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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部6章『英雄への道』クレリス-醒悟の惑星
223/224

#1

>>Towa


[Authentication Complete.

 Welcome Celestielle.]


「今認証をされたのはどなたか」


 あ、この流れ……なんとなく覚えてる。知らないけど、知ってる黒い人が奥から歩いてきた。

 名前は覚えてないけど、見覚えはある。挨拶だけはしておかないと。


「黒い人、久しぶり」

「エトワール殿か。遅いご帰還だな」

「褒められた」

「褒めてはいない」


 ちょっと尖った見た目の印象通り、つっこみの鋭い人だ。


「もうトワ、なに言ってるのよ……。すみません、妹が変なことを言って。あ、私も認証した方がいいのかな?」

「私も認証しておきますね」


 そう言うと二人の姉も入口に置かれた台に手をかざそうとしている。


 ――ここはクレリスにある大図書館。ずっと前に、一度来たことがある。けど、あの時の私は何も考えられなかった。

 だって、あの時は……。私は思わず、隣に居たお姉ちゃんに抱きついていた。


「わっ、ちょっと危ないよ、トワ!」

「……どこにも、いかないで」

「……大丈夫だよ」


 アイリスは柔らかく微笑むと私の頭を撫でながらそう言ってくれた。

 アイリスは最初、クレリスへ来ることには慎重な姿勢だった。お姉ちゃんが死んで、私の心が壊れそうになる切っ掛けになったのがこの星だったから。

 だけどこの星には宿題が残っていたから、私達はここへ帰ってきた。でも、やっぱりあの時のことを思い出すと……心の奥底に鈍い悲しみと恐怖が未だ残り続けていることを改めて感じた。


 私が抱きついたままの状態でアイリスは台座に手をかざした。アリサは何故か涙を流しながら、二人が生体認証を行う。


[Authentication Complete.

 Welcome Telomar.]

[Authentication Complete.

 Welcome Celestielle.]


「む……?テロマー殿に……セレスティエル?」


 機族である黒い人の表情は変わらないけど、声には驚きと……不審が混じっているように思えた。うん、まぁそうだよね。ここの人はセレスティエルの事を知ってるし、当然テロマーの事だって知ってるだろう。


 訪問してきた女の子3人がテロマー、セレスティエル、セレスティエルの構成だと驚くのも無理はない。だって私たち、たぶんレア種族だから。

 きっと大歓迎してくれるはずだよ。そう思ってたのだけど。


 黒い人は腰から提げていた剣を抜き、アイリスに突きつけている!ちょっと、何してるの!


「……何者だ?」

「あら、物騒な歓迎だね?私はギルドの二等管理官、アイリス・ブースタリアです。そして、この子の姉であり、セレスティエルでもあります」

「……データ照合。死者が何故?」

「大図書館を名乗る割には中途半端なデータだね?見ての通り、私は生きているし、生体認証でも本人だと確認されてるでしょ?」

「……」


 黒い人は不承不承という感じで剣を収めた。でも、私は怒っている。ちゃんとクレームは入れておかないと。


「お姉ちゃんに手を出すなら、殺す」


 あ、クレームじゃなくて殺害予告になってしまった。いや、相手が機族だから破壊予告かな?いや、どちらでもいいけど。

 アイリスに手を出すなら、私が相手になる。


「……失礼した。機姫(きき)カルティアがお会いする」


 そう言うと黒い人は私達の方を無視するかのように、奥へと歩いて行った。案内役としてどうなの、それ。


「なんだか前途多難な感じがします」

「でも、今のって私だけが歓迎されてない感じだったよね?慇懃無礼だけど、トワとアリサには一応丁寧な対応だったし」

「黒いし、敵かも」

「いや、敵じゃないからね?こちらから攻撃したらこっちが敵になるからね?」

「あ、早く追わないと。あの人、後ろも見ずに角を曲がって行きましたよ?」


 アリサの言葉に、私達は慌てて黒い人の後を追った。



>>Iris


 私達の前を早足で歩く黒い機族。あれは……間違いなく噂に聞く「守護騎士エイギス」だ。

 様々なメディアに姿を現している機姫カルティアと違い、守護騎士エイギスについての情報は驚くほど少ない。


 公的に知られているのは常にカルティアに寄り添う黒い守護騎士がいるということだけで、その名前すらギルドネットにしか記載されていない。

 徹底した情報隠蔽?いや……先ほどの感じだと、寡黙な彼が自ら表に出ないようにしているだけっぽいけど。


 それにしてもエイギスの姿は一目見ただけで守護騎士だと分かる圧倒的な存在感を放っていた。そんな彼を相手に冗談を言えるトワの胆力には驚かされてばかりだけど……。


 エイギスの機体は、まるで血管が張り巡らされているかのような赤い光脈を纏った漆黒の鎧とでもいうのような形状で、その威容は誰が見ても戦闘用に作られた存在だとひと目で分かるものだ。

 ヘッドパーツは人間を模しているものの、鋭い目つきと整った顔立ちには機械らしい冷徹さが感じられ、その瞳の奥には決して揺るがぬ決意が宿っているようにも見えた。


 おそらく、彼はカルティアを守るためにその全てを捧げているのだろう。このクレリスで、英知の守り手たるカルティアを狙う愚か者がいるなんて到底考えられないけどね。



 ……と思ったけど、さっき反応からすると、私が不審人物として認定されてる感じだよね。

 まぁ、仕方ないか。ここのデータだと私は死んだ状態のままらしいし、セレスティエルの事やエトワールと言う区分をを知っていると言うことは「未知の新種」である私の存在はデータ外だろうし。

 うん、自分でも不審だと思う。さっきはいきなり剣を突きつけられてムカついたから、つい挑発しちゃったけど……カルティアにはフレンドリーに接しないと。話を聞けなくなるかもしれないからね。


「ここだ。カルティアがお待ちだ」


 エイギスの後ろ姿を見ながらそんな事を考えていると、いつの間にか白く大きな扉の前にたどり着いていた。こちらを振り返らずにそういうエイギス。どれだけ嫌われてるのよ、私。


 大図書館の心臓部への扉は、知識と真理を象徴する壮麗なレリーフで覆われていた。

 上部には星空と天球儀が描かれ、宇宙の広がりを示唆しているようだった。中央には翼を広げた鳥……あれは、フクロウかな?そのフクロウが生命の木と巻物を頂いた様子が表現されている。

 縁を彩る幾何学模様はは知識の普遍性や深遠さを象徴しているんだろうか?儀式的だけど、悪趣味ではない。むしろ、神々しさを感じる。

 そんな扉の前に、黒い鎧の騎士が立っているのはとんでもなく場違いに見えたけど。



 両開きの扉が開くと、中には光が満ちあふれていた。これは……かなりランクの高いC3?

 普通の人にはたぶん「キラキラ光る部屋」なのかもしれないけど、C3の事を知る身としては……希少な高ランクC3がこれだけ沢山集められたここの部屋はあり得ない場所にしか思えなかった。


 そして、光に包まれた部屋の中には「白い」女性が一人。

 背面から伸びたケーブルの様なもので色とりどりの水晶が納められた「本棚」に繋がっているのは、彼女がこの大図書館に納められたあらゆる知識と物理的に繋がっているという証だろう。


「おかえりなさい。エトワール、トワ様。あなたのご帰還を心より嬉しく思います。そして、ようこそ、新たなるセレスティエル。そして、始祖の末裔。あなた方を歓迎いたします」

「うん。ただいま」


 彼女が、機姫カルティア。

 この大図書館の……いや、クレリスの主だ。トワの銀髪よりも白い白銀の髪に白いトーガのような衣装。

 人間で言えば二十歳過ぎの外見を持つ彼女が、噂に聞く英知の守り手。機族の姫、機姫と呼ばれるだけあってさすがの存在感と威圧感だ。

 ……トワは平然としてるけど。


「26,183日ぶりですね、トワ様。お待ちしておりました」

「ごめん、ちょっと忙しくて」

「いやトワ?ちょっとのレベルじゃないよね?50年ぐらいって行ってたけど、70年以上じゃない!」

「ぼーっとしてた」


 トワの帰還が遅かった事を責めるでもなく、機姫は単なる事実として26,183日……時元標準時で71年8ヶ月ぐらい?ぶりの帰還を告げたけど。

 いや、さすがにそれはぼーっとの範疇を超えてるでしょうに。話を聞く前に謝らないと。


「すみません、この子……私の件で心神衰弱状態だったんです。今は回復していますので……」

「承知しています。あなたが、アイリス様ですね。メラニー・スゥから話は伺っております」

「……そうですか」


 何故だろう、スゥ局長の名前を聞いた途端に申し訳なく思っていた気持ちが霧散した。

 ……私もアリサに影響されて、アンチ局長になってしまったんだろうか。一瞬、余計なことを考えたが、意識をカルティアに戻す。


「先ほどはエイギスが失礼しました。彼はこの図書館にある知識以外は信用しないので」

「この図書館では、私は未だ死亡状態である、と?」

「はい。先日メラニーからあなたの再生について連絡はありました。ですが、あまりにも特殊な状況ですから、直接確認が出来るまでは『星々の本棚』への情報更新を保留していたのです」


 「星々の本棚」と言うのは、この大図書館の中央データベースの事だろう。そこに蓄えられた知識こそがカルティアの価値であり力でもある。

 そして……先ほどの言葉が真実なら、彼女は蓄積されるデータの真贋判定や選別を行っている。図書館の主というよりもまるでキュレーターのようだと、私は思った。


 そしてそのカルティアの姿勢は私にとって好ましく思えた。彼女が人間であれば、どれだけ公平であろうとしても情報収集に個人の価値観が影響を与えることは否めない。

 だけど、彼女は機族だ。正しい知識を収集する事を目的に作られた彼女がキュレーションする基準が情報の真贋であるなら……カルティアが持つ情報は信用できる。

 ……少なくとも、個人の意思と価値観で情報開示をコントロールするスゥ局長よりは。


「では、直接確認頂けたので、私は『生き返り』ましたか?」

「ええ、もちろんです。エイギス?」

「無礼を謝罪する。だが……」

「……セレスティエルの件は、別問題ですか」


 カルティアの言葉にエイギスは謝罪の言葉を口にするが、彼の警戒は依然として解けていない。

 どれだけ敵対視されてるのよ、私。でもまあ新種のセレスティエルとか急に言われても納得できないことは理解できるけどね。


「その件は、モルガンから報告がありました。そして、先ほど認証であなたがセレスティエルである事は確認できました」

「区別、付くんですか?私の故郷で行った生体チェックではトワは普通の人間だと」


 口にしてから、ちょっと失敗したと思い、横目でトワの方を見たけど……特に気にした様子はなかった。

 自分が普通の人間ではないと言われて傷つくかと思ったんだけど。


 ……そういえばアリサも私も、三人とも「普通じゃない」ことが普通たっけ。

 二人と違って途中から「普通じゃなくなった」私には、未だに慣れない感覚なんだけど。


 カルティアは詳しく語ろうとはしなかったが、テロマーの識別が出来るシステムであればセレスティエルについても判別出来るらしい。つまり、何か人間用の検査機器ではチェックしないような項目に差異でもあるんだろう。


「あなたのエレメントには私も興味を持っています。お時間があれば、お話を伺いたいです」

「……ええ、まぁ」


 カルティアにそう打診されたが、尋問されるのは好きじゃ無い。代わりにセレスティエルの「取説」的な話が聞けるなら、時間を割く価値はあるかもしれないけど。

 なので即応はせずに言葉を濁して一旦保留しておく。


「それよりもアイリスさん。まずここへきた用事を先に済ませるべきでは?」

「そうだね。トワ?」

「うん」


 アリサが助け船を出してくれたので、尋問……いや、話し合いの件は有耶無耶に出来た。そして、本題だ。


「前に持ってきたアレ、何だった?」


 ざっくりとしたトワの質問に、機姫カルティアは一瞬の沈黙を挟み、答えた。


「あれは、放浪機(バーサーカー)です」


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