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魔法世界にようこそ!  作者: 冷鳥ルイ
第一章 ランカーネ襲撃編
3/22

1‐2 状況整理


「フィー、やっと一息つけるぜ…」


陽向はようやく見つけたベンチの様な物に腰掛ける。

目の前には噴水があり、その周りは芝生になっている。

元の世界でいう、公園というものだ。


「案外、公共施設の整備もいい感じだな…」


一時間ほど異世界を歩いた感想だ。

何だか偉そうに陽向は言った。

元の世界代表にでもなったようだ。

 

「あーくそ。腹減ったし…」


陽向は左手で髪の毛を巻き込みながら頭を押さえる。

腕時計がさしている時刻は10:09。

本当なら塾から帰り、夕飯を食べ、風呂から上がり、適当に動画を見ている頃だろう。


「あんま眠くはないんだけどな…」


なんだか異世界に気分が高まってしまって眠気が出ないようだった。

修学旅行前夜に眠れない感じ。

いつもなら陽向は実は朝方で割りとすぐに眠くなってしまうほうだ。


「心配…かけてんのかな。」


元の世界からいなくなってから、二時間弱。

そろそろ家族も陽向を探し始めている頃だろうか。

だが、いくら探しても見つかるわけがない。

陽向はなんだか気が重くなっってきた。


「はぁ…とりあえず状況整理しますか…」


陽向はため息をついた。

今日1日でどれくらいため息をついただろうか。

陽向は少し考えたが、やめた。

今日といえば、元の世界に居たときの事も含まれる。

というか、今日としてカウントしてよいものか。


「あれ、俺ってどこであの銀髪ちゃんにさらわれたんだ?」


陽向には白い空間に来た直前の記憶がない。

荷物から察するに予備校帰りだったのは確か。


「時系列整理をすると、午後6時前に家をでて、8時まで予備校。そこの帰りに捕まって、8時の終わり頃にはこっちに来てた、と。」


陽向は空をぼんやり見上げながら言った。

考えてみれば、二時間くらい前まで元の世界にいたのだ。

元の世界で今日起きたことがもう昔のことのようだ。


「なんだか不思議な気分。」


陽向はたまらず言った。

なんだか今日は色々あったと感じさせる。


「で、こっちの世界の状況をまとめると、基本的に西洋な感じで、亜人などはいない。動物は馬車の馬だけ見た。人口はそこそこありそう。季節があるかはわからんけど気温的には元の世界と同じかんじ。魔法世界ではあるけど箒で空飛んでる人はいない。

こんくらいかな。」


陽向は今わかる情報を片っ端から口にした。

特に意味はないが。


「うーん、やっぱ騎士団見つけないと話が始まらないなぁ…」


陽向はしょんぼり言った。

騎士団にいけば、きっと異世界からきた自分に対応してくる人がいる、と陽向は感じていた。

つまり、騎士団を見つけないと何も始まらない。


「自力で探すのが無理だったから、人に聞いていくしかないかな。」


陽向は口では言っているが、はたして実行できるかが問題である。

人と話すのが苦手な陽向は学校では仲のいい友達としか話せない。

まだ、男子とは話せるが、女子とは都合がない限り話さない。

この異世界で通行人に話しかけられるかどうか…


「コミュ力が欲しい…」


陽向はガックリと首を下に向けた。

何もこの世界に来てからのことではないのだが。

教室では数人の友達としか話さず、新しい友達を作るのも苦手だった。


「暗く考えても仕方ない。ここは異世界なんだ。元の世界のことは気にすんな。」


陽向は自分に言い聞かせるように言った。

そして、陽向は試しに話しかけられそうな人を探す。


「子連れのお母さんに年老いた夫婦っすか…」


全体的に難易度が高い。

同年代の男の子ならいいのだが。


「あれ、もしかして俺、こっちの世界で少年少女見てないかも…」


よくよく考えたらまだ同世代に会っていない。

子どもも散歩している母親が抱えている赤ちゃんくらいしかいない。


「ん?」


不意に後ろに気配を感じる。

足元を見てみると自分以外の影が一つ増えていた。

ベンチの後ろに誰かいる。

陽向は何だか怖くなってきた。

恐る恐る振り返ってみると…


「お探しの少年ですよ、黒髪くん。」


変な言い方をして、少年が話しかけてきた。

見た限りでは陽向と同い年くらいだ。

怖がっていたのが空振りした。


「え、あ…はい。」


陽向は少年の姿をざっと見渡す。

下半身はベンチで隠れていて見えないが、上半身から察するに普段着の様な物を着ている。

髪の毛は濃いめの金色で身長は陽向より少し高いくらい。


「お、なんか同年代の人に用があるんじゃないのか?」


少年は逆光に照らされながら言った。

少年の言葉に陽向は用件を思い出す。

王国騎士団の場所を訊きだす絶好のチャンスだ。


「えーっと、その…騎士団にいきたいんですけど。」


「騎士団ってつまり配置所?」


質問をしたところ、すぐに返事が返ってきた。

しかし、陽向は口ごもる。

配置所、とはなんなのか。

聞いたことも見たこともない。

少年は当たり前のような顔で問いかけてきたので、騎士団に関係はしているのだろう。


「…王国騎士団のルカっていう人に会いたいんですけど。」


思いきって名前をだしてみた。

ルカという人物がどれだけ有名なのかはわからないが。


「ルカさんに?今日出勤する予定だったかな…」


少年には『ルカ』という人物に心当たりがあるらしい。

少しの間かんがえてから、少年はまた口を開いた。


「ルカさんがいるとしたら王国騎士団本部かな…案内しようか?」


少年は金色の瞳でこちらを見てくる。

陽向は間を開けて返事をした。


「え?場所知ってるんですか?」


少年が王国騎士団の所在地を知っているようだったので陽向は質問する。


「こう見えても、諸事情で騎士団にはよくいくんでな。」


少年は自信たっぷりに答えた。

騎士団によく行く、というのが少し腑に落ちなかったが、せっかく案内してもらえるので、陽向は気にしないことにした。


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


「そんじゃ、はぐれないようについてこいよ。」


少年は言うと、ついてこいという感じでベンチから離れ、通りの方へ向かった。

少年の天然パーマのような髪の毛が少し揺れていた。

陽向は慌ててリュックを肩にかけ、少年の後に続く。


「ほんとに案内してくれるんですか?」


少年があっさり案内を引き受けたので思わず陽向は質問する。


「ん?あーまぁ暇だったしな。平日だとほとんどのダチとは遊べないし。」


『平日』という言葉に陽向は反応する。

そして、ダチと遊べないという言葉。

無論ダチはトモダチのダチだろう。

平日は友達の少年少女と遊べない、ということなのだろうか。


「話が早くて助かります。」


陽向は少年に礼をする。

陽向が思うに、この少年はなんだかとても頼りがいのある少年のようだった。

タイプ的には運動部のような人だ。


「ところで…あーとりあえず名前教えてくんね?」


少年は質問を途中でやめ、名前を聞いてきた。


「佐々木 陽向です。」


西洋的な世界なので『ヒナタ ササキ』と答えようかと思ったが、銀髪少女は佐々木陽向と日本人らしく呼んでいたため、恐らく通じるはず。


「おっけ。俺はライト・リーン。まぁライトでもリーンでもなんとでも呼んでくれ。」


日本名で答えても不自然だと指摘されなかった。

この世界は様々な名前をもつ人達が混在しているのかもしれない。


「そんじゃ、ヒナ。こんな平日の昼間にいるってことはお前さんもう働いているタイプなのか?」


もう働いているタイプ?

陽向は困惑する。

さっきから意味の分からない単語が飛んでくる。


「あ、ヒナっていうのはヒナタの略な。」


なかなか返事が返ってこないので、ライトは質問の補足をする。

陽向にとってはもっと別なところを補足してほしいのだが。


「えーっと、その…」


働いてるタイプ?バイトか?バイトのことなのか?

陽向は頭をフル回転させて答えようとするが、なかなかいい答えがでてこない。

そもそも質問の意味が分からない。


「悪ぃ。答えたくなかったら答えなくていいや。」


気を利かせたのかライトが言った。

内心ホッとする陽向。

それにしても、もう働いているとはどういうことなのか。

ライトも平日の昼間に街中にいるということは、もう働いているということなのか。


「ふぅ、さすがに人が減ってきたな…」


ライトが呟いた。

陽向も辺りを見てみると、通りはさっき歩いた時よりも人が減っていた。

考え事をしていたせいで気づかなかったが、既にかなり歩いていた。

遠くに一時間強前に上った橋が見える。


「あそこに配置所あるけど、スルーでいいよな。」


ライトが陽向に確認する。

見てみると、建物の一角に小さな部屋の様な場所がある。


「交番か…?」


確かに雰囲気的には交番のようだ。

騎士団が管理しているのだろうか。

しかし、配置所のなかには男性が一人いるくらいで『ルカ』という人はいそうにない。


「うん。スルーしていこう。」


陽向の返事にライトは頷き、また二人は歩き出した。

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