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魔導人形物語〜左手の薬指にはあなたの指輪を〜  作者: 一花カナウ
 第四章 魔導人形理論
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消えた雑記帳

 食事を終えて部屋に戻る。プリムは扉を開けて驚いた。


「な、なんてこと!」


 きれいに整頓されていたはずの部屋が荒らされている。本や雑記帳、そのほかの荷物の中身が床や寝台の上に散乱している。窓は開け放たれており、紗幕がひらひらと揺れていた。


「泥棒に入られたのか?」


 半ば呆然とした様子でリーフは中の様子を見ながら立っている。一方プリムはすぐに窓に近付いて外の様子を窺う。


「これじゃよくわからないわ」


 外は人通りが多く、怪しい人物がいるのかどうかも判別がつかない。見える範囲には慌てて逃げるといった素振りをしている挙動不審な人物は見当たらない。どこにでもありそうな日常の、朝の風景がそこにある。


「やられたわね……」


 窓を閉めるとリーフを見る。


「何かなくなっているものがないかどうか確認して」


「そうだな」


 我を取り戻したリーフは扉を閉めて中に入る。不吉な予感めいたものがあった。


 部屋を片付け、自分たちの荷物の確認を終える。持ち物といってもそのほとんどは筆記用具と雑記帳や本なので集めればすぐに片付いた。プリムは荷物を整理し終えるとリーフに目をやる。


「あたしの方は大丈夫そう。写本の写しは全部あったし、本も無事ね。貴重品類は持って下りていたから心配ないし、服とか小物とかはちゃんとあったわ。リーフ君は?」


 問われたリーフはずっと難しい顔をしている。あごに手を当てて、並べられた書類の束を眺める。


「本は全部あったんだが……雑記帳が見当たらない」


 書類の一部を拾い上げて、間に挟まっていないかどうか見ながら、ため息をつく。


「雑記帳?」


 プリムは首を傾げる。この旅の最中にリーフが雑記帳を開いている姿を見た記憶がなかったのだ。


「家から持ってきた雑記帳だ。唯一の財産だったんだが……」


 明らかに落ち込んでいる様子。あまりにも珍しいことだったので、プリムは決意する。


「警察に届けましょう」


 立ち上がり、部屋を出ようとする。


「待て」


 慌ててプリムの腕を掴んで制止する。


「それはまずい。警察に行ったら、協会にこのことが伝わってしまう」


 この国の警察機関は事件の報告を受け付けると魔導人形協会そして周辺各地の自警団にその内容を報告し、解決の報告を受けるとその経緯をまとめるといった仕事を行っている。つまり実際の調査は魔導人形協会であり、警察に報告を行う行為はすなわち協会に報告することと同等なのだった。


「そんなこと言っている場合じゃないでしょう?」


 プリムはリーフに向き直ってむっとした様子で続ける。


「被害があたしたちだけならここで目をつむってしまえばよいことかもしれないわ。でも、ほかの人たちに被害が及んだりしたら、そうは言ってられないでしょう?」


 腕を掴んでいる手を振り解こうとする。リーフはそれを止め、両手でプリムの両肩を掴みしっかりとその目を合わせる。


「お前だって追及されるぞ」


 リーフの目は真剣そのもので、焦りの色もわずかににじんでいる。


「まだ決まったわけじゃないわ」


 リーフの台詞はもっともだと感じていたが、プリムはそれでも構わないと覚悟していた。


「冷静になれ! なくなったのは俺の雑記帳だけだし、これは俺の過失だ。気にすることじゃない」


「あなたこそ冷静になるべきよ。これはあたしたちだけの問題じゃないのよ!」


 リーフに掴まれた肩が痛い。なんて力なのだろうとプリムが思ったそのときだった。


「みーっ!」


 勢いよくディルが袖口から飛び出し、プリムとリーフの間を抜ける。突然のことに驚いた二人はばっと同時に後ろに飛んで離れた。


「ディル?」


 ディルは天井を落ち着かない様子で旋回している。どうもそれは二人のやり取りに感化されてそうなったわけではないようだ。


「みぃっみぃっみぃっ」


 なおもしきりに鳴いて何かを伝えようとしている。それを見てリーフははっとする。


「まさか、魂のかけらと関係が……?」


 言われてプリムも確信する。プリムとリーフは同時にお互いの顔を見てうなずく。


「警察に行くのは確認してからでも遅くはないわ。ディル、案内して!」


「みっ!」


 ディルに命じると、彼は勢いよく扉に向かう。扉を開けてやると急くように外へと飛んでゆく。プリムとリーフはすぐに追った。

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