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いばら姫を呪った十三番目の魔女

作者: 恵美理

 昔々、綿花の畑が続く国に魔女がいました。

 魔女は十ニ人いました。

 その中の一人に、やさしい年長の魔女がいました。彼女は長生きで、おそろしい風貌でした。それが恥ずかしくて外出なぞしません。

 他の十一人の魔女はこの魔女をひきこもりと言って会合に呼ばず、のけものにしました。その上、新しく十二番目の魔女までも選出してしまったのです。十二人の枠からはみ出したこの魔女は不吉な十三番目の魔女と呼ばれるようになりました。そのため、おこりっぽく人嫌いになってしまいました。

 綿織物が産地のこの国の王様には子供がおりませんでした。王様は子供が欲しくて欲しくて、たまりません。国中がこれを心配し、お妃様も申し訳なく思っていました。十三番目の魔女もこの事を心配していました。ただ十三番目の魔女は出歩きたくありません。不吉な魔女の烙印まで押されては王様やお妃様に恐れられるだけだと心配したのです。

 

 ある日、魔女に名案が浮かびました。さっそく、お城に魔法で自分を見えなくして向かいました。

 お妃様が池のほとりで水浴びをしていました。 

 「子供ができないなんて、どうしたらいいのかしら。」と独り言を言っています。

 魔女はかえるに化けてお妃様の前に現れました。水からはい出て、

 「お妃様、一年たたない内にかわいい娘が生れますよ。望みは叶えられますよ。」

 そう言って再び水に飛びこみ、小さな呪文をつぶやきました。

 聞き取れないその呪文はさざ波になってお妃様にとどきました。

 

 翌年、この国に美しい王女様が産まれました。

 王様は喜び、愛らしい娘のために宴会を催しました。そこに十二人の魔女達が招かれました。でも十三番目の魔女を王様はのけものにしてしまったのです。金の皿が十ニ枚しかなかったのと、幸せな時に暗い怖しい顔の十三番目の魔女をお祝いに呼ぶのが嫌だったのです。十二人の魔女と、もめそうなのも嫌でした。一人ぐらいから幸運が来なくても大丈夫とタカをくくっていたのです。

 お妃様はお妃様で浮かれて、かえるにお礼を言う事を忘れています。

 宴席ははなやかなものでした。十二人の魔女達は自分たちが招かれた事を慶び、とびきりの幸運を王女様にさずけました。一人目は徳、二人目は美、三人目は富と、それはすばらしい未来です。十一番目の魔女が幸運の魔法を終えたその時、とつぜん十三番目の魔女が現れました。

「王女様は十五歳で糸紡ぎの針のさされて死んでしまうだろうよ。」

怒りに狂った魔女は言い放ち、消えてゆきました。この時の強烈な印象が魔女を悪者にしてしまいました。

人々は唖然しました。悲しみに沈んだ中、十二番目の魔女が言いました。

「邪悪な呪いを消す事はできませんが、弱める事はできます。王女様は糸つむぎの針に刺されても亡くなりません。百年の眠りにつくのです。」

 他の十一人の魔女はしまったと思いました。なぜって、他人の魔法を変更してしまったからです。呪いを消す事を難しくしますからね。十二番目の魔女は歳が若く、無知だったのです。十一人の魔女は十三番目に詫びるのが嫌なのと彼女の怒りのすさまじさに口をつぐんだのでした。彼女は魔女会では古参の魔女だったのです。十一人の魔女達はそうそうに退散しました。それを見た十二人目も消えてゆきました。

(王女様は十五年しか身が持ちません。魔法の力を借りて生まれた上に十三人が魔法をかけた訳で人間の身には危険すぎたのです。十三番目は王女様の最後を決めてあげただけです。その上、十ニ人目が変更の魔法を使ったので誰も魔法を解けなくなってしまいました。)


 十三番目の魔女を恨みながら、何も知らない王様は糸紡ぎをすべて燃やす命令を国中に発しました。悲しみが吹き上げるように火は高く燃え上がりました。

 

 その日、国境近くに住んでいる隣国の魔女は煙が高く上がっているのを見て、様子を見に行きました。糸紡ぎが大量に燃やされ、国民が十三番目の魔女のせいだと怒っているのを聞いたのです。びっくりしたこの魔女は魔女会へ報告しました。その頃の魔女は幸せを運ぶ者であり、一国にその国出身の十二人と決められて派遣されていました。これまた、びっくりした魔女会は十三人の魔女を呼び出しました。それと同時にひそかに調べました。

 王女様の誕生の魔法と誕生祝いの幸運の魔法をひとつずつとの連絡は受けていましたが、その他の事は寝耳に水だったのです。魔女には国に関する魔法を行う場合、厳重な報告義務が負わされています。ましてや、魔女会は人々に愛される事が重要事項だったのです。

 我も我もと魔法をかけた十一人は恐れて隠れましたが、捕まってしまいました。十二番目は訳も解らず捕まってしまいました。十三番目は自ら出頭しました。


 こうして魔女会裁判が始まりました。

 上段には三人の裁判官がいます。中央の一人が問います。

 十一人には十二番目の魔女を勝手に選出した事、魔女の称号の順番を勝手に繰り上げて国に報告した事、魔法で生まれた者に勝手にたくさんの魔法をかけた事が問われました。

 その都度、左前に置いてある魔法の鏡がうそを言っても本当の事を映し出します。

 十三番目にも悪い魔女と呼ばれる経緯を報告しなかった事、王女様の最後を勝手に決めてしまった事などが問われました。

 一番目を名乗っていた魔女は首謀者だった事から一番重い罰を与えられ、グールにされて国外追放です。五つだけ魔法を使えるようにして。彼女は歳をとらない魔法をまず使いました。十二番目は何も知らずに関わった為、他の魔女と同等の刑になりました。力を三分の一に減らさせられて国外追放です。その為、この国から魔女はいなくなってしまいました。


 一番目のグールは他国で人を食べながら彷徨いました。魔法で歳をとらず、きれいなままだから人をだますのなんて簡単です。もともと、心に良心をもたない性格だったので苦もなく食べる事ができました。自分の思い通りにしたい、私がなんでも一番でいたいという心がもたらした不幸です。一番は努力と周りの人への配慮ができる人でなければいけません。彼女は人を食べる事を我慢して生きていけば許される刑でもありました。彼女は自分を変えようとはしませんでした。

 後の十人はそれぞれ許されるまで他国でパン屋さんになりました。周りの人の配慮です。魔力を減らされた魔女はパン屋さんになるのが通例です。なぜって?物や空間を変化させて人を喜ばせる事が魔女の元々のお仕事だからです。パンは小麦粉が変化してできた食べ物ですからね。

 十三番目はというと、この世を憂いて、ますます人嫌いになりました。隠れの森に閉じ込められたいと自ら望み、そこに幽閉されてしました。

 十ニ番目はというと誰も見向きもしませんでした。魔女会承認の魔女ではなかったからです。十ニ番目は一番目から可愛がられた事を悔やみました。魔女になって鼻高々になり、十一人から魔法以外、何も教えてもらえず、十三番目いじめに加担してしまっていた事にはじめて気付いたのです。国外追放を受けたお陰で魔力を全部取られずにすんだ事さえ幸運か不幸なのかわかりません。ひとりぼっちです。星占いでもして生きて行くしか道はありませんでした。


 数年たったある日、十ニ番目は馬車での流浪の中、とある国で夕日を眺めながら宴席で王女様がかわいかった事を思い出しました。裁判では魔女が放った言葉は違えられないので十五歳で眠りにつかせる事と無理な魔法解除はやらない事が魔女会の決定でした。それと十二人に向かって十三番目に謝る気はあるか問われたのも思い出しました。誰も何も言いませんでした。

 

 翌朝、目覚めた時に十ニ番目は十三番目を探す決心をしました。

  隠れの里ってどこだろう?

  誰に聞けば会えるのだろう?

  十一人に聞くのは嫌だな!

そう思いながら馬車は三叉路に来ました。右はなつかしい母国に続く隣国への道、左はもう一方の道。十ニ番目は迷わず右へ行きました。


 コンコン。

 夕暮れ、母国国境近くの小さな家のドアをノックしました。場所を聞きながらやっとここにたどり着いたのです。やさしい賢女と評判です。

「はい。」

扉の向こうから声がします。

「一晩泊めて頂けないでしょうか?」

ドアが開き、中から美しい顔の女性が現れました。

「ひとりなの?小さい家だから沢山は泊れないのよ。」

「ひとりです。よろしいでしょうか?」

「どうぞ。」

彼女はそう言って家に招きいれました。炊事場と木のテーブル、その下でこちらの様子を見ている白猫、一人が寝るのに十分な長椅子、そして彼女の寝室だろう扉が向こうにあります。

「馬は繋いだ?」

「はい、木に繋いでいます。」

「おおかみが来たら大変。馬は厩に繋いで。桶があるから小川の水を汲んでやって、飼い葉もやってもらえるかしら。うちのにもお願いね。」

 仕事を終え再び戻ってくると

「こちらの椅子にどうぞ。」

テーブルに案内され、やさしい微笑みの歓待をうけました。

その上にスープとパンとソーセージがだされました。

「ひとりでは大変でしょう?どちらに行かれるの?」

「十三番目の魔女のところへ!」

彼女は眼をみはり、スプーンを落としました。

沈黙の後、

「思い出したわ。あなたは隣国の十ニ番目の魔女だったわね。何をしにきたの?」

「私は十三番目に謝りたい、王女様も助けたいのです。隠れの里の場所を教えて頂けませんか?お願いします。」

再び沈黙の後、

「今日はここまでにしましょう。食べてしまって。長椅子で休んでもらっていいかしら?毛布をもってくるわね。」

彼女は席をたって部屋に毛布を取りにいきました。


 翌日、木漏れ陽と鳥の声がします。

「おはよう。疲れてたのね。馬には水と飼い葉をやっておきました。食事しましょう。」

パンとチーズとスープの食事。

「あなたの事は賢女会に報告したわ。私ひとりの判断ではどうする事もできないの。私たちは賢女と魔女に区別されるようになった。今、私は幸いな事に賢女として生きている。その原因を作ったのはあなたたちだから!」

語気荒く彼女はいいました。

「ごめんなさい。私がばかだったのです。」

「悪い人ではなさそうね。賢女会からのおたっしが来るまでここにいるのよ。」

会話の無い静かな食事でした。


 それからの毎日は馬の世話、部屋の掃除に庭の畑の草むしり、飼い葉用の草きり、薪取り。夜は長椅子で休みしました。

 一年程たつと、白猫は実は黒猫、魔法で白く見えているだけ。賢女の寝室の中に別の扉が二つあり、一つは魔法部屋への扉、もう一つは賢女会へと通じる扉がある事に気付きました。


 ある日、庭の草むしりから戻ってくるとテーブルに三人の魔法服をきた女性が座っています。

その中の一人が、

「こんにちは。賢女会からの使者です。あなたのしたい事は解りました。実は十三番目の魔女も同じ事を言ってきているのです。彼女はあんな事さえなければ最高の賢女でした。あなたもあんなことさえなければ賢女としての素質を開花させたでしょう。協議の結果、王女様を助けたいという二人の気持ちに免じて十五歳の眠りにつく時から百年後の眠りから覚めるときまで、あなたたちに任せてみてはとの結論です。もちろん、お目付役としてここの賢女をたてます。彼女に感謝しなさい。彼女はここ一年あなたを見て大丈夫だろうと後押ししてくれたのです。」

十ニ番目の魔女の目に涙があふれました。

「あなたの気持ちがこの幸運をたぐり寄せたのです。」と、魔法服を着たこの家の賢女はいいました。

そしてもう一人、怖ろしい顔の賢女はいいます。

「あんな事さえしなければ、あなたも私も同胞として母国の為に役立っていただろうに。私の卑屈さからの怒りが事を大きくした。力ある者は自制しなければならないというのに。あなたは王女様が十五歳になる時まで隠れの里に一緒に住んでもらえるかな?そして、王女様の幸せの為に魔力をもてるように努力してもらえるか?これが終われば心おきなく隠れの里で一生を終えるつもりだ。」

十ニ番目の嗚咽し、

「本当にすいませんでした。後悔しています。よろしくお願いします。」


 使者は言います。

「隠れの里は元々引退した魔女が住まう里です。いつしか罪を犯したものの、反省心のある魔女がここに入れられ、彼女らのお世話をする事になりました。自力では脱出できない魔法の里です。あなたも時期がくるまで出られません。それでも意志は変わりませんか?」

「かまいません。ただ、ひとつお願いがあります。馬と馬車を持って行っていいでしょうか?」

願いは聞き入れられ、馬と荷物を詰められた馬車は魔法で小さくされて彼女の手の上にのりました。小さな家の賢女の寝室から左の扉=賢女会へ。賢女会の入り口から白い扉の回廊があり一番奥の白い扉の前に立ち止まりました。鍵を回すと扉が空き、そこは一面の青空と緑の大地です。

「ここからはお二人で。」

二人は中に入ると、扉は閉まり、白い扉は消えてしまいました。芝生の上には石の枠だけが建っています。

「ここは隠れ扉の地というのだよ。覚えておいて。じゃあ、それを下に置いておくれ。」

手のひらの馬と馬車を下に置くと、十三番番目は手をかざして聞き取れない声で呪文を唱えました。馬と馬車はみるみる元の大きさに戻りました。十ニ番目は思わず、馬に近寄り頭をなでてやると、おっかなびっくりだった馬も少し落ち着きを取り戻しました。

「そろそろ行こうね。」

怖ろしいけど、どこかやさしげな目で口をニッと横に広げて笑いながら十三番目は十ニ番目を御者にして馬車に乗り込みました。

「なぜ、隠れの森はこんなにきれいなのですか?」

「先輩魔女達の余生をおくるところだから、すがすがしく作ってあるのさ。それが犯した罪に苦しむ者にいいのさ。お世話の仕事もあるしね。先輩魔女と同居しなきゃいけない事になっているのだよ。」

道の傍らには時々、国境沿いの賢女の小さな家よりちょっと大きめの家が見え隠れしています。庭には野菜・花も植えられてステキな感じです。

「ひどいところかと思っていました。」

「罰をうけるところにしては、だろう?私みたいな世捨て人にはいいかもしれんが、若い者にはきついかもしれないよ。ほら、そこの家。」

十三番目は青い屋根の家を指さしました。

馬車を家の前に停めると、小さな怖い顔の老女が家から出てきました。十三番目を小さくしたような魔女です。

「おかえり。大変だったかい?」

「ただいま戻りました。外は久しぶりなので少し疲れました。先輩。こちらが十ニ番目の魔女です。」

背丈の違い以外、どちらが年上かわからないなどと十ニ番目は思っていると、

「よく来たね。」

「始めまして、これからよろしくお願いします。」

十三番目を小さくした怖い老女はいいました。

「中におはいり。いいかい、私は賢女の心得を教える。この人は魔法を教える。一日一時間ずつね。その他は雑用して欲しい。頑張るのだよ。」

十ニ番目は新たな第一歩を踏み出しました。


月日は流れ、王女様は美しく、やさしく、かしこく、しとやかで、誰からも愛される子に育ちました。欠点といえば好奇心が強いところでしょうか?

バラの花を摘む王女様を魔法の鏡を通して見ていた先輩魔女は言いました。

「もうすぐ、十ニ歳の誕生日だね。さて、これからどうするのかい?」

十三番目は言います。

「明日、予定通り使者と隣の国の賢女が来ます。その時の話し合いで大筋は決まると思っています。城塞ごとねむりにつかせ、目覚めの時に王女様が寂しくないようにしようと思っています。めざめの時まで掃除の魔法も続けなければ。」

「大がかりだね。三人で大丈夫かい。」

「もちろん、先輩の力もお貸しください。お願いします。」

ニヤッとした先輩は

「やれやれ、年寄りに人使いの荒い事だ。」

まんざらでもない様子で答えました。


 翌日、十ニ番目は隠れの扉の地に馬車で使者と隣の国の賢女を迎えに行きました。

朝日の中、石の枠に白い扉が浮かび上がり、扉があくと、中から賢女二人がやって来て、閉めた扉は消え失せました。

「久しぶりですね。」と、使者は言いました。

「元気でしたか?」と、隣の国の賢女は言います。

「お久しぶりです。元気にしております。お陰さまで、ここでいろいろ教わりました。」

「あなたのことは先輩魔女から知識も実力も十分との連絡を受けています。ただ、心が流されやすいところがあります。今回は四人での魔法なので問題はないでしょう。努力されましたね。」

ほっとした十ニ番目の魔女は馬車で二人と一緒に青い屋根の家に帰りました。

家の中からハーブティーの香りが漂ってきます。

「お早うございます。カモミールですね。」

「ようこそ、使者殿そして隣の国の賢女殿。お茶だけでなくパンケーキも焼きあがっています。まずはお茶でおくつろぎください。」

先輩は二人を居間に通しました。

少しして、

「おいしく頂きました。では、始めましょうか?十三番目に議事進行をお願いします。あなたに国の事ですからね。」

「使者殿にお願いがあります。先輩は隠居されていますが、お力をお貸し願える様にしたいと思っております。許可願えますか?」

「もちろんですよ。この話が動き出した時に、十ニ番目の教育をお願いした時点で許可がでています。ごめんなさいね。伝えてなくて。」

「いいえ、では始めたいと思います。」

ふと、十三番目にまだ一番目と呼ばれていた頃の母国での魔女会合を思い出した。国の事を思って話し合いをしていた頃の私達。自分の地位や羞恥心に負けて大事な事を見失った日々。胸に小さいけれど刺さったトゲが動きだし、ちくちくと痛みだしました。

「どうされました?」

少し、心配そうに十ニ番目が見ました。

先輩は今まで言わなかった事を言う時がきたと悟り、言いました。

「いいかい、お前の過ち、過去にはもどれない。間違いを正す進言をする地位だったニ番目はこれ幸いとお前の地位をぶんどったんだ。心の問題で一番になれる器ではなかったのに。十ニ人の合議制にしているのは過ちを犯さない為だ。そして、その上に今の賢女会がある。それで、普段、問題は起きない。長過ぎたんだよ。十ニ人の任地期間がね。組織は長く同じ体制だと腐るんだよ。魔女会も失敗した。それを魔女会も反省した。ニ番目の心がむさぼりに偏り、元々そうだったのに気が付かなかったのだろうが、ニ番目にするんじゃなかったんだよ。お前はそんな時、見失った心でいたんだ。神様でさえ完璧じゃない。神様の心がどちらかに偏れば世界は多大な影響を受ける。人として生まれ、力を少しもった長生きの私達は神様ほどに心は成長しちゃいない。お前は長く暗い思いをもってこの十年を生きてきた。自分で自分をそろそろ許してやりなさい。人は人生の過ちを修正しながら生きて行くしかないのだから。人は弱い。人は評価する。そういう心しか持っちゃいないんだよ。だから、人の評価も弱さも考慮してあげても信じちゃいけない。人は自分の存在の為にいろいろするからね。人生の長い道を正しく進める事が出来ると感じる評価と言葉こそ信じて生きていきなさい。」

使者は十三番目で大丈夫だろうかと少し心配になりましたが、この先輩がいれば安心だという気持ちもあり、黙って聞いていました。

 十三番目は心に暖かな太陽が芽生えた気がしました。ああ、これが愛というものなのだろう。漠然と十三番目は思いました。先輩がいてくれて良かった。一人だけでも解ってくれる人がいて良かった。私も十ニ番目の心を解ってあげられる心を持てるようになりたい。それこそ、人の生きてきた証となるのだろう。

「ありがとうございます。先輩、あなたに会えて本当に良かった。では、先に進みます。まず、出席されている方の近況報告してください。なんでもいいので良かった事を三つ出してください。」

 先輩は庭のりんごの花がきれいに咲いた事・十ニ番目が賢女になった事・十三番目がやる気になった事を言いました。

「自分の事は一つもないんですね。」

「この歳になると後の人の事が気になるんだよ。」

十ニ番目は魔法をする事を許された事・その実力があると認められた事・馬に子供が生れた事を言いました。

「なるほど、成長されてますね。」

「自分の事ばかりで恥ずかしいです。」

隣の国の賢女は見習いさんが出来て、その子がよい子な事・例外ながら今回、他国に関われた事・賢女として国と人々に認められている事を言いました。

「りっぱな事です。心がなせる技ですね。」

「ありがとうございます。努力だけでは事は成りません。私の場合は幸運が重なっただけですから。」

十三番目は言います。先輩に会えた事・十ニ番目に再び出会えた事・王女様を助ける魔法を許された事が喜びだと。

「そう言ってもらえるとうれしいよ。」

「感謝しかありません。」と、しみじみ言いました。

「では、王女様を百年の眠りに付かせる会議を行いたいと思います。最初に母国の現状の確認をしたいと思います。賢女様、隣の国から見てどうですか?」

「安定していますね。近隣との紛争はありません。伝え聞くところによると、王の弟の息子に王位を譲る事になるだろうとの事です。王女様が百年の眠りに付くはずなのでね。王女様は美しいとの事ですが、婚姻に近隣は躊躇しています。」

「使者殿、国の様子を見て来て頂きたい旨をお願いしていましたが、どうでしたでしょうか?」

「城塞都市国家ですね。城塞内に畑も牛もいる。小麦の作付が中心、外国に出荷しています。以前は綿花を中心にしていましたが、糸つむぎが燃やされてからは生産を止めています。それによる経済力の低下、布は全て外国産です。小麦が軌道に乗り、貿易振興策でようやく国民はうるおい、その税で国がうるおうように今はなりました。貿易中継地として道・宿・市場が整備されています。王様は凡庸だが大臣がりっぱな方だと褒め称えられています。はなはだ悔しいことですが、魔女がいなくなってからの方が良くなったという言葉も聞かれました。」

「魔法なんて、本当に困った時以外はいらないもんさ。人はより良くやっているんだね。」と、先輩はいいます。

十ニ番目・十三番目は複雑な気分です。国が栄えるのはうれしいけど、自分たちがいなくなってからいいだなんて。

「では、王女様をどのように眠りに付かせるかです。あの日、私は糸つむぎの針でさされて死んでしまうとしましたが、眠りに付くに変更されました。」と十三番目。

「お国のつむぎは燃やされてしまったんだろう。うちのを持っていきゃあいい。」と先輩。

「隣の国から見て、王様に逆らってでも置いてくれるところはないと思いますよ。」と賢女。

「では、王様に会ってきます。眠りに付くと言った私が説得して置き場所を探してもらいます。」と十二番目。

「うんというかね。」と先輩。

「不安なはずです。話は聞くでしょう。」と使者。

「王様だけでなく、お妃様・大臣にも会って来ておくれ。人となりも確認しておきたいからね。」と先輩。

「解りました。」と十二番目。

「進行役なので言うのをためらったのですが、実は城塞ごと眠りに付かせたいのです。王女様の目覚めの時に何も無くなっていては大変なので。」と十三番目。

「それは賛成できない!」と使者。

「使者殿、実は私も賛成している。なぜなら、あの国は魔法を忘れている。魔法の存在を解らせ、他国にも知らしめるいい機会でもある。賢女会の賛同を願いたい。」と先輩。

「すべてを眠らせれば、あの国は防衛できません。賛成するわけにはいきません。」と使者。

「すべてを眠らせる、それには驚きました。それで思ったのですが、いばらで城塞ごと囲んではどうでしょう?誰も入れないように。」十二番目。

「おお、十ニ番目よ。城塞の大体と城の作りの大体を空から見て来ておくれ。」と賢女。

「お待ちください。解りました。この件は賢女会に持ち帰りましょう。それまで十ニ番目はお国にいくのは待ってください。いいですね。一週間後に伺います。結果を伝えますので。」と使者は理解示しました。

「私も一週間後に参りましょう。」と賢女もいいました。

「では、今日はこれまでとします。ごきげんよう。」

これにより、十三番目は会の終了を宣しました。

 そして、十ニ番目に送られて二人は帰って行きました。


 一息つきながら、先輩は

「どうなると思うかね。」

「だめなら、他の策を考えます。」

そう言いながらお茶を入れる十三番目はカップを先輩に渡し、ニ番目の帰りをまちました。


 一週間後、使者と隣の国の賢女がやって来ました。結果は承認され、行動計画の提出を求めるとのことです。随時、鏡を通して報告をして欲しいと。こちらからは十ニ番目が王様に会う事、隣の国の賢女は週一回ここに来る事も決まりました。行動計画は王に会った後、提出したい旨が伝えられました。

最後に使者はいいました。

「これには賢女会みんなの名誉が掛かっています。幸あれ。」


「王様、王様。」

廊下を歩いている王様は足を止め、

「何者!」と言いました。

「十ニ番目の魔女です。お久しゅうございます。」

魔女は膝をついて、身隠しの術を解き、頭をたれました。

「どこに居たのだ。探していたのだぞ。」

かわいい娘が美しく賢くなるにつけ、不安が増していた矢先だったのです。

「申し訳ございません。お妃様と大臣も呼んで頂けないでしょうか?お話があります。」

二人は呼ばれ、同じ席に着きました。

「良く来てくれました。娘の事が不安でしょうがなかったのです。」

「……」

「お妃さまも大臣もお久しゅうございます。王女様の百年の眠りの事だと解っておられるのですね。私は賢女会承認の賢女としてここに来ています。百年の眠りは違えられないのです。」

「そんなことはさせない。」

かわいい王女様を思いながら大臣は言いました。

「私も本当ならそんな事はしたくありません。申し上げにくいのですが、王女様は糸紡ぎが無ければ亡くなられるのです。ここ数年方法を調べた結果です。悲しい事ですが、魔法で生まれた上に幸運の魔法を多く掛けられた。身が持たないのです。」

「魔法生れとは何なのだ?」

「お妃様は解っておられると思います。かえるが予言で王女様の誕生を言った筈です。」

「ああ。」

「それを知らずにその上に次々と魔法をかけてしまった。眠りに付かせるしかないのです。つむぎに刺され、王女様は百年の眠りに付くのです。できれば皆さまも。そしてこの国はイバラに守られて百年を待ちます。どうなされますか?王女様が目覚めた時、一人取り残される事を望まれますか?これはあなた方の決定しだいなのです。賢女会は王国拒否の為、内容を変更してもいいのです。そうなれば、こちらは王女様を百年の眠りに付かせるだけです。王女様が目覚めた時を無視して事をなすだけです。」

「少し考えさせてくれ。」

「解りました。一週間後に来ます。他言なく。王女様の寝顔をみたいのですが…」

 お妃様の導きでみた王女様の寝顔は愛らしく、ここまで大きくなってと、王様・お妃様の苦悩を思うと申し訳なさで身が切られる思いがしました。そして、短いあいさつの後、身隠しの呪文を唱え、箒にのって、城全体を見廻り、城塞内を見廻り、隣の国の賢女の家から帰って行きました。

 王様、お妃様、大臣は一室で考え込みました。

「このままでは姫は死ぬ。」

「生きて欲しいわ。」

「私は国を守ることも王族をお守りすることも大事なことなのです。姫様は眠られても私が生きてる間は必ずお守りします。しかし、その後は解りません。それで良ければ…」

「甥が王に成るだろう。甥は姫が好きだ。大事ない。だが、甥の子が王に成るだろう。甥の子の子が王に、大丈夫か?いや、それまで王国がもつか?特別な力でなければ姫は救えない。賢女に任せようと思う。」 

「王様、しかし…」

「すまない。」

王様はお妃様を抱き寄せ、大臣にわびました。


 王様もお妃様も大臣もこのことは誰にも言わない事にしました。ただ大臣は思いました。イバラに囲まれるとはいえ、植物、本当に大丈夫だろうか?国に近寄らせないうわさを流すしかあるまい。大臣には息子が三人いました。その末の子は賢く口が固かったので、呼んで言いました。

「お前は供の者と城塞の外で畑を耕し、狩りをし、家を建てて暮らさないか?」

「父上、なぜですか?」

「この国の為、長兄はわしの後を継ぐ、次兄は隣国の大臣の娘婿にする。者には順序がある。お前は城塞外でこの国を守る為の土台を作るのだよ。」

末の子は賢かったのですが、少し腹を立てました。それでも父を尊敬していたので、不満ながら了解しました。

 大臣は王様にお願いしました。

「私のニ番目の子を隣国の大臣の娘婿に、末の子は城塞外に住まわせる事にしました。三番目は賢い子です。城がイバラで囲まれた後、人を近付けない為に噂を流させます。国内的には息子に小麦の生産を上げる為に開墾をさせるといいましょう。息子はそれができるし、やってくれるでしょう。次兄には末の子の後ろ盾になってくれるように伝えるつもりです。」

王様は何も言わず、大臣の手を握りました。


 一週間後、賢女はやって来ました。

 王様は賢女に任せるといい、大臣の息子を城塞外に住まわせる事も話ました。賢女はこの話を持ち帰り話し合いました。王女様の眠り担当、城塞内の眠り担当、イバラ担当、全体の流れ担当を決めました。そして、隠れの里で通しをやってみる。一週間に一回、行うようにし、問題を確認する計画を立てました。百年の間は一カ月毎に掃除の魔法と見廻りをする事にしました。目覚めの魔法はその三年前に計画を立てる事にしました。


 そうこうするうちに王女様の十五歳の誕生日が来ました。王女様はますます美しくなっていました。今日は誕生のお祝い会があります。

王様は王女様に言いました。

「姫よ、今日は城外の者にもお祝いに来る様に伝えてあるが、大臣の三男だけはどうしても来る事が出来ない。話さなければいけない事があるので出かけてきます。それまで待っていなさい。」

「はい。」

王女様は内心喜びました。父や母は心配性でいろいろさせてもらえなかったからです。


王様は大勢の人をつれて、城外に行きました。お妃様も大臣夫妻、長男もいきます。大臣の三男は王様のおこしと身支度を整えて待っていました。

「ようこそ、王様、お妃様、父上、母上、兄上。」

「旅人は城塞内に入れぬようにここ一カ月足止めしているか?」

「仰せの通りに致しております。」

「そうか、他国の者はここ一カ月、国から出してしまった…大臣、後は話してくれ。」

「良くやってくれた、息子よ。今生の別れに来た。姫様の百年の眠りの日が来たのだ。国も父も母も兄も一緒に眠るのだ。」

「えっ!」

王女様の百年の眠りの話は知っていましたが、別れとは何だ。

「賢女が城塞ごと眠りにつかせる事になっている。イバラで城塞外壁を囲むが、それだけでは心もとない。お前は中に入ろうとする者はイバラで死ぬという噂を流すのだ。それでも入ろうとした者は殺すしかあるまい。」

「父上、母上、私を置いて行かないでください。」

「次兄もいる。隣の国にいるが、必ず力になろう。そのように伝えてある。」

父と母と子らは抱き合って泣きました。

「たのむ。」

王様の声はふるえていました。そして、王一行は城へと去っていきました。


 その頃、王女様はお城の中を歩き廻っています。誕生祝いの料理や準備でみんな大変な上、王様が多くの供をつれて出かけたのです。王女様をとがめる人は誰もいません。あちらこちらを見て廻りました。

ふと外を見ると古い塔があります。

『何があるのだろう。父上は時が来たら解るよって言ってた。』そう思いながら、せまいまわり階段をぐるぐる駆け昇って行きます。『お掃除してないのね。』やがて小さな木の扉の前にくると、錠前にさびついた鍵がささっています。『教えてくれなかったわりには不用心ね。』好奇心いっぱいの王女様は鍵をまわすと扉はすぐに開きました。

小さな部屋の中では糸つむぎを手にした怖ろしい顔のおばあさんが一人、椅子に腰かけていました。綿を紡いでいます。

「こんにちは、おばあさん。一人で何をしているの?」

「糸つむぎだよ。」

「そのくるくる回っているものは何?おもしろそう。」

王女様は自分も糸をつむいでみたいと糸つむぎの針を触ったのです。呪いは成就して、糸つむぎの針で自分の指を刺してしまいました。いたいと思った瞬間、おばあさんは呪文で王女様のベッドを王女様がたおれるところに呼び寄せました。王女様はそのまま深い深い眠りに落ちていきました。


 時同じくして、王様一行は城に帰ってきました。身隠しの呪文で見えない隣の国の賢女はお城の中から銀の粉をまいていきます。その粉に触れた人も物も眠っていきました。広間に入って王座についた王様にお妃様、後に続いた大臣夫妻と長兄、ご家来達はそのまま眠ってしまいました。一人では大変なので、同じように先輩も王女様を眠らせた十三番目も国のいたるところに銀の粉をまいていきます。城の厩の馬も、庭の犬も、屋根の鳩も、壁のはえも眠ってしまいました。台所ではかまどの火さえ眠り、焼き肉はジュージュー音を出さなくなりました。料理番は見習いを引っ捕まえて、なぐろうとしながら眠りました。お城の外では農民も宿屋のおやじも眠りました。風も木々の葉も小麦の穂も動かなくなりました。

城塞の外で箒に乗って身隠しの呪文で見えなくなった十ニ番目は、こっそり城塞の壁沿いに植えておいたイバラを魔法の杖で触っていきました。イバラはどんどん成長し、どんどん大きくなっていきます。城塞を越え、ドーム状になりながらお城の上まで茂っていきました。お城をすっかり包みこむと外からは何一つ見えなくなってしまいました。


 年月が過ぎ、誰が言ったか美しい王女様はいばら姫と呼ばれ、他国にも伝わっていきました。それを聞いた王子達は城に入ろうとやってきます。農民にふん装した大臣の三男は魔法のイバラで死んでしまうと王子達を止めました。それでも、イバラを越えようとする者は大きなイバラで傷ついたように見せて殺してしまいました。三男達はそのうちイバラは切ってもすぐに生えてくる事に気がつきました。見張りの目をかいくぐった若者がやぶの中で死んでいたからです。三男はイバラの城は怖いとうわさを流しながら、交代で火付けの見張りをするようになっていきました。


 三男に子供が生れ、年老いて死んで、子供がそれを引き継ぎました。そして、またその子が引き継いでいぎました。


 十三番目達はというと時々、掃除の魔法と見廻りに来ていました。そのうち、先輩は二百歳で亡くなりました。亡くなる前に十三番目は先輩の手を握り言いました。

「行かないでください、先輩。」

「お前は私に助けられたつもりだろうが、助けられたのは私の方だったよ。ありがとう。お前は十ニ番目を助け、十ニ番目に助けられながら生きなさい。」

先輩は静かに眠るように亡くなりました。

その後、十ニ番目に見習いが付きました。隠れの里でもいいという変わり者です。目覚めの時に手伝えるように学ばせなければなりません。

「私は賢女の心得を、十ニ番目は魔法を教える。頑張るんだよ。」

 やがて、十三番目は亡くなった先輩ぐらいに背が低くなりました。十ニ番目は怖ろしい顔になり、十三番目に似てきました。見習いは世間知らずでは困るからと時々、隣の国の賢女のところに遊びに行かされました。見習いは美しく賢い変わり者の賢女となり、三人は隠れの里で仲良く暮らしました。

そうこうしている内に、目覚めの時の三年前になりました。変わり者は隠れ扉の地に馬車で使者と隣の国の賢女を迎えに行きました。


 朝日の中、石の枠に白い扉が浮かび上がり、扉が開くと中なら、新たな使者と年老いた隣の国の賢女がやって来て、閉めた扉は消え失せました。

「はじめまして。」と、使者は微笑みました。

「元気でしたか?」と、隣の国の賢女はいいます。

「はじめまして。そして、お陰さまで元気にしております。ここでいろいろ教わりました。」

「あなたのことは十三番目から知識も実力も十分との連絡を受けています。ただ、驚かせ好きなところがある。今回も四人での魔法なので問題はないでしょう。努力されましたね。」

ほっとした変わり者は馬車で二人と一緒に青い屋根の家に帰りました。


 家の中から紅茶の香りがしてきます。

「おはようございます。アップルティーですね。」

「ようこそおいでくださいました。使者殿、隣の国の賢女殿。アップルティーだけでなく、パンも焼きあがっています。まずは、おくつろぎください。」

二人は居間に通されました。

少しして、

「おいしく頂きました。師匠である先の使者より眠りの時の話は聞いていました。よりよくされたと思っています。今回のことに関われて光栄です。議事進行は十ニ番目にお願いします。あなたの国の事ですからね。では始めてください。」

「十三番目ではないのですか?」

「私は歳を取った。いいんだよ。やっておくれ。」

「はい、では始めたいと思います。まずは近況報告からいいですか?何でもいいので、良かった事を三つだしてください。」

 十三番目は今年も庭のりんごの花が咲いた事・十ニ番目が上級の賢女になった事・見習いが賢女になった事をいいました。

「自分の事は一つもないんですね。」

「この歳になると後の人の事が気になるんだよ。」

 変わり者は魔法をする事が許された事・その実力があると認められた事・猫に子猫が生れた事を言います。

「成長されましたね。」

「自分の事ばかりでお恥ずかしいです。」

 隣の国の賢女は見習いが賢女に、ここ数年で中級の賢女になった事・例外ながら、今回もいばら姫に関われる事・歳を取りながらも賢女として国と人々に認められている事を言いました。

「尊敬に値します。心のなせる技ですね。」

「ありがとう。私だけでは事はなりません。一緒にいる賢女がいてくれてこそ、ですわ。」

十二番目は十三番目に会えた事・変わり者に会えた事・そして、今回も目覚めの魔法をする事を皆さんに許された事を言いました。

「そう言ってもらえるとうれしいよ。」

「感謝しかありません。」と、しみじみ言いました。

「では、いばら姫の目覚め会議を始めます。最初に母国の現状の確認をしたいと思います。隣の国から見てどうですか?」

「巨大ないばらの山に見えます。春と秋が美しい。バラの香りがこちらまで香ってきます。ただ、目立ちすぎましたね。イバラ姫は美しいとイバラで死ぬといううわさに功名心から王子達がやって来ては命を落とすという事態が数十件起きています。賢女会からも各国に行かない様に伝えてもらっていますが、後を絶たない。困ったことです。大臣の三男の子孫は小麦の生産を大規模にしていて、今はぶどう酒作りにも手を出しています。取引場所を作り、小交易地化させています。その流れで目覚めの後も国の経済はやっていけるでしょう。大臣には先見の明がありましたね。子孫のおじいさんはイバラを守れとのご先祖様のいいつけを守って、イバラの番をしています。すっぽりおおっているイバラを燃やしてしまおうとする国がなかった事も幸いでした。」と賢女。

「魔法のイバラだから、賢女のばちが当たるのを恐れたのもあるんだろう。」と十三番目。

「使者殿、国を見て来て頂きたいとお願いしていましたが、どうでしたでしょうか?」と十二番目。

「城塞の中に入って観ましたが。すべてが、眠り止まった状態でしたね。蜘蛛の巣もほこりも無くて、いやはやもう百年になるかと不思議でしたよ。ただ、時代遅れの服とか警備とか観ていると目覚めた跡が大丈夫か少し心配ですね。一度に百年分の知識と発展ができるはずはありませんからね。」と使者。

「では、それを踏まえ、基本どのように眠りから覚まさせるかです。百年目はもうすぐですからね。」と十二番目。

「最初の原因になった私が言うのもなんだが、魔法の状態から見て、いばら姫は百年たったら自然にめざめるだろうね。気持ちよく目覚める為にきつけ薬がいる。国全体には目覚めの金の粉にきつけ薬を混ぜて播けば大丈夫さ。いばらは元の大きさにもどしたらいい。城塞の外壁に這っていれば防御になるだろう。どうだい?」と十三番目。

「隣国としては、大体のところはそれでいいと思います。ただ、使者殿が言われた警備の遅れが心配です。他国から観たら、賢女の保護がなくなった国でしかも弱いと思われたら領土拡大の的と見られかねない。我が国の王様は今、国内の充実に力を使っています。攻めはしないでしょう。しかし、戦争に巻き込まれる恐れがあると思えば動くかもしれない。」と賢女。

「あの、若輩者が何ですが、そんな夢のない話ばかりでは、せっかくのめざめが台無しです。もっと賢女は幸せと夢のある未来とか、つむぎませんか?王子様のキスで目覚めるとか、すてき。」と変わり者。

「これ、みんな真剣なんですよ。」と慌てた十二番目。

「待て待て、変り者の言う事も一理あるぞ。元々魔女は幸せをつむぎ、人々に愛される事が重要だったんだ。いろんな事があって忘れていたよ。今、思い出したよ。初めての魔法でけがの猫を治して、子供にお礼を言われた時の事を…」と十三番目。

「ああ、そうですね。公認の魔女ではなかったけれど、子供の切傷を治したのが私の最初の仕事でした。目がありがとうと言ってました。」と十二番目。

「あの、こうしてはどうでしょう。どちらにしろ、これからも我が国を通って王子様達はイバラに挑みに行くでしょう。逆手に取って、選んだ王子様に挑みに来させる。王子様と王女様の婚姻で一国の後ろ盾を得るのです。王子様には変な欲が出ないよう、王女様を悲しませる事が嫌だというくらい惚れさせればいい。どうでしょうか。」と賢女。

「さすがですね、隣の国の賢女殿。選ばねば、いい王子を。」と使者。

「では、いばら姫の王子様候補を各国の賢女からあげてもらいましょう。使者殿、賢女会の承認と候補をお願いできますか?では、今日はこれまでとします。ごきげんよう。」と十二番目は会を閉めました。


ほぼ一カ月後、使者と隣の国の賢女は隠れの里にやってきました。承認された事を言い、王子の絵姿と性格、国名とその国の姿が書かれた物を持ってきています。

「では、始めましょう。それぞれ、見ていってくださいね。」と十二番目。

十三番目は人柄で、変り者は顔で、隣の国の賢女は国力で見てしまいます。

「人柄からいえば、この王子だね。」と十三番目。

「ハンサムな王子だわ。」変わり者。

「国力と地なり、後継ぎとなれば、この王子ですわ。」と賢女。

「完璧ではないけれど、まんべんなく持っているのはこの王子ではないでしょうか?」

十ニ番目は絵姿と書類を差しだしました。

「なるほど人柄も悪くないようだ。ハンサムだし、ひとつ向こうの良い国だ。後継ぎでもある。本人に会ってみたいね。」と十三番目。

「まあ、私が結婚したいくらい素敵。」と変わり者。

「確かに良い国ですね。王も妃も良い人のようです。大臣もしっかりしている。ここも陸の貿易国、何かと融通しあえるでしょう。」と賢女。

「会いに行ってみたいわ。」

変り者は少しうきうきしていいました。

「使者殿、どうでしょう?」と十二番目。

「では、四人一緒に行かれますか?あちらの賢女に連絡を取りましょう。賢女会の同意をもらいましょう。連絡しますので、一週間後、ニ~三日予定で空けておいてください。旅行支度をお願いしますね。」と使者。

「ありがとうございます。では、今日はここまでとします。ごきげんよう。」今回も十二番目は会を閉めました。

そして、変り者は馬車で二人を送っていきました。


「十ニ番目、伝えておかないとおけないことがあるんだ。」

「なんでしょうか。」

「先輩から言われていた事だ。私とお前には敵が多い。私は十一人の魔女を間接的にしろ有罪にした。お前はその私についてしまった。十一人やその親族は不満だろう。だから、隠れの里から出歩く事は危険なんだ。」

「解っています。感じていました。」

「かの国の賢女が十一人と関わりがないか、調べた方がいいだろう。その上で身支度するしかあるまい。久しぶりのお掃除と見廻り以外の外出だ。変わり者もいるし、楽しもう。」

使者に鏡で連絡をとった十三番目は、かの国の賢女が十一人と関係していない事を知り、ほっとしました。


 一週間後、三人は隠れの里を出て、賢女会で隣の国の賢女と合流、かの国の賢女の寝室へ向かう扉を開けました。

十二番目はかの国の賢女に相談することにしました。

「ニ~三日お世話になります。」

「こちらこそ、我が国の王子様の事ですもの、お気になさらずに。」

「この寝室に、もう一つ扉を作ってあります。そこに滞在なさってください。ベットも魔法ですが、あります。まずは夕食までごゆっくりしてください。それから話しましょう。」

夕食はパンとスープとソーセージの食事でした。

「こんなものですいません。」

「こちらこそ、大勢でおしかけて、ご迷惑をおかけします。」

「いえいえ、リンゴジャムを沢山頂きました。それに小麦粉も。王子様のことですが、明後日、お城で宴会があります。王子様に会えるでしょう。呼ばれているので一緒に行きましょう。賢女会からの来訪者として王様には伝えてあります。変身して出かけられるそうですね。」

「はい、怖がられてはいけないので、身を美しくしないといけません。」

「姿で判断するのは、人の仕方ない性ですものね。明日はどうされますか?」

「できれば観光したいですね。どこか、良いところはありませんか?」

「明日はこの国の祭り、中央広場で見物なされたらいいと思いますわ。」

「ありがとう、行ってみます。」


 翌日、祭りを変身した夫婦とその姉妹が楽しそうに見物する姿がありました。もちろん、自分を見えなくして箒で国をみて廻って後ですが。


 次の日、賢女達は今度は美しく変身して馬車でお城に向かいました。

十三番目が王様にあいさつします。

「この国の栄え、お喜び申し上げます。」

「良く来られた、賢女殿。賢女会の方々も楽しんでお帰りください。」

「身に余る幸せでございます。」

みんな席に着き、お妃様、王子様に目をやりました。

「あの王子様ですよ。」

「やっぱり、ハンサムね。」

「なるほど、ハンサムだ。あの小間使いが王子様付きだね。何でもしゃべる術をかけてみるかね。」

小声で十三番目は十ニ番目に言いました。

「かわいそうですわ。」

「何、後で言った事を忘れる魔法もかけておくよ。」

広間から出て行く小間使いを三十ぐらいに化けた十三番目は追いかけて行きました。術にかかった小間使いから、りっぱでやさしい王子様が好きだけど身分違いで悲しい事や王子様は王様、お妃様、大臣から信頼されている事なども聞き出しました。

その間、隣の国の賢女はこの国の賢女に聞きました。

「あの方が大臣ですか?気難しそうな方ですね。」

「ああ見えても心くばりができる方なのですよ。道の整備や祭り、産業と貿易に力を入れています。」

変わり者はというと、宴会の華やかさを楽しそうに見ています。

出てきた食事はおいしく、楽しい音楽に、久々の幸せな日となりました。


 翌日、十ニ番目は変り者が残念そうにしているのを知り目に、すぐに帰る事にしました。この国の賢女にお礼を言って帰り、また次の日、みんなと賢女会の承認を取って、あなたの国の王子様にする事を連絡しました。

忙しかったこの国の王様とお妃様は一息つくと、この賢女を呼び出しました。王子様もいます。

「賢女会は何をしにきたのだ。」

「私の監査ですわ。国に尽くしているか、評判を見にきたのです。お陰さまで無事に終わりました。」

「そうか、何か言っていたか。」

「いい国ですねと。王様の信任も受けておられるように見受けられたと。それと功名心から、いばら姫に会おうとして魔法のイバラで命を落としている方がいるので、絶対にこちらの王子様は行かせないように、と言われました。」

「いばら姫か、王子よ、絶対に言ってはならぬぞ。」

「そうですよ。もしもの事があります。美しくても眠ったままの王女様ではねぇ。」

「それがもうすぐ百年目、いばら姫のめざめは近いらしいのです。」

「まあまあ、この話はこれくらいにしよう。」

王様の言葉に賢女は帰っていきました。


 王子様は好奇心に負けて賢女の家に向かいました。やっぱり来たわと賢女は思いました。

「これは、王子様。」

「ごきげんよう、賢女殿。ひとつ聞きたいことがあるのだ。いばら姫の城はどこのあるのだ?どうすればいけるのだ?」

「何人も命を落とされています。私が教えたとなれば王様に恨まれます。」

「外から見るだけだよ。」

「それでも私が言ったとなれば王様からの信用を失います。」

粘り強く王子が言うのを、しめしめと思いながら、

「それではこうしましょう。宴会に来ていた賢女の一人が場所を知っています。いばら姫のお隣の国の賢女ですわ。そちらに伺えば解るかもしれません。でも王子様が行かれても教えてくれるかは解りません。」

「私は王になる前に、結婚する前に、世の中をみて冒険したいんだ。あなたから聞いた事は内密にするよ。」

王子様は王様に、いばら姫の事は言わず、世の中を見に行きたいと言い、商人に身をやつして供をつれ出かけていきました。


従者が指をさし、

「あそこに小さな家が見えます。」

「あれが賢女の家か?」

ここに来るまで、あちらこちらの国や町を見て来て、王子は世界が広がるのを感じていました。

コンコン。

「はい。」

「賢女殿のお宅ですか?お話があります。」

「どちら様でしょう。」

「賢女殿が監査にお越しになられた国の王子です。」

扉が開き、中から若い女性が現れました。

「どうぞ、賢女様がお待ちですわ。」

「来る事が解っていたのか?」

「王子様の国の賢女が連絡されていたのですわ。」

テーブルに招かれ、パンとスープが出されました。

「お疲れでしょう。宴会の折りはお呼び頂きありがとうございました。お伴の方もどうぞ、おくつろぎください。」

賢女が現れ、そう言いました。

「ありがとう。ここに来たのはいばら姫に会ってみたいからだ。私がめざめさせたい。」

「冒険心はいいのですが、選ばれた者でなければ、百年目ちょうどの日でなければ、イバラに殺されてしまうのです。イバラに受け入られるには十ニ番目と十三番目の魔女の承認がいります。十三番目をご存知ですか?いばら姫に死を与えた、それを十ニ番目が百年の眠りに変えた。魔法をかけた魔女の力を借りなければなりません。」

「どこにいるのだ。」

「今はイバラの城のみはりをしています。城塞の左右に別れてね。人の目に見えない家に住んでいるのです。殺そうとしてはいけませんよ。怒りをかってはいけません。お願いし魔女の言う事を聞いて、やってあげるのです。行かれるのなら、まずは十ニ番目のところにつれていってあげましょう。どうされますか?」

行く旨を聞いた賢女が杖を一振りしたら、あら不思議、右側に美しく咲いたイバラの山ある森に着きました。そして、賢女は王子達のまぶたを杖で触りました。そうすると小さな家が見えます。

「あそこが十ニ番目の魔女の家です。それでは、お元気で。」


コンコン。

「はい。」

「十ニ番目の魔女の家ですか?お話があります。いばら姫のところに行きたいのです。」

「どうして、ここが見えるのだ。」

「隣の国の賢女のおかげです。」

「何者なのだ。」

「ひとつ向こうの国の王子です。」

ドアが開きかけた時、供の者は思わず刀に手をかけました。王子様は供を制止しました。中には、歳を取った怖い顔の魔女がいます。

「ぶっそうだね、刀は預かっとくよ。それで良ければ入っていいけど。」

王子様は供の刀を取り上げ、魔女に渡して入って行きました。出されたお茶とパンは無理をして食べました。王子達は魔女が怖かったのです。

「いばら姫のところに行きたいのです。私がめざめさせたいのです。」

「私だけでなく、十三番目の力もいるぞ。」

「隣の国の賢女に聞きました。解っています。」

「では、ここに一年間住んで薪割りをしてもらおうか。」

王子様も供も魔法の部屋で暮らし、一年間薪割りをして暮らしました。王子様の手にマメができ、つぶれました。それでもやめません。そんな王子様に十ニ番目の魔女は言いました・

「王子様、あなたは一年間、身分にあわない事をいといませんでした。これは大変なことです。私を怖ろしいと思いながらも逃げずに続けられました。これを渡しましょう。」

魔女は自分の首に掛かったペンダントを渡しました。

「これはいばら城のイバラをはらうペンダントです。つけて入っていけば、イバラはあなたに向かってきません。入口がどこか、いつの日かは、十三番目の魔女に聞いてください。供の方達は王子様に触って入っていかないといけませんよ。イバラに殺されます。十三番目の魔女にお願いし、魔女の言う事を聞いてやってあげなければいけません。それで良ければ、いく用意をしてください。」

荷物を持って戻ってくると、魔女は杖を一振り、あら不思議、左側に花一面のいばらの山が見える崖の上に着きました。魔女は杖で王子達のまぶたを触りました。そうすると小さな家が見えます。

「あそこが十三番目の魔女の家です。刀はお返しします。ごきげんよう。」


コンコン。

「はい。」

「十三番目の魔女の家ですか?お話があります。いばら姫のところに行きたいのです。」

「どうしてここが見えるのだ。」

「十ニ番目の魔女につれて来てもらいました。」

「何者なのだ。」

「ひとつ向こうの国の王子です。」

ドアがカチッと音をしただけで、供は刀に手をかけてしまいました。王子様は供を制止しました。ドアの向こうに十ニ番目を小さくした魔女がいます。

「ぶっそうだね。刀は預かっておくよ。それで良ければ入っていいけど。」

お茶とパンケーキが出されましたが、のどを通りません。王子達は本当に魔女が怖かったのです。

「いばら姫のところに行きたいのです。私がめざめさせたいのです。」

「そのペンダントをしてるところを見ると十ニ番目は認めたようだね。では、一年間水汲みをしてもらおうか。それと夕食の後、冒険談を聞かせてもらいたいな。」

王子達は魔法部屋で暮らしました。イバラの山は春と秋に美しい花を咲かせます。その美しさと香りに王子様はいばら姫がどんなに美しいかを思い描きました。王子様は崖の下の川への水汲みで足にマメができ、つぶれました。それでもやめませんでした。魔女は一年間いろんな話を聞いてきました。国の事、他国の事、時々、助言をします。王子様はやがて彼女は賢女ではないかと思い始め、尊敬を持って接するようになりました。やがて一年程経ちました。

「王子様、あなたは一年間身分に合わない事をいといませんでした。国を思う気持ちも知識も我慢強さも十分と見ました。これは大変な事です。私を怖ろしいと思いながら逃げずにここにおられました。これを渡しましょう。」

小さな薬入れを王子様に渡しました。

「これには、めざめの薬が入っています。ご自分の唇にこれをつけて、いばら姫にキスをすればめざめるでしょう。明日が百年目です。イバラ城を左廻りにいくと年よりがいます。そこがイバラ城の門のところです。勇気を持ってお行きなさい。ただ、キスするまで中の物は何も触ってはいけませんよ。眠りにつられてしまいますからね。今日でれば明日には着けるでしょう。刀はお返しします。王子様に幸あれ。」

魔女はドアのところで王子一行を見送りました。王子様が振り返るともう小さな家はそこにはありませんでした。


 十三番目は隠れの里に帰ってきました。

「お疲れ様でした。」

「今日はのんびりしてください。ずいぶん無理されましたから。」

「ああ、明日だね。永かったよ。あの王子ならいいよ、王女様も幸せになるだろう。」


 百年たったある日、老人のところに若者達がいばら姫の話を聞いて、やってきました。その中の一人の若者はイバラの前に座っているその老人にいばら姫の事を尋ねました。老人はいいます。ここには美しいいばら姫が百年眠っていると、王様、お妃様、家来と国の民もひとり残らず眠っている。おじいさんから聞いたが、多くの王子様達がやって来てはイバラに引っかかってあわれな最後をとげたのだそうなと話してくれました。

「怖くない、行ってみるよ。美しい姫に会いたい。」

「やめてください。私もイバラにひっかかったしゃれこうべを見ましたが、ひっぱりだせないんです。その言い伝えを絶やさぬようここで番をしているんです。」

王子様は老人に耳を貸しませんでした。

「ありがとう。でも今日が百年目なんだ。私は行くよ。」

 王子様は老人の前を通り過ぎ、きれいな花を一面につけたイバラのやぶの前で、首のペンダントとポケットの薬入れを確認しました。肩に供の手をかけさせて刀を抜き、一歩一歩進んで行きました。イバラは左右に分かれていきます。そして城へのイバラのアーチの道ができました。王子達は傷つかずに入っていくと、いばらは元通りに閉じていきました。

 王子様が行くところ、門も扉もひとりでに開いていきます。麦畑をぬけ、町をぬけ、お城の中に入っていきました。時が止まったままのここは百年後とは思えないゴミもほこりもないところです。馬も犬も眠っています。屋根の上では鳩が頭を羽の下に隠して眠っています。城の壁にとまったはえは動きません。台所では料理番が小僧を捕まえて手を挙げたまま眠っているし、女中はにわとりの羽をむしりながら眠っていました。広場で、ご家来は残らず眠っていて、王座に座った王様、お妃様も眠っていました。王子達は歩いて、あちこちの部屋を見ましたが、いばら姫はどこにもいません。

 最後に古い塔に王子様達は行ってみる事にしました。らせん階段を昇り、小さな部屋の扉が開くと、いばら姫がベットに眠っていました。供はそばに控えています。王子様は姫に見とれてしまいました。

「美しい、やっと会えた。私の姫。」

 十三番目からもらった薬入れの薬をくちびるにぬり、いばら姫にキスをしました。いばら姫はぱっちり目をさまし、王子様と見つめ合いました。この薬はほれ薬も入っています。お互いにとてもとても好きになりました。十三番目、十ニ番目、隣の国の賢女、変り者は身隠しの魔法をして、それを見守りました。幸せな気分です。それから、十三番目、隣の国の賢女、変り者は金の粉を城中、国中にまいていきました。十ニ番目は箒に乗ってイバラを杖でさわって行きました。イバラはどんどん小さくなって城塞の壁をおおうぐらい小さくなりました。

 城では厩の馬はみぶるいして起き上がり、中庭の犬はしっぽを振ってめざめました。はとは羽の上に頭をだして飛んでゆきました。壁のハエは手をもぞもぞさせ、台所の火は炎をあげて、焼き肉はジュージューと音をあげました。料理番はつかまえたこぞうのほほをピシャリ、こぞうは泣き叫びました。女中はにわとりの羽をむしり取り、まるはだかにしました。小麦の穂も風にゆれています。王様もお妃様も大臣も家来もみんな目をさまして、なぜだがびっくりしてお互いをみました。

 そこに王子様、王女様がやってきます。

「私は一つむこうの国の王子です。姫と結婚させてください。」

「そなた達はいつの間に…」

もう百年たったのかと思いながら、躊躇していると、

「父上、母上、お願いです。」

娘に甘い二人はこれも運命と思い許しました。こうして誕生会の宴会は婚礼の宴会となり、華やかに行われました。大臣はあわてて三番目の息子のところに人をやり、子孫をつれて来させ、みんなで祝いました。


 自分達を見えなくして、王子様と王女様の結婚式を見ながら、十三番目は倒れました。

「ここまで生きれて良かった。もう駄目そうだ。」

十ニ番目は手を握りました。

「いかないでください。」

「お前は私に助けられたつもりだろうが、助けられたのは私のほうだったよ。つらい事も多かったが、お前がいてくれて良かった。ありがとう。お前は変り者を助け、変り者から助けられて生きなさい。私の替わりに。」

婚礼を見守りながら十三番目はやがて目を閉じて亡くなりました。怖くなくなった幸せそうな十三番目の遺体とともに、泣きながら賢女達は隠れの里のあのりんごの花咲く青い屋根の家に帰って行きました。


 いばら姫の婚礼後、大臣夫婦と長兄は子孫のおじいさんにつれられて三男のお墓にいきました。墓石の苔を取っていくと墓碑がみえました。『父よ母よ兄よ、いいつけは守りました、先に眠ります』三人は声をあげて泣きました。大臣はニ兄の嫁いだ国に問合せましたが、子孫は探し出せませんでした。


 そして、王子様と王女様は死ぬまで幸せに暮らしました。



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― 新着の感想 ―
[一言] のばら姫の話はD社しか知らなかったので、とても興味深く、それでいて面白かったです。 賢女たち、とてもいいキャラですね
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