表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最強の力

作者: 海沼偲

 男はモンスターに飛びかかる。一閃。モンスターの首は吹き飛び、地面にどさりと落ちる。

「ふう、これで終わったぞ」

「さすがです、アーサー殿!」

「今回も凶悪なモンスターを一発で仕留めるなんて! 強すぎます!」

 彼ら二人は、モンスターを狩るうえでとりあえず、パーティとして一緒に動いている奴らだ。実際は、アーサーと呼ばれる男が先ほど倒したモンスターに手も足も出ないほど弱い。

 アーサーたち三人は、戦果としてモンスターの首をギルドへ見せて、それと同等の報酬をもらう。彼等はそれを三等分に分ける。

 アーサーは何もすることがなく、とりあえず酒場へと足を運んだ。

「お、アーサー殿! ここにいたか! 俺たちはいま、この大物を狩りに行こうと思っているのだが、アーサー殿も一緒にいかがかな?」

「いや、今日は遠慮しておくよ」

「うーむ。それは残念」

 男はアーサーのもとから離れていった。

 この町の者はアーサーを尊敬している。アーサーは非常に力のある男だ。一人でドラゴンを倒したという逸話まである。だからこそ、他のチームはアーサーを自分んのパーティとして仲間に入れてモンスターの討伐を楽に終えようと考えているのだ。アーサーはそのことに気付いている。だが、最初はみんなの役に立てるということで、積極的に協力していたが、最近はそれもめっきり減った。

 アーサーは酒を一杯だけ飲むと酒場から出ていく。

「あら、アーサー殿。どうかしら? うちの店に来ない? サービスするわよ」

「いえいえ、わたしの店に来なよ。そこよりもいいものだすよ」

 女たちが胸を押し当てて接客してくる。アーサーはそれが非常にうっとうしいと思っていたが、顔に出さずにやんわりと断った。

 アーサーは人気のない所へ入っていく。今の彼は誰にも会いたくはない気分だったのである。

「神様。私は、何を間違っていたのでしょう」


 彼は、昔は貧弱な男だった。ギルドで仕事をもらおうにも体力も何もかもが平均以下で、まともに取り合ってもらえなかった。だからこそ、彼は誰よりも努力をした。ギルドに認められるような力をつけるために努力をした。

 それを見ていた神は彼の努力を見て感動し、彼に力を与えた。無敵の力を。誰にも負けない。どんな奴にも必ず勝てる『最強』と呼ぶにふさわしい力を。

 彼はそれからの活躍は凄まじいものだった。ありとあらゆるモンスターを一人で討伐し、彼の実力はすぐに広まった。

 そうして今に至る。

「神様……」

 男はまたぽつりとつぶやいた。

「私は、最強の力などいりません。私は、一人です。確かに私の周りには私を慕ってくれる人がいます。ですが、私と心を開いた関わりを持ってはくれません。私に遠慮しているような感じがします」

 彼の眼は、悲しみにあふれていた。

「私は、最強の力などいりません。私は、信頼できる仲間と背中を預け合えるような、そんな力が欲しかったのです」

 と、彼の背後からすすり泣く声が聞こえた。

「誰だ?」

 彼は目を向ける。そこには幼い少女が眼を腫らしながら泣いていた。

「つらかったね。みんなに必要とされた異質な力を持ったせいで、周りから省かれているなんてつらかったね」

 彼は、少女がとても異様に感じました。

「これも全て、忌まわしい神の仕業なんだよ。全部あいつが悪いの。あなたが、一人ぼっちの力を手に入れたのもあいつが悪い」

少女は穏やかな笑みを浮かべた。

「復讐しましょう? 神に復讐するの。いえ、世界に復讐かも。あなたを一人にしたこの世界に復讐しましょう?」

「な、何を言っているんだ。そんな事……」

「出来るわ。あなたはもう一人じゃないの。私たちがいる。あなたの望んだ仲間が、あなたが欲して堪らない仲間が、私たちがいるわ。私たちは、あなたが背中を預けるだけの力を持っているわ。だから、安心して。私たちを頼って。世界に復讐するために」

 彼は、少女の発言に呑まれていた。彼は、仲間を欲していた。彼は、彼女なら自分の求めていた存在になれると確信していた。彼は少女の差しのべた手を掴んだ。少女は微笑んだ。

「おめでとう。これであなたも私たちの仲間よ」

 彼の求めるものがそこにはあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ