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魔導人形物語〜左手の薬指にはあなたの指輪を〜  作者: 一花カナウ
 第七章 導き出された答え
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契約の指輪が消えるとき

「う……」


 光がやむとプリムはその場に片膝をつく。魔力の消費量は最大。失敗が許されないため今できる最大の魔法陣を想像して作った影響だろう。見上げたスピリアの右手から指輪が消え去っていることを確認してようやく安心する。


「く……」


 リーフもその場に崩れて腹部を抱えると咳き込む。


「大丈夫! リーフ君」


 呆然としているスピリアを押し退け、プリムはリーフに駆け寄る。


「心配するな。この痛みが懐かしいくらいだ……っく!」


 短刀から血が滴り落ちている。傷の痛みに顔をゆがめつつリーフは応える。


「そうなると思っていたんですよね」


 声は別の方向から聞こえた。ミールの声だ。プリムは玄関の扉を開けたまま立っているミールに視線を向ける。


「貸しにしておくので、運んで差し上げましょう」


 ミールはリーフに近付くと手を差し出す。


「あんたの助けは要らない」


「強がっている場合ですか? 人形じゃなくなったとたんに死んでしまってごらんなさい。何のために人形になっていたのかわからないでしょうよ?」


 あきれた様子で諭す。外にミールが所有する飛行用魔導人形が待機しているようだ。それで運ぶならば傷口も広がらないで済むだろう。


「そうよ、リーフ君。すぐに病院に行ったほうがいいわ」


 ディルを所定の場所に戻しながらプリムも勧める。


「く……」


 悔しそうにしながら、リーフはミールの手を取る。


「そうだ」


 ミールはリーフに肩を貸したところでスピリアを見る。


「スピリアさん。今回はあなたの完全な負けですよ。ひょっとすると、彼女の技能もあなたに匹敵するものになっているかもしれません。うかうかしていられませんよ?」


 ミールに話しかけられてスピリアは正気を取り戻す。


「そんな解説、いらないわよ!」


 腹立たしそうにしながらスピリアは叫ぶ。


「ま、そうでしょうけど」


 そう呟いて、しゃがみこんで動けなくなったプリムに視線を移す。


「何か?」


 プリムは見上げながら首を傾げる。


「人形に魔法陣を仕込むという発想、なかなか面白かったです。参考にさせていただきますよ」


 ディルをちらりと見て、再び視線をプリムに移す。


「――それにしても、あれだけの魔法陣を短時間で再構築する腕は大したものです。私でもきっとできないでしょう。成功させることができて良かったですね」


 にっこりと笑って伝える。


「あたしができるのはきっと解除呪文だけですよ。ローズ家の血を引いていますから。それにミールさんからの助言があったからこそ、うまくいったんです」


 プリムはミールに微笑み返した。今までローズ家の血を引いていることに対して劣等感を持っていたが、これからは違うだろう。きっと誇りに思うことができる。


「いえ、私の助言があろうとなかろうと、それはあなただからできたこと。あなたの力ですよ、プリムさん。もうあなたは立派に傀儡師としてやってゆけることでしょう。私と対峙する日が来ることもあるかもしれませんね」


「不吉なことを言わないでくださいよ」


 心が穏やかだったプリムだったが、ミールの台詞にあからさまに顔を引きつらせる。一方のミールは冗談を言っている様子はない。


「私もそうならないことを望んでいますけどね」


 意味深なことを言うと目を細めてにやりと笑う。今までと違う態度にプリムは凍る。


「…………」


「ミールさん! あんた俺を殺す気でいるだろう!」


 支えられたままのリーフが喚く。すっかり忘れられているような気配に、リーフは焦っていた。こうしている間にも血は無制限に流れ続けている。


「それだけ騒ぐ元気があれば軽傷ですよ。貸しにしておくって言ったでしょう? まだまだ失うには惜しい存在ですからねえ」


「俺はあんたの言いなりになるつもりはねぇぞ!」


「いつまでそんなことを言っていられますかね」


 あきれた顔をするとミールはリーフを連れて屋敷を出る。プリムは二人を見送ると、視線をスピリアに向ける。まだ話は終わっていない。

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