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続編のない短編達。

そうして、彼はいつも私を捨てる。

作者: 池中織奈

 「―――俺と付き合ってください」

 目の前で告白してくる男を見て、ああ、またかと心の奥底で本能的に理解する。

 目の前で顔を赤くして告白してきた男を見る。すらりとした顔立ちに、色の薄い茶髪の髪。”今の”私よりも10センチ以上も背が高くて見上げる形になる。

 此処は桜が舞う、春の高校の中庭。私と彼はこの学園に通っている。彼は、一つ上の先輩。バスケ部に入部していて、活躍している彼。

 「……はい」

 そうして、頷きながら泣きそうになったのは、いつの日か彼女が現れる事を確信しているから。

 どのような世界でも、どのような時代でも、どのような環境でも、いつもいつも、そうだから。

 それでも彼の告白を毎回受け入れるのは、私が彼の事をずっと昔から好きだから。そうして、いつも期待する。彼が、彼女を選ばない未来を――。

 バカな私は、ありえないと知っているのにいつだってそれを期待している。









 彼に告白されたのが、何回目なのか数えるのさえ気が遠くなる。一番最初の記憶なんて明確には覚えていない。

 何度も、何十回も、輪廻転生を私と彼と彼女はし続けている。始まりはもういつだったかわからない。色々な場所を生きてきた。この世界で言う空想の世界――ファンタジー世界とか、あと中世のヨーロッパだとか、戦時中の世界だとか。色々な記憶の欠片が、夢としてあらわれる。

 そして、いつだって私は彼を焦がれて、彼女を妬ましく思ってる。ドロドロとした感情が、ずっと昔から存在している感情が、消えないの。昔の私と今の私は正確には違うけれども、それでも私はいつの時代も彼を求めてた。

 欲しい、欲しいと願う心とどうしようもない恋情がそこにある。

 いつだって彼は私と彼女を間違える。

 心の中で探している彼女を私だと錯覚する。そして、告白してくるの。私を彼女だと思って。

 私と彼女は似てるわ。当たり前よ。一番最初の記憶は覚えていないけれど、姉妹……それも双子だったって記憶だけは覚えてる。

 いつの時代でも、いつの世界でも、どんな環境でも、彼は私を見てはいないの。私の中の彼女を見て、焦がれてるの。

 彼女に似ている私に先に出会って、似ている私に手を伸ばすの。私自身を決して見ていないけれども、それでも彼のそばに居たいから、私は彼女のふりをする。いつだって、彼が私じゃなくて彼女を探している事を知っているのに望んでしまうの。

 傍に居たい。愛してほしい。笑って欲しい。

 そればかりが胸に溢れ出るの。

 夢の中で見た過去の私を思いだすと、彼が欲しいと彼女に意地悪をしていたり、出会わないように妨害していたり、いつだって祝福しようという気持よりも欲しいという感情に溢れてる気がする。

 最初は、初めの頃は祝福をしていた気がする。彼が私に告白して、彼女と出会って私を振って、彼女と付き合う様子を。

 けれどもずっとずっと繰り返されて、うんざりしてしまった。記憶がなければいいのに。出会っても”彼だ”と心が叫ばなきゃいいのに。気付かなきゃいいのに。全てを消し去ってしまって、一から幸せになれればいいのにと思った。

 記憶がない時だってあったけど、私は彼に執着してるのか、出会った瞬間、彼だって気付いてしまう。出会った瞬間歓喜する心が溢れだして、気付いてしまう。

 記憶がない時は、”彼が私を好きになってくれた”と純粋に喜んだんだろうけれど、今回は記憶があるから、どうせ振られる事がわかっていて、諦めが心に芽生えてる。

 ―――どうせ、彼は彼女をきっと選ぶだろう。でも…、彼が彼女に出会うまでは私が彼のそばに居る。











 それから数カ月は幸せだった。

 先輩である彼は、付き合っている間は今までの記憶と同じように私を大事にしてくれていた。デートして、キスをして、その先をして―――……。

 その目が彼女を見ていて、その心が彼女を渇望してる事は知っていたけれども、それでも傍に居られて大事にしてもらえて、彼女として居られるのは幸せだから。

 彼女への妬みや羨ましさ―――寧ろ憎悪ともとれるような感情も、彼のそばに居るだけで和らいでいく。私は彼が欲しくて、そんな彼をいつも結局手に入れる彼女を妬んでるんだもの。彼が私のモノになっている間はそんなみにくい感情なんて感じないわ。

 彼女は私と違っていつだって純粋なの。彼に愛されて満たされている彼女は、私みたいなドロドロとした黒い感情で我を失いそうになるなんてないわ。

 結局、一番欲しいものが手に入らなきゃ人間って満たされないんだと思ったわ。彼と彼女の邪魔をしちゃいけないって、他の男を選ぼうとした事もあったけれど結局満たされなくてモヤモヤするだけだった。彼と彼女が幸せになった後も、私はいつだって満たされない。

 ある時代では夫に、”俺を愛してないんだろ”と悔しそうな目で見られたわ。ある世界では恋人に、”お前は俺を見ていない”と言われたわ。

 それなりに、愛していた。そうじゃなきゃ付き合わない。だけれども、結局私は彼しか見てなかったの。結婚しても、付き合っても、結局一番に見れない。罪悪感だって溢れてくるし、満たされもしない。

 彼が欲しいというのは私の我儘なのだろうけれども、一度手に入ったものを毎回のように手放さなきゃいけないのが悔しいわ。

 欲しい欲しいって、ドロドロとしている私は、記憶があると特になんだけれど、彼が居ないと満たされなくて本当に困っちゃう。

 彼は私を、純粋だといったけれどそれは私が彼女の振りをしているだけだもの。だって、私は心の奥底でずっとドロドロした感情を持ち続けているもの。

 「……ずっと一緒にいてくれる?」

 誕生日に私が問いかければ、今回の彼”も”頷いてくれた。

 生まれ変わる度に、付き合う度に問いかけるの。そして、いつだって彼は頷く。

 迷いもなく。私を彼女だと思ってるからこそ、一切躊躇いなんてしないで。

 それでもそれが守られた事は一度もないけれど、頷いてくれた彼にいつだって嬉しさに胸を熱くする。

 好きよ、好きよ、愛してる――…。付き合う度に告げるその言葉は嘘偽りのない、本当の言葉。愛してる、なんて簡単に言っちゃいけない言葉な気がするけど、これは本当に思ってる事よ。

 「俺も」と返してくれる彼に、いつも思うわ。だったら、私を捨てないでと。彼女を選ばずに、私を選んでくれればいい。私を見てくれればいい。彼女に何て、また出会わなければいい―――…。

 そんな黒い感情がずっと漂い続けてしまう。嬉しいのよ、愛してるって言葉に返してもらえて。けれども、先の事を考えるとなんとも言えない気持ちが溢れだしてくるの。

 ――今回も、楽しかったわ。幸せだったわ。

 一緒に海にいって遊んだり、テスト勉強を一緒にしたり、私の作った手料理を食べてもらったり――…何気ない日常でも彼が一緒にいるだけで、私は楽しくて幸せで仕方がないの。

 ずっと続けばいいと願うのは我儘かしら。ずっと傍にいてほしいと願ってしまうのは我儘かしら。

 他の人を見ないで、私だけを見てくれればいいのに。ねぇ、彼女がいなきゃ、彼は私を見るのかしら? そう思うけれども、彼女を消すことなんてできないわ。妬ましいけれど、彼は彼女と一緒に居ると、幸せそうだもの。

 笑っていてほしいの。その笑顔を浮かべさせるのが彼女ってのが不満よ。私だっていいじゃないって何度も思ったわ。彼は彼女を選ぶように出来てるの。本当にずっとずっと――…。


 「どうしたの、ぼーっとしているけれど?」

 「…え、ああ、何でもない」

 ほら、彼と彼女がまた出会ったみたい。彼はまた彼女に心を奪われている。












 「ごめん、別れてほしい」

 ほら、またそう言われてしまった。いつだって申し訳なさそうに彼は私を見ているの。

 『大事な話がある』と呼びだされて嫌な予感ぐらいしたわ。でもそれでも、今回こそは…と思ったの。彼と彼女が出会った事は彼の態度で薄々気がついていたけれど。

 それでも、前触れはあったから、覚悟はしていたけれども。

 回数の減った電話とメールに、時折見せる悲しそうな顔。休日は何処かにいっているのか、誘ったら断られちゃったし、知ってたわ。

 「好きな、奴が出来たんだ」

 そうして、いつもね。気になる奴が出来た、好きな奴が出来たっていうの。

 私と彼女は、ずっと、長い時の中で彼を愛しているって点では同じなのに、彼は彼女しか選ばないの。

 どうして、どうして私を選んでくれないのかしら。私を選んでくれればいいのに。どうして、いつも彼女なの?

 私を選んで。私を捨てないで。私を求めて。って、自分の欲望を本当はぶつけてしまいたいとさえ思ってるわ。

 でもね、やっぱりできないの。前にぶつけた時、過去を覚えていない彼に怪訝そうな顔をされてしまったわ。覚えていないから、ドロドロした醜い感情を吐き出してしまった私は軽蔑した目で見られてしまったの。

 彼が過去を付き合っている途中で思いだした時にも様々なパターンがあったわ。丁度、その前の前世で私が彼女に意地悪をしていたからって悪女呼ばわりされたり、大体の記憶を思いだしてごめんって辛そうに謝られたり。色々あったわ。

 でもね、どの記憶でも思いだした彼は笑ってくれないの。

 「……そう」

 期待したのはバカだっていう自覚ぐらいある。ずっと知っていたもの。彼が彼女を選ぶことぐらい。

 ドロドロした感情を隠そうと思ったわ。嫌われたくなかったから。喚いてしまいたかったの。吐きだしてしまいたかったの。

 「――わかった。その子と、付き合えるように頑張ってね」

 だけど現世の私はそういって無理して笑ったの。今回は大体の過去を覚えてたのも理由だし、諦めが見えてたから。

 「――本当に、ごめんな」

 そういって申し訳なさそうな顔するなら、私を捨てないで。

 そんな言葉をもちろん言えるわけはなかった。


 ――――そうして彼は今回も私を捨てる。















 別れた後、彼と彼女を見かけたわ。

 本当に偶然だったけど、日曜日に町に出かけたときに見かけてしまったの。幸せそうに笑う彼女は、彼と手を繋いで居たわ。

 その笑顔を浮かべた顔をグチャグチャにしてしまいたい、って思わず恐ろしい考えが浮かんでしまった自分に自分で呆れてしまったわ。

 現世の彼女は、黒髪ストレートでパッチリした瞳で、女から見ても可愛らしい外見をしていたわ。とはいっても、彼女が美少女なんてものじゃなくても彼は彼女を選ぶの。いつだって。

 二人を見ただけで、その仲を切り裂いてやりたいって思った。二人を見ただけで、幸せそうな彼を奪いたくないと思った。

 対極した感情が、ずっと心を支配して苦しいの。いっそのこと真っ白になってみたいわ。心でさえ彼を感じられない真っ白な自分になりたいわ。でもね、彼に会えないのはそれはそれで嫌だと思う。

 結局手に入らない事ぐらい経験上ずっとわかっているけれども、それでもね、ずっと欲しいの、彼が。私はずっと、彼女の位置を欲してるの。

 彼女の立場になれたならどれだけ幸せなんだろう。妬ましいの。羨ましいの。一度喧嘩別れして、またくっついた時もあったわ。その時は、彼女に怒鳴りつけたかったの。だって手に入っているのに手放すなんて、何てバカなのって思ってしまった。

 私がどれだけ望んでも結局手に入らないものを、彼女はいつだって手に入れてるの。

 私と彼女を間違える彼を見る度に思うわ。私を選んでと。愛を囁いて、一緒にいてくれるといっても、彼女に出会えば彼は私を捨てるの。

 きっと、私が心で彼を感じとれるように。彼と彼女は互いに感じとってしまうのよ。私だけ一方通行なの、いつだって。

 ねぇ、一方通行はもう疲れたの。

 ねぇ、もう、ずっとずっと失恋し続けるのはつかれたの。

 ねぇ、ずっとずっと妬ましいって感情に支配されてる心が嫌なの。

 私はバカだから、呆れるほどに愚かだから、期待するよ。来世で、きっと彼はまた私に告白するだろう。その時は、今度は私を選んでほしい。

 いつかね、愛情が彼から返って来てくれることだけを、望んでいるの。





 ―……一度でいいから私を選んで。それだけが私の望みだよ。

 


転生の恋愛もの読んでてこういうのもいいかなとできた話。意味がわからなかたらごめんなさい。

ただの思いつきです。嫉妬とか妬みとか普通にしてる子です。


心情ばかりだけど、こういうの書くのも楽しいです。転生物好きです。側室物とかも結構好きですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女だけがはっきりと輪廻を覚えている理由は、未練なんでしょうか。 彼の心にはほんの少しだけ恋焦がれた記憶が残っていて、その片鱗のせいで彼女を見間違うと。 そして本命さんは、何も覚えていないの…
[一言] 救われない。 だが、捨てられると判っていても会えない世界の方が 彼女にとっては悲劇なのだろう。
[一言] この物語を読みながら、『待つわ』という歌を聴いていたので、なんだか歌詞と合っている気がして。 報われないなと思いました。 まぁ、振り向いて欲しいから告白を受けるのでしょうけどね。
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