テディベア2
イーサンと子供たちが起きてきた。リビングにラルフの姿を見つけるとツインズはたちまち駆け寄った。
「ラルフーおはよう」「ラルフー遊ぼうー」
「オーケー」
「おはよう、ラルフ……」
イーサンも寝起きのボサボサの髪で気まずそうに言った。さすがに子供達の前でラルフに邪険な態度をとることはできなかった。が、やはり弟との関係についての嫌悪感は一晩で拭える程度のものではなかった。
「ラルフ、キッチンを手伝ってもらっていいかしら?」
シンディが絶妙なタイミングで声をかけた。
イーサンは気づいていた。夜明け前にシンディとラルフとの間で何事かの進展があったことを。隣が空になったベッドで内心、妻に感謝し少しの期待もしていた。そして弟の「男友達」と妻がふたりきりでいても何の心配もジェラシーも感じない自分にも驚いた。
今、仲良くキッチンに立つシンディとラルフを見て、違和感も感じなくなっている。
実際、ラルフは嫌うべき相手ではないことくらいイーサンはわかっていた。かと言って弟の恋人だと認めることはやっぱりできなかった。『父さんはどうなんだろう』
レイクが、そしてエヴァンも起きてきた。起きてきたというのは正しくないかもしれない。この家のツインズ以外の住人は、それぞれの思いで眠れぬ長い夜を過ごしたのだった。
朝食が終わるのを待ちきれないツインズがラルフにまとわりついた。
「熊さんみたい」
「ラルフって大きな熊さんだ」
テディベアを持たない子供がラルフを熊さんと呼んだことで一瞬、家族に軽い衝撃が走った。「熊」を家庭に、会話に持ち込まないことは家族の暗黙の了解だった。
しかしながら幼児が見るテレビアニメでは熊はいつだって愛されるキャラクターとして登場している。それを子供の目に触れさせないというのは無理だった。
このふたりの子供もいつか知る日が来るだろう、その手に抱かれることも叶わなかった祖母の非業の最期を。大人たちはツインズがラルフにしがみついて、無邪気に背中によじ登る姿を見ながら複雑な思いをめぐらせていた。
「で、父さん」
エヴァンがレイクに向かって口を開いた。
「僕たちは今日帰るよ。初めから理解してもらえるなんて思ってなかったから平気だよ」
たちまちツインズの不満の声が爆発した。
「ダメー! 帰っちゃダメー! 今日遊ぶって約束したよ」
ふたりはラルフにしがみついている。今にも泣き出しそうな顔で。
「仕事が大丈夫ならもう一晩泊まっていけよ」
と意外にもイーサンが言った。
「そうしなさいよ。おとなが子供に嘘ついたらあの子達グレちゃうわ」
とシンディ。
「そうだね、じゃあ車貸してもらえる? ちびたち連れてラルフと出かけるよ。学校とか、いろいろ街を案内したいと思っていたんだ」
エヴァンのことばにツインズは飛び跳ねた。
「じゃあ私の車使って。チャイルドシートもついてるから」
とシンディ。
「ねえ父さん」
あらためてエヴァンがレイクに向かった。
「父さんは結局何も言ってくれなかったね。兄さんみたいに反対もしないし、シンディみたいに歩み寄ってもくれなかった。ずっとどこかうわの空だったね。少し残念だった」
イーサンも同じ思いだったから父親の反応が気になった。
「すまない」
と言ったきりレイクは黙った。
「今夜もういちど話そう」
と言い残してリビングを出た。姉のスーザンに電話するために。




