#27
>>Towa
アイリスの機転で何とか脱出の一歩を踏み出した私達だったけど、そのまま逃げきれると思ったのは甘かったみたいだ。ビークルが地下通路を抜け、正面ゲートが視界に入った瞬間、状況が一変したんだ。
ゲートは閉じられ、そこには待ち構えている数人の警備兵たち。ゲート前に陣取った彼らは全員ブラスターを構え、まさに迎撃態勢だ。周囲には障害物として使えそうな遮蔽物も並べられていて、待ち伏せるには完璧な配置。まるで来るのがわかっていたかのような布陣。準備が早すぎない?
……いや、そうか地下にいた3人は保管庫に入る前に異常に気付いていた。あの時点で連絡を入れていたなら、あり得ない展開速度じゃないのかな?
「ゲートが!」
ウォルターさんが運転席から緊迫した声で叫ぶ。
「ブラスターを構えてるし、これ完全に迎撃態勢だよね」
「体当たり?」
「うーん、こういうゲートは突破されないようにできてるからね。正面から突っ込んだら、車体が持たないかも」
「ブラスターは?」
「車が通れるだけの穴を開けるのは無理、かな」
私の提案にアイリスはあくまで軽い口調を保っているけれど、きっと頭の中では状況を打破する策を必死に巡らせている。私も焦りながら考えを巡らせるけど、次の瞬間—――
「ウォルターさん、そこを左に曲がって!細い道があります!」
揺れる荷台で車体に掴まっていたアリサが声を張り上げた。
「……わかりました!」
ウォルターさんはアリサの言葉に応え、ハンドルをきって車体を急旋回させた。瞬間、車体が大きく傾き荷台にいた私達は右へ一気に押し倒されそうになる。
「きゃっ!」
「わっ!」
「ぐぇっ!」
三者三様の悲鳴が車内に響く。ちなみに叫んだ順は、アリサ、アイリス、そして私。……いいんだ、誰も私に女子力なんて期待してないだろうし。
急な方向転換に気づいた警備員たちが一斉に銃撃を開始した。まだ距離があるから命中弾は少ないけれど、ブラスターの光がビークルをかすめて周囲の木々を焼いていく。アイリスほどではないけど、それなりに腕の良いのが混じっているらしい。
ウォルターさんは必死にハンドルを握りしめ、細い獣道のような木々の間をすり抜けていく。ろくに舗装なんてされていないただの荒れた地面みたいな道だからビークルはひどく揺れていて、口を開けば舌を噛みそうだ。
「アリサ、この先は!?」
「昔……のっ……ゲートがっ」
アリサも体を支えながら声を張り上げる。そうだ、侵入前にアリサが言っていた迎賓館時代の脱出用ゲート。そこに辿り着けば、正面ゲートほどの防備はされてないんだろう。けど、このままで突破できるのかな?
ビークルの先に見えてきたのは確かに無人のゲートだった。しかし古びた鉄柵は正面ゲートに比べると貧相な造りではあるけど、ビークルをぶつけて破壊できるほど脆いようには見えない。ゲートを開放するにしても多少時間が掛かりそうだし、何より、私達を追う銃声が少しずつ迫ってくるのを背中に感じる。ここで一度、応戦しないと突破は難しそうかな……。
「ウォルターさん、止めて!」
私が覚悟を決めかけたその時、アイリスが制止の声を上げた。ウォルターさんがブレーキを踏み込むと、車体が揺れながら急停止する。アイリスはビークルが完全に止まるのも待たずにスカートの裾をたくし上げながら荷台から飛び降りた。
「トワ、お守り……使わせてもらうねっ!」
そう言ってアイリスが投げた「お守り」が、ゲートに向かって一直線に飛んでいく。次の瞬間、轟音とともに朱の光が爆裂し、老朽化したゲートは吹き飛んで半壊した。
「す、すごい……」
「びっくりだ」
「いえ、あれもトワ様の、ですよね?」
「うん。前に裏庭に大穴開けて、お義父さんに叱られたときより、すごい」
「そんな事してたんですか……」
「もちろん、私も叱ったよ?ウォルターさん、ゲートを半分ぐらい抜けたところまで進めて、そこで止めて」
「わ、わかりました!」
アリサが私の研究成果を褒めてくれている間にアイリスが戻ってきた。荷台に飛び乗ったアイリスは、突然の爆発に硬直していたウォルターさんに声をかけ、ビークルは再び動き始める。しかし距離があったとはいえイグナイトを投げた瞬間にちゃんとビークルの陰に退避していたのはさすがだよね、アイリス。
突然の爆破に警戒しているのか、後ろから追ってきているであろう連中からの銃撃は途絶えている。その隙にビークルがゲートの崩壊した部分をゆっくりと進んでいく。
穴は少し小さく見えたけど、ゲート自体が爆発の影響でもろくなっているらしくて、車体が押し通るたびに崩れていった。半ば強引に押し進み、車が半分ゲートの外に出た時点でウォルターさんがビークルを停車させた。
「ここで降りて、後は徒歩で。この近くに隠してあったでしょ、車!」
アイリスの言葉に頷く。短い付き合いだったけど、ありがとう奪ったビークル君。君のことは忘れない。今後はバリケード君として第二の人生を歩んでね。
しばらく森の中を進んだけど、追っ手の気配は無かった。バリケード君が役目を果たしてくれているんだろうね。ちなみに、アイリスは無情にもバリケード君を撃って、フォトンドライブを破壊していた。こういう所は容赦ないんだよね、私のお姉ちゃんは。
「やはりトワ様はすごいです!私、感動しました!」
「すごいのはC3とアイリス」
「謙虚なのですね、トワ様は」
隣でアリサが真っ直ぐな瞳を向けてくる。褒められるのは嬉しいけど、こうも熱心に見つめられると少し照れてしまう。
「そういえば裏庭の穴って……出発するまで埋め戻ししてなかったけど……さすがにもう埋めてるよね、父さん」
「今頃雨水がたまって、釣り堀になってる」
「いや、CM41F3Cはそんなに雨降らないし。そもそも水たまりに魚とか勝手に湧かないし」
「お二人は本当に仲が良いのですね。うらやましいです」
アイリスといつものようにじゃれていると、アリサが少し寂しげに声をかけてきた。いけない、ガールズトークの仲間はずれにするところだった。ウォルターさん?男子はいいんだよ、別に。
「これからはアリサも仲良し」
「えっ……いいん……ですか?」
「もちろん。アリサの事、好きだし」
「……!!!」
アリサが驚いたような表情を浮かべて、私を見つめている。真っ赤になってるけど、そんなにびっくりすること?私
は当然のつもりで頷いたけど、アリサはそのまま黙り込み、頬を染めたままうつむいてしまった。なんだか熱でもあるのかな?
「トワ……そんなに人誑しだったっけ?」
「なんのこと?」
「自覚無し、か。……余計にたち悪いよね、それ」
失礼な事を言われた気がするけど、何の話だろう。




