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僕の物語は3000字程度

どうやら僕は運が悪いらしい。


昔からなんとなく感じていた。どの位悪いのかは自分では分かりません。アーメン・・・とりあえず頭の中で祈ってみたけど効果はなさそうだ。


「お前は馬鹿か」


目の前で僕の上司に当たる人間が怒鳴っている。よくもまぁ朝からこんなに怒る事が出来るものだ。ちなみに僕は馬鹿ではないと思う。学生時代の成績は中の中。たまに中の上に入る事もある位に平均的で普遍的だ。運動も並。キングオブ平均と言った所だろう。普通大好き人間だ。


「なんでこんな簡単な事も出来ないんだ」


上司が手で見積書をピラピラさせながら、怒りでコメカミもピクピクさせている。とても器用だなと感心する。ちなみに書類は僕が作った物だ。どうやら数字を間違えていたらしい。


「申し訳ございません」


とりあえず謝っておく。謝罪は社会人の必須スキルの1つだ。味方の興奮状態を落ち着かせる事が出来る。とても優秀なスキルである。


「これで何回目なんだ!!どうなんだ!!?」


スキル失敗。更に相手を怒らせてしまった。デバフ効果上昇で僕お手上げ。現実は非情です。


「申し訳ございません。書類の数が多くて・・・担当している現場が多いので他の現場と混同してしまいました」


これが真実。至極全うで嘘偽りのない根拠であり心からの発言である。実際僕1人でかなりの量の書類を任されてる。原因は同期の人間が皆会社を辞めてしまったからだ。


「そんな言い訳は聞きたくない!!すぐに直してこい!!」


「はい。わかりました」


そんな事は関係ないとばかりに上司は書類を僕に押し付ける。いつもの事だ。何が真実だろうと上司から見れば全て言い訳なのだろう。


「最近の若い奴らは・・・」


上司はそう小さく呟きながら去っていく。


そう。最近の若い奴。つまり僕だ。この会社は若者が居ない。正確には居なくなってしまった。上司からの理不尽な叱咤に耐えられなくなったのだろう。僕と同じ位の世代の人間は示し合わせたかのように揃って一斉に退職していってしまったのだ。じゃあ何故僕が残っているかって?そんなの僕が社内に話せる同期が居なかったから知らなかったのさ。HAHAHA


「ふぅ・・・・」


考えていてかなり凹んできた。ようは僕が孤独だから誰にも教えて貰えなかっただけだ。そもそもその話に乗っていたかも怪しい。この世の中転職は非常に面倒で僕みたいな普遍的で平均的な人間には面接は少しレベルが高い。人生で二度も三度も体験したいものではないのだ。


「余計な事考えずに見積もりを見直しましょうかねー」


そう、見直すだけなのだ。何故かというと別にこの見積もりは間違っていないのである。上司が電卓をはじき間違えたのだろう。上司のメモを見ると120×6が820になっている。これで計算をしたらそれはもう盛大に数字が変わってるくるだろう。いつもの事だ。理不尽な計算に理不尽な叱咤。こんなので毎日怒られてたらもう辞めちゃうよね。


「うにゅー」


とりあえず放置だ。間違って居ないのだから直したフリをして後で持っていけば、今度こそ正しい計算をしてくれるだろう。してくれるよね?してくれると信じたい。この書類以外にも山ほど作らなければならない書類があるのだ。激励のない叱咤なんて構っている暇などない。


「はぁ~、今日も家に着くの遅くなりそうだな・・・」


毎日家に着くのは日も変わりそうな時間になる。ご飯を食べてお風呂に入ったらもう寝る時間だ。起きたらまた出勤。これぞ社会の歯車。仕事の家畜というやつだろう。しかし一般庶民の生活とも言える。世の中の普通とは兎にも角にも家畜なのだ。


「ふぃ〜」


さてはて、そんな事を考えながら仕事をしている内に今日の勤務も終わりだ。時間は23時30分。うん、予想通りの時間だ。勤務内容は以下省略。あれからも意味のない事で怒られたり怒られたり、時に怒られたりしただけだ。憶えていたくないし記述もしたくない。家畜な一般人の皆さんは既に経験済みだろう。学生諸君はこれから頑張れ。とても頑張れ。普遍的社会人からのエールだぞ。


タイムカードを記帳して会社を出る。家まで徒歩20分程度の道のりだ。何年も通い慣れた道だけあって、意識せずに家に帰る事が出来る。もしかしたら目を瞑ってても帰れるのではないだろうか?やらないけど。


「ただいまー」


家に着く。今日一番の大声だろう。もう日付も変わろうという時間に今日一番を更新するのも中々オツなものではないだろうか。ちなみに会社でのおはようございますが第二位で第三位は家から出る際の行ってきますだ。どちらも憂鬱なのでただいまより声は少し小さめ。


「.....」


返事は返ってこない。どうやら両親はもう寝ているようだ。机の上にはラップに包まれたオムライスがあった。ビバ実家生活。お料理お掃除お小言付きだ。


「いただきます」


レンジでチンしようかと思ったけど面倒なのでそのまま食べる。うん。普通。オムライスって感じだ。冷たいけど夏なので丁度いい。10分程度で平らげる。御馳走様でした。


次はお風呂。お風呂は24時間沸いてるイカした奴だ。服を脱衣カゴに入れていざ入浴。気持ちいい。


「ふんふーん」


お風呂は好きだ。体の疲れだけでなく嫌な気分さえ流し落としてくれる。慣れてるとはいえど仕事で怒られるのは辛いのだ。長々と40分位お風呂に浸かる。男の子としては長い方かな。カラスの行水ではなく象の水浴びと言った所だ。


お風呂から出ると後は寝るだけだ。寝るのも好きだ。毎日ぐっすり8時間寝る事が出来たらかなり幸福だと感じます。しかし人生とは非常なり。今から寝たら明日の仕事に間に合う為には6時間しか寝れません。空白の2時間。足りない2時間。時間は有限でとても大切な物。仕方ないさ。


「おやすみなさい」


誰も居ない部屋で律儀にも呟く僕。ストーカー対策に女の子が家に誰か居るのを演じているのではない本当にただの一人言。そもそも一人言でも言わないと口を動かす事が殆どないのだ。謝罪と言い訳の為だけの口になってしまう。


これが僕の1日だ。ほぼ毎日このように過ごす。休みは週1回あるが大抵疲れを取る為に寝て過ごしてしまう。もし僕の物語を本にするとここまでで全て書き尽くしてしまうのではないだろうか。


あぁ忘れていた。自己紹介。僕の名前は皆葉翼みなはつばさ身長168センチ体重60キロの中肉中背。年は26歳と、ドラマやアニメやゲームなら最も主役にしにくい年齢だ。新社会人のドキドキもなければ学生のワクワクもない。そして彼女も友達も居ない。


学生時代は居たが社会人として働く内に忙しくて両方共連絡を取らなくなったらどちらも居なくなってしまった。自己嫌悪。


これで僕の事は本当に書き尽くしただろう。これで物語はお終い。僕はこれからも何も無い日常を過ごして死ぬのだろう。これが今の世の中の普遍的で一般的な人間なのだ。結婚などのイベントがあるかないかの違いだろう。特別な人間に今更なれるとも思わない。僕らは皆生かされている。確定された未来を歩むために生かされている。可能性なんてない。何が幸せなんて分からないんだ。だから僕は今日も眠る。生かされる為に。

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