#5
>>Towa
アイリスが私の守護者。うん、それは事実だし、私にとって自然なこと。
確かにエミリーはアイリスに次ぐ私の親友だし、ジョッシュはまぁ再会したときには良い団長をやってたし私の事を気遣ってくれてたけど……。
でも二人のどちらかと旅をしたいかと言われれば――エミリーには悪いけど――それはNoだ。私はアイリスだから……お姉ちゃんだから、一緒に旅をしたかったんだ。
そんな事を考えているとアイリスが何かに思い当たったように、顔を上げメラニーに質問を投げかけていた。
「じゃあ、もしかしてあのコバヤシマルのシミュレーションって……」
「ええ、そうです」
「なんですか、そのコバヤシマルって」
どうやらアリサはそのコバヤシマルと言うのを受けたことがないようで、それはつまりその課題こそがアイリスのために用意されたものだと言うことなんだろう。
アイリスが言うにはコバヤシマルという民間船を救助するミッションのシミュレーションらしい。
その船は敵勢力との中立地帯に迷い込んでいて、自分の指揮する船が中立地帯に侵入すれば敵が攻撃してくる可能性が高く、さらに状況は刻一刻と変化する……要するにとんでもなく高難易度のものなんだそうだ。
指揮を執る者は戦況を見ながら最善の決断を下すことが求められるんだけど、このシミュレーションには正解がなくて、結局、必ず全滅するんだとメラニーは補足してくれた。
それが守護者とどう関係するのかは良くわからないけど……。アイリスは自分が行った作戦指揮について教えてくれた。
アイリスはまず援軍の要請を行ったらしいけどそれは却下され、その後は交渉による時間稼ぎや無人機を使った陽動作戦や通信妨害なんかを適時展開。
戦端が開かれ劣勢になっても諦めず、船体を盾にして救命艇を収容。
最後には二つある推進器の片方を囮として切り離し、片肺で脱出したらしい。
「アイリス、結果は?」
「艦は大破判定で乗員も半数が死亡。コバヤシマルも沈んで、救命艇一隻しか救助できずに撤退」
アイリスは憮然とした表情でそう言った。でも全滅するのが普通だと言うシナリオで、その結果は十分な戦果じゃない?
「あの性格悪いテスト、みんな受けてるものだと……」
「いいえ。アイリス、あなただけですよ、あれを受けたのは」
「シミュレーション結果の評価、教えて貰ってなかったですよね?」
「あなたの結果は、私が期待していた得点よりもさらに高得点でした。おそらく最高得点じゃないかしら。泣きべそかきながらも最期まで指揮を執り続けるあなたはとても勇敢でしたよ」
「げっ……見てたんですか!?」
「ええ、もちろん。それもテストの一環ですから」
「なんですか、その試験。軍隊の士官学校じゃあるまいし。メラニー、うちのギルドは通商組織ですよね?」
「ならアリサ。あなたもこの試験を受けるとしたら、どうしました?」
メラニーは笑顔でアリサにそう質問する。アリサは一瞬嫌そうな顔をしたけど、きっぱりと答えた。
「私『も』と言う事は他にも受験者がいますよね?まず他の受験者からシミュレーションの内容を聞き出します。そして、攻略不能だと判断したら……そうですね、システムをハックして課題そのものをクリア出来るように書き換えます。だってムカつくじゃないですか、クリアできない試験なんて」
「いかにもあなたらしい答えですね」
「それ、皮肉ですか?」
アリサはそういうけど、私も現実主義者のアリサらしい答えだと思った。
もし私なら……後先考えずにコバヤシマルの人を助けに行くんだろうな。でも、味方は犠牲にしたくないから、きっと一人で突っ込んでいって、少しは助けられるかもしれないけど、私も死んじゃうんだ。
うん、私はこの試験絶対に合格できないよね。
「つまり、この試験の意図は……」
「ええ。守護者としてトワ様と共に旅をする過程であなたは様々な事態に遭遇するでしょう。そして、それは正義や真実が誰の目にも明らかな場合だけとは限りませんし、時には規則や掟を破る選択が必要になるかもしれません。そんな状態でも最期まで諦めずにベストを尽くせる人物。それこそが、私の求めていた守護者です」
「なら、タカマガハラの件も……」
「ええ、あなたは型破りな方法ですが、事態を解決して見せました。それは管理官としては逸脱した行為かもしれませんが、それこそが私が求めていたトワ様の守護者、介添人のありかたです。そして……あなたは、その資質があることを、私が選ぶまでもなく自ら証明してみせたのですよ」
メラニーはそう言って話を綺麗にまとめようとするけど、私は不満だった。
もの凄く不満だった。
「おばあちゃんに言っておくことがある」
「何ですか、トワ様」
「私は、誰と旅するか自分で決める。私は、誰に言われなくても、お姉ちゃんと旅をする」
「……そうですね。この件は私の勇み足、差し出がましいことでした。深く反省し、謝罪いたします」
「謝罪は受け入れるけど、もうこんなことしないで」
「承知しました。……アイリス、あなたには管理官としての能力があり、そして最初からトワ様と共にあるべき存在だということです。だから、先ほどの問いに対する答えは『はい』であると当時に『いいえ』でもある。私には選ぶ権利などなかったのですけどね」
「……わかりました。ありがとうございます」
そう答えたアイリスの瞳には涙が浮かんでいた。きっとこれは安堵の涙というやつだ。
そして……アイリスは抱きついたままだった私の体を抱きしめ返してくれた。
アイリス。
私のお姉ちゃん。
誰かに選ばれた相手じゃなくて、私達が互いに選び合った相手だ。
「ちょ、トワ様!?どうして公衆の面前で抱き合ってるのですか!?……メラニー、私にもその試験を!アイリスさんの得点を上回って見せますから、私もトワ様の守護者に!」
「アリサ、ずるはダメ」
「なんでハックする前提なんですか!?って私が言ったからですか!?ええい、敵の艦隊ごとき、民間船もろともこのアリサ・シノノメが殲滅して……!」
「アリサ、それ守護者以前にアウトだよ?たぶん、ハックするより点低そうだし」
アイリスはそう言うけど、アリサも私が選んだ、私を選んでくれたもう一人の「姉」だ。
私達の選択は誰にも文句を言わせない。
私達は3人で旅を続けるんだ。
>>Alyssa
アイリスさんの資質――たぶん、ギルドの管理官ではなく、宇宙艦隊の指揮官っぽい感じですよね――の件が落ち着いたようなので、私もメラニー相手の会話に積極的に参加することにしました。
「ところでメラニー。昨日途中で止まっていたミッション報酬の件ですが。私とトワ様の分もアイリスさんと同程度を保証していただけますね?」
「報酬、ですか?確かにアイリスには報酬を出す予定ですが……あなたと、トワ様にも……?」
「ええ、昨日言ったじゃないですか。私達に報酬を、と」
むろん、それは真っ赤な嘘ですけど。
「……ええ、そうでしたね。では報酬について話をしましょう。トワ様は何をご希望ですか?」
……おや?思った反応と違いますね?
昨日、メラニーが朦朧状態だった事につけ込んで、曖昧な回答をしたと言いがかりを付ける予定だったのですが、一瞬逡巡した後にメラニーは私の嘘をあっさりと受け入れました。
記憶が曖昧だったとしても、普段の彼女なら「そうでしたっけ、うふふ」とか言ってごまかしてくると思ったのですが。
強い違和感を感じます。目の前に居るこれは……本当に、あのメラニー・スゥなのでしょうか?
「私?……思いつかない。保留にして」
「おや、そうですか。判りました。ではアリサ、あなたはどうしますか?」
そういうメラニーの表情からは、謀の気配は窺えません。らしくない。そんな思いが強くなります。なら私が要求するのは……。
「ではメラニー、私への報酬は私達への監視、盗聴を行わないことで手を打ちます」
「わかったりました。でも、どうやって盗聴してないことを証明すればいいのかしら?」
私の要望を率直に受け入れる風を装いつつ、即座にそう切り返してくるのは老獪で油断ならないメラニー・スゥのものです。
その反応自体はいつも通りですが、それ故に先ほどの違和感がより強くなりました。ですが、まずは盗聴のことを追求しなければ。
「言いたいことはわかります。悪魔の証明ですからね。なら、どうやって盗聴しているのか仕組みを開示してください」
「もう知ってると思ったけど……まぁ、別にいいわよ。……ただし、あなたが私の後を引き継いでくれるなら、と言う条件でなら。だって必要になるでしょう?」
なるほど、そう来ましたか。私が彼女の後継者になるつもりなど欠片もないことを知った上での提案ということでしょう。それはつまり……。
「……それ、盗聴を止める気がないってことですよね?」
「あら、私は誠実な対応をしてるのだけど」
「メラニー。私、あなたのことが嫌いです」
「あら、私はあなたのことが好きよ、アリサ」
この食えないやり取りは間違い無くいつものメラニーです。それ故に私の不信感はさらに強まりました。
そして盗聴については……まぁ、これ以上押しても無駄でしょう。一応、盗聴を認めさせた上で、私が採った防諜対策がある程度の効果を上げている事は確認できましたから。
なら、別の情報を引き出すしかありません。
「わかりました。ではこの件については取り下げます。なら代わりにアルカンシェルについてあなたが把握していることを話してもらいます」
「あら?それでいいのかしら?せっかくですから、良い物を見せてあげるわよ」
「良い物?珍しくサービスがいいですね?」
「ええ、だって私はあなたの事が好きですから」
「やめてください、気持ち悪い」
……あ、つい口に出してしまいました。ですがメラニーは気にした様子も無く……会議室の奥へと歩み寄ります。
どうみても出入り口とは逆で、そちらは行き止まりです。もしかして昨日のことで耄碌して方向感覚がおかしくなったのでしょうか?
私達が黙って見つめているとメラニーは何も無い壁に手をかざし、何事かを呟いています。あれは……音声認証と生体認識?まさか……。
「さぁ、こちらへ。トワ様、足下が暗いですからお気を付けて」
そういうメラニーの前には、壁がスライドして開いた隠し扉と……下方へ続く階段が現れていました。
メラニーの後に続いて、所々にセンサーやトラップの様なものが見え隠れする物騒な階段を降りることしばし。行き止まりには扉が設置されていました。
メラニーは取り出したカードキーをスリットに通し、キーパットにセキュリティコードを入力しています。どれだけ厳重に守ってるんですか、ここ!
そして重々しく開いた扉の先には……研究室?
いえ、これは小型の航宙船……いえ、連絡艇のドックでしょうか……?
ドック内には漆黒の小型艇が2隻、係留されています。1隻は既に完成しているようですが、もう一隻は艤装中のようにも見えます。
船体から見える推進機関はレゾナンスドライブのようですが、船体サイズを考えると搭載されているC3は破格の大きさです。なんでしょうか、これは。
「これがアルカンシェルと何か関係が?」
「ええ。この船は現在配備を進めている新型艇で『オンブル』と呼んでいるものです」
「オンブル……ですか?オンボロでなければいいのですが」
「確かに、トワ様のアルカンシェルと比べると児戯の様なものでしょうね」
私の嫌味にもメラニーは動じません。ですが、どうしてここでアルカンシェルの名前が……まさか……?
「メラニー!この船、まさかっ!」
「ええ。オンブルにはロストテクノロジーを参考に開発した、レゾナンス・ジャンプドライブが搭載されています」




