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1話:最悪な出会い

 ふぅ……僕はテーブルに頬杖をついて、ため息をついた。

 もうすぐ昼休みがもうすぐ終わろうとする中、テラスにて僕は1人で1枚の紙切れを見ていた。

 辺りはもう誰もいない。それもそうか、そろそろ初等部中等部の生徒は講義や実習が始まるし、高等部の生徒は普通の人はとっくに卒業分の単位を取得していて、研究に進むもの、教育の道に進むもの様々だが、今は最後の休みを謳歌するためにどこかに遊びほうけているだろう。


「はぁ……」


 ボクは再度ため息をついた。何度ため息をついても現実は変わらないのだが。

 再度紙切れを見る。先ほどクニルド先生に呼び出され、何も言われずに手渡されたものだ。


----

 クリス・アロン


 貴公は、卒業に必要な単位を満たしていないため、本学の卒業を認められない。

 ただし、以下のクエストを満了してきた場合において、

 取得できていない単位の代替として、認めるものとする。


 クエストの内容


 始祖鳥の卵を取得してくること。

 始祖鳥の卵は割れていてはならず、必ず破損せずに取得すること。


                 クニルド・マルクス

---- 


「……なんだかなぁ」


 もう2ケタにいったかくらいの数、僕はため息をつく。はぁ、赤点ぎりぎりのやつでももうとっくに卒業の単位くらい取得してるってのに……単位足りてないやつなんて、きっと僕くらいのもんだろう。

 背中に杖を差し込んだ杖を抜いて、指でくるくるとまわす。杖を常に携帯している事も最近はとてもばからしくなってしまったが、なんとなく外せなくて、持ち歩いてる。

 杖をいじっていたら余計気分が落ち込んできた……明るい空に対し、僕の気持ちはとても陰鬱だった。


「あー、やっとみつけたあっ!」


 陰鬱な気分の中、誰かの甲高い耳障りな声が聞こえた。

 誰だようるさいな。もうちょっと小さな声で話すことはできないのか。

 振り返ると、高等部の制服を着た女子生徒が立っていた。周りには他に誰もいないし、見つけたってのは僕の事なんだろう。

 ……誰だっけこいつ? 見たことない。


「ようやく見つけたわよっ、クリス・アロン! 書物と論文だけが友達って言うから、図書館とかそういうところにいるかと思ってたら、こんなところにいるなんて。延々と探し回ったわよ」


「……だれ?」


 相手は僕の事を知っているみたいだったが、全く僕にとっては記憶のない顔だった。

 茶髪の髪をショートカットにそろえ、大きな目は少しだけ吊り上って、気が強そうに見える。ずっと考えてみたけど全く思い出せないので、素直に聞いてみた。


「……あんた、もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ。というか、私とあんた初等部の頃、何回か同じクラスだったわよね!? なんで覚えてないの!」


「そう言ったって、覚えてないもんは仕方ないだろ。初等部なんてもう何年も前だし」


 僕がそう言うと、はぁああっと大きなため息をついて、前に立っていた女子生徒はがっくりとうなだれた。

 初等部の頃の事を思い出そうとしてみたけれど……駄目だ、やっぱり全く記憶にない。


「そうよね、好きなものは書物と論文。3度の飯より本が好き。むっつりクリス君は人の顔なんて覚えてるわけないよね」


 ……なんて失礼なやつだ。普通に僕だって本以外にだって興味があるさ。

 そう反論しようと思ったが、思い返してみると確かにここ最近は図書室にこもり論文と研究書ばかり読み、は特に趣味らしい趣味をしてこなかったため、グッと反論することをこらえた。


「私はレイリィ・スライルッ! 覚えた? 覚えたわよねっ! 忘れたって言ったら殺すっ!」


 僕がだまっていたら、我慢しきれなくなったのか、彼女の方から自己紹介をした。

 名前を聞いても、レイリィ・スライルという人が初等部の頃、同じクラスにいたかどうか全く思い出せなかった。


「……忘れた」


「殺すっ!」


 ボソッと冗談のつもりで忘れたといっただけだったのに、彼女は一気に僕に詰め寄り、本気で首根っこをつかんでこようとしてきたので、慌てて僕は体を後ろにそらして逃げ出した。


「ちょっ!? 待て待て待てっ!? 何するんだ!?」


「忘れたって言ったら殺すって言ったでしょ! それを実行してるだけじゃない? 何か問題が?」


「大有りだろっ! 待て待てっ、冗談だ冗談! 覚えた! レイリィ・スライル! だから殺そうとつっこんでくるのをやめろ!」


 僕が彼女の名前を叫ぶと同時に、彼女はぴたりと動きを止めて、首根っこに掴みかかろうとしていた手をおろした。

 ……ふぅ、怖い怖い。まさかあんなたった一言で殺されそうになるとは、目の前のこいつにはうかつなことは言えないな。


「まったく、出会ったそうそうこんな事になるなんて、ほんと最悪な出会いよ」


 それはこっちのセリフだよと言い返したくなったが、そんな事を言ってまた同じ目に合うのはごめんだった。


「……で? えっと、スライルさんは僕に何の用なんだ?」


 僕がスライルさんと名前を呼ぶと、彼女は露骨に嫌そうな顔をした。


「スライルで呼ぶのはやめてっ! その名前嫌いだから」


 ……ああ、スライルってあの名門のスライル家の娘か。

 ここ、バルメシア共和国では魔法産業が突出している。基本的に魔法というものの素質は遺伝によるものが大きいのでは、と言われており、事実スライル家のような名門の家から、優秀な魔法使いを多数輩出している。

 ただし、今まで全く魔法の素質がなかった家系からでも魔法の素質がある子が生まれることもあり、そのまた逆に名門と呼ばれている家からでも、魔法の素質がない子が生まれることもあり、魔法の素質が遺伝だけとは言い切れないところがある。

 そんな事を考えながらまじまじと見ていたら、ぎろりと大きな目でにらまれ、慌てて目線をそらす。


「えっと、じゃあ、レイリィは」


「馴れ馴れしく名前で呼ばないでっ!」


 ……じゃあどうすればいいんだよ。名前でも呼べず姓でも呼べないなら、呼びようがないじゃないか。


「……えっと、それじゃ、僕に何の用?」


 仕方ないので名前を呼ばずに会話をする事にした。


「……あんた、わざと言ってるの? そうだったらかなり性格悪いと思うんだけど」


「何のことだよ」


「これよこれ!」


 そう言いながら、彼女は一枚の紙切れを僕に向けて見せた。

 そこには僕と同じように、始祖鳥の卵をとってくれば卒業を認めるという文面が書かれていた。


「あれ、そのクエスト、僕と一緒だ」


「そりゃそうでしょ。だって私と一緒に行くんだから」


「……へ? なんで?」


 僕がそう質問すると、今まで冷ややかだった目が余計に冷たくなった。


「あんた、何にも聞いてないのね。先生に嫌われてるんじゃない?」


 ……なんだようるさいな。それとこれとは関係ないだろ。


「今年の高等部で、卒業資格の単位が足りていない生徒は私とあんたの2人だけなの。それで、私とあんたの救済策として、このクエストをクリアしてくれば、卒業できるの」


「……まあ、こんなの卒業を餌にして、研究材料を冒険者に依頼せずに、ただで手に入れようって魂胆がみえみえなんだけどな」


「そんなこと分かってたって、このクエストこなしてこないと、卒業できないでしょうが!」


 ……そりゃそうなんだが。言われて、またふぅ、とため息が出る。実際、別にわざわざ卒業する必要もないだろうと、心の中で少しささやく声もある。


「ため息なんてつかないでよ、私だってあんたと組むなんてまっぴらごめんなのに」


「はいはい、そうですか」


 僕だって、突然首を絞めようとしてくる女と組むなんてまっぴらごめんだよ。

 ……そう言えば、先ほど卒業資格の単位が足りないのは僕と彼女だけと言っていた。


「そう言えば、卒業資格の単位が足りてないって言ってたけど、もしかして君、魔法使えないのか?」


「……そうよ、悪い? 同じく魔法が使えない、かのアロン家の末っ子、クリス・アロン君」


 きつく睨まれながら、彼女は返事をした。

 そう言えば今年、スライルの姓を持ちながら、全くもって魔法が使えない生徒が高等部にいるという話を聞いたことがあるけど、それが彼女なのか。

 こういった魔法を使える素質というものは、大体初等部の間に開花し、中等部の頃まで魔法を使用することができないものは、ほぼ魔法の素質がない。

 中等部までに魔法の素質を見出すことができなかったものはそこから一般教養の部に移り、魔法分野以外の事に進むのが、この国の一般的な進路だ。

 ……しかし、別に悪いとは言ってないし、そこまで厭味ったらしく返事をする必要はないだろうに。

 人にスライルと呼ぶなと怒りながら、アロン家の名前を出されるのも心外だ。彼女に会って数分しかたっていないけれど、僕の彼女に対する感情は最悪の状態になっていた。


「はぁ……名門家落ちこぼれ2人で組まされて、始祖鳥の卵を取ってこいとか、どんな嫌がらせなのよ」


 彼女もどうようなようで、心底嫌そうな顔でどうどうとため息をつく。それは僕のセリフだよ、と言いたくなったが、諦めてこっそりと心の中でため息をついた。

 ともあれ、僕は彼女と始祖鳥の卵を採りに行くクエストに行く事になった。

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