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MissTaker  作者: のほほん
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失敗の男

 失敗とは何か。曰く、失敗とは求めていた成果を挙げられないことや、想定された結果が果たせないと言うことを指す。しくじる、間違う、下手を打つ。



一般的な解釈では、そういうものが失敗というらしいが、ひねくれ者である自分は『失敗とは想定外の結果』だと考える。例えばだ、裕福ではない家庭と裕福な家庭があったとする。前者は、質素ながらも仲の良い暖かな家族、後者は裕福であるが仲の悪い家族。



 どちらが家庭作りに失敗しているかは、文脈から判断してくれ。



 他の例え話なら、課金したのに非課金者よりも弱いゲーマーや、一流企業に入って過労寸前の社員など。、失敗とは、自分の想定外の結果がマイナスに傾くことだ。




 では、もし。失敗しか出来ない人生を過ごすとしたら、人はどうするか?



 少なくとも、そんな人生ろくなモノじゃないのは確実だ。





 

 トリスドーラ王国が首都トリスドーラ、巨大な城を中心にした鉄壁と呼び声高い城塞都市。ペンタゴン大陸の中でも三指に入る国家である。



 今、話題にした都市トリスドーラの夜に紛れて怪しげな取引が行われていた。明らかにカタギではないような男たちと、肥え太り豚のような体型の商人。そして、取引されているのは檻に閉じこめられた年若い女性がわんさかと。悪人の行いそうな人身売買の鉄板要素てんこ盛りときた。



「いや~いつもご贔屓にありがとうございます。ダイカンの旦那。こいつらも旦那ほどの方に買い取ってもらえて、さぞ誇らしいでしょう」



「はっはっふ、そういわれると照れるではないかぁ。いや、これも一つの慈善活動というやつさ。年若い女が仕事にあけくれ、生きていくのは人生の損失だ。それならば、美しく着飾って生きていければ幸福に違いなかろう」



男たちの下卑た会話が路地裏で響いていく。そんな会話を空虚な目で檻に入れられた女たちが見つめている。こんな全うじゃない取引で売り買いされれば、どんな末路を辿るかなど語るまでもなく理解している。



「ああ、今回の商品たちも良い目をしている。なんと濁った諦観の瞳だ」



「ええ、躾には特に気を付け、念入りに教育してますしねぇ。心に希望を残さないのが、コツなんですよ」



「ほう、そういうものか。いやはや、なんとも卓越した調教の手腕だ。まさしく、この分野における天才ではないか」



贅肉におおわれた顔を喜悦に歪ませたダイカンは、悪人面した男を煽てあげる。



「おおっと、そう褒められてもこいつらの代金は下げませんよ。いくら商売上手な旦那とはいえ、今回の女どもは上玉揃いなんですから」



「ふむぅ、それは残念ではあるが君がそこまでいうなら、無念ではあるが値下げ交渉は控えるとしよう」



「そいつは助かります。ダイカン様には頭が上がりませんなぁ」



悪人と悪人の会話、それは何処までもどす黒い悪意に満ちている。恐怖さえ感じるような歪んだ笑顔で会話は弾む。今、ここに置いて正義という言葉は存在しない。



「はっはっふ!そういってくれるかな、きみぃ。私とて最初から商人として成功した訳ではないさぁ。幾つもの『失敗』を重ねてだねぇ」



……音高く足音が鳴った。靴と石畳により鳴った音、その音にダイカン含めた此の場の男たちが一斉に振り向いた。



足音は徐々に近づいてくる。この場の取引は後ろ暗いもの、もし兵隊にでも発見されれば厄介なことになる。目撃されたなら、その人間は消さなくては。




そして、男たちの前に現れたのは黒いマフラーをつけ着流しを纏う冴えない男だった。ダイカンたちは安堵する、兵隊に見られたなら即座に捕まる恐れもあったが、男一人なら消すだけの簡単な作業。



ダイカンと話しをしていた男が何かの合図を出し、着流しの男を始末しようと動いた、その時。背後の檻の鍵が壊れ始めた。それに追随するように、周辺の屋根のレンガが偶然か必然か、男たちの頭上に落下してくる。




それは、あっという間のことだった。気がつけば、辺りには頭をレンガで強打し昏倒したならず者たちと鍵が壊れた檻の中で呆然とする女性たち。状況は意味不明なものへ移行しつつあった。




「なんだこれ、なんだってんだよぉ~~!!!」



ダイカンの隣にいた男が、一瞬でめちゃくちゃに『失敗』した状況に納得いかず、激情にかられ着流しの男へ殴りかかる。拳を固め、全速力らしい速度で迫り……



地面に落ちていたレンガに足を取られ、顔面から地面に転倒した。倒れた男に動く気配はない。それを見た女たちは、ようやく事態を理解したのか。鍵の壊れた檻から、我先にと逃げ出していく。




「っう~~!!貴様は何なのだ!いきなり、現れて取引をぶち壊しおって!!正義の味方を気取ったつもりか!!!」



ダイカンは、今回の取引をぶち壊された怒りに身を任せて怒鳴り出す。逃げようとしていた女たちも、その声にビクつき足を止めた。



「いや、そんなつもりはこれっぽっちも。ただ、これは俺の特技だからな」



「……特技?そんな、馬鹿げた理由でーーーー」



ダイカンは、意気消沈して後ろ向きに倒れゆく。その様は、ひっくり返された亀にそっくりだった。



「いったい、いったい……お前は…………何者だ」



ダイカンの声が耳に入ったのか、着流しの男は頭に手を当てうんざりしたように肩を回した。




「オレはサタケ……『失敗屋』を営んでいる。特技を仕事にして、生計を立てている者だ」



サタケという男は正面の肥った男に自己紹介をする。ひっくり返ったダイカンが復讐のためサタケの顔を見ようとしたとき、舗装された路地裏の石畳が崩落しダイカンは地の底へと落ちていった。




こうして、ダイカンという人身売買を行う商人の取引は『失敗』に終わった。オレは黒いマフラーを揺らし肩を落とし路地裏を出て行く。




「はぁ~~助けた女の子たちと話そうと思ったのに、すぐ居なくなるとか……また、失敗で終わっちまった」




オレはサタケ、地球から異世界に転生した男であらゆる出来事を失敗させる特技を持つ失敗屋をやっている者だ。







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