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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部6章『英雄への道』クレリス-醒悟の惑星
226/234

#4

>>Alyssa


 巫女服に身を包むと心が引き締まったように感じ、神職の人達があらたまった衣装を着る理由がわかった気がしました。

 ……でもカレンはサラシを巻いて、この衣装を胸元まではだけてましたけどね。


 あの扇情的な格好はどう考えても気を引き締めるという方向性ではなかったように思います。ともあれ私は奇しくも二刀流巫女というややアレげな装いとなり、トワ様はいつもの格好に大盾という、とても勇ましい出で立ちになりました。



 入場ゲート周辺に人影はまばらです。先ほど受付嬢に聞いた話ではコアなプレイヤー達は朝の開場と同時にダンジョンへ潜るらしいので、ゲートにいるのは私たちのような一見さんぐらいなのでしょう。

 しかしなんですか、そのダンジョン中毒みたいなのは。そんなに面白いのかと思ったのですが、どうやらラダー制とシーズン制が導入されているらしく、上位ランカー達……特に学生層は日参してスコアを稼いでいるのだとか。


 それ、面白いという以前に修行かノルマみたいになってませんか?それにスクールやアカデミーをサボってゲームに夢中すると親が泣きますよ……。


 そんな事を考えながら、ゲートを潜ろうとすると、トワ様が止められてしまいました。


「お客様、申し訳ありませんが銃器は持ち込みできません」

「……これ?」


 トワ様はジャケットのポケットからブラスターを取り出されました。そういえばエネルギー武器禁止だと言ってましたし、ブラスターを持っていると入場できないのでしょう。


「こちらでお預かりして、お帰りの際に返却させて頂きます。預かり札をどうぞ」

「わかった」


 なるほど、カウンターに預ける形なのですね。なら、これで……と思った時に、後ろから声を掛けられました。


「ね、キミ達!初心者っしょ?よかったらあたし達と一緒に潜ろ?」

「クロエ、もう少し声のかけ方があるだろう……。すみません、いきなり声を掛けてしまって。怪しいものではありません」


 見ると、二十歳ぐらいの男女二人連れでした。男性の方はダークブラウンのショートヘア。眼鏡を掛けた知的そうな風貌です。

 落ち着いたセンスの良い服装で、背中には弓を背負っているので弓兵クラスでしょうか。


 女性の方は私と同じアッシュブロンドの髪をウェーブロングにしています、ちょっとキャラかぶってますよね?

 耳許には派手なピアスが光っていますし、服装もベースこそ動きやすそうなジャケットとショートパンツですが、所々にギャル風な意匠が盛り込まれています。

 腰の後側からグリップが両サイドに見えているところから考えると……短剣使いの暗殺者クラスか盗賊クラスでしょうか?

 ぱっと見はアンバランスな感じに見える二人ですが、話し方を見ていると気心が知れた間柄のように思えました。


「えっと、あなた方は?」

「失礼、俺はジェイコブ。こちらはクロエ。『真理の翼』と言うパーティの者です。今日はメンバーが急に来られなくなってどうしようかと思っていた所でお二人を見かけたもので。二人とも、前衛職ですよね?」

「ライアンったら、レポート間に合わないからとか言っちゃってさー」


 クロエの言葉と彼らの年齢から推測するに、おそらくアカデミーの学生なのでしょう。弓兵と盗賊なら後衛か中衛、確かに前衛がいないと不利なのは判ります。

 見たところ不審な様子はありませんし、何か下心があるようにも思えません。私もこのゲームについてはギルドネット経由で概略を見た程度ですから、案内役がいるのはありがたい話ですが……。


「私達、初めてなのですが、お邪魔ではないですか?『真理の翼』はランキング3位のパーティですよね?」


 チェックインカウンターの上に表示されているランキングの上位パーティにジェイコブが名乗った名前が記載されていた事を思い出し、私はそう確認しました。

 ランカーに素人が混じるとろくな事にならないでしょうからね。


「や、今日はどっちみち潜るの無理だと思ってたからさ、昨日ドロップした武器の試し切りしようと思ってて。低層階回るならニュービーちゃんと一緒でも全然オッケー!」

「クロエ、その言い方は失礼だろう。すみません」

「いえ、お構いなく。初心者なのは事実ですし。それで……どうします、トワ?」

「私は、いいよ。守る練習したいし」

「ですね。ではジェイコブさん、お願いできますか?私はアリサ、こちらは妹のトワです」

「おや、ごきょうだいですか。こちらこそよろしくお願いします」

「よろー!」


 トワ様の同意も得られたので、私達は「真理の翼」の臨時メンバーとして加えて貰う事になりました。

 さすがに妹と紹介するのに「様」付けは不自然だと思って呼び捨てにしましたが、心の中ではやはりトワ様です。



 ゲートを潜る際にゴーグルを渡されました。ジェイコブは眼鏡の上からそのままゴーグルを装着していますが、私の眼鏡は情報端末なので相互干渉を防ぐ必要があるかもしれません。

 眼鏡は外して懐へ納め、ゴーグルを装着しました。


 先ほど受付嬢に受けた説明だとこのゴーグルは触覚技術(ハプティクス)神経接続(ニューロリンク)を応用した感覚フィードバック機能が搭載されているようです。気の利いたことに他のプレイヤーの顔や表情が認識できるように、ゴーグル越しに見ると他のプレイヤーの素顔が表示される機能がついているようです。

 ARゴーグル越しに見てみると、隣にいるトワ様の虹色の瞳がちゃんと視認できました。


 ダンジョンの中は苔むした床や、壁に掛かった松明がいかにも地下迷宮といった風合いを醸し出しています。

 ふと気になってゴーグルを外してみると……そこは建材打ちっぱなしの殺風景な通路でした。道幅はゴーグル越しと同じですが、内装はAR頼みということですね。

 まぁ、コスト的には仕方の無い事でしょう。


「ダンジョンは全部で10階層になっています。3階層毎にボス部屋があって、10階層にはラスボスが配置されています」

「前シーズンはラスボス倒せたけど、今期はまだ9階層止まりなんだよねー。武器効果ナーフされすぎ!」

「ほほう。今日こそラスボスを倒す」

「お、トワっちやる気だね!というか、そんな重そうな盾もって大丈夫?うちの脳筋ライアンでもミドルシールドだよ?」

「大丈夫」


 ダンジョン内を歩きながら、ジェイコブが基本的なルールを教えてくれました。

 階層毎の難易度調整に加えて、参加しているプレイヤーの数や能力に合わせて自動的に敵が強化される仕組みが導入されているとのこと。

 そして強い敵と戦うほどポイントが高くなるのだとか。そんな話をしていると、前方から何かが近づいてくる気配を感じました。


「何か来ます」

「……え?何も見えないが……」


 ジェイコブは戸惑っていますが、トワ様も既に盾を構えています。

 これが実戦なら、私も抜き打ちで敵の不意を突く所ですが……まぁこれはゲームですし、それ以前に今回はトワ様の訓練です。刀――もちろん、ツクヨミではない方――に手を掛け、前方を注視します。


 やがて、現れたのは3体の魔物。犬のような頭部を持つ、二足歩行するそれは、おそらくフィクションで見かけるコボルトと呼ばれる魔物でしょう。


 ええ、私も孤児院で子供達と一緒にその手のファンタジーもののホロムービーは見ていましたから、この程度の知識は履修済みなのです。

 コボルト達は手には棍棒の様なものを持っています。……口からよだれの様なものを垂らしているようにも見えますが……思ったよりリアルですね。


「わっ、ホントに来た!アリサっち、すごっ」

「ではまず俺たちが手本を見せます。一体残しますので、アリサさんとトワさんはそれを」

「了解しました」

「うん」


 そう言うとジェイコブは弓を引き絞ります。コボルトは既にこちらに気が付いているのか、先頭の一頭が吠え声をあげると一斉に駆け寄ってきました。


 ジェイコブが放った矢は先頭を走るコボルトの頭部に命中し、その一体は脱落。なかなか良い腕をしていますね。

 続く二体が駆け込んできますが、トワ様が構えた盾で攻撃が弾かれます。その瞬間、トワ様の影からクロエが飛び出し、攻撃を仕掛けてきたコボルトに腰の短剣で流れるような斬撃を決めました。

 これで二体。


 残りの一体は私が……と思ったのですが、盾を構えたままのトワ様が突進し、思いっきり盾で殴りつけました。

 たまらず吹き飛ばされるコボルト。壁に堅いものが当たった音がして、コボルトは動きを止めました。


 ……あれ、壊れてないでしょうか?少し心配になった私はトワ様の倒したコボルトに近寄り、ゴーグルを外します。

 見たところ、素体になっているドローンに破損やへこみはありません。


 このドローンは……ジュラナイト製?なるほど、エネルギー武器持ち込みの理由がわかりました。ジュラナイトは軽量で剛性の高い金属ですが、高熱にはあまり強くありません。

 つまり、人間が殴る蹴るした程度では壊すことは困難ですが、ブラスターだと簡単に壊せてしまう。このドローン達はアミューズメント施設の備品ですから、壊されると困るというのは自明の理。それ故にエネルギー武器は持ち込み不可だと設定されているのでしょう。

 私が一人で納得していると、後ろでクロエ達がトワ様を褒め称えていました。


「トワっち、ホントに初めて?超反応ガード、ランカー並じゃん!」

「その後のバッシュも凄かったですね。うちの正規メンバーに欲しいぐらいです」

「もっと褒めて」


 トワ様はご自身が言われるように「褒めると伸びる子」ですから、もっと褒め称えるとよいでしょう。

 ジェイコブ達もさすが高ランクパーティらしく、戦闘技術は確かなものでした。ですが今回何もしていない私はちょっと寂しいです。

 なら、次は私の実力も……加減して、お見せするしかありませんね。だって、今のままだと私はただの痛い二刀流コスプレ巫女ですから。


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