騎士狼の任務
「迷宮…?館の地下が?それならそれで便利だな。どういう使い道なんだ。」
「そうだな。調べてみないと分からないが、おそらく迷路型じゃなくて城塞型かもな。迷路型ってのは一般的に眷属を作成したり迷い混んだ人間を殺したり、はたまた最後の砦って意味もある。
だが、城塞型はハナからそこで守ることに重きをおいている。あと普通に住み込むことができたりとこっちは後方支援といったところか。」
「なるほど。そこは後々調べるとして…オットー。お前、女だったのか?」
『は、はい。そーっス。』
スカムはサップと話していたときは険しい顔つきだったがオットーの姿を見て女だと分かるとサップの方を一瞥し、呟いた。
「なら、これからサップと仲良くしろよ?こいつも元々は騎士だ。オットー、お前を卑下する気はこれっぽっちもないが、女を守ることに長けた連中だからなきっとお前のことも守る。その代わりサポートはきちんとしてやれ。」
「そういうことだ。オットー、お前のことは俺が守ってやる。」
ウインクしながらサップはオットーに誓いを立てた。
『…了解ッス。』
耳まで赤く染まりながら、小さく呟く。そして着替えをしてくると言い、そそくさと館に入っていった。
「んなことより、このゴミの山は捨てるのか?いくらお眼鏡に叶わなかったと言っても、なにかしら使い道はあんだろーよ。例えば、鉄は溶かせば再利用できる。」
×印で分類された山の中には鉄製の剣や鎧、はたまたまだ使用可能な魔石があった。
「これは捨てるわけじゃない。素材にするだけだ。死霊術に加え、館の本棚に魔物を造る術ってのがあった。それを使っていいもんを作ろうと思う。」
「じゃあ、こっちの丸ついたのが俺等用か。ん?…待て、この馬用の兜と鞍は何だ?まさか俺に乗る気か!?」
「駄目か?背中に乗っけるのなんていつものことだろ。」
「それは移動手段としてだろ。戦闘用としてじゃない。魔物相手には狼のままでいいが、人間相手には都合が悪い。そんなの付けられちゃますます攻撃出来ん。」
激しく体を揺さぶり否定の感情を体で表現する。人間相手にはサップが最近得意になり始めた威嚇や飛びかかりが効かない。気づかれてない状態で不意討ちならまだ、飛びかかりの方はイケるが素でやったらかなわない。サップ自身が死ぬわけではないが、そこそこ気に入ってる体を失うのは手痛い。
「別にお前に戦えと言ってるわけじゃない。俺はいつも通り移動手段として活用するように言っている。もし走ってるときに矢が飛んできたらどうする?乗ってる俺もしくはオットーは狙いにくいだろうがお前は随分狙いやすい。その無防備の腹に容赦なくぶちこまれるぞ。」
「ほー、それなら俺はお前らの為にも着込まなきゃな。しかし大きさはともかく形を俺の頭に合わせなきゃこりゃはまんねえぞ?」
その兜はどう考えても、馬の頭に装着するがために造られており、サップが媒体とする狼の頭部に填まりそうにはない。
「そこはマリーに(物理的に)拡げてもらう。何も兜としての原型は残らなくても構わん。」
「ほー、そりゃ偉大なこったな。そんで俺は何をすればよろしいのでスカム様よ?」
「マリーにはさっき言った通り兜及び鎧を拡げてもらう。オットーは服の裁縫でもしてもらおう。肝心のお前は…俺の護衛だ。外に出掛けるんでな。」
「お前馬鹿か?襲撃したばっかなのに外に出たら俺らを探してる町の奴等に見つかるだろ?」
スカムは探索部隊が出されている可能性を全く視野に入れてなかったらしくサップが指摘すると何か考え込む姿勢をとった。だがそれも束の間、突拍子もない意見を繰り出した。
「よしお前一人で行ってこい。その狼の姿だったら目撃されてないし、向こうだって只の魔物だと思ってお前から手を出さない限り、安全だろう。」
「それはいいけどよ…。その外に出掛ける用事とやらを教えてくれや。」
スカムは黙ってある方向を指差した。その方向には畑もどきがあるのみだった。
「まさか…地下水脈を復活させるってか?場所も分からねぇのに?」
「そのことなんだが、壊された水源のうちの一つは何処だか分かった。…ポロローズから南東の方角にある廃村だ。捕虜共を拷問して分かったんだが、あそこの村は繁殖期の針虫数百匹に襲撃されて壊滅し、今やあそこは針虫の巣窟だ。騎士団も出撃したらしいから何か聞いたことないのか?」
「ああ、一応報告書は読んだことはあるぜ。ただあんまり参考になるかどうかは別だが。」
訓練をサボる口実として書類整理を申し出て、その時書類保管室で、棚の下に埋もれてあったぐしゃぐしゃのクリーフ村についての報告書を思い出す。
「確か…断崖に位置する中規模の村で、特産品は薬草類だったな。ただ村に行くには、細い崖道を登って行かなくちゃならなくて、交易する際は徒歩だったらしい。だが薬草の効き目は抜群だったみたいで、そのせいか前々から針虫などの虫系の魔物が出没した。
そうしたある日、商人が護衛の冒険者数人と村に着いてみれば…針虫がわんさかだったらしい。」
「針虫ってのは見境がないのか?」
「いや、温厚そのものだ。繁殖期以外はな。それよりも何でクリーフ村に水源があると分かったんだ?一介の騎士がそこまで知ってるとは思えんが。」
「ポロローズは下水道もあるし、どっかから水を引っ張ってきているのだろうと思って、そこら辺を聞いていたら、幸運にもクリーフ村の近くの集落出身騎士がいてな。そいつが吐いてくれた。」
クリーフ村の近く…。ああ、アゴストの出身か。あそこは第一師団管轄の選りすぐりの脳筋騎士を輩出
してる集落だからな…。騎士になれなくとも、騎士団派の冒険者になるからタチが悪い。
「よし、事情は分かった。そんじゃ、俺がぱぱっと行ってきて何とかしてくるぜ。
ああ、それとその情報を吐いた奴は騎士団万歳っていう危険思想を持ってるからよく見張っておいた方がいいぞ?」
「ん。分かった。」
そして俺は、20年前に廃村となった断崖村であるクリーフへ向かうこととした。
またまた用語解説コーナーです。
【死霊術】…ファンタジーではお馴染みの反魂・蘇生の術。生まれもっての属性が必要な通常の火や風魔法と違い、やり方さえ覚えれば誰でも使うことが可能。動物などの骨を媒介にし、特に維持等はいらず一度動き出せば壊れるまで働く忠実な兵となる。
術者のイメージや属性、はたまた外部から毒を加えるなど創意工夫が可能。では、何故これほどにまで便利な魔法が禁忌とされているかは…人道的じゃないからとかもあるが、元々魔族由来のものであるため、人間側には普及していないから。




