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第一章  少女たちの出会い 04

 案内も食事もお風呂も終わり、ゆっくりする時間。

 元々は客人を泊める際に使っている部屋を使わせてもらうことになったのだが、そこで一つ問題が発生したのだ。

「そういえば着替えがない」

 と言うことで、メルが服を取ってきている間、今は布一枚で過ごす羽目になっている。

「今のうちにこいつの手入れでもしようかな」

 そう言う前にベッドに座り、木太刀を手にするとヒビや切れ目がないかを確かめる。

 野盗の一戦で刃物と相手したのだ。太刀に傷がつかないことはないのである。

(まぁ…受けたとしても斬れないように刃の部分は外しているんだけどねぇ)

 そう思っていてもこれから戦闘が増えそうなので、いきなり破損されても困るので用心に越したことはない。

 トントントン

 破損部分がないことを確認し終わると同時にドアが叩かれる音がした。

「メルね。有難う、入ってきて」

 メルは入ると少し驚いた顔をした。

 なぜなら、空が今度は太刀を磨くために纏っていた布を使っていたからだ。要するに全裸になっていたのだ。

「そんな格好してたら風邪引きますよ」

「そうね、先に服を着るわ」

 そう言って立ち上がり、メルから服を受け取った。

「あ!」

 その時メルは大声を上げたのだ。

「ソラさん、紋様が肩にあります」

 そういうと彼女は空の右肩に触れた。そこは、今までシャツに隠れていた部分。そして…

「これは違うわ、元からよ」

 隠すように長袖になっていた部分でもあるのだ。肩甲骨あたり、そして右肩にまで紋様が描かれていた。

「これは生まれつきらしいの、刺青とは違くて傷ついても消えないのよ」

 あんまり良いものじゃないでしょっとソラが苦笑しながら言うとメルは首を振り、

「とても格好いいです。それに、今まで本で見たことのない変わった紋様をしてます」

「ちょっと、くすぐったいって」

 じっくりと見ながら紋様をなぞってきたため、何も着ていない空にとっては擽られてるのと同じである。

 ごめんなさいと言い離れるメルを見ながら、空はすばやく服を着た。空にとってはこの紋様はあまりいい思い出がない代物なのだ。

 だからいつも外出する時は隠しているのである。

「そうだ、ソラさん。明日街に一緒に行きませんか?」

 着替え終わる頃にメルが訊ねた。

「ソラさんの日用品買わないといけないですし、これから住む所の案内も必要ですし」

 確かに、メルの服をずっと借りていく訳にもいかないし、胸あたりがだぼだぼなのがどうしても悲しくなってくる。

「そうね、お願いしてもいいかな?」

 はい、喜んでと、彼女はうれしそうに答えた。

 ふと、疑問が浮かんできた。

(何であたし、言葉が分かるんだろう……)

「ねぇ、何であたしこの世界の言葉分かるの?」

 夕食前にふと本棚に入っていた本を手にとって見てみると、見たことのない文字が羅列していた。

 しかし、言葉が頭に入ってくるのである。眼では読めないと認識しても、脳が勝手に認識し始める感覚なため、頭が痛くなったのをよく覚えている。

「それはですね、召喚士と召喚獣が会話できるために魔術的に通訳されてるからです」

 普通は空みたいな言語の分かる召喚獣は少なく、元から獣の類が多いのである。

 人が獣の言葉が分からないのと同じで、召喚獣の言葉が分からない。それだと召喚しても力を貸してもらえないのである。そのため、言語を互いの言葉に置き換える術を編み出したのである。

「元々、亜人と呼ばれる者も居ましたから、その方々と協力したらしいですよ」

 やはり、召喚術に関する話になると饒舌になるようだ。そしてとても生き生きしている。

 空はそんなメルの話を聞きながらも羨ましいと心の中で思っていた。

 やらなければならない事はある。けどそれは、人に自慢できるようなことではない。

 六歳の頃に行方不明になった妹を探す……

 それだけを目的にこれまで生きてきた自分はメルには勝てないだろう。

 空はそう思いながら彼女の話に耳を傾ける。

 もう死亡と世間では確定された妹、だけどあれは失踪ではない。

 そうあれは…

「ソラさん?どうしたんですか?怖い顔してますよ。気に障ること話してしまいました?」

 不安そうに尋ねるメルに空は笑顔で否定し、もう遅いからまた明日話しましょうと話を切り上げた。

「お休み、メル」

「はい、お休みです」

 寝る挨拶をするとメルは自分の部屋に帰っていた。

 さっきまでメルが話していたため、より一層静かな部屋が静かに感いじられた。森が近いのか影で木が揺れる音と動物の声がたまに聞こえるだけである。

「あっちの家も静かだったけどこっちはもっと静かに感じるわ」

 寂しいとは思わないが、かすかに不安を感じるのは確かである。見知らぬ世界でやっていけるのだろうか……

 それに、爺ちゃんは心配してないだろうか。突然消えたのだから、吃驚するだろう……

「まぁ、来ちゃったものはしょうがないわよね。気持ち切り替えないと」

 声にすることで無理やりにでも気持ちを切り替える。そうしないとズルズル暗いほうへ行きそうな気がしたからだ。

 空はベッドから立ち上がり、木太刀を手に取った。

「ここではメルを守る。これが今のあたしの目的。この太刀に誓って守ってみせる」

 ぶんと一振りし、構える。

 気が引き締まると同時に不安な気持ちも一閃されたかのように晴れる。

 そして、太刀をベッドの近くに立て掛け、すがすがしい気持ちでベッドの中で入った。

 すると疲れていたのか思いの外すぐ眠りについたのだった。


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