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第二章 風の街 02

復旧しました。急ぎの復旧のため改稿するかもしれませんが、ご了承ください。

 森を出て、メルの家の反対側を歩いていくと

「あそこに見える街が風の大精霊(シルフ)の恩恵を受ける街、シルフィアです」

 メルの指差すほうを見ると獣や外敵から守るための城壁に囲まれた街が見えた。しかし一番目を引いたのはその城壁をも超える大きな風車が立っており、風を受けてぐるぐるとゆったりまわっていた。

「あの大風車がシルフィアの最大の特徴で、観光のスポットにもなっているんです」

 そして、風の大精霊(シルフ)の住む丘から常に風を受けており、止まることなく回る風車のおかげで製粉作業が常時行えるため、それで国が栄えているのだ。

 城壁を越え、メルの案内で最初に訪れたのは街の中の広場であり、あの大風車が立つ場所でもあった。その大きさに改めて目を奪われる……ここが観光の大きな目玉にもなるのだろう。空と同じく風車を見上げるものもいれば、その観光客を相手にするために風車の周りには多くの露店を開く行商人の姿もいる。中にはこの街の住人も混ざっており、こちらは名物や特産物だとうたい文句に食べ物の香ばしい匂いを出しながら売っていた。

 その香ばしい匂いに空は後ろ髪をひかれつつも、この世界のお金がなく、メルにそんなものをねだる様なこともできないため、先を行くメルの後をしぶしぶついていくことにした。

 広場を抜け、西の道をある程度行くと、メルが振り返り

「予定通りに先に靴を買いますか?」

 と質問された。それに空が、

「どうせ一式買ってもらえるなら、服に合わせたいかな」

「ならこっちですね」

 とメルは迷いなく一つの店へと入っていった。いつも行くお店なのだろう。空はメルの後を追ってはいると

 そこには、様々な服が置いてあった。華やかに装飾がつけられたものや仕立てたばかりのもの、比較的新しいものは吊り下げておいてあり、古いものや、傷んだものはぞんざい折りたたまれて置いてあった。もちろん、初めのものが一番高く、それから順に値段が下がっていくのだろう。それを瞬間的に空は見分け、メルがどの位置で買い物をするかを見てから服を探そうと決めた。

 空がそう思案しているとは知らず、

「これなんてどうですか?」

 メルは比較的新しい―――値段としては高くはないが、決して安くはない―――服から水色の、メルが来ているのに似ている肩が露出する丈の短いワンピースを選び出した。

「おとなしく過ごすならそういうのを着たいけど、あたし、それを着て回し蹴りするのよ」

 いろいろと丸見えじゃないと冗談交じりでいうが空にとってスカートの丈が問題ではなかった。「肩が露出する」ことに抵抗があるのだ。右肩にある奇妙な紋章を隠すために今だって、右側だけが長袖の上着を羽織っている。そして、残念ながらメルが勧めた服では今着ている上着には合わないので却下した。

(折角選んでもらってかわいそうだけど、私が「肩を露出する」服を着ることはたぶんないわね……絶対に)

「うう、お揃いの服みたいでよかったのに……」と独り言をつぶやきながら「肩が露出する」ような服の中からこれでもない、あれでもないと服選びを再開した。

 メルの選ぶ候補が自分の選ぶ服に合わないと判断した空は、比較的新しい服とみられる列から服を選び始めた――その時、

「何かお探しかい?」

 と店の奥から老爺が現れた。

「あ、イクサさん」

「おや、メルちゃんじゃないか」

 店の客がメルとわかると、まるで孫を相手するかのように目じりが下がり好々爺然の顔になった。

「この間の腰痛の湿布はよく効いたよ。在庫が切れそうだから今度都合がいい時にもらいに行くからその時はよろしくおねがいするの」

「効いてよかったです。湿布なら今すぐ必要でなかったら、今度酒場のマスターに頼まれている常備薬の補給のついでに持っていきますね」

「おお、悪いね。そうしてもらえると助かるの。そういえば今日は服の調達かい?最近買ったばかりじゃろう?」

「はい、私のではなくて彼女の服を買いに来たんです」

 そういうとメルは空を後ろから―――身長的にメルのほうが頭一個分大きいらしく、顎を頭に乗せながら―――覆いかぶさるように抱きしめた。抱きしめられた空は嫌がるように多少暴れるが、すっぽり抱きしめられる心地よさに本気では抜け出そうという気は起きない。

「ほう、見かけない顔だね。旅人さんかい?」

 そのイクサの返答にメルは「あ~」とか「う~」と手をせわしなく動かして何か言葉を探していたのを見かね、

「ええ、ちょっとした縁で今はメルの手伝いをすることになりました」

「ふむ、その背負っている袋に武器が入ってると…」

「はい、でも刃物ではないですし、ここで出そうとは考えてませんので安心してください」

 イクサはふむと手を顎髭に当てながら、空を頭から足まで値踏みするように見て、少し考えいたようだが、再びふむと唸り何か納得したように頷き、

「どういう服をお探しかい、お若いの」

 とにこにこと目じりを下げてそう言った。



 動きやすく、肩を露出せず、丈夫なものという3つの条件を言うとイクサは素早く服を何着か見繕った。その中で空が気に入ったのは、タンクトップで肩を露出するが胸までの長袖のジャケットがセットの服だった。そして下はその上着に合うように丈の短いショートパンツと丈夫な革のブーツを選んで買った。その他、寝間着としてメルが「ソラさん、これがいいです!絶対に!!」と勧める白の布のワンピースを買ったり、替えの下着を買ったりと必要なものを買い、再び広場に戻ってきた。

 広場は来た時と変わらず、観光客と露店などの人々で活気づいていた。

「なんかこういう雰囲気はいいわね。売る人も買う人もワイワイと声を出しあってるし、いい匂いもするし…」

 日本人の気質なのだろうか、祭りの雰囲気を見ると自分も参加したくなるような気持ちになってくる。

「どうせだったら何か買っていきます」

 その様子を感じ取ったのかメルがそう提案したが、

「いや、いいよ。服も買ってもらっちゃったし…」

 と苦笑いをしながら遠慮した。

「お金の心配ならしなくて平気ですよ?こう見えても薬屋が繁盛してるので」

「とはいっても、何もしないで何でもかんでもおごってもらうのは気が引けるのよ。う~ん……あたしも何かアルバイトみたいなのをやるべきなのかなぁ」

「アルバイトですか……空さんなら冒険者ギルドの仕事(クエスト)でもなんとかなりそうですけど、まだこの世界に来たばかりじゃ無理ですよね……」

「そうね、どこそこに行って魔物を倒してこいと言われてもその場所にたどり着けるかわからないし、メルが手伝ってくれるなら考えてもいいけど」

「いいのではないか?本人が嫌がる特訓よりは訓練となるだろうし」

 空の提案に肯定したのはメルではなく聞き覚えのある第三者の声であった。メルのほうを見るとリリアが後ろから逃げられないように両肩をがっしりと掴み、笑顔で立っていた。これでメルも笑顔ならば師匠と弟子の微笑ましい光景なのだが、肝心の弟子のほうは、ぎこちなく首を師匠のほうへ向け、泣きそうな顔をしていたので傍から見るとすごく始末が悪かった。

「な、なんで…師匠が、ここに……」

「それはだな、特訓の時刻になっても来ない馬鹿弟子を迎えに来たに決まっているだろう?」

 ハハハと乾いた笑いを出すメルと同じく、ハハハと笑っているが目が笑っていないリリアを見ながら、空は

 やはり悪いことはできないわねと思いながら手に額を当ててため息をついた。

「こんなところで笑っていても何にも足しにならないな、早速だが移動をしよう」

 ついてこいというように、スタスタと雑踏の中を歩き始めるリリアに呆然とする空たちは、

「もし逃げたらお仕置きな」

 という一言に顔を見合わせ、全力でリリアの後を追った。

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