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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部5章『真実は影と共に眠る』オラクルXVIII-謀略の要塞
219/224

#6

>>Iris


 アリサの要求に応える形でスゥ局長が見せてくれた黒い小型艇、「オンブル」。その船には……レゾナンス「ジャンプ」ドライブが搭載されている……?

 まって、今ジャンプって言った?それって!


「どうしてそんなものが急に出てくるんですか!」

「ギルドからの技術提供を元にダンディライアンで開発したものですよ。最終擬装を施しているこちらのプロダクトモデルは数日前に納入されたところですが……。アリサ、あなたもオズワルドという機族に心当たりはあるでしょう?」


 噛みつかんばかりの勢いでスゥ局長に食ってかかるアリサに対して、局長は極めて冷静に対処している。

 オズワルドと言う名前は私にも聞き覚えがある、たしかダンディライアンに所属する船大工の機族だ。


「ちょっと待ってください!オズワルドやモルガンがアルカンシェルを見たのは半月ほど前ですよ!?そんな短期間で、超光速船を作るなんてありえない!」

「あら、あなたにしては珍しいですね、アリサ。……トワ様、お心当たりはありますか?」

「うん。ごめん、アリサ。オズワルドは随分前にアルカンシェルを見せてる」


 そういえばトワがアルカンシェルを入手してすぐに、船内改装のためにダンディライアンへ一度立ち寄ったことがあったと聞いている。

 たしか……惑星上の時間だとそれは30年……いや、それ以上前になるだろう。それにしても何百年も研究されていたものが30年で実現化するのは早すぎる。


「局長、事情はわかりましたが……早すぎではないですか?」

「ダンディライアンの機族達は長年超光速航行について研究を重ねていました。基盤となる技術の研究は終わっていましたか、どのようにそれを実現すべきかという根本的な部分が判らず迷走していたのです。そこへトワ様のアルカンシェルが現れば……どうなるか、判りますね?」

「超光速航行が重力制御によることを観測して、研究の方向性が定まった……?」

「そうです。あとはレゾナンスフィールドの技術を応用し、擬似的な重力制御技術を核として産み出されたのが、レゾナンス・ジャンプドライブです。現にこちらの試作機の方は完成してからもう2年ぐらいになるんじゃないかしら」

「私、なにかやっちゃった?」

「トワ様ぁぁ、超ド級のやらかしですよ、それ!ぼーっと旅の影響がこんな所に、こんな形で!」


 悪びれずにそういうトワにアリサが珍しくガチ切れしてるけど、私にはまだ気になる事があった。

 それは……この船がギルドに納入されているという事実だ。スゥ局長が言うには2隻あるオンブルのうち、完成している方の「試作機」は2年近く前にギルドへ納入されていたらしいけど……。


 そんな試作機が納入されていると言うことはつまり、オンブルの開発にはギルドが、いや、スゥ局長が一枚噛んでいるということに他ならない。


「局長はグリーフという、誰も知らないはずの古代遺跡の管理知性体のことを知っていましたよね?つまり、あなたには私達が知らない、遺失技術についての知識がある」

「……!メラニー!あなた、そんな知識を独占して……!」

「ギルドの長い歴史の中で蓄えられた知識の中には、そのようなものも含まれています。ですが、知識は全て公開することが正しいとは限らない。私はそう考えているのです」


 スゥ局長の言葉は真理ではあるけど、その正しさを判断するのが局長個人であるというのは少々納得がいかない。

 おそらく今回、機族達が超光速船の開発に成功したのは、出所不明なその「知識」の恩恵あっての事だろう。


 なら、これまで秘密にしていたその知識を何故急に開示した?私がその問いを口にする前に、スゥ局長は自らその答えを口にした。


「トワ様を、守るためですよ」

「トワを?」


 何故、秘匿した知識の開示に私の妹が関係している?それも、守るため?アルカンシェルと……トワと……守る……?

 まさか!私とアリサが私船登録してトワを守ろうとしたように……?


「トワ様が星々をありえない速度で巡り、依頼を達成されていたことは統括局にもすぐに異常事態として報告が上がりました。そしてそれが超光速航行によるものだと結論づけられるまでにはさほど時間は掛かりませんでした」

「気付かれてた?」

「……まぁ、当然ですよね……うち(ペレジス)の支部でも、受付が目を丸くしてましたし。おそらく上役に報告は行っていたでしょうから」

「一部の幹部はトワ様を捕縛して超光速航行の秘密を聞き出すべきだとまで言い出しました。それを押さえるためには……ギルドが超光速船を持つ必要があったのです」

「だから、知識を開示して機族にこれを作らせた……?」

「ええ。ただ、あくまでもオンブルは見せかけだけのものです」


 そう言うとスゥ局長はオンブルという航宙船の性能について説明してくれた。

 オンブルに搭載されているジャンプドライブはあくまでも擬似的なもので、ジャンプ性能は最大でも5パーセク程度とアルカンシェルの数%程度の距離しか跳躍できず、また生成出来るジャンプゲートの大きさから一人乗りの連絡艇を跳ばすのが限界。


 さらに機体サイズが小さいので蓄積できるエネルギー量が制限され、一度の航行で1回しか跳躍できないという制約もあるらしい。

 極めつけにC3の能力を最大限に発揮する必要があるため、搭乗者には最低でもDランクのシンガー能力を必要とするーー。


「なんですか、それ!私に対する当てつけですか!?」


 そういえばアリサ、Eランクだったよね。

 スゥ局長が笑っているところを見ると、もしかしたら、本当に当てつけなのかもしれない。


 それにしても……確かにオンブルの性能はアルカンシェルと比べると「児戯にも等しい」レベルだけど、それでも亜光速航行でしか飛べない船とは大違いだ。

 局長はこれをどう使うつもりなんだろうか。


「この船は高額なので少数しか生産できません。試作機は技術部と統括局が共同で試験運用していましたが……当面は正規配備されるものは殆どを監察官に与える予定です」

「監察官……なるほど」


 そうか、それはこれまでも問題になっていた事に対処するための決定だ。

 不正の情報は光よりも早く届くが、監察を行う担当官は光よりも遅くしか到着できない。その致命的なタイムラグが招いた悲劇は多い。

 しかしオンブルがあれば……。



 その後、トワがミッション報酬としてオンブルが欲しいと言いだしたが、私とアリサが必死に止めた。

 なにせこんな実験中の船を使わなくても、より高性能で実用的なアルカンシェルがあるわけだし。それにギルド機密のオンブルを貰ったら、どんなミッション(モルモット役)を押しつけられるかわかったものじゃないからね。


 しかしこの船を託される事になる、新設の役職である特命監察官とやらに任命される人は大変だろうな。

 恒星間移動による休息期間すら与えられず、各地を飛び回る事になるんだから。よほどエネルギッシュで情熱的な人でないと、乗りこなせないんじゃないかな?このオンブルは。


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