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テディベア1

翌朝、シンディが目覚めたのはまだ夜明け前だった。ほとんど眠れなかったと言ったほうが正解かもしれない。

玄関のドアが薄く開いているのに気づいた。外を見るとポーチに人影があった。大きい背中をめいっぱい丸めたラルフの後ろ姿だった。人の気配に振り向いたラルフの目はまだ赤く潤んでいた。


「冷えるわよ、中に入りましょう。まだ片付いてないから足もと気をつけてね。グラスのかけらが残っているかも。子供達が起きてくる前に掃除しなくちゃね」


キッチンでコーヒーの用意をしながら


「眠れた? わけないわよね」


話しかけるのはシンディばかりだった。


「あの、すみません。あの、僕が来たせいで……」


男ことばを選んだラルフに


「無理しなくていいのよ。ありのままのあなたと少しおしゃべりしたいな」


シンディはラルフにキッチンカウンターの席をすすめた。向かい合うより隣りに並んだほうがラルフには負担が少ないだろうというシンディの配慮だった。


「ゆうべはごめんなさいね。イーサンったら怒鳴っちゃったわね」


「いえ……」


「彼はね、エヴァンのことが大好きなの。自慢の弟なの。かわいい顔してるのはあなただって認めるでしょ?」


ラルフがちょっと笑ってうなずいた。


「ねえラルフ知ってる? うちにはテディベアのぬいぐるみはないの。この国でテディベアを持ってない子供なんてうちのグレッグとセシリーだけかもね」


ラルフの顔が曇った。


「普通の事故や病気でお母さんを亡くしたわけじゃないでしょ? あれってキツかったと思うの。すごくトラウマになってると思うの。残された家族にしか共有できない痛みよね。だから私は全力でイーサンを愛したわ、亡くなったお母さんに負けるもんかっていうくらい。私しか彼を救えないと思ったの。あなただってそうでしょ?」


ラルフは力強くうなずいた。


「レイクやイーサンがあなたのことを認めることは永遠にないかもしれないし、時間がかかるかもしれない。私だって正直まだパニックよ」


「ごめんなさい」


「でもなんでかな? 私はあなたのこと、少し好きになってきてる」


「エヴァンも……」


ようやくラルフも口を開いた。


「エヴァンにとってもイーサンは自慢のお兄さんなの。いつも聞かされてるわ、家族の話。もちろんシンディ、あなたや双子ちゃんの話も。だから会ってみたくなっちゃったの」


ラルフは続けた。


「エヴァンがカミングアウトするなんて思わなかったの。友人としてふるまうつもりだったのに。ただ一度、本当にたった一度だけエヴァンの自慢の家族に会ってみたかっただけなの」


シンディは目の前にいるラルフが、またゆうべと同じように男には見えなくなっていた。


外が白々と明けてきた。チ、チ、と鳥も控えめに鳴き始めた。


「さてと、昨夜の修羅場のあと片づけでもしようかな。ラルフはエヴァンのところに戻って休んできたらいいわ」


「ううん、アタシにも手伝わせて。見ての通り無駄に体力だけは自慢なの」


ラルフは腕の力こぶを見せてちょっと笑った。


シンディとラルフはパーティのあと片づけをしながら話した。


「すごい筋肉ね。なにかスポーツでも?」


「ジムで鍛えてるわ。あれでストレスの多い仕事なの。スーツ着てネクタイしめて、もちろん仕事の時は『アタシ』じゃないけど。夜のジムには相手を探す仲間も集まるの。エヴァンと出会ったのもジムよ。エヴァンったらね、あら、ごめんなさい」


「あなたのハガネの肉体に一目惚れしちゃったわけ?」


「そう。アタシも一目惚れ。ジムでは目立ったわエヴァン。あの顔立ちでしょ?みんな狙っていたわ。でも彼が選んだのはアタシなの」


シンディは、学生時代の女友達と恋の話をしている錯覚に陥った。そして悟った。ラルフの心の中は自分と同じ性なのだと。それをレイクやイーサンは理解できるかしら?

キッチンとリビングがすっかり片づいた頃には、ふたりは女友達になっていた。


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