#3
>>Towa
アイリスはやはりオシャレリーダーだ。いや、この美少女っぷりはリーダーでは物足りない。
「オシャレ女王爆誕」
「なんかどんどんグレード上がってない!?いや、褒めてくれてるんだろうけど、ちょっとそこまで言われると……」
「アイリスはもっと褒められていい。アイリスは世界の、いや宇宙の宝」
「そこまで言われると、ちょーっと馬鹿にされてる気もするよ?」
「本気なのに。解せぬ」
私は姉を心の底から称賛していたのだけど、信じて貰えなかった。普段から茶化しているからだろうか。信用の積み重ねは大事だと、私は心に刻んだ。
それにしても、着替えを終えたアイリスはザ・美少女という感じしかしない。今日の服はふわっとした白いワンピースで、ウエストに黒いレースのような飾りがついた布……多分サッシュとか言うのを巻いている。首元や袖口には青いリボンも付いてて……あっ、髪のリボンも今日は青にしてる。袖がふわふわ広がってて動く度に柔らかく揺れるのがすごくお嬢様っぽい。やっぱりアイリスはこういうのが似合う。……いや、何を着ても似合うけど。
ちなみに私はいつも通りのTシャツとジャケット。この2ヶ月ずっとコスモスーツだったから、少し新鮮に感じる。なお面倒だったので下着は履いてない。替えも無かったしね。
「トワ、まずは下着を買いに行くよ?」
「持ってるからいらない。履くの面倒」
「み・だ・し・な・みっ!」
信用を積み重ねるために、正直に告げたらものすごい顔で怒られた。監視カメラで見てる人がいたら卒倒するんじゃないだろうか、というレベルの剣幕だ。私、そんなにおかしな事を言ったかな。
ちなみに監視カメラが無いことは確認済みで、着替えながらアイリスがさっき何を考えていたのか説明も聞いている。ギルド支部ぐるみの不正とか正直興味はないけど……アイリスのお仕事だというなら、私が手伝わないなんて事はありえない。私とアイリスは親友で、幼馴染みで、姉妹で、そして相棒だからね。
着替えを終えた私はアイリスに手を引かれ、ステーション内のショップに連行された。本当にいらないのにな、ぱんつとか。私のを買うぐらいなら、アイリスの下着を充実させた方が世のため人のためなのに。
連行されながらそんな事を考えていると、旅行用品を売っているらしいお店にグリットが売られてるのを見つけ、つい大人買いしてしまった。全然美味しくないんだけど、口寂しいときには丁度いいんだよねグリット。早速パッケージを開封して一つを口に放り込み、残りはジャケットのポケットに放り込んでおく。
「それ、味はともかくとして一食分の栄養食だよ?おやつに食べてたら間違いなく太るよ?」
「あーあー、聞こえない」
「まぁ、太ったらダイエットに付き合ってあげるけどさ……」
「アイリス、優しい」
「聞こえてるじゃない」
「謀られた」
そんな事を言いながら、買い物を終えた私達は軌道エレベータへ向かった。ちなみに下着は3枚も買わされた。あと、洋服も。いらないのに。
軌道エレベータ乗り場の受付係は40代ぐらいの女性スタッフだった。ここまでの経験から少し身構えたけど、この人は普通、というよりむしろ親切な人みたいだ。少し疲れて見えるのはあの嫌みったらしい同僚達がいるせいで、労働環境が良くないとかかな?なんとなくそんな事を思った。そのスタッフのお姉さんが説明してくれた軌道エレベータについての話をまとめるとこうだ。
ペレジスでの軌道ステーションと惑星上の行き来は基本的に軌道エレベータで全てまかなわれていて、ゴンドラと呼ばれているユニットに貨物と人が一緒に乗り込むようになっている。大人数の旅客用にゴンドラは数機のうちの1機に旅客専用ゴンドラが含まれているけど、残念ながら私達が乗る次のゴンドラは貨物室併設型で乗り心地は少し劣るらしい。地上までは3時間程度で到着するけど、出発時と到着時にはシートベルトの着用が義務づけられていて、運行中もできればシートベルトをしておいた方が良いそうだ。
説明を聞いていると、同じゴンドラに乗り合わせる人が集まってきた。
2人組の中年男性と、おばあさん。そしてビジネスマン風の30代ぐらいに見える男性。私達を合わせて全部で6人が今回の乗客のようだ。出発時刻が近づいているので、手荷物を貨物部に乗せて乗車する。
キャビン内は向かい合わせになったボックス式の2人掛け席が横並びに5組ならんだ構造になっていて、定員は20名らしい。私達は一番端のボックス席に座り、隣にはビジネスマン風の男性。一つ離れたところにおばあさん、その奥が男性2人組。
スタッフのお姉さんはおばあさんの乗車をサポートしてあげている。やはり優しい人なんだろう。この人なら大丈夫かな?そう思った私はお姉さんに声を掛けてみた。
「お姉さん」
「どうしたの、お嬢さん」
「私、軌道エレベータはじめて。ちょっと怖い。何かあったとき、誰かが見守ってくれてる?座席から合図したら、助けてもらえる?」
「ごめんなさいね、このゴンドラには内部モニタ設備は付いてないのよ。でもキャビンの扉のところ、ほらあそこに非常ボタンがあるでしょ?何かあったらあれを押してね。そうしたら救助の人が来てくれるから」
「わかった、ありがとう」
私の言葉ににっこり微笑んでくれるお姉さんの笑顔に、少しだけ心が痛んだ。私が本当に聞きたかったのは緊急時の対応じゃなくて、監視カメラの有無だったから。隠しカメラがある可能性も考えたけど、多数運行しているゴンドラにいちいち監視を付ける可能性は低いんじゃないかとは思ってたけど、見えにくい位置に設置されたモニタ装置があるかもしれないからね。そんなことを警戒したけどお姉さんの回答を聞く限りではそれも無さそうだ。ともあれ、少なくとも3時間の間はアイリスと内緒話ができそうで一安心だ。
親切なお姉さんの見送りを受け、ゴンドラは地表へ向けて降下を始めた。ゴンドラの速度が最高速に達し、振動が落ち着いた頃合いを見計らってアイリスと話をしようかと思った矢先、隣のボックスの男性から声を掛けられた。
「失礼、お嬢さん達。さきほど手荷物受け取りでもめておられましたよね?」
予想しなかった声かけにアイリスと目を合わせた。彼の目的がわからず、軽い警戒心が胸をよぎる。しかし男性は不審げな私達の様子に気づいたのか、慌てて手を軽く上げて笑みを浮かべた。
「いやいや、怪しい者じゃありません。実は私も同じように手荷物を没収されてしまして……。お嬢さん達も災難に巻き込まれた仲間かと思って、つい声をかけたんですよ」
彼の言葉に先ほどの記憶をたぐると……言われてみれば、手荷物受取所で見かけたような気もする。断言できるだけの自信はないけど。アイリスもわずかに眉をひそめていたけど、男性は構わず続けた。
「ああ、私は星間交易商人をしているウォルターと申します。隣のヘリオスと言う星の出身でこの星へ来るのは3度目なんです、。今回も先ほど到着したのですが、来る度におかしな空気になってる気がしましてね……。貴重品やら精密機械を持ち込むと、直ぐに難癖をつけて検査だ、没収だと言われて良い迷惑なんですよ」
私達の警戒がまだ解けていないのを察したのか、彼は少し声をひそめて視線を左右に向けた後、今度は小声で話しかけてきた。
「お嬢さん、実はさっきあなたがあの女性スタッフからさりげなく監視カメラの有無を聞き出した事に気付いたんです。いや、実に見事な手際でした。だから、同じ被害者仲間として少し情報交換をしたいと思いましてね」




