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第一章  少女たちの出会い 01

 かすかになびく風も熱を帯び、強い日差しが照りつけるようになってきた。季節は夏。そして世間は夏休みに入ったところだ。

 住宅街をはずれ少し山を登った所に家がある。普通そういうところにあるのは寺とかお偉いさんが涼むために家を建てることが多いのだが、そういうわけではなく道場がある家なのだ。

 しかし看板はなく、ほとんどが個人的な道場になってしまっている。たまに、護衛術の講座を開いたりもするが生活費を稼ぐための苦肉の策と言えなくもない。

 そしてそこに住んでいるのは老人と少女の二人。少女は黒髪のやや癖毛のショートで背は少々標準の下ぐらい。

 彼女の名は逢瀬 空。

 道場を師範である祖父の孫であり、師範代。もちろん腕にも自信はあるが、あまり人には見せないため、部活もしないただの高校生だ。

 あと、特徴的といえば真夏であるのに右腕は長袖で左腕はノースリーブという変わったシャツを着ているぐらいだろう。

「明日から、少々家を出るからよろしく頼むぞ」

 老人が孫である空にそう言った。

 老人の名は逢瀬 巖双。

 空とは母方の祖父となる。六歳で家族がいなくなった空を引き取り、男手ひとつで育ててくれた。

「また旅?いつぐらいに帰ってくるの?」

 まったくどこからそんなお金が、と空は思いながらも了承した。

 巖双の趣味は旅なのである。しかもただの旅ではなく自分の武道を高めるというものだ。そしてたまに長期休暇になると空も連れて行かれることもある。

 だが今回は、一人で行くみたいだ。そして帰るのは夏休みが終わる頃らしい。

 空は内心ではほっとした。

 この夏かなりのハードスケジュールでバイトをやらなければならないので、夜遅いバイトもあるのだ。

(私にはやらなくてはならないものがある……)

 そのためにも今はできるだけお金をためる必要がある。

(そのために、武道は爺ちゃんに師範代まで認めさせたし、お金も今年までにかなりの額までいった。高校を卒業したら決行できる……)

「そういえば今日はどこかに行くのかの?」

 巖双は空の服装を見てそう言った。一目みてわかるのはこの服が外出するときに着る服だからだ。

「友達とちょっとぶらぶら遊びにね。遅くはならないと思うけどじいちゃんの旅支度は出来ないかも。だから自分でやっといて。」

 ひらひらと手を振りながら約束の時間だからと玄関に向かう。

「男と一緒かいの。なら遅くなってもワシはかまわんよ。そういうところは寛大じゃからの」

 巌双はニッカリと笑いながら、そう言って送り出した。

(精神が若すぎるというべきかな……あれで世間から厳格で昔ながらのお爺さんと言われているのかが不思議だわ)

 空は頭を抱えながら門を出た。

 

 

 巖双が言った通り男子は二人居たが女子が空を合わせて三人居た。別にカップルと言う訳でもなくただのクラスメイトの集まりである。

 せっかくの夏休みなんだからみんなでどこか遊ばないかと誘われたのだ。

 昼飯を軽く食べながら夏休み何するかを話し合い、その後カラオケをし、ゲーセンにいった。

 もちろん、最初はプリクラとかみんなで撮っていたが途中から男子は格闘ゲーム、女子はそのままプリクラかUFOキャッチャーに夢中になった。

 しかし空は、途中から男子に混じり格闘ゲームに熱中したが、結果は経験の差が物言い惨敗。

 ある程度遊んだので夕飯を食べようかという話になったが女子のひとりがもう帰らないということで解散となった。

 当てが外れたとは思わないがこのまま帰ると巖双の手伝いをしないといけない。それもつまらないので少し時間をつぶしたいところだ。

「さて、どうしたものかな…」

 まだまだ日は落ちることを知らないようであたりはまだかなり明るい。さすがに暗くなると変な人が出てくるが、護身術を教えるところの娘が撃退できないわけではないが面倒なものに関わる気はない。

 自然と足が帰路に向かった。ただし、まだ家に入るつもりはない。そのまま道場のほうに入っていった。

(たぶん爺ちゃんはちゃんと気づいているだろうな)

 そう思いながらも道場の奥から黒く長い布の袋を取り出した。

 そこから出たのは一般的に知られている木刀よりも太刀部分が太く、真剣と同じ重さをした木刀である。降るとぶんと鈍い風切り音が道場に響き渡る。

(どこも悪いところはないわね)

 空が教えてもらった武術は剣術だけではなく体術、槍術など武術全般を巖双から習い、武器の扱い方なども教わった。

 そして、いつものように対人戦を模した動きをこなす。もちろん空想の相手は巌双である。

 空の動きは体術が中心で鋭い蹴りや棍を支えにすることで多彩な動きを発揮させている。やがて、武器を持った相手に対する動きや防具を着た相手に対する動きなど実践的な動きも行っていた。

 ある程度の動きをし、握力がなくなり始めたところで動きを止めた。時間にして二時間、すっかり道場の中も暗くなっていた。

「暗いからシャツのボタンはずして涼んでもいいかな…」

 手ぬぐいで顔を拭きながら、周りを見回して誰も居ないことを確認し、シャツのボタンをはずそうとした。

 その時――

 暗い道場がいきなり明るくなったのだ。

「な、なにこれ!」

 びっくりして声を上げる。

 空の周りが光り輝き、丸くでかい円となり、そして道場の床、今では光って道場の床とは思えないが、足が飲み込まれていく。

「足が!くっ、どうしよう抜けない」

 まるで沼にはまったかのように、もがけばもがくほどずぶずぶと空の体は飲み込まれ、最後には全身飲み込まれてしまった……


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