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魔導人形物語〜左手の薬指にはあなたの指輪を〜  作者: 一花カナウ
 第四章 魔導人形理論
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国立図書館へ

 プリムたちがウィルドラドを出て七日目の朝。現在二人は首都フェオウル、国立図書館入口にいる。


 見上げるほど大きな建造物で、かなり離れた位置からではないとその全貌を見ることはできない。建物自体は三階建てなのだが、一つの階あたりの天井が高くて一目ではその階数を知ることはできない。入口を構える八本の柱は大人五、六人が腕を思い切り広げて囲んだほどの太さがあり、いずれにも細かな装飾が施してある。また、その扉も彫刻品であり、気楽に入ってゆけるような雰囲気では到底ない。


「ついにきたわね……」


 入口を見上げながらプリムは呟く。『魔導人形理論』の公開が今日までなので、馬を急かして昨晩この都市に入ったのであった。


「さ、のんびりしている場合じゃねぇぞ。受付に行って許可を取らないと」


 隣で同じように入口を見上げていたリーフが急かす。その声には楽しみでしょうがない浮かれた気持ちが感じられる。


「そうね。せっかくここまでとばして来たんですもの。無駄にしてたまるものですか!」


 両手で小さな拳を作ってうなずく。気合を入れないと入場できないくらいにプリムは気おされていた。早速一歩を踏み出す。





 そんな調子で乗り込んだ二人であったが、そう経たないうちに入り口に戻っていた。二人とも先程の様子を微塵も感じさせない暗い表情をしている。


「……そりゃそうよね。予約で埋まってしまうわよね。有名な本なんですもの」


 がっかりしているのが傍から見てもわかるくらいの落ち込みようである。そこまで想像力が至らなかったことも恥じた。


「ちょっと楽観視し過ぎていたな」


 リーフも落胆している様子が窺える。楽しみにここまで急いで来ただけあって、衝撃はやはり大きい。それに付随する精神的被害ももちろん大きい。


「なんてこと……」


 プリムはとぼとぼと地面を見つめながら図書館から離れていく。今度いつ『魔導人形理論』を読むことができるのかは正直わからない。公開日が決まっているわけではない以上、気長に待つしかないようだった。


「中も『魔導人形理論』目当ての人間で混雑しているんだもんな」


 思わずため息が漏れる。


「――とりあえず、協会に顔を出して申請し直す必要があるわね」


 苦笑して敷地内から出る。国立図書館の正面の通りは人よりも馬車の往来が多い。街路樹が規則正しく並び、通りも格子状に整備されている。


 首都フェオウルはその町自体を容易には登ることができそうにない高い壁によって囲まれた要塞都市だ。そうせねばならない重要機関がここに密集している。整備がしっかり行き届いているのもそんな面の一部だ。


「次はどんな言い訳をするんだ?」


「まだ考えてない。でも、そろそろ路銀も心許ないから本気で仕事を考えないといけないわね。仕事を斡旋してもらうためにも協会には行かなくちゃ。そういうわけだから、あなたは先に宿に戻っていて。このまま協会に行ってくるわ」


「わかった。だったら俺は本屋にでも行ってくるかな。今ある本は読み終わってるし」


 リーフのその台詞に、プリムは首を横に振る。


「それは却下させてくれないかしら」


 忠告するような厳しい口調でプリムが言う。


「なんで? 今までだってそうしてきたじゃないか」


 不思議そうにプリムの顔をのぞく。


「嫌な予感がするの。あなたはできるだけこの町をうろつかないほうがいい」


「そんなつまらないことを言うなよ。せめて本だけでも買わせてくれないか? そしたら宿屋でおとなしくするからさ」


 やれやれといった様子でリーフが提案する。プリムは渋ったが、仕方なくうなずく。


「わかったわ。本屋を出たら解散にしましょうか」


 プリムは魔導人形協会から最も遠い本屋を目指して歩き出した。

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