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小話  作者: アラック
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誕生日

 柔らかな雪がちらつく季節。この時期になると、いよいよ誕生日がやって来るなと、そう言う気持ちになる。この季節になると、必ず思いを馳せる事があるのだ。


 小学校は一年生の時だ。私のクラスは席順があいうえお順ではなく、誕生日順だった。寒い季節の生まれである私は窓際の中ほどの席となり、外が見えてラッキーだなと、子供心に浮ついていた事を覚えている。

 だからこそ、私の後ろの席の少年の事も、すぐに思い出す事が出来た。私とは誕生日が一日違いの少年。ならば、私の方が一日だけお兄ちゃんだなと得意げに語るのを、不思議そうに、しかし嬉しそうに聞いていたものだ。お互い兄弟姉妹は無く一人っ子で、兄弟のようなものに憧れていたのだ。

 すぐに友達になった私たちは、それから一年にも満たない時間を思い付く限りに遊び倒した。私の誕生日に少年を招待した時など、とても楽しかった。今でも夢に見る程の良き思い出だ。次の日、彼の誕生日も一緒に祝う事が出来ていれば、それは一生の幸福として胸に刻まれていたかもしれない。

 私の七歳の誕生日の、その次の日。少年の七歳の誕生日に、しかし彼は、既にこの世を去っていた。事故にあったのでもなければ病気がちだったわけでもなく、彼に父親による虐待によって命を落としたのだ。父親が怖いとは、度々少年が口にしていた言葉だった。帰りが遅いと怒られると震えて告げた事や、自分の家に友達を上げたくないと必死に止めた事を、私はもっと重く受け止めるべきだったのかもしれない。当時小学生の私にでも、それくらいは出来たはずだ。しかし、少年がそれは止めてと必死に懇願するのを振り切って親や先生に告げ口するのは、何よりも憚られた。友達を裏切ってしまうような気がして、言えなかったのだ。


 家に帰ると親は既に眠っていた。帰りはいつも終電間際になるため、食事も冷蔵庫の残りをかき集めるところから始めなければならないが、今日の残り物は特別だった。ケーキがふた切れ残っている。私の誕生日にと、両親が買い置きしておいたものだろう。こんな歳になったというのに、まだ息子の誕生日にケーキを買ってくるのだ。

 ケーキをふた切れともテーブルへ。そして灯りを点けると、テーブルにはすでに少年が座っていた。私の帰りを待っていたようで、輝くような笑顔で微笑んでくれる。ケーキにろうそくを立てて、お気に入りのライターで火を灯すのを、少年は格好いいねと褒めてくれる。歳を取り煙草を吸うようになって、自分でもお金の無駄だ、健康への害だと嫌気が差すものだが、少年の目には格好いい大人の仕草として映るのだろう。

 時刻は私の誕生日を通り過ぎて、彼の時間となっている。少年のケーキ、ろうそくの数は七本。もうずっと七本だ。毎年七歳の誕生日を繰り返している。

 少年の七歳の誕生日を祝う。今日この日だけは、私も七歳の子供に戻って、ようやく追い付いたなと少年の頭を撫でてやるのだ。それが、少年よりも一日だけお兄ちゃんである私の、ただひとつの役割なのだから。




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