と答え、立ちあがった。


「心配しないでください。おばあちゃんのメガネは必ず私が見つけ出します!」


配置所を出る前に少女は陽向に声をかけた。

とても頼もしい感じがして、陽向は満足そうに配置所を後にした。


「おう、どうだった?」


配置所から少し離れたところでライトが待っていた。


「ん?まあ普通に対応してもらったってかんじ。」


ライトは返事に対し「そうか」と答え、「それじゃあ」と仕切り直した。


「なんか脱線しちまったけど、また王国騎士団をめざすぜ。」


陽向は無言で頷いた。


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