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魔導人形物語〜左手の薬指にはあなたの指輪を〜  作者: 一花カナウ
 第六章 この旅が終わったら
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伝書鳩一号

 どのくらい経ったのかはわからない。部屋に入り込む日差しが窓から遠い位置までを照らしている。プリムはその陽の光で目が覚めた。


(毎度ながら、いつ眠ったのかわからないな……)


 部屋を見回してみて、リーフの姿が見えないことに少し安堵を感じる。また目を腫らしている姿を見られたら、彼はなんと言うだろうか。


 寝台を出て荷物から雑記帳を取り出すとめくる。カルセオから教わった陣魔術についての内容が走り書きされていた。


(リーフ君は人形から人間に戻る方法をちゃんと考えているのかしら? あたしとの契約が解除されても、人形は人形に戻るだけとしか思えないんだけどな……)


 プリム自身が人形との間に結んでいる契約――それが傀儡師が行うとしてはとても珍しい種類のものらしいことを、彼女は陣魔術を学ぶことで理解した。だからプリムはリーフとの間に交わされている契約が、普段彼女が行っているものとは異なることに気付いていた。


(せめてあの魔法陣さえ調べることができれば)


 工房の火事のことを思い出す。プリムはあの火事が偶然による自然災害だったのかどうか疑っている。誰かが故意に燃やしたのではないかと。しかしそれを裏付ける証拠はない。


 ふいに窓を叩く音がして、プリムは視線をそちらに向ける。窓の縁に灰色の地味な小鳥がとまっている。プリムはその小鳥に見覚えがあった。


「伝書鳩一号?」


 プリムは懐かしさのあまり窓に駆け寄り、小鳥、正確には小鳥型の魔導人形に手を伸ばす。ちらりと見ただけでは本物の鳩とは見分けがつかない精巧さを持っているそれは、ローズ家の通信手段であった。


「すぐに見つかって良かったわ」


 鳩の人形は落ち着いた女性の声を出す。プリムはそれがいきなり喋ったので驚く。今までにそんなところを見たことがなかったのだ。


「……お姉ちゃん?」


「そうよ」


「な、なんでここが……しかも家出同然に出てきたって言うのに」


 目をぱちくりさせていると、鳩の魔導人形は話を続ける。


「家出中に申し訳ないんだけど、至急ウィルドラドに戻って来られない? 大事な話があるの」


「大事な話って?」


「顔を見て直接話がしたいから、必ず戻ってきて。約束よ」


 焦るような早口で言い聞かせると、人形はすっと飛び去る。その拍子に鳩の魔導人形の羽が一枚ふわりと部屋の中に入り込んだ。


「え? 待ってよ!」


 窓から身を乗り出して姿を追うが、太陽のまぶしい光の中に消えて見失う。


「お姉ちゃん……」


 何が起こったのか全く飲み込めていないプリムは夢を見ているような気持ちだった。しかし、部屋に入ってきた羽はきちんと残っている。それを確認し、プリムはその一瞬の出来事が現実であったことを理解する。


 冷たくなってきた風に寒さを覚えてプリムは窓を閉める。それとほぼ同時に扉が開いた。

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