第二章 風の街 01
「今日はいい天気になりそうね」
日が変わり、空を見上げながら、空は森の中を歩いていた。
そこは昨日、野盗とであった場所。メルとあった場所に来ていた。
人間が暮らすためには水と食料が必要である。となれば、必然と森に住むならどこかに川などの水が近くあるとこを住処にするはずだ。
「でも全然川の流れる音はしないのよね…」
聞こえる音は風で葉がこすれる音と草が鳴る音しかしない。
(後をつけられてるか……)
いっその事聞き出すのも手だけど、今回は穏便に行きたいんだけどな、と考えているとちょろちょろかすかだが水の音が聞こええてきた。
その方向へと歩きだすと動きがあった。
「動くな!貴様昨日の奴だろ、何の用だ!」
「ふぅん、やっぱりこっちで合ってるんだ。あんた達には用はないよ。あるのは頭だけ」
軽く得物を振るうと、昨日の一戦で格の違いが分かっているのか、不用意に攻撃を仕掛けてこない。
互いに目で仕掛ける合図しながら、空の様子を見ていた。
「何?来ないわけ?三対一で男と女なのにびびってるの?」
笑えるわと言い放つと流石に怒ったのか一人が飛び出した。
すかさず、飛び出した男を叩き潰す…
「とまれ!!」
まさに木太刀が相手の腹を叩くそのときに、森に怒声が響いた。
その声に空だけでなく、男たちも驚き、動きを止める。空は、その声の主が誰だか分かると、かすかに笑みをこぼした。
「お前ら何してる。三人で行動しろといったはずだ。どうして一人で飛び出しているんだ」
その男は敵である空に向けて喋るのでなく、味方の男たちに向かって詰問していた。その男は昨日空が昏倒させた野盗の頭。そして、空はこの男に会うのが目的だった。
「待ち人来たる。想い人じゃないのが残念だけど…あんたに用があってきたのよ」
そう言うと空は頭のほうへ近づく、頭もその様子片目で睨むだけで身構えようとしない。しかも、正面に居る味方の野盗を睨みつけ静止させている。
「ほう、俺に用か。しかも単身で」
「ええ、ちょっと話がしたくてね」
空はやや離れた位置の頭との距離を縮めた。その距離は、お互いの武器が相手を倒すことの出来る位置。互いの得意とする間合いであった。
「話がしたいか、何だ昨日の戦いで俺に惚れたか」
「あたし、自分より弱い男に興味がないからそれはないわ」
頭の言葉をばっさり切る一言、だが互いに声に出しながら笑っている。
「で用ってのは何だ。ここは野盗の隠れ家、知られたからには生きては帰せないな」
頭はそう言いながら武器に手をかけたが、まだ抜かれない…
(一応は用件を聞くという意味ね)
空はそう思い用件を言うことにした。
「用件はあたしの特訓に協力してほしいということ。条件にここのことは誰も言わないし、昨日のことも言わない。もちろんここで襲ってきても全員倒してあるべき所に突き出すわ」
頭以外の男たちが怒りをあらわにし、今にも空に襲い掛かりそうである。だが頭はかすかに笑っていた。
「とんだ条件だな。その特訓てのはどういうことをするんだ?」
「昨日と同じ真剣勝負よ。互いに決着がつくまで戦う。シンプルでしょ」
「てことは間違って殺してしまっても問題はないんだな」
「もちろん、真剣勝負だものしょうがないわ」
互いに不敵に笑いながら話を続ける。それを聞いている野盗たちは二人の姿を見て、かすかに引いていた。
「面白い奴だな。気に入った、その条件をのもう。こっちも一つ訊きたいことがあるんだがいいか。お前の名前を聞いておきたい」
殺した時に名前を書かなくてはいけないだろう、と付け加えた。
「あたしの名前は空よ」
「俺の名前はドレークだ」
よろしくと空が言い、握手を交わした。そして手を離すと同時に、
キンっと金属の交わる音がする。
ドレークは小剣を、空は木太刀で互いの武器を受け止めていた。
そして、すぐに二人とも武器を収めた。
「勝負は明日からってことで、今日は話に来ただけだから」
わかった、と言い、ドレークは仲間を引き連れ森の奥へと消えていった。
ふぅと一息つき、空を見上げた。
日はまだ地平線から出たばかりで、そこまで高くはない。時刻にしてはまだ七時ぐらいである。だがこの世界の時計と日の傾き方が違うため(リリアさんに聞いたところによると)、腕時計は外すことにしていた空にとっては今何時かということは分からなかった。
「そういえば、朝食食べてなかったなぁ」
起きてすぐに行動に出たため、朝食などは取っていない。かすかに空腹を感じるが我慢できないわけでもない。
(メルが心配してないといいんだけど)
「ソラさーん!」
そう思っていると、自分の呼ばれる声がした。
声がする方を向くとメルが籠を片手にこちらに走ってきた。
「よくここが分かったわね」
ずっと走ってきたらしく息を整えているメルに空が質問をした。確か、誰にも自分の行き先を教えていなかったはずなのだ。
(なのにここまでやって来れたのは何故?)
「それはですね…」
まだ息が切れているため、大きく深呼吸をした。すると幾らか落ち着いたらしく続きを喋った。
「召喚術師と召喚獣は繋がっているんです。でも私まだ見習いだから少ししか感じられませんけど、ソラの居場所をちゃんと感じることができました」
嬉しそうに笑いながらも漠然とでしたけど、と付け加えた。
メルにとってははじめての召喚獣というわけでもないらしいが、一緒に暮らす召喚獣は、高度の召喚術師しか出来ないらしい…
召喚獣を維持するためにはそれなりの精神力が必要らしい、でも空はずっと召喚されたままであり、還れないのである。
リリアによると、メルの精神下から離脱して個人でこの世界に存在してるらしい。
もし、離脱していなかったら、空自体が消滅していたと言うが……
(なのにまだ繋がりがあるってどういうことだろう?)
少しわけがわからない状態なのだが、いきなり世界から消滅しないだけマシだといえる。
「ソラさんおなか空いてません?朝食もって来ました」
籠の中身を見るとそこには薬草のほかにサンドイッチと革の水袋が入っていた。
「おいしそうね。お腹空いてるから早く食べたいかも。メルはもう食べた?」
「いえ、まだですよ。一緒に食べるつもりでしたから」
そう言って適当な木陰を見つけ座った。サンドイッチの中身は野菜と火で水分がやや飛んだ燻製状の肉だった。
「昨日も思ったんだけど、こっちの世界とあたしの世界での食べ物がそんなに変わらなくてよかったわ。多分言葉が違って違う名前だけど同じもので聞こえるし」
「そうなんですか。でも食べ物の違いがなくてよかったです。ここでの食べ物が食べれないとなったら大変ですから」
そう言いながら革の水袋を空に渡す。空はありがとうと言い、一口飲む。昨日と同じちょっと苦味の強い薬湯だった。
「食べ終わったら、そのまま村まで行きません?」
ある程度食べ終わるころに、メルがそう切り出した。
「いいけど、メルの特訓は確かきょ……」
「ソラさんの日用品をそろえるほうが大切です!」
空の言葉をかき消すように大きな声で言い放った。つまり
「特訓拒否?」
メルが乾いた笑い声をだす。図星というかそのままのようだ。意外と真面目というわけではないらしい。それかあの師匠の特訓って言うのがきついものだと分かっているのか…
どちらにしても後で怖い目を見るのはメルなのだが空は言わないことにした。
「いいけど、そんなことしてもいいの?」
だが一応は忠告したことにするという考えに変えた。自分まで共犯にされるのは少し怖い感じがしたからである。
うっと言葉を詰まらせるメルを見るとそれなりにお仕置きがあるみたいだ。
忠告はしたからねと念を押すが考えは変わらないようだ。
「それに特訓をするとなると多分、今日は街にいけないと思いますから…」
ぼそっと言い訳なのか、経験則なのか分からないがリリアの「特訓」というのが長いことがよく分かる。
「兎にも角にも、街に行きましょう」
そういってメルは立ち上がった。ちょうど籠のサンドイッチがなくなったころだったので、空もパンパンと汚れを落としながら立ち上がった。
「そうね。あたしも早く履くものが欲しいしね」
そういって足元を見た。そこには軽く布を巻いただけの泥で汚れた自分の素足があった。メルもそれを見て苦笑した。
「まず初めに靴を買いに行きましょうか」
そう言って空たちは腹ごなしの運動を含め、街に向かって歩き始めた。