女流探偵 境出水の事件簿~第3話 In My Arms Forever
短編推理小説
《女流探偵 境 出水の事件簿》
第3話 In My Arms Forever
IMAF1;依頼1
東京メトロ銀座一丁目駅近くの境出水探偵事務所 12月21日 午後4時30分 頃
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大橋純子が歌う『たそがれマイ・ラブ』の曲が事務所内の天井に埋め込まれたスピーカーから静かに流れている。契約有線放送局からの提供音楽である。
冬の夕暮れ時で、太陽は西のビル陰に沈もうとしていた。
「今日は疲れたわ。お客も無さそうだし、ちょっと早いけれど店仕舞いとしましょうか。」と思い、出水がソファーから立ちあがった時、一人の和服の女性が事務所に入ってきた。
「あのー。探偵さんはいらっしゃいますか?」
「私が私立探偵の境出水ですが・・・。」
「ああ、お若い方ですのね。」
「ええ、まあ。で、何か、ご用件でも?」
「ちょっと、失踪人を探して頂きたいと思って来たのですが・・・。」と不安げに和服の婦人が言った。
「それでは、こちらのソファーにお掛けください。お話を伺いましょう。」と客の心理を察知した出水は、婦人が入口に引き返す前に、やや強引にソファーに座らせた。
「境出水と申します。お茶でもお飲みになりますか?」と名刺を婦人に渡しながら、出水が訊いた。
「いえ、これから仕事ですので、結構です。」と綺麗に化粧をした婦人が言った。
「これからお仕事ですか?」
「ええ、この近くの銀座のクラブ『エリカ』のママをしております。」と言いながら、婦人はハンドバックから自分の名刺を取り出して、出水に渡した。
「ああ。銀座みゆき通りにある、あの有名な高級クラブですか。で、失踪された方は?」
「クラブNo.1の高木麻衣子と云う女性です。二か月半前からクラブに姿を現わさなくなったの。彼女の実家にも聞いてみたのだけれど、連絡がないみたいなのよね。携帯電話は電池がきれているみたいで繋がらないのよ。お客さんからは『麻衣ちゃんは如何した。』と詰め寄られて、毎日大変なのよ。無断で姿を消すような子じゃないのよね。ホステス仲間にも何も言わずに居なくなったのよ。でも、恋に溺れるタイプなのよね。そのいちずな性格が指名のお客さんが多い理由だけれど。それで、これがその麻衣ちゃんの写真です。」と言いながら、婦人は女性の顔写真をテーブルに置いた。
「警察には捜索願いを出されたのですか?」
「ええ、もちろんよ。管理人さんに言って麻衣ちゃんのマンションの部屋を警察立会で調べたんだけれど、部屋はふだんのままなのよね。何処かに旅行に出たような雰囲気もなかったし。警察って、全国の警察署に顔写真を配布して、身元不明の遺体などを調べるだけで、何も追跡捜査しないのよね。だめだわ、あれでは見つかりっこないわ。だから、こうして、私立探偵さんに捜索依頼に来たのよ。なんとか、麻衣ちゃんを見つけてくださいな。お店の売上ががた落ちなのよね。」
「お店に来られるお客さんにもお話を訊くことになりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、私の方からお客様に連絡をとって、OKをもらった方のお名前を後日、お知らせいたします。」
「できれば、OKが出なかったお客さんの名前と関係先も知りたいので、よろしくお願いします。もちろん秘密裏の調査になりますが、お客さんの迷惑にならないようにいたします。また、明日にでも高木麻衣子さんのマンションの部屋を調べたいのですが?」
「ええ、構いませんよ。管理人さんとは知り合いですから、あすの朝、11時ころ行きましょう。場所は豊洲です。ところで、調査費の件ですが・・・。」
「基本料金が25万円になります。あとは、高木麻衣子さんの居場所を発見した場合、成功報酬で80万円。あと、成功、失敗にかかわらず、捜索実費が必要になります。実費に関しては、捜索行動を起こす前に事前に金額をご連絡します。」
「結構ですわ。明日にでも25万円を振り込みます。よろしくね。じゃ、私はこれで。」とママは言って事務所を出て行った。
IMAF2;依頼2
渋谷道玄坂の磯田明探偵事務所 12月23日 午前11時 頃
「彼が居なくなって、二か月半くらいです。」と竹地和子が言った
「警察へ捜索願いは出されましたか?」と磯田が訊いた。
「ええ、一か月前に。でも、警察からは何も連絡はありません。捜索情況を聴きに行っても、何も判っていないみたいで、本当に探しているのかどうか?」
「まあ、警察は、殺人や窃盗とか目に見える事件が発生しないと動きませんからね。」
「これから、堀河貴史さんのマンションに案内していただけますか?部屋のキーはお持ちですよね?」
「ええ。ここにあります。」と言いながら、和子はハンドバックからキーを出して、磯田に見せた。
そして、磯田と和子は道玄坂からタクシーで六本木のマンションへ向かった。
IMAF3;
六本木にあるマンションの堀河貴史の部屋 午前11時50分ころ
磯田明が竹地和子と一緒に書斎の本棚や机の中を調べている。
「部屋の中は整理整頓されていますから、この部屋で拉致された可能性はないですね。あなたの話から推測して、堀河氏がご自分から姿を消された可能性は少ないと考えられます。ですから、身代金目的ではない誘拐、すなわち拉致されたと考えられます。」と磯田は和子に自分の考えを説明した。
「拉致ですか?どこかの国にでも連れて行かれたのでしょうか?」
「まあ、それはないとは言い切れませんが、国家による拉致問題は表面化していますから、現在では行われていないでしょう。もっと違う理由があると考えるのが妥当でしょうか。」
「違う問題とは?」
「堀河氏は中小企業とはいえ、優良ベンチャー企業『ライブ・ウィンドウ』の若手社長さんですからね。金銭トラブル、仕事上のトラブルなどで恨まれていた可能性があるかどうかですね。あるいは、もっと別の何か・・・・・。」
「拉致ではない、別の何か?」
「プライベートな問題・・・。例えば、恋愛問題のこじれから・・・。あっ、これは失礼。例えばの話ですから、お気を悪くしないで下さい。」
「貴史は女性にもてるタイプですから、その可能性も考えられますが・・・。今は私のほかには好きな女性はいないとは言っていましたが・・・。」と和子が不安そうに言った。
「この机の上にある、あなた方お二人が写っている写真ですが、場所はどちらですか?」と磯田が訊いた。
「軽井沢の彼の別荘です。今年の9月に撮った写真です。玄関の扉のキーも預かっていますわ。」と竹地和子が答えた。
IMAF4;
中軽井沢にある堀河貴史の別荘 12月24日 午後2時30分ころ
竹地和子の運転する白色のニッサン・フェアレディZが別荘前に到着した。
和子と磯田明は車から降りて、低い垣根に囲まれた別荘の敷地内へ歩いて入って行った。
そして、別荘の建物の窓から中を覗いている怪しげな女の後ろ姿を見つけた。
「おい、こらっ。そこで何をしている。」と磯田が叫んだ。
そして、女が振り返った。
「あれっ、出水。こんなところで何をしているのだ。」
「あれっまあ・・、磯田さん。」
お互いの顔を確認したふたりは思わず声を上げた。
「この近くの道端に停めてあった白い車は出水のものか。見たことのある車だなと思ったが・・。」
「磯田さんは何故ここに?」
「出水こそ、何故ここに居るんだ?」
「失踪女性のマンションにあった写真の場所を追跡したら、ここに着いたと云う訳なのよね。」
「失踪人。俺も失踪人の捜索でここに来たのだが・・・。何となく、いやな予感がするな・・・。」
竹地和子が持っていたキーで玄関のドアーを開けて、3人は別荘の中へ入った。
「何だ、この異臭は・・。」と磯田が言った。
「死臭よ、これは。」と出水が言った。
「臭いの源は2階だな。」と磯田が言った。
3人は2階の寝室のドアーを開けた。
「うっ。」と3人は同時に口と鼻を塞いで、目を見開いた。
IMAF5;腕の中で、赤く燃える文字
別荘2階の寝室 12月24日 午後3時過ぎ ころ
警察が来て現場検証をしている。
白骨化しかけている洋服を着た男女が寄り添うように絨毯を敷いた床の上に足を伸ばして座り、壁際のベッドに寄り掛っている。
男性は女性の二本の腕に抱かれるような形で二人は座っていた。
床には、コーヒーカップの割れたかけらが散らばっている。
そして、ベッドの枕元には赤い水性ペンで『The Two Forever』と書かれたメモが残されていた。
「水性ペンで書かれた英語の文字か・・。この文字の状態では筆跡鑑定は難しいな。服毒による心中事件で幕引きかな・・・。しかし、コーヒーカップから毒物の検出はできるかな?」と警察の鑑識課員がポツリと呟いた。
IMAF6;
中軽井沢にある堀河貴史の別荘前 12月24日 午後6時30分ころ
陽はとっくに暮れている。
警察関係の人間が慌ただしく別荘の内外を動き回っている。
泣きじゃくっている竹地和子を磯田明と境出水が慰めている。
「まだ、昔のひとが好きだったのかしら、貴史さんは・・・。」
「いや、振られた高木麻衣子というホステスが無理心中を図ったのでしょう。堀河氏はあなたが好きだったと思いますよ。遺体は、女が男を後ろから胸元に抱きかかえていたでしょ。あれは、典型的な女性による無理心中の形です。」
「でも、貴史さんはもう戻ってこない。今はもう居ないのよ・・・。あの女は、私と彼を引き裂いたのよ。口惜しい・・・。貴史、愛してるうー。」と泣きながら竹地和子は言った。
磯田と出水は悲しむ竹地和子を抱きながら、玄関先まで連れてきた。
「じゃあ、東京でお会いしましょう。」と言って出水は磯田明、竹地和子と玄関前で別れた。
「さて、東京までひと走りするか。しかし、失踪人が死んでいるので成功報酬はもらえないかな、残念だけれど・・・。」
境出水は愛車アストンマーチンV8ヴァンテージ・ロードスターに乗り込み、エンジンをかけ、FMラジオのスイッチを押した。
そして、ZARDの歌曲『In My Arms Tonight』が流れて来た。
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IMAF7;エピローグ
六本木マウンテンビル内のライブ・ウィンドウ社 社長室 12月25日 午後3時ころ
副社長の友舘武彦が、ビルの43階にある社長室の窓から都内の景色を眺めながら、考え事をしている。
「『The Two Forever(永遠の二人)』か。意外とバカな奴だったな。会社には、3ケ月間の海外視察を兼ねた長期休暇申請が出されていたが・・・・。高木麻衣子と交際しなければこんな事に・・・。お蔭で、この俺に社長の椅子が転がり込んできた。結構なクリスマスプレゼントだな、ふふふふふ・・・。まあ、この様になると思ったから、堀河をクラブ『エリカ』へ連れて行き、あの女を紹介し、続いて金持ちのお嬢様である竹地和子を紹介したのだが・・・。金と女には見境がない堀河だから、計算通りになった訳だ、あっははは・・・。当面のわが社の重要事項はサラ・シスターズ投資社にわが社への融資金をもっと引き上げさせることだな・・・。そして、テレビ放送局XTV社を・・・。死人に口無しか。悪い奴らだ、あいつ等は・・・。しかし、何を狙っているのだろう、奴らは・・・?」
女流探偵 境出水の事件簿
第3話 In My Arms Forever 完
目賀見 勝利
2010年 8月 8日 午後3時28分 脱稿




