表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導人形物語〜左手の薬指にはあなたの指輪を〜  作者: 一花カナウ
 第二章 当てのない旅へ
9/44

こんなに温かいのに

 食事を終えて部屋に戻ると、中は薄暗かった。紗幕がひかれていないので、外の通りから漏れている明かりが室内の光源だ。とても静かで、通りを歩く人の声や、下の食堂から響く歓声や食器がぶつかる音が聞こえる。


 プリムは入口にかかっていた角灯を取って中に入る。その火を中にある角灯に移し、入口に戻す。角灯の中で揺らめく炎が室内を明るく浮かび上がらせる。


「寝てるの?」


 寝台で仰向けのまま目をしっかりと閉じているリーフに近付く。寝台のそばにある棚に角灯を置くと、リーフの顔を覗き込む。


(そういえば、何も食べていない……?)


 そのとき、ぱちっと目を開ける。驚いたプリムは反射的に後ろに飛び退く。心臓がとてもどきどきしている。まさか目を開けるとは思ってもいなかったため、油断してかなり至近距離にいたのだ。


「惜しいな」


 身軽に上体を起こし、身体の向きを変える。


「口付けでお目覚めって憧れてるんだけど」


 にやっと笑って言う。冗談と本気がちょうど半分といった様子だ。


「勝手に起きたんでしょ!」


 右手で左胸を押さえながら悲鳴に近い声で言う。右手には鼓動が感じられる。まだ落ち着くには時間がかかりそうだ。


「おや? 何かしてくれるつもりだったわけ?」


 意外そうな顔をしてリーフは問う。


「心配してやってるんでしょ! ぜんぜん食事はしないし、水分さえ摂らないし、傷だってそのまま残ってる。――本当は眠っていないでしょ? 昨日からずっと」


 言って、プリムは目を伏せる。寒くもないのに身体が震えた。


「ほう」


 リーフは目を丸くして感嘆の声を上げる。そこまで気付いているとは考えていなかったのだ。自分をきちんと見てくれていることに、リーフは素直に感心した。


「立派な観察眼を持っているな」


 茶化す様子は全くなく、珍しくリーフは褒めた。


「馬鹿にしないでくれる? 新米でも、傀儡師なんだから」


 手が震えている。声も、わずかに震えていた。


「……人形だと、認めたわけだ」


 結論を言わないプリムの代わりにリーフははっきりと告げ、寝台を下りる。


「あたしは認めてなんかいないわ!」


「嘘だ」


 リーフは首を横に大きく振るプリムの正面に立つ。プリムは視線をリーフの顔に合わせる。瞳にはすでに涙がたまっている。決壊するのも時間の問題だ。


「嘘じゃないもん!」


 まっすぐにリーフの目を見つめているが、その視界は歪んでいる。リーフはしっかりと彼女の瞳を見つめる。


「いや、認めている。お前は俺を人形として見ている。認めている自分を否定しているだけだ、お前は」


 努めてやさしい口調で諭すように言う。悲しそうなプリムの頬に触れると、その手を涙が濡らした。


「……この話はやめよう。互いに傷つくだけだ」


 言って自分に引き寄せ、プリムの額に口付けをする。


(こんなに温かいのに……)


 リーフの胸に顔を埋め、涙を流す。次から次に溢れてくる。昨晩もずっと泣いていたというのに、どうしてこんなにも溢れてくるのだろう。


(何が違うっていうの……?)


 プリムはリーフの腕の中でそのまま意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ