最強の力
男はモンスターに飛びかかる。一閃。モンスターの首は吹き飛び、地面にどさりと落ちる。
「ふう、これで終わったぞ」
「さすがです、アーサー殿!」
「今回も凶悪なモンスターを一発で仕留めるなんて! 強すぎます!」
彼ら二人は、モンスターを狩るうえでとりあえず、パーティとして一緒に動いている奴らだ。実際は、アーサーと呼ばれる男が先ほど倒したモンスターに手も足も出ないほど弱い。
アーサーたち三人は、戦果としてモンスターの首をギルドへ見せて、それと同等の報酬をもらう。彼等はそれを三等分に分ける。
アーサーは何もすることがなく、とりあえず酒場へと足を運んだ。
「お、アーサー殿! ここにいたか! 俺たちはいま、この大物を狩りに行こうと思っているのだが、アーサー殿も一緒にいかがかな?」
「いや、今日は遠慮しておくよ」
「うーむ。それは残念」
男はアーサーのもとから離れていった。
この町の者はアーサーを尊敬している。アーサーは非常に力のある男だ。一人でドラゴンを倒したという逸話まである。だからこそ、他のチームはアーサーを自分んのパーティとして仲間に入れてモンスターの討伐を楽に終えようと考えているのだ。アーサーはそのことに気付いている。だが、最初はみんなの役に立てるということで、積極的に協力していたが、最近はそれもめっきり減った。
アーサーは酒を一杯だけ飲むと酒場から出ていく。
「あら、アーサー殿。どうかしら? うちの店に来ない? サービスするわよ」
「いえいえ、わたしの店に来なよ。そこよりもいいものだすよ」
女たちが胸を押し当てて接客してくる。アーサーはそれが非常にうっとうしいと思っていたが、顔に出さずにやんわりと断った。
アーサーは人気のない所へ入っていく。今の彼は誰にも会いたくはない気分だったのである。
「神様。私は、何を間違っていたのでしょう」
彼は、昔は貧弱な男だった。ギルドで仕事をもらおうにも体力も何もかもが平均以下で、まともに取り合ってもらえなかった。だからこそ、彼は誰よりも努力をした。ギルドに認められるような力をつけるために努力をした。
それを見ていた神は彼の努力を見て感動し、彼に力を与えた。無敵の力を。誰にも負けない。どんな奴にも必ず勝てる『最強』と呼ぶにふさわしい力を。
彼はそれからの活躍は凄まじいものだった。ありとあらゆるモンスターを一人で討伐し、彼の実力はすぐに広まった。
そうして今に至る。
「神様……」
男はまたぽつりとつぶやいた。
「私は、最強の力などいりません。私は、一人です。確かに私の周りには私を慕ってくれる人がいます。ですが、私と心を開いた関わりを持ってはくれません。私に遠慮しているような感じがします」
彼の眼は、悲しみにあふれていた。
「私は、最強の力などいりません。私は、信頼できる仲間と背中を預け合えるような、そんな力が欲しかったのです」
と、彼の背後からすすり泣く声が聞こえた。
「誰だ?」
彼は目を向ける。そこには幼い少女が眼を腫らしながら泣いていた。
「つらかったね。みんなに必要とされた異質な力を持ったせいで、周りから省かれているなんてつらかったね」
彼は、少女がとても異様に感じました。
「これも全て、忌まわしい神の仕業なんだよ。全部あいつが悪いの。あなたが、一人ぼっちの力を手に入れたのもあいつが悪い」
少女は穏やかな笑みを浮かべた。
「復讐しましょう? 神に復讐するの。いえ、世界に復讐かも。あなたを一人にしたこの世界に復讐しましょう?」
「な、何を言っているんだ。そんな事……」
「出来るわ。あなたはもう一人じゃないの。私たちがいる。あなたの望んだ仲間が、あなたが欲して堪らない仲間が、私たちがいるわ。私たちは、あなたが背中を預けるだけの力を持っているわ。だから、安心して。私たちを頼って。世界に復讐するために」
彼は、少女の発言に呑まれていた。彼は、仲間を欲していた。彼は、彼女なら自分の求めていた存在になれると確信していた。彼は少女の差しのべた手を掴んだ。少女は微笑んだ。
「おめでとう。これであなたも私たちの仲間よ」
彼の求めるものがそこにはあった。




