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小話  作者: アラック
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神様のダイス

 地上に生きる人間には必ず、一体の守護天使が付いている。

 遥か天井から己の担当する人間の生活を見守るのも仕事ではあるのだが、その最大の労は「運命の決定」にあると言っていい。

 守護天使は神より聖なる十面体をふたつ、貸与されている。

 十面体。十の面を持つサイコロ、ダイスだ。それがふたつ。

 片方を十の位、もう片方を一の位として、それを振ると00~99までの%の数値を表す事が出来るという寸法だ。


 守護天使はこのダイスを、担当する人間の人生の転機に振って、その命運を決定づける役割を担っている。

 いつを転機とするのか。それは天使の判断に委ねられている。

 通勤途中のサラリーマンが満員電車の中で催す度に「あちょー」とロールする天使も居れば、中学受験や入社試験と言った節目節目にしかダイスを振らないような天使もいる。

 すべては天使のダイスの出目次第。

 しかし、ある条件が加わると、ダイスを振る回数は劇的に増減を見せる。

 それはほとんどの人が持つものに影響される。家族だ。


 ひとりに天使一体だとすれば、四人家族の家ならば天使四体が、その運命を担っていることになる。

 そして、天使の中には階級があり、家族単位で命運の監視をしている天使たちはより階級の高い天使の意見に大きく影響を受ける。

 すなわち、家族を見守る天使の中で一番階級の高い天使がダイスを多く振れと言えばその通りに、振る回数を減らせと言えばその通りにしなければならないのだ。


 そうして運命を大きく変動させられた人間も居れば、極平凡な生涯を全うした人間もいる。

 天使たちはそれら人間たちの転機に立ち会い、ダイスの目に一喜一憂し、その行く末を見守るのだ。

 その家族に子供が生まれれば新たな天使が配属されて来たり、不慮の事故を回避できず家族の誰かが亡くなれば、その担当は消沈して去ってゆく。


 空の上から地上を見守る天使たちが振るダイスの音は、ある時は雷鳴となったり、風雨に化けたり、地上の人々にもなじみ深いものとなっている。

 人々がそれに気付く事は決して無いのだろうが、似たような事を想像し、夢想する事は数多くあった。

 そうしたインスピレーションが巡り巡って人間たちが生み出したゲームは、神を、天使たちを、大いに驚嘆させるものだった。

 TRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)の登場だ。


 まるで自分たちが行っているかのような行為を遊戯として嗜む人間たちに、極一部の天使たちは大いに注目した。

 自らの運命を上位存在に握られているはずの人々が、架空のキャラクターの人生を遊戯する姿に、天使たちの中には羨ましくなってしまう個体が後を絶たなかった。

 何よりも、上役のご機嫌を伺いながら、自らの分身と言って過言ではない生命の命運を悪戯に傾ける事無く、自らの意志と熱意と礼節を持って、清々しい緊張感と自由な心でダイスを振れる喜びに、憧れたのだ。

 そうした遊戯に魅せられた天使たちは堕天使とされ、自らの職務を放棄した罪で地上に落とされるという罰を下された。

 天使としての仮初の命を剥奪され、人としての限りある命を与えられて。

 無論、天使としての記憶どころか、TRPGに関する記憶すら失っているその身が、憧れの遊戯に辿り着けるかどうかは奇跡に近い。

 それこそ、守護天使のダイス目次第なのだ。


 しかし、そうして判定に成功し運命を勝ち取った堕天使は、憧れを勝ち取る事が出来るのだ。

 運命を左右し戦う物語に見せられ、その生涯を全う出来るかどうかは、やはりダイス目次第であるところが大きいが、可能性は常に残されている。

 目の00が“0%”ではなく、“100%”と表しているからだ。

 すなわち、最低値は必ず“1”。どんな可能性も0ではないという、神の慈悲か、あるいは残酷さか。


 ……ところで、神がそんな堕天使たちの事をどう思っているかと言えば、それは人間の世界を見てもらえば一目でわかる。

 とあるコンベンション会場に、妙な神々しさを放つ初老のベテランGM、あるいはプレイヤーが紛れ込む事があるのだが、いざ同じ卓を囲んだならば、普段通りの全力で当たるべきだ。

 少なくとも、人と神話との距離が大きくなってしまったこの時代において、人間が唯一、神と対峙する機会なのだから。


 しかしまあ、ルールを守り、礼節を忘れないようにすれば、早々天罰が下る事も無いだろう。




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