スーザン
姉の家についたレイクは憔悴しきっていた。
「レイク、あなた病人みたいな顔してるけど大丈夫なの?」
「はっきり言って重症なんだ」
「とにかく座って、お茶入れるから。落ち着いて」
レイクはソファーに深く体を沈めて目を閉じていた。姉が紅茶のポットを持って戻ってきた。
「で、エヴァンの彼女が『彼女』じゃなくて『彼』だったってこと?」
「そう」
スーザンは小さくため息をついた。しばらくの沈黙の後、
「さっきのあなたからの電話……『ゲイは遺伝する?』って。実際のところ遺伝という説もあることはあるの。あと環境説もね。でもどちらも証明されてはいないの。」
「エヴァンが帰ってきて、むかしの自分を見ているようで怖かった。40年間眠っていた自分の亡霊に怯えていた。イーサンがエヴァンに怒鳴った時は逃げ出したかったよ、情けないけど」
「でもあなたの場合はゲイというよりバイじゃない。ちゃんと結婚もして、だからこそ二人の息子もかわいい孫もできたじゃない」
「そうだけど。このまま平穏に、ストレートと偽って人生を終えるものだと思っていたよ。エヴァンとラルフがやってくるまではね」
「レイク、あなたまさかカミングアウトするつもり?」
「どうしていいかわからない、でもエヴァンたちのことは認めてやりたい」
「エヴァンはいいとして、問題はイーサンよ。母親を亡くしたマザコン息子は手強いわよ。殺傷事件に発展するかもね」
「やめてくれよ、姉さんのブラックジョークにつき合ってられるほどの精神状態じゃないんだ」
「真面目な話よ。母親は人食い熊に襲われて墓石の下には左手だけ。そのうえ実の弟と父親からは相次いでゲイとバイの告白。想像してごらんなさい。エリートのマザコン息子なんて簡単に壊れちゃうわよ」
「じゃあ姉さんは40年前どうだった? 僕がバイセクシュアルだと知った時」
「穏やかじゃなかったわよ! 知らない方がマシだと思ったわよ。絶対両親には知られないように努力したわよ! でもね……」
遠くを見つめるスーザンの目には、40年前の出来事が映っていた。
「でもあなたと彼が真剣に愛し合ってるのがわかったから。世間を敵に回しても私ひとりだけでも味方になろうと思ったの。世界一の姉だわね。もっと感謝して欲しいわ」
「感謝してるよ……ただあの時代じゃなくて今だったら、僕はエヴァンと同じ道を選んだだろうと思うんだ。家や両親は姉さんに押し付けて。でもそうしてたらイーサンもエヴァンもこの世に存在しなかったんだと思うとぞっとする。封印してきた過去を正当化したいだけかもね」
レイクは冷めた紅茶をいっきに流し込んだ。
「ねえレイク、これは私の個人的な意見だけど聞いて。世間では同性愛をカミングアウトした人たちの勇気を賞賛する傾向にあるけど、そりゃあカミングアウトした本人は楽になるだろうけど、絶対そのかげで苦しんでいる家族はいると思うの」
「……」
「知る権利もあれば、知りたくない権利もあると思うの。繊細なイーサンがこれ以上苦しむのは見たくない、かわいい甥っ子だもの」
「そうだね…… 過去の亡霊を墓場まで持っていくべきなのは僕だったね、ありがとうスーザン」
「イーサンとエヴァンに愛してると伝えて。レイク、あなたも愛してる」
スーザンに抱きしめられて、やっぱりこの女性は越えられないと思ったレイクだった。




