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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第1部3章『罪無き者の贖罪』ペレジス-虚栄の惑星
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#12

>>Towa


 自警団の嫌がらせからアリサを救い出したものの、次の行く先のあても浮かばないので結局私は彼女を宿へ連れて戻ることにした。連中が追ってくる可能性は低いとは思うけど、あの場で感じた冷たい疎外感……人々がアリサに向ける冷たい視線は忘れられなかった。だから、あの場で話をする気にはなれなかったし、アリサを置いて立ち去るなんていう選択肢は考えるまでもなかったんだ。


 突然現れて勝手に連れまわす私に、アリサは特に抵抗する様子もなくただ黙ってついてくる。何か声を掛けた方がいいとは思うけど、未だに私の頭には怒りがくすぶっていて、何をどう聞いたらいいのか適切な言葉がうまく浮かんでこない。たぶん、今無理に声を掛けるときっとアリサを怖がらせてしまうよね。なので結局、ただアリサの手を握り二人とも無言のまま宿の部屋へと戻る事になった。


 幸いアイリスはまだ帰っていないようだ。予定にはないことだったけど、アリサをこの場に連れ込んでしまった以上は事情を聞いておくべきだろう。


「座って」

「はい」


 そういえば私、まだ名乗ってなかった。そんな基本的な礼儀すら忘れるぐらい、怒ってたのかな、私。これ以上礼を失するのも良くないので、まずは名乗ることにした。


「私はトワ。ギルドのシンガー」

「……トワ、様」


 アリサは私と同じように、感情が表に出にくい人なのだろうか。やつれたような表情に少し青白い肌、そして淡々とした言葉。しかし眼鏡越しに覗く綺麗な青い瞳には、どこか深い感情が宿っている気もする。

 なんだか不思議な印象だ。初対面の私に対して拒絶する様子もなく、むしろ妙に好意的な雰囲気さえ感じる。まぁ、助けに入ったというのもあるんだろうけど、この瞳の輝きは……確か、最初に声をかけた時からこうだったような気もする。


「急に連れてきてごめん。見過ごせなかった」

「いえ……助けていただいて、ありがとう、ございます。でも、気にされなくても、大丈夫……です。彼らの言うように、私は……その、罪人、ですから……」

「路地裏の子供達に聞いた。アリサは優しい人」


 自らを罪人である、救う価値のない人間だと卑下するアリサに、スラムで出会った子供達の事を教える。アリサは一瞬、驚いたように目を見開いた。


「あの子たちが、そんなことを……?」


 どうやらアリサもあまり口数の多い方ではないらしい。街の噂でも彼女はいつも無口で、誰かと話している様子は無いと言う事だった。話すことに慣れていないのか、会話は断片的でこちらの質問にうまく答えられないみたいだ。

 ……まぁ、私も人の事は言えないけどね。


 それでも少しずつ、私がなぜ彼女を助けたのか、何が知りたくてここまで来たのかを伝えていく。けれど、アリサは頑なに、自分の立場を「罪人」だと言って譲らない。感謝はしてくれているのに、まるで自分がこの街で疎まれるのは当然だとでも言うかのように。


「あの……トワ様は、お一人で、この星へ?」

「ううん、連れがいる。大事な人」

「えっ……」


 なぜか絶句するアリサ。さっきまでの彼女の瞳にはかすかな喜びの色が浮かんでいたように思っていたけど、一瞬で瞳に暗い影が差し込んだように見えた。どうしてそんな顔をするんだろう?

 私には理由がわからなかった。普通、小娘一人で星々を渡り歩く方がむしろ変だと思うんだけど。もしかして、私に「大事な人」がいると知って、自分には頼れないと思ってしまったとか?


「……ごめんなさい。あなたが、違う人だなんて、思わなかったから。やっぱり、私は……救いなんて、望むべきじゃなかった……」


 うつむいてそう呟くアリサのかすれた声に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。彼女が語る救いに、私は応えられないのかな。私はただ、自分の思い付きでその場にいる人たちに手を差し伸べてきただけで、未来を変えたりする力なんて持ってないんだ。


 スラムで出会った子供たちの姿が頭に浮かぶ。彼らの笑顔も一時のものだ。食べ物を分け与えたところで、それが彼らの生活を支えられるわけじゃない。私はただ通り過ぎる存在で、あの子たちがこの先どうなるかなんてわからないまま、この星を出て行くことになるんだろう。

 アリサもまた、私の手をほんの一瞬の温もりとしか思っていないんだろう。私が期待を抱かせたことで、逆にアリサや子供たちを傷つけてしまったのかもしれない。そんな考えに思わず唇を噛む。


 何か言わなければと思うのに、言葉が出ない。どんな言葉をかけても、その言葉自体が彼女から最後の希望を奪ってしまうかもしれないという恐れが、私の心を竦ませていた。


 ーーコンコン……ココン


 抑揚を付けたノックの音。アイリスと決めた合図だ。手詰まりを感じていたこの場面で帰ってきてくれるとは、私のお姉ちゃんは本当に頼りになる。

 いや、今は本当なら頼っちゃだめな場面だということはわかってる。でも、アイリスが帰ってきてくれたことが嬉しかった。


 ……まさか、ウォルターさん同伴だとは思わなかったけど。


今回はもう一話追加で更新します

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