#8
>>Towa
会計局を後にした私達は少し寄り道をしたあとでアルカンシェルへ戻ってきた。
結局私とアイリスへの報酬はギルド預かりにしてもらった。預かると言えばアリサもレゾナンスブレードを預けていた。
なんでも修理……というか、再製造してもらうんだそうだ。出来たら取りに来るつもりなのかと聞いたら、アリサは悪い顔をしてこういった。
「持ってこさせます。あの、ボンクラ……じゃなくてオンボロで」
「アリサ、オンブル」
アリサはオンブルに何か恨みでもあるんだろうか。いや、さっき初めて見たところだから恨む要素もないと思うんだけど。
そんな事を言っているうちにいつの間にかアリサが手配していたらしい補給物資がアルカンシェルに積み込まれ、私達はオラクルを離れた。
アルカンシェルのブリッジから遠ざかる八面ダイスを見ながら、私はタカマガハラの一件がこれで一段落したんだと改めて思った。
そしてオラクルから随分と離れジャンプ可能な距離に達した頃になって、ようやくアイリスが話を切り出してくれた。
お姉ちゃんの欲しいもの。私ががんばって用意しないとね。
「――でね二度続けて、それも違う方法でブラスターが無効化されたから、これじゃいけないと思ったんだ。でも、私はアリサみたいに剣を使えないし、銃と言えばブラスターとその派生形しか無いじゃない?だから、どうしたものかと思って」
……残念ながら、私が用意できる類いのものじゃなかった。ブラスターじゃない銃で、フォトンシールドや神剣に対抗できる武器。
そんなの、存在するんだろうか?
「ブラスターではないとすれば、レトロな実弾銃で弾を工夫するとかですか?」
「それも考えたんだけどね、どう工夫してもフィールドにも神剣にも対抗できなさそうなんだよ。あとは……まぁ、無いと思うんだけど機械の獣と再戦することを考えたらブラスターじゃ心許ないしね」
「機械の獣……。ああ、あのコンテナに入っていたというやつですね」
アイリスはそう言うとフォトンタブ経由でアルカンシェルに機械の獣の推測データを表示した。
そういえばアレ、何か奇妙なフィールドみたいなのを纏ってたっけ。収束射撃でなんとか貫通できたけど。私はそのデータを見ながら、ダメ元でアルカンシェルに聞いてみた。
「アルカンシェル。これ倒せる武器、ある?」
[Affirmative.]
うん、そうだよね。そう上手い具合にはいかないよね。
……と思ったんだけど、表示されているのは「Affirmative」つまり、肯定だ。
本当に?アルカンシェルが作られた時代にあった、とかか?G15が実は持ってたとか?
うん、たぶんそうだよね。手に入らないとは思うけど、一応場所だけは確認しておこう。
「どこにあるの?」
[Under Your Butt, Mam.]
へ?私の……お尻の下?
どういうこと?私たちが今いるのはアルカンシェルのブリッジで、座って話をするためにプリーズ側のシートに3人で座っている。
私は自分が座っているシートを見たけど、座り心地が良いことを除けば普通のシートだ。これを取り外して殴るとか、そんな感じ?
私が混乱していると、アルカンシェルが続けて文字を表示してきた。
[Survival Pack Under the Sheet.]
一応、ちゃんとした説明はしてくれたけど……もしかしてアルカンシェル、さっきのは私をからかってた?
私がアルカンシェルに文句を言おうかと考えている間に、ホロディスプレイに表示されたアルカンシェルのメッセージを見ていたアイリスとアリサは、シートの下を覗き込んでいる。
「シート下には何もないよ?」
「あ、私のシートの下にはありますね……」
そして私が覗き込んだシートの下にもあった。アリサが座っていたのはパイロットシート。私のはたぶんナビゲータ席。
アイリスのは……ブリーズとして飛ぶ時は私が座ってる乗客用のシートだ。正規クルーの分しか用意しないとかちょっとサービスが悪いよ、アルカンシェル。
それに、こんな所にサバイバルパックがあるなんて聞いてないよ?これじゃあ、もし遭難したとしてもパック持たずに船外に出てるよ……。
私がそう文句を言うと、アイリスに聞かなかったからだと言われた。
そういえばブリーズの件も聞かないと教えてくれなかったっけ。実はまだ秘密を隠してそうだよね、この子。
いや、秘密というか、私達が気付いていない機能や装備って事だけど。
ともかく、私とアリサはサバイバルパックをシートの下から引っ張り出した。狭いコクピットで開封するのは問題がありそうだったから、キャビンへ移動して開けてみることにする。
何が入っているのかとワクワクしながら開いたパックの中身は……。
「食料らしきものに簡易医療キット。あとはナイフと、銃ですね」
「アルカンシェル、どっちがその武器?」
まさかナイフじゃないだろうとは思ったけど、銃の方もおもちゃみたいな造りでとても強敵を倒せそうには見えなかった。
私の言葉にアルカンシェルが表示した答えは……。
[That Gun is "Phaser".]
「フェイザー……?アルカンシェル、このフェイザーという武器に関する技術情報を出してくれる?ホロディスプレイと、あと私のフォトンタブにも送って」
アイリスが使ってるXthよりもさらに一回り小さい、手のひらにすっぽりと収まりそうな小さな銃。
それが……フェイザー?
何だろう、それ。私が戸惑っている間にもアイリスがアルカンシェルに指示を飛ばしていた。
表示された情報によると、アルカンシェルが建造された目的である「敵」との戦闘を視野に入れた新開発の銃らしい。
正式名称は……位相変調エネルギービーム?
良くわからないけど、エネルギーを直接撃ち出すブラスターとは違った系統の攻撃を行うみたいだ。
アイリスは夢中になってフォトンタブの情報を読んでるけど、正直私には技術的な事はさっぱり判らない。隣でホロディスプレイを読んでいるアリサに声を掛けてみた。
「アリサ、判る?」
「ええ、大まかになら……要するに、相手の防御フィールドや構成物質に応じて変調したビームを投射することで、防御を無効化、物理構造を破壊するというトンデモ兵器みたいですね。こんな武器があるなんて聞いたこともないですが……」
「アルカンシェルが積んでるなら、昔の武器?」
「ええ、それは間違いなく。ロストテクノロジーの類いだと思いますが、問題はこのフェイザーという武器が後世に伝えられていないことです。これだけ強力なのに失伝しているということは、何か問題があるのではないかと……」
私とアリサがフェイザーという銃を見ながらそんな話をしていると、フォトンタブの情報から目を離さないままアイリスが声を掛けてきた。
「製造コストが馬鹿高い上に、かなりクセがある武器だから一般の兵士には使いこなせないだろうって。アルカンシェルはその『敵』とやらに対抗するための船だから、敵との遭遇に備えて配備されてるみたいだけど」
「要するに使いづらくて、後の世には廃れた武器ですか?」
「たぶんね。でも、詳しい情報が載ってないんだよね……この情報、体裁からすると開発費獲得のためのプレゼン資料の類いじゃないかな。惜しいなぁ、技術ディテールが判れば使えるかどうか判断できるのに」
「そのままじゃ使えない?」
「さすがに撃つとどうなるか判らないものじゃ試射もできないからね……。アリサが言うみたいに廃れた武器だから、もしかしたら何か問題があるのかもしれないし」
アイリスはそう言いながらも資料から目を離さない。きっと、面白い情報が載ってるんだろうな。私にはわからないけど。
「でもトワ、これ本当に貰っていいの?すごく高価みたいだけど」
「私のじゃない」
「何言ってるのよ、アルカンシェルはトワの船でしょ?その備品だからフェイザーもトワのものだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。だって、さっきギルドで私船登録してきたからね。アルカンシェルはトワのものだって」
そういえば前にアリサがそんな事を言ってたっけ。あれ?でもあの時は私の名義じゃなくてアリサの名義にしたほうが良いって言ってなかったっけ?
「さっき局長が言ってたでしょ?オンブルの事があるから、もうアルカンシェルがトワの船だって公言しても問題ないんだよ」
「そうなの?」
「そう。でね、このフェイザーは私が貰って良いの?」
アイリスの目が期待に輝いている。これだけ物欲しそうな顔をしているアイリスは……子供の時以来かもしれない。
そしてもちろん、私はお姉ちゃんの期待を裏切ったりしない。
「もちろん」
「ありがとう、トワ!」
「あ、ずるいです!私も抱きつきます!」
良くわからない間に、私は二人の姉に抱きしめられていた。
ちょっと苦しいけど、でも幸せだ。
ちなみに、サバイバルパックに入っていた食料は私がG15の星で食べたやつと同じ物だった。これ、成分分析して量産すれば大もうけ出来るんじゃないかな……?
私かそう言うとアイリスは笑っていたけど、アリサの目は意味深に輝いていた。ひょっとしたら、近いうちにペレジスから本当に売り出されるかもしれないね。
もし売り出されたらグリットの代わりに備蓄しよう。
その後、アルカンシェルにフェイザーの在庫について聞いたけど、結局見つけた二つのサバイバルパックに入っている分だけしか搭載されていないという答えが返ってきた。
フェイザーにはカートリッジらしきものが見当たらないので使い捨てかと思ったけど、アルカンシェルがチャージしてくれるらしい。
私の質問に応えていつものように充電端子が隠されたスロットが開いたのを見てちょっとだけイラっとしたけど……まぁ、それはいいか。
でもどうして何でもかんでもスロットの中に隠すんだろうね、古代の人。もっと判りやすくしてくれれば、私も困らなかったのに。
その日の夜、クレリスへ向かってジャンプドライブを作動させる前にささやかだけどアイリスの管理官復帰祝いをした。
アリサが料理をすると言ったけど、今回はお祝いだからと以前貰った「幹部用厳選素材のグラット」を食べる事にした。
さすが厳選素材というだけあって、とても美味しかった。アリサは経費の無駄遣いだ、職権乱用だとちょっと微妙な表情をしてたけど、いいじゃない。美味しければ。
アイリス?お姉ちゃんならずっとにこにこしてフェイザーを見つめてた。まるで新しい玩具を手に入れた子供みたいで微笑ましかったけど、こんなにはしゃぐアイリスを見るのは、子供の時以来かな。
お祝いの後は交代でシャワーを浴びてさっぱりした後、キャビンでまた少しおしゃべりをした。そして私達はそれぞれの部屋で眠りに就く。
目覚めた頃にはクレリスに着いているだろう。
今度は、どんな冒険が待っているんだろうか。
そんな事を考えながら――私は幸せな眠りに落ちた。
オラクルでの後始末編はこれで終了です
二等管理官に復帰し、フェイザーなる新武装を手に入れたアイリスの活躍やいかに!
次回は短い幕間を1つはさみ、再訪した惑星クレリスでの物語が始まります
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