#3
>>Towa
その後、カルティアに礼を言い、私とアリサは大図書館を後にした。
アイリスはエレメントの話をするといってカルティアの元へ残り、少し長引くかもしれないから市内観光でもしておいたら、と気軽な様子で言っていた。
だけど……再び放浪機が来る可能性を考えると、のんびりと観光している気分にもなれない。何かをしないと。強くならないと。
そう思った私の口は、私が思ってもみなかった言葉を声に出していた。
「アリサ、戦闘訓練したい」
いや、強くなりたいとは思ったけど、そちら方面ではない。私の理性はそう言っている。
だけど、一方で……再び放浪機と対峙することを思えば、戦いに慣れておく必要はあるとも思った。
前線に立つのは無理でも、少なくともアリサやアイリスの足を引っ張らない程度には。口にした後に、私は自分の言葉に納得した。
「戦闘訓練……ですか?この星には訓練を引き受けてくれそうなPMSCsは無かったと思いますが……」
「無理?」
「小火器や爆発物の扱いはギルドでは学べませんし……。そうですね、トワ様のレゾナンスシールドを使いこなす術なら学べるかもしれません」
「それでいい」
私、射撃は苦手だし爆発物はイグナイトがあるし。銃よりも盾を使いこなす方が性に合ってるかもしれない。
でも、盾の使い方を学べるところってどんな所だろう。ちょっと思いつかないんだけど……。
「盾道場?」
「いえ、そんなニッチな所ではありません。たしかここから2ブロックぐらい先のところだったはずです。後でアイリスさんも誘って遊びに行こう思ったのですが、先に二人で行きましょう」
一瞬、盾道場がエッチな所なのかと思ったけど、遊びに行くと聞いてエッチな所のことはどうでも良くなった。
でも、遊びに行く?アリサの言う遊びってもしかして……。
「道場破り?」
「違います!」
アリサの案内でたどり着いたのは……アミューズメント施設のようなところだった。
入口のホロディスプレイにはファンタジー風のCGと共に「Road to Heroes」という文字が記されている。英雄への道……?
「アリサ、これ何?」
「ここはクレリスで人気のARを使った体感型ゲーム施設です。ローヒーとかRtHとかって呼ばれてるみたいですね」
「盾道場じゃない」
「ここは体感型ですから、リアルに武器を持って敵と戦うんです。盾職、ありますよ?」
盾職と聞いて、盾だけを造り続ける盾職人をイメージしたけど、たぶん違うんだろうな。
でも、体感型ゲームで実際に武器を持って戦うなら、確かに盾の扱いには慣れることができるかもしれない。
受付で受けた説明によると、|ローヒー《Road to Heroes》は、機械制御されたモンスター役のドローンと武器を持って戦うゲームらしい。
ドローンの攻撃は寸止めで止まるようになっているけど、プレイヤーが装備するゴーグルを通じてダメージの衝撃だけは伝わるようになっているそうだ。
あとは、いかにも機械的なドローンの外見じゃなくてゴーグル越しに見ると敵がモンスターに見えるようになっているんだって。
そしておもしろいことに武器の持ち込みも一部可能らしいけど……制限があるらしい。
「持ち込みできるのですか?なら、刀とかは?」
アリサはそう言うと受付にツクヨミを見せている。いや、さすがに神剣はダメじゃないかな?
「エネルギー武器は禁止なんですが、こちらは実体剣ですから持ち込みできますよ。あ、でもドローンを叩いて刀が壊れても補償はできませんからご了承くださいね!」
あっさりと認められていた。まぁ、ツクヨミは見た目はただの黒い刀だから、お姉さんが気付かなくても仕方ないのかな。でもアリサ、神剣を持ち込んでどうするつもりなんだろう。
「アリサ、神剣無双するの?」
「しませんよ、そんな大人げないこと」
「でも持ち込む?」
「持ち込みたいというより、置いていって万が一があるのが心配で」
そうか、この神剣はもともと開祖がどこかから盗んだ品だったらしいからね。それをカレンが盗んで、さらにアリサが奪って……。
略奪の歴史が繰り返されるのを心配しているんだろう。
「トワ様?念のために言っておきますが、私は奪ってませんからね?カレンに託されたんですからね?」
「アリサ、テロマーも心を読むの?」
「読むまでもなく、何を考えているかは判ります!」
「お客様、こちらでコスチュームレンタルのサービスも行っていますよ。お好きな衣装を選んでくださいね!」
アリサと話をしていると、受付の姉さんが衣装コーナーを案内してくれた。
ファンタジーっぽい鎧とか、衣装とかが並んでいるね
。
ちなみに私のいまの格好はいつものジャケットとTシャツ。アイリスがうるさいからちゃんとパンツは履いてるよ。
アリサはややフォーマルな薄い青色のドレス。私の格好はともかくとして、アリサはさすがにドレスで体感ゲームするのは無理だよね。
「せっかくですから着替えてみましょうか。どれがいいかし……ら」
楽しげな様子で衣装を見ていたアリサの手と言葉が、ある衣装の前で、止まった。
そこに掛けられていたのは……白と朱で彩られた、宗教的な衣装。これはタカマガハラでも見た、巫女の服だ。
「……トワ様。私、これを着ても……いいですか?」
「いいよ」
アリサはとても真剣な表情でそう聞いてきた。きっと、カレンの事を思い出したんだろう。
たぶんだけど、アリサは巫女服を着て地剣ツクヨミを帯びることでカレンが何を考えていたのかを理解しようとしているんじゃないかと、私は思った。
しばらくして更衣室から出てきたアリサはまさに巫女だった。普段は女神寄りだけど、神の使者でも十分にやっていけるね。
「アリサ、似合ってる」
「ありがとうございます、トワ様!」
「でも、黒くない」
「私は黒巫女じゃありません!身も心も清い白巫女です!」
そんなことを言っていると、今度は受付のお姉さんが「初期装備」の案内をしてくれた。
なんでも選択する職業によって使う武器が違うらしい。アリサは「剣士」を選び、ツクヨミと似た感じの刀を手にしていた。私は当然盾を使う練習だから、「衛士」にして盾装備を選ぶ。
「あの、お客様?盾は重いので、お客様の体格では難しいかと……Road to Heroesはゲームですが、ご本人様の体力や技量で遊んで頂く形なので」
「大丈夫。私、強いから」
お姉さんの言葉に適当に答え、私はレゾナンスシールドを通常展開したサイズと同じぐらいの大きさの盾を手に取ろうとした。
「それ、タワーシールドですよ!?大柄な男性でも使える人は殆ど……えっ!?」
「大丈夫」
お姉さんは止めるけど、十分に持てる。ラックから盾を外して構えてみたけど、私の背丈ぐらいあるからちょっと持ち歩くのは面倒そうかな。
「前からだと鉄板が歩いてるように見えますね、それ。でも前、見えます?」
「見えない」
「もう少し小さくしないと、転びますよ?」
「わかった」
私達のやりとりを受付のお姉さんが目を丸くして見ている。
残念ながら、アリサが言うように前が見えないと歩くのも不便だ。しばらく物色して、のぞき窓の付いた少し小ぶりな盾を選んだ。
「それ……ラージシールドですよね……えっ?お客様、実は機族の方ですか?」
「ううん。生身」
「ですよね……」
お姉さんは諦めと驚きが混じった妙な表情をしている。
そういえば、こういうときは遊びだから手加減しないといけないんだった。パパの教えを今さらながらに思い出したけど、もう手遅れかな。
まあいいか。
「じゃあ、私はこれで」
「そんな装備で大丈夫ですか?」
「大丈夫。問題無い」
受付のお姉さんの問いかけにそう答え、私は入場ゲートへ向かった。




