可愛い娘たち
「魔王様、北の竜王よりジューシードラコンの肉が届きました」
「おぉ、そうか。もうそんな時期か。ではさっそくだが今晩にでも」
「はい。かしこまりました」
玉座から側近である男に目配せすると、恭しく一礼して王の間を出て行った。
北にある魔王領を任せている竜王から秋になると贈られてくるその肉はとても美味く、娘たちの好物でもある。
贈り主は竜王。つまりドラコンがドラコンの肉を、それは共食いになるのではないかと思うかもしれないが、魔族である竜人と魔物の竜では全くの異なる種族らしいので問題無いという。
かく言う俺も、ジューシードラコンの肉は大好物だ。
「さて、レミリアたちを呼んでくれ」
「はっ!」
側に控えていたリザードマンの近衛に命令し、しかし「いや、やはり待て」と止めた。
「私が直接向かう。今日はもう来客も無かろう。お前も次の仕事へ行っていいぞ」
「……はっ。了解であります!」
リザードマンの兵士はビシッと敬礼し、そのまま俺が退室するまでその姿勢を維持し、退室して数秒して姿勢を崩し、俺が出た扉とは別の、表から退室した。
「相変わらず、真面目な奴だな」
私室へと直接行くことが可能な廊下を歩いて行く。
高い天井には等間隔で照明が下げられ、足元には赤と金を基調とした絨毯が。今となっては見慣れたものだ。
その先にある扉を開け、私室へと着いた。
ソファ、机、椅子、衣装棚、その他絵画など装飾品。
そのどれもが普通では決して手の届かないような値段と価値のそれらは、全て俺が、というより妻たちが揃えたものだ。
他に寝室など部屋はあるが、この部屋は親しい来客を迎える事もあり特に豪華な内装になっている。
もっともこれを見て一番驚いたのは俺なのだが。
「さて――ただいま!! 可愛い可愛い娘たち!」
「!? 父上ー! おかえりなさいー!」
「おっぅ、いいタックルだ、レミリア。ただいま!」
「おかえりなさいお父様!」
「ただいまエミリア!」
「ぱぱー!」
「ただいまミレリアあぁ!!」
無駄に大きな背もたれの無いソファで人形遊びをしていた三人の娘が俺に気づくなり飛び付いて来た。
それぞれ可愛らしいワンピースを着ている。
長女であるレミリアは活発で手のかかるおてんば娘で、長い紅髪でふわふわツインテールが特徴の十一歳になったばかりの竜族の少女だ。
次女のエミリアは聡明で賢い将来有望であろう八歳の少女で、性格はレミリアとは対象的に穏やかだ。母親譲りの綺麗な金髪を背で緩く結っている。さらにもう一つ、母親から譲り受けたエルフの証である長い耳がピコピコと機嫌良さそうに動いていた。可愛い。ちなみに若干人見知りだ。
最後に三人の中では一番遅く産まれた末っ子のミレリアは、まだ五歳になったばかりの獣人の少女だ。銀髪がそのまま腰まで流れる頭にまだ小さめな狼の耳が二つ、愛らしく象徴している。お尻からふさふさとした尻尾が顔を出しビシビシとエミリアの体に当たっている。ゆったりした性格のミレリアは、三人の娘の中では特に甘えん坊で、とても可愛い。
俺の娘、超可愛い。
三人纏めてめいっぱい抱きしめると、可愛い娘たちもめいっぱい抱き返してくる。
ミレリアに至ってはスリスリと頬ずりまで。
「あぁ、癒しだ」
疲れが、と言っても玉座に座っているだけで特に何もしていないが。
「父上! 稽古がしたい! ねぇねぇ稽古!」
「お父様、ご本を読んでください」
レミリアがグイグイと腕を引き、もう反対の手をエミリアがクイクイと引く。
ミレリアは俺に正面からぶら下がるように抱き付いたままだ。
「順番な、順番。ん? そういえば、メルはどうした?」
「メルちゃんならお菓子取りに行ってるよ?」
「ふむ。どうしようか、二人ともパパが遊んでやりたいけど……仕方ない、とりあえず、《分裂》」
流石に一人で二人いっぺんには相手できないので、分身を創り出した。
片方の相手をしている間は分身に任せる事にした。
「お父様が二人、すごい」
「わぁ! 父上! これなにこれなに!? どうやったの? 私もやりたい!」
「痛い痛い。そんなに引っ張らないでくれ。今度教えてやるから」
「やった!」
「じゃあ先にエミリア、本だったか? 読もうか! レミリアは先に庭でパパ二号と遊んでてくれ」
そう言うと、レミリアはダッシュで部屋から出て行った。
そしてパパ二号は部屋から消えた。
先に庭に転移したのだろう。中々使い勝手が良い魔法なので気に入ってる。
「じゃあエミリア、とミレリアは本読もうな」
「うんっ」
「わふっ」
エミリアの手を引き、ミレリアをぶら下げ、背もたれがちゃんと付いたソファに腰を下ろし、置いてあった絵本を読み聞かさせる。
両隣に陣取った二人の娘は、それを楽しそうに聞いていたが、終わった頃に気づくと、スヤスヤと寝息を立てていた。