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かなりの距離を稼いだところで、ヴァルさんがスピードを落とす。
「はぁ、助かった」
息を吐きだし、私をいつものように左腕で抱っこしなおした。
「しかし、フワリ、毒でも与えたのか?レッドタイガーの様子が急におかしくなったが」
「うん、毒じゃなくてね」
確かに毒にも見えるか。
倒れて鬣から炎を上げ体をよじっている姿は苦しんでいるように見えなくもない。
「あ、ヴァルさん、止まって」
白い葉っぱが目に映った。
ヴァルさんにも見えたようだ。
「お腹が空いたのか?だがもう少し離れてからにしよう」
マタタビの枝に手を伸ばす。
「……ヴァルさんが虫癭果……形の悪い実をお酒用にとっていたでしょう?」
「ん?俺のために欲しがってるのか?」
首を横に振る。
「レッドタイガーがあの状態になったのは、マタタビの実のせいなの。毒じゃなくてお酒みたいなもの。マタタビの実に興奮して酔っ払ったような状態になってるの」
ヴァルさんが目を向いた。
虎は猫と同じようにマタタビに酔っぱらう。魔物であるレッドタイガーに効果があるのか分からなかったけど、同じ性質を持っていたようだ。
「ヴァルさんがつんだ実が鞄の中にあったのをばらまいて石でつぶして」
精霊さんに風で匂いを運んでもらって、私たちが逃げるためのすきを作る囮にした。
思った以上にマタタビの効果があった。虫癭果はより成分が強いというし、ラッキーだった。
「まじか、マタタビ……この実でレッドタイガーが酔っ払って戦闘不能になるのか……」
「う……ん……だ、だから……また、来た時のために、持って……い……」
涙が出てきた。もはや嗚咽交じりでうまく言葉にならない
「そうだな。持って行こう」
ヴァルさんが枝を折って私の前に差し出した。
いつかのように、黄色い実を一つ取って、ヴァルさんの口に運んだ。
ポロポロと涙が止まらない。
ホッとしたからか。
本当に、運がよかった。
幸運が重なって、生きてた。
……。
ヴァルさんが泣きじゃくる私の頭を撫でた。
「うわぁーん」
外に出ようとしたときにエルフの話し声を聞いたのも幸運だ。あれで渡されていた青い石を使わなかった。
落とし穴に落ちた少年を見つけたのも運がよかった。使ってない青石が残っていたから助けられた。
少年がよい子でポーションを届けてくれたのも……。
マタタビの実を持っていたのも、何か一つがかけていたら、今頃ヴァルさんは……。
「フワリが無事でよかった」
私の頭を撫でるヴァルさんの手が止まり、そのまま頭をそっと押され、ヴァルさんの頬に私の頬がぶつかった。
「もう、会えないかと思った……」
その言葉は、ヴァルさんが死を意識したためなのか。
それとも置いてきた私の死を想像してなのか。
その両方なのかはわからない。
「早く……森……出よう……」
「そう、だな」
ヴァルさんと一緒に森の中を移動するのは楽しかった。
食べられる物を探しながら進むのも。
竜田揚げを作って食べるのも。
だけど、森の中にいる限り危険が付きまとって、ヴァルさんが私を護るために傷つくかもしれないなら。森から早く出たい。
食事のために水場を求め、火をおこし、料理をする。
無駄だとは思わないけど、危険を冒してまですることじゃない。
「フワリ……森を、1日も早く抜けよう」
ヴァルさんが低い声を出す。
ちょっと残念そうな寂しそうな声だ。
そんなに竜田揚げが食べられないのがショックなのかな?
……大丈夫だよ。森を出たらいっぱい作るから。あ、森を出ると材料がないのかな?
いや、買えるよね?売ってるよね?
あれ?売ってなかったらどうしよう……。森にとりに行くしかないの?
急に不安に襲われたけれど、それよりも眠気が勝った。
いっぱい走ったから仕方がない。
「フワリ?寝たのか……。すまん。危険な目に合わせちまった……もう、間違えないからな……」
第二章終了です!
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