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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第1部4章『「あなた」の代替可能性』ヴェリザン-再輝の惑星
83/211

#17

>>Iris


「――ということです。以上で私達の地上ミッションは全て終了、軌道ステーションへ帰還します」

『了解しました、お疲れ様です。しかしさすがはギルドの管理官殿、見事なお手並みですね』

「偶然ですよ……たまたま、ピースが上手くはまっただけです」

『そういうことにしておきましょう。ではご帰還をお待ちしております』

「了解、通信終了」


 ノヴァーラから軌道エレベータへ向かう途上で、プレストン船長に現状報告を入れておいた。C3の設置とフィルターパックの回収だけのはずだったのに……結局なんだかんだで星の揉め事に首を突っ込んでしまった。ギルド憲章で禁じられている惑星統治機構への不干渉の原則……抵触してないよね?無政府状態だから統治機構自体が存在してないし、セーフだよね?

 スゥ局長に確認したいけど、やぶ蛇になるといけないので報告はやめておこう。一応、私はギルド幹部として不干渉の原則に則って行動した。してたよね?


「ねぇトワっ!」

「うん」

「私、ちゃんと内政干渉禁止の原則守れてたよね?」

「思いっきり干渉した」

「きゃーーー」

「……主に私が?」

「トワのせいかっ!」


 不安を煽るトワのせいか、それとも最悪のケースを考えてしまって知恵熱が出てきたのか、なんだか頭がクラクラしてきた。早く軌道ステーションに戻って休むとしよう。



 特にトラブルもなくたどり着いた軌道エレベータの地上駅は治安当局の人達によって守られていた。扇動者であるメナが自らの行いを悔いた今、暴徒がここを襲う可能性は低いけど……念のため警備は継続しておいてもらった方が安心だろう。

 私達が車を降りると警備の人達が一斉に敬礼してくれた。


「ギルド管理官殿、シンガー殿、このたびはなんとお礼を言ったらいいか……!」

「あまり管理官を強調されないほうが、私としては助かるのですが……」

「……ここには星の代表はいない。代表戦は回避された?」


 うーん、お礼の言葉に対する返答としては私もトワもむちゃくちゃな事言ってる自覚はあるんだけど……。まぁ、こちらにも事情はある。トワのは事情と言うよりも勘違いか、私のつっこみ待ちだろうけど。


「車のキーを預けておきますので、邪魔だったら動かしてくださいね。あと、燃料がもう殆ど無いので……」

「了解しました。いや、しかしこれは良い車ですな……さすが管理官殿」

「いえ、これ借り物ですので……」

「そうだ管理官殿、ミラー中尉が軌道上におられますので……」

「あれ、こっちに来てるんですか?」

「はい、救援艦が到着しましたから」


 そうか、救援艦はもう到着したんだ。あの船の艦長さんもかなり熱い人っぽかったし、全力で飛ばして来てくれたんだろうな……そんな事を考えながら私達は軌道エレベータに乗り込み、ヴェリザンの地表を離れた。


 あ、出発前に確認のため倉庫エリアを覗いてみたけど、ちゃんとフィルターパックは回収されていた。さすがプレストン船長、抜かりないね。



 軌道ステーションには私達が乗ってきたバジャー1の隣にもう一つの航宙船が停泊していた。救援艦オーロラ4……確か惑星トリリオンから来てくれたと言っていたっけ。

 既に物資の搬出が進められているのか軌道エレベータ前にはいくつものコンテナが山積みにされていた。旅客エリアに立ち寄るとそこは支援活動の本部になっていたらしく、中尉さんをはじめとした何人かの治安当局の人達と、救援艦のスタッフによる打ち合わせが進められていた。

 オーロラ4はヴェリザン復興の最初の礎となってくれるはず。そしてアリサに送った緊急支援要請が受理され次第、ギルドも動く。そうすればさらに復興は加速することだろう。ここで私達がすべきことは全部終わった。


 ……いや、あと二つ問題が残っていた。一つ目は……そう、燃料の尽きかけた車をどうするべきかという問題が未解決だ。少し悩んだあげく、本来の持ち主に返すという当たり前の択肢に思い至った私は、伝票に書かていた車の届け先について中尉さんに聞いてみることにした。

 忙しそうに何かを話し合っていた中尉さんの手が空いたタイミングで、私は車についての説明を行った。最初は怪訝そうに話を聞いていた中尉さんだったが、届け先の宛名を見た瞬間……爆笑した。


「管理官殿。これはもう届ける必要も、返す必要もない」

「と言うと?」

「この届け先の男はな、大統領補佐官だ。この星を捨てて真っ先に逃げた連中の一人だ」


 なるほど、それなら本人に返す必要は無いだろう。売ればそれなりの金額になるらしいし、中尉さんに寄付して将来の復興資金の足しにでもしてもらおう。たぶん治安当局……というか中尉さん達が中心となってこの星を立て直す暫定政権を樹立する事になるだろうからね。


「そういえば逃げた連中ってどうなったんでしょうね?」

「連中か?たぶん、全員死んでると思うが」

「その根拠は?」

「管理官殿もステーションのヘルスモニタは見ただろう?最後にステーションへ上がってきた連中のバイタルデータは感染者のものだった」

「ああ、なるほど……逃げた船内でパンデミック発生、ですか」

「そういうことだ。あの連中が冷凍睡眠で航行するとは思えないしな」

「納得しました」


 因果応報。残された星の人達のことを思えば、逃亡した政府上層部の連中の運命については、その言葉以外には特に感慨も湧かなかった。

 さて、最後に残る最大の問題は――。


「アイリス。私達、どうやってクレリスへ行くの?」

「うん、それなんだよ!」


 今のヴェリザンには乗り継ぎ便なんて存在しない。一応、恒星間通信は明日にでも使用可能になるとはいえ、事情を説明して船を呼び寄せるには数年単位の時間が掛かる。

 現在軌道ステーションに停泊しているオーロラ4は復興支援のため動けないし、私達が乗ってきたバジャー1はペレジスへ戻ると聞いているし。実は今の状況って結構手詰まりでは?


「他の航宙船が来る可能性は?」


 トワの言う可能性はゼロじゃない。実際に私達も来たしね。でも、次の船がいつ来るかは判らない。数ヶ月、下手したら数年待つことになるかもしれない。


「通信設備は使える。アリサに頼んでみる?」


 いや、それも現実的じゃない。手配が終わって船が到着するまでに何年かかるのよ……。トワと私はその間、どうやってこの星で生き延びるっていうの?ギルド支部もないから、お金を稼ぐあてもないし。


「オーロラ4にお願いする?」


 これも無理だね。あの艦長が規定を破ってまで滞在を延長してたのは、ヴェリザンの救援が目的だから。それを放り出して私達のために動いてくれる可能性は……まぁ、考えるだけ無駄だよね。

 ため息を吐きながら、トワの顔をちらっと見る。


「……手詰まり?」

「……手詰まり、かもね」


 トワの問いに、私の返事が曖昧になる。でも、そんな時だった。


「なら、行き当たりばったりでいい。私達は旅を続ける」

「行き当たりばったりかぁ……まぁ、そういえばここへ来たのも元々予定していた船に乗り損ねたからだったっけ。なら、もう一度行き当たりばったりでもいい、かな?」


 トワは――金色の瞳の色だけで――明るく笑って、こう付け加えた。


「どんな方法でも、アイリスならなんとかする」


 随分と買いかぶられてるけど、まぁそれも私達らしいか。ならプレストンさんに頼んでペレジスまでバジャー1に便乗させてもらって、そこでクレリス行きの方法を模索しよう。そうすればまたアリサに会えるだろうし。まさか、行ってすぐ戻ることになるとは思わなかったけどね。

 私達にとっては数日前に別れたところでもアリサにとってはたぶん30年ぶりぐらいにはなるだろうし。そう考えると、トワは結構アリサを待たせてるよね……。結局、通信も出来てないし。

 ともあれ、私達は乗ってきたバジャー1の船長、プレストンさんにもう一度乗せてもらえるか、頼んでみることにした。


「……と言うことで、次の寄港地まで乗せて頂きたいのですが」

「ええ、もちろんかまいませんよ」


 船長さんは私達の申し出を快諾してくれた。


「……それで、お二人はどちらへ行かれるおつもりですか?」


 ん?続けて船長さんが発した言葉は……私の予想とは少々違っていた。


「……私達はクレリスへ行こうと思っていたんですが、この船はペレジスへ戻られるのでは……」

「そうですか……では、我々の次の寄港地はクレリスです」

「へっ?」


 プレストン船長の言葉に思わず間抜けな声が出てしまった。いやいや、どうしてそうなるの?


「ですから、私達がアイリスさんとトワさんの目的地へお送りします、と言っています」

「どうして……?」

「あなたたちがこの船を救ってくれたからですよ。フィルターパックが無ければ私達はどの星にもたどり着けず、全滅していたかもしれない」

「でも、フィルターパックは軌道エレベータの地上駅にありましたよ?そんな、船の行き先を変えていただけるような話では……」

「アイリスさん、それは結果論です。あの時、率先して地表へ降りて探索をすると言ってくれたあなたに、我々は恩返しをしたいのです」

「お気持ちはありがたいですし、私達としては助かりますが……」

「それに……。ヴェリザンで買い付ける予定の芸術品が手に入りませんでしたからね。空荷でペレジスへ戻るのは業腹なんですよ」


 そう言うとプレストンさんは綺麗なウィンクを決めてみせた。


「ですが、船長の独断で行き先を変更しても問題ないんですか?会社の指示とかは……」

「ああ、お伝えしていませんでしたか?この船、バジャー1は船自体が会社の本社なんですよ。そして私が船長兼社長の、プレストン・バジャーです」


 そう言って微笑んでくれるプレストンさんに、私達は黙って頭を下げた。

 でもね、プレストンさん。このステーションで無料で物資を調達できたから、航海コストが削減できてるっていうのもきっと行き先変更を引き受けてくれる理由に含まれてるよね?野暮だから指摘はしないけど……抜け目ないこの人なら、きっとそれも計算に入れてるはずだ。

 でも、だからこそ信用できる。損得をしっかり計算して、その上で動ける人って強いと思うんだ。私がそんな事を考えていると……。


「クレリスの後も乗せてくれる?」

「ペレジスへ戻る便で良ければ」

「できれば違う星を希望」

「ちょっと、トワっ!」


 トワがとんでもなく図々しい事を言い出していた。慌てて止めようとするが、プレストンさんは優しく微笑んでいた。


「そういえばクレリスの後はどうされるご予定ですか?確か船に積んである荷を届けると伺っていましたが」

「その後は未定です。でも、二人で旅を続けるって約束してるので……」

「そうでしたか。ではペレジスへ戻る我々とは別になりそうですね」

「乗せてくれないの?」

「だから、トワっ」

「ははは……我々が商業貨物船でなければご一緒したい気持ちはあるのですが」

「いえ、本当にすみません、クレリスまで送って頂けるだけで十分なのに……この子ったら」

「アイリス、痛い」


 トワの頭を掴んで無理矢理に頭を下げさせる。もちろん、私も頭を下げたよ。まったく、困った妹だ。



 その後、ステーション内でヴァルトさんの姿を探した。彼はオーロラ4のスタッフと何事か話し込んでいて、何故か病気だと言っていたパン屋さんも一緒にいた。パン屋さんはオーロラ4で治療を受けられるか相談しているようだが、、ヴァルトさんは……。


「ヴァルトさん」

「ああ、管理官殿か。そろそろ出発されるのか?」

「はい。ヴァルトさんはどうされるんですか?」

「儂か?儂はここへ残って……まぁ復興の手伝いでもするつもりだ。どうせ行く宛も無い老い先短い身だ」

「そうでしたか……それなら」

「レイラの事なら、儂にどこまで出来るかは判らんが、引き受けよう」

「ありがとうございます」

「なに、レイラはきっと立派な奏者になる」


 レイラちゃんは才能のある子だ。ヴァルトさんの指導があれば、トワが言っていたようにきっとこの星の希望として輝くことが出来るだろう。


「では壮健でな」

「はい、ヴァルトさんもお元気で」


「――おい、ヘルススキャナが――」


 別れの挨拶を交わしていると、遠くで医療スタッフが話している声が耳に入った。そうだ、持ち出したスキャナを返却しておかないと!危うく思い出し、ヴァルトさんにスキャナを託した私たちはバジャー1の搭乗口へ向かった。



 軌道ステーションに管制スタッフがいなかった割には比較的スムーズな出航だった。船窓から見えるヴェリザンが小さくなってゆく。


 ――今回も色々とありすぎて、疲れた。願わくば次の星では平穏無事でありますように。


 隣にいるトワも少しふらついているようだし、早めに休んで……って、これから「休む」のは冷凍睡眠ポッドだっけ。あれって代謝が止まるから疲労回復しない気がするんだけど。

 でも立ったままでいるよりは幾分ましだと思ったので、トワを先に「寝かしつけ」ることにした。


「トワ。もう冷凍睡眠しようか?」

「もう少しアイリスと話したい」

「どうしたの?なんだか今日は甘えん坊さんだね?」

「なんとなくそんな気分。風邪で手を握ってもらったりとか、そういう感じ」

「私の記憶違いじゃなければ、トワが風邪で寝込んだことなんか一度もないよね?むしろ私が寝込んだときにトワが手を握ってくれてた気がしたけど」

「あれを体験してみたい」

「まぁいいけどね……ほら、手を出して。甘えて『お姉ちゃん』って呼んでくれていいんだよ?」

「それは断る」


 いつも通りのやりとり。まぁ、トワに甘えられると際限なく甘やかしてしまいそうなので、適度に断られた方が良いのかもしれないけど。手を握ってしばらく話していると、やがてトワの目は夢に引き込まれるように、そっと閉じていった。


「……アイリス、いつまでも……一緒に……旅を……」

「ええ、旅を続けようね……二人で。おやすみ、トワ……私の大切な妹。良い夢を」


 眠りに落ちたトワの手をそっと離し、冷凍睡眠カプセルの蓋を閉じた。しばらくすると自動的に冷凍措置が始まるだろう。


 冷凍睡眠に入る前に少し体をほぐしておこうとストレッチをしていると、甲板長のアンダーソンさんが冷凍睡眠室に入ってきた。冷凍睡眠室って言っても元々は倉庫だからね、ここ。


「おう、嬢ちゃんもこれから冷凍睡眠か?」

「ええ、そうです。トワの寝かしつけも終わったから次は私の番」

「そう言えばずいぶん慌ただしい出航になったが、嬢ちゃん達はワクチン打ってもらったか?」

「ワクチン……?クレナシス症候群は治療薬もワクチンも存在しないって聞きましたけど」

「救援艦の星……トリリオンだったっけか?あそこの惑星で似たような疫病が流行ったことがあるらしくてな、そのワクチンを持ってきてくれてたんだよ。で、俺たちも念のために接種してもらったんだが……」

「そうだったんですね。私達は接種してもらってないですけど、もう出航しちゃってますから……。それにもし感染してても冷凍睡眠で病原体は駆逐できるそうなので、大丈夫です」

「そうか、ならいいんだけどな。じゃあ嬢ちゃん、良い夢を」

「ありがとうございます。おやすみなさい。道中よろしくお願いしますね」


 私がそう言うとアンダーソンさんは業務に戻っていった。まぁトワの体調不良は……たぶん調律疲れだろうから、大丈夫でだろう。


 さて、次は私が眠りにつく番だ。冷凍睡眠装置の前に立って、ふと自分の格好を見下ろす。惑星上で動き回っていた薄手のワンピースのままだった。冷凍睡眠時には専用スーツの着用が推奨されているけど、一応この服ならそのまま冷凍ポッドに入っても問題は無かったはず。

 前回は初めての冷凍睡眠だったので専用スーツを着用したけど、着替えるのが少しおっくうな気分だったので今回はこのままポッドに入る事にした。

 トワなんて専用スーツを嫌がって前回からTシャツ一枚だったしね……。


 ブラスターはホルスターごと外し、ギルド章と共にポッド下部の貴重品BOXへ収納……と思った時にふと気がついた。トワに預かったお守り……アルフレッドおじさんの形見の虹水晶、トワに返すのを忘れていた。起きたら真っ先に返さないと。そう思った私は虹水晶を握りしめて冷凍ポットに体を横たえた。


 ポッド内に冷凍ガスが緩やかに噴出し始める。火照った体に心地よい冷気を感じる。


 ……いつまでも二人で旅を続ける、か。


 トワと訪れる未知の星々の事を想いながら……私は眠りに落ちた。

今回で第1部4章は終了です

次回は惑星ペレジス編の後日談「ほしをみるひと」をお送りし、その後舞台はトワ達の旅の目的地、クレリスへと移ります


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