#4
私のお芝居が見抜かれていた。自分では上手くいったと思っていたし、お姉さんもまったく疑う様子が無かったのに。やり手のトレーダーだから観察眼が優れているのか、それとも何か意図があるのかな?彼の落ち着いた物腰そのものは警戒心を薄れさせるものだけど、どうしたものだろう。悩んでいると、アイリスが慎重に言葉を選びながら応じた。
「……ウォルターさんの手荷物が没収されたのは、何か理由があったんですか?」
アイリスの言葉に彼は苦笑し、肩をすくめた。
「理由が本当に納得できるものならいいんですが、正直無茶苦茶ですよ。危険物でもない商材を検査と称して持っていかれてしまうし、それがきちんと戻ってくる保証もない。高価な物はほぼ戻ってきません。いつからペレジスはそんな無法な星になったのやら」
スパイが相手に取り入り油断させる手口に身内を批判してみせるという手法もあるってホロムービーで見たことがあるけど、一見するとただの小娘2人にスパイを差し向けてくる組織なんてないよね?なら、この人は単なる被害者なんだろうか。
「あっ、ごめんなさい。 まだ名乗ってませんでしたね。私はアイリス、こちらは妹のトワ。辺境の星から2人で出てきたところです」
アイリスは嘘にならない程度の内容でウォルターさんに自己紹介をした。さらっと妹と呼ばれた事に少しだけ気が動転する。もしやこれは、姉呼びしろというサインなのかな……。
「おや、お二人は姉妹でしたか!こんな美人の姉妹とは親御さんが羨ましい」
うん、そうだよね。お義父さんはうちの開拓団でも周囲から羨ましがられていた。主にアイリスのことで。私の話題が出るときは大抵は気の毒がられていたけど。ちょっと解せない。
それはともかくとして、ウォルターさんは周囲を気にして世間話のていを装った後、小声で続けた。
「実は……この星の事で変な話を耳にしたんですよ。商人仲間の間で囁かれてるんですが、ベルンハルトと言う今のギルド支部長が自分のことを『ギルド伯』なんて称しているらしいんです」
「ギルド……伯?」
アイリスが眉をひそめた。それはそうだ。ギルドが掲げるギルド憲章には内政干渉を禁じる中立の原則があって、うちのような資源惑星やギルド直轄星を除いてギルドの人間が星の政治に関わる事を厳しく禁じてるからね。
惑星の支配を行ったり、貴族を名乗ったりなんてあり得ないことで、それはギルド憲章にはあまり詳しくない私でも知ってることだ。それにもかかわらず、支部長が「ギルド伯」…つまり伯爵を名乗って支配者のように振る舞ってるの?
「ええ、私も聞いたときは驚きましたよ。いくらギルドの支部長とは言えその地位はギルド内だけのものなのに、まるでこの星の領主のように振る舞っているのは……。それにこの星の商人仲間もみんな不満を抱えてます。税金という名目で不当に金品を巻き上げられるのは日常茶飯事、物資の流通にもやたらと制限をかけてるそうで」
ウォルターさんの言葉にアイリスが静かに怒りの感情を抑えているのがわかった。もちろんウォルターさんにではなく「ギルド伯」とやらに対してだろう。
「なるほど……私達の荷物が没収されたのも、その税金名目の搾取と似たような状況なのかもしれませんね。私達の星にもギルドの人達はいますが、この星のギルドみたいな事をしてるなんて聞いたことないです。この星のギルドの人達は、まるで本業から外れてしまったというか……」
アイリスはウォルターさんの言葉に同意するように、自分たちもこの星のギルドに異変が起きていることを感じていると伝える。ただ、さっき聞いたギルドが腐敗している可能性について不用意に話したりしないのはさすがアイリスだ。
「もしかしたら、私達トレーダーに対する横暴も、氷山の一角なのかもしれませんね」
「そういえば私達が乗ってきた船の船員さんが言ってたんですが、ギルド支部で取り扱っているC3の流通量が彼等の運んできた量よりも減っているとかなんとか。物資の流通制限というのが何か関係してるんでしょうか?」
「そうなんですか?それは初耳ですが……うーん、それは……」
あくまでも聞いた話しという体を装ってアイリスがC3の流通量減少についての話題を振る。ウォルターさんはそのことを知らなかったようで何事か考え込んでいるようだ。
その後も情報交換は続いたが、いかんせん手持ちの情報が少ない。やがて話題はギルド支部への不満やこれまでの対応に関する批判になったけど、よくよく考えれば私達もそのギルドの一員なんだよね。
私自身はあまりギルドに対する帰属意識はないんだけど、一応自分が所属する組織がこうも批判にさらされるのは、さすがに良い気分じゃない。だけど、それぐらいこのギルド支部は多くの人に嫌われているんだとしたら……。
私の目的はあくまでも押収された荷物を取り返すことだけど、話を聞く限りでは一筋縄ではいかないような雰囲気だ。なら、ついでにギルド支部の問題を少しでも……ほんの少しだけでも、改善できれば。そんな気持ちになった。もっともアイリスは最初から改善するつもりだったみたいだけど。
本日更新分は分量が少なかったので+1話分追加で掲載します




