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第一章  少女たちの出会い 02

 飲み込まれるのも突然なら出されるのも突然だった。

 そして空中で放り出されればもちろんそのまま落ちるのが物の道理である。

 空ももちろん例外ではない。ドスンと地面に落下した。

「いった~」

 視界が戻ったばかりなので受身も何できず見事に尻餅をついたのだ。

「何なのよ、も……う……」

 空は言葉を失った。視界が晴れると目の前にはさっきまで居た見慣れた道場ではなく、樹が生い茂る森の中に居るのだから。

「召喚術か!気をつけろ!」

 野盗たちはいったん物陰に隠れどうするかを考えるのだろう。

 しかし、空はそれを見逃さなかった。

(今のやつら刃物持ってた。しかも召喚術って……)

 空はすぐさま起き上がることにしたが、

「あの…すみません」

 その声で動きを止めた。

(今の声は女性かな?今、声をかけるってことは、あいつらとは違うということよね……敵であっても味方であっても)

 空はとりあえず警戒しながら後ろを振り向き、そのまま間合いを取るため後方に飛んだ。

 居たのはやや茶色に近い金髪の長髪の少女だ。そして、空より背は高く胸も大きい。

「きゃっ……」

 メルは小さく悲鳴を上げ、怯えながら空を見続けている。

 メルにとっても、空はまだ味方なのか敵なのかがわからないのである。そして、彼女にとっては命に関わるのだ。

(お願い、味方の召喚獣であって!)

 メルはそう願いながら勇気を振り絞り、話しかける。

「あなたが私の召喚獣なんですか?私に…私に力を貸してください!」

「召喚獣?あたしが?」

 メルの言葉に空は質問で返した。

 それは空の耳には聞きなれない言葉だからではない、漫画やゲームでよく聴く言葉であるからだ。

 空は頭をかきながら辺りを見回してみる。そして彼女は少し考え直した。

(変な森に居るし、お尻はまだ少し痛いし、困ったことに現実なのよね?これって……)

「あの…大丈夫ですか?」

 メルはいきなり黙った空を見て心配そうな声で話しかけた。

「あ~平気、少し状況を整理していただけ。つまりこれは現実で、あなたがあたしを呼んだってことよね?」

 はいと彼女が頷くのを見てなんとなくだが事態が読めてきた。

「てことは、役目を終えれば帰れるのよね?」

 これにも頷きが返ってきた。

「力を貸すって、さっき隠れた男どもを追い返せばいいの?」

「はい、敵は武器を持っているので気をつけてください」

 そう言ってメルも杖を構えていた。戦うつもりなのだろう。

 けれども、簡単な魔術を撃つことしかできないことや避けられるとばれた以上援護しか出来ない。それでも彼女は何もしないよりかは、何かすべきだと思うのだ。

「あなた名前は?」

「メルと言います」

「そう、よろしくメル。あたしは空。残念ながら普通の人間よ」

 えっと驚くメルを尻目に近くに落ちていた愛用の木太刀を足で蹴り上げる。

「さぁ、行くわよ!」

 そう告げ、落ちてきた木太刀を手にし、男たちが隠れた場所に駆けた。

 

 

 木に隠れ様子を伺う野盗に対し空はまったく隠れる気がなく森の中を直進している。これでは左右から現れて挟み撃ちにされてしまうだろう。

「女の子相手に何こそこそしているのかしら。それとも男の格好した女の子だったりして」

 空はわざと笑いながら挑発をした。

 一見構えなし、ただただ無防備に直進しているように見えるが、目ではすでに動きがありそうなところに捉えている。

 そして、手にしている得物は目線とは違う方向を向けている。他からの攻撃を警戒しているのである。

 つまり、隙がない。

 しかし、野盗やメルは気がつくことはないだろう。挑発で怒りや驚きで気が逸れてしまっているからである。

「このくそアマ、黙っていればいい気になりやがって!」

 そして怒りを覚えるものは飛び出すのだ。空の思惑どおりに。

「残念だけど、あたしは尼でも海女でもないわ!」

 そう返すと殴りかかってくる男の腹に振り向きざまに蹴りを突き出す。

 その蹴りは男の拳より数倍早く、威力もあった。男は胃の中のものを吐きながら地面を転がった。

「あれ、倒れるぐらいの加減なのに……もう少し力加減しないといけないのかな……」

 地面にうずくまる男を見てそう呟く。

 確かに加減はしたはずなのである。けれど、いつもは全力で巌双を練習相手にしたり、一人で訓練したりしているため、つい加減を見誤ってしまったのかもしれない。

「ソラさん、危ない!」

 そう考えていると背後から好機と思った体格のいい大男が突進してきたのだ。

「風よ、すばやき刃となれ!」

 急いで、メルは魔術を作動させる。だが直線的なので軽々と避けられてしまう。

 しかし、空はそこを見逃すほど甘くなかった。

「メル、ナイス援護」

 すかさず、太刀で避けた男の喉元を弱く突き、本命の水月を打ち抜く。

 急所を二発突かれ大男は卒倒した。

(やはり変ね……まるであたしの体じゃないみたい。これじゃあ、思ったより加減しないと下手したら大変なことになるかも)

 いつもより力が湧いてくるのを感じていたが、自分でコントロールできないわけでもない。少し体が軽い、そんな感じなのだ。

 それは今、置いとくとして、このあとは少なくとも武器持っているやつと相手をしなくてはならないだろう。武器を持つ相手と戦うのは体力的、精神的に面倒くさい。

「こそこそまだ隠れて戦う気がないならここの倒れてるやつ負ぶって負け犬らしく逃げたら?」

 空は再び挑発の言葉を放った。これで逃げるならそれでいいし、向かってくるなら叩きのめすしかないだろう。

(武器を持ってる相手にあたしは何物騒なこと考えているんだろう……普通だったらそうならないように牽制しなくちゃいけないのに)

 そう考えながら嘲笑するしかなかった。

「わかった、言葉に甘えさせてもらう。俺らも召喚獣相手に戦うのはごめんだ」

 お頭と叫ぶ声がするが黙れと一蹴し、一人の男が出てきた。

 お頭と呼ばれた男は、禿面でひげを生やし小太りしたおっさんという定番な格好ではなく、顔は良くも悪くもなく、たぶんイケメンの部類には片足のつま先ぐらいは突っ込んでいるんじゃないだろうか。また体はほどほどにしまっており、腰には小剣(ショートソード)を下げていた。

「あら、案外物分りがいいのね」

「まぁ、こっちも危険は冒したくないんでな。確実な相手というものを狙わないと命がいくつあっても足らんさ」

 野盗の頭とあたしは互いに対峙した。

「悪いが武器を捨ててくれないか。怖くてそちら側にいけない。仲間を抱えてるところをつぶされたら困るからな」

「そんなことしません!」

「わかったわ。武器を捨てればいいのでしょ」

 ソラさんと叫ぶメルには悪いがここは大人しく後ろに武器を捨てる。

 メルもそれに習い杖を捨てる。

 からんと木が鳴る。

 その瞬間互いに、いや先に動いたのは野盗の頭のほうだった。

 腰の小剣を抜き、斬り上げてきたのである。

 小剣は空のいたところを斬り裂いた。

 空はそれを見越し後ろに跳んだのである。

「あら、今の奇襲?信じてたのに……」

 空は足で得物を拾い上げた。そして今度は無構えではなく、正眼の構えを取る。

「けっ、そっちだって信用してなかったくせによく言うぜ」

 野盗の頭も小剣を逆手に持ち、体を地面につけるぐらいに低く構えた。

「あんたを倒したら手下の人はおとなしく引いてくれるのかしら?」

「さぁ知らんな、そんなことなかったんでな」

「確実な相手を狙うからね」

「そういうことだ、だが今回は間違ったみたいだな。羊の皮をかぶった狼にぶち当たったみたいだ」

「あら、それはあたしに言ってるの、それともメルに?」

 両方だと野盗の頭は答えながら飛び出す。

 空も同時に動き、牽制を込めての三回ほど斬撃を振るうが、野盗の頭はそのまま勢いで体を左右に逸らすだけでかわした。

 相手はそのまま自分の間合いに一気に詰め寄りと首を切り裂く一閃を放つ。

 それを空は体を後ろに引き、紙一重でかわした。

 そして、反らす体そのままに相手の顎を蹴り上げるが、大振りなので当たるはずがない

 しかし、相手がよける分の間合いを作ることはできる。

 今のは、正直危なかった。少しでも反応が遅ければ空の喉は斬られ死んでいただろう。

 そう思うと一気に汗が出てきた。心臓も早くなる。

 だが、それほど怖いとは思わない、逆に相手が出来ることを知り、緊張感ともに高揚感が湧き上がる。

(こんな非常識なことが続くと人は狂うのかもね。けれど、今はそれでいい)

 空は 湧き上がる笑いを噛みしめ、

「はっ!」

 気合一線、突きを放つ。

 しかし相手も難なくかわし次は深めに踏み込んできた。後ろに引いても腕の調節で首を切るつもりだろう。

 だがすぐさま得物を返し、低く構えていた野盗の頭の顔面を蹴り飛ばす。

 不安定な蹴りのため弱い。野盗の頭もさすがによろけるが、すぐに踏みとどまり構えなおす。

 しかし、空の動きは止まっていない、蹴りと剣技で男を圧倒させる…が、

 ごっと木が鳴る音が響く。

 渾身の一撃を小剣で受け止められたのである。

「甘いな、これでお前の動きが止まったぞ」

 野盗の頭は木太刀をはじき一歩踏み込んだ。顔には勝利を確信し笑みを浮かべていた。

 まだ少し間合い離れているが、この近距離は剣の間合いではない…

 もはや小剣の間合いのほうが有利な間合いなのである。

 木太刀は弾かれ、空の手から離れた。

「終わりだ!」

 一気に間合いを詰め、首を切らんと小剣が襲った。

 メルの悲鳴が森にこだました。

 ―――しかし、地面に転んでいたのは他ならぬ野盗のお頭だった。

「さすがに三回も同じ所を狙われれば反撃されるものよ」

 空は、間合いを詰められた瞬間にさらに一歩詰め、左手で小剣を持つ腕を止め、顎に当てた右腕を膝で蹴り上げ、掌底突きで敵の顎を突いた。

 木太刀は弾き飛ばされたのではなく、素手で相手をしとめるためにわざと手を離したのだ。

(何事にもこだわらない、変幻自在の武術か……じいちゃんが強い理由が少しわかった気がするな)

「さてと、あんたたちのお頭はおちたわよ」

 空は未だに隠れている敵に向け叫んだ。

「もう一度聞くわ。逃げるならあんたらの仲間を負ぶって逃げなさい。けれど、まだやるっていうんだったら容赦しないわ」

 そう言い空は、弾き飛んだ木太刀を拾い、メルの方へ歩いていった。

 頭を失った野盗どもはさすがにこれ以上戦ってもやられるのが分かったのだろう。空の言うとおりに、頭と仲間を拾い逃げていく。

「はぁ~……、疲れた~」

 敵が見えなくなるのを待ち、あたしは一気に緊張を抜け、その場にへたり込んだ。意外に疲労がたまっていたのだろう。もう歩く気さえも起きない。

「大丈夫ですか」

 心配そうにメルが空の顔をのぞく。こうやって落ち着いて見るとおどおどしているが、女の目から見てもなかなか美人な女の子である。少し涙目なのは空が、死んだと思ったからだろう。

「平気平気、ただ単に疲れただけだから」

 空は手を軽く横にふり、なんでもないとアピールする。

「そうですか、よかった」

 メルは胸をなでおろし、ほっとした顔した。彼女が空のことをかなり心配していたことが分かった。

 空はそのまま仰向けに寝転がり深呼吸した。メルも怖々とだが、その横に座った。土や森の匂いが強く香ったが、都会じゃ早々こんな気分は味わえないので心地よい。

「えっと、軽く質問いい?」

 空は寝転がりながら、隣のメルに問いかける。

「あ、はい……なんでしょう?私なんかで答えられるなら何なりと」

「いきなり戦いが始まったから聞きそびれたけど、ここは何処なの」

 空はもう一度確認するために尋ねた。

「ここは、えっと……なんて呼ばれてるか分からないですけど……森です」

 メルは答えてくれたが空の求める答えとは離れていた。だが、ここが空のもと居た場所ではないことが分かった。

「なるほど、つまりここは日本ではないということね」

「あの、『ニホン』って何ですか?」

 その返事で空は確信を持つことが出来た。

 ここが自分のいた世界じゃないということを…

「日本ってのはあたしの居た世界の国の名前よ。この世界のものじゃないわ」

「そうなんですか。でも、私、世界全体を見たわけではないですし、それに詳しくないから……」

「確実にないと思うわ」

 落ち込むメルみて苦笑いをするしかなかった。

(なんかまだおどおどしてるし、なぜこの子はこんなにも自信がないのだろう)

 そう思いながら空はメルの横顔をじっと見ていると、今度はメルのほうが質問を投げかけてきた。

「やはり、ソラさんは召喚されたんですよね」

「そうみたいね、こんな森の中に投げ出されたわけだし、それに武器を持った相手とも死闘をしたわけだしね」

 うちの世界じゃ非常識だと答えるとメルは俯いてしまった。

「あの………すみません、私なんかのせいで……」

「いきなりだったからびっくりしたけど、自分がまだまだってことも分かったし。ちゃんと帰れるなら別に気にしないよ。喚ぶことが出来るなら還すことだって出来るんでしょ」

 パンパンとほこりを払いながら起き上がり本題に入った。

「え、あの……その……ソラさん自身で帰ることは出来ないのですか」

「ええ、残念なことに……」

 薄々勘付いていたが現実になっては欲しくなかったことが本当になったらしい。

「いや、あの、ごめんなさい!それは出来ません、私まだ見習いだし、全然未熟だし……」

 メルのおどおど感がさらに増し、今にも泣きそうな顔をし始めた。

「それに今の私には呪文すら分かりませんし、それを行う実力も………ごめんなさい、こんなことになってしまって本当にごめんなさい!」

 メルは、とうとう大粒の涙をこぼしながら謝り続けてしまった。正直、気分のいいものじゃないし、泣いても何も始まらない。

「ようは、メルがあたしを帰すほどの実力をつければいいってことでしょ」

 空は頭をかきながら言った。

「だったら、あたしはそれまで待つし必要なら手伝うわ、それにこの世界だとかなり鍛錬になると思うから、あたしとしてもかなりの好都合だったりしてね」

「私、ソラさんのために頑張ります。いろいろ迷惑かけて本当にごめんなさい」

 メルは泣きながらそう言って頭を下げた。

(こんな調子大丈夫なのかしら。少し不安だけど、悪い子ではないなのは分かったからよしとしよう)

 そんなことを思いながら空は手を差し出した。

「メル、こういう時はごめんじゃなくて、よろしく、よ」

「は、はい、よろしくです。ソラさん」

 メルはしっかりと手を握ってきてくれ、二人は握手をした。


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