#2
>>Alyssa
私の人生を支えてくださるというトワ様の提案……いえ、プロポーズに感激した私は、トワ様へのアンサーとして熱烈な求婚を行いました。
これはもう相思相愛、結婚待ったなしです。なのに、アイリスさんが冷静なつっこみを加えてきました。
「……シリアスな空気が台無しだよね。でもアリサ、本当に無理しないでね?あなたの長い人生は決して孤独じゃないから。私もトワも一緒に歩んでいくから」
「ええ、もちろん承知しています。お二人に頼らせて頂きますよ」
微笑みを浮かべて言う私の言葉に、地剣が――カレンが「ならばやってみせろ」と言っているように思えました。
「ところでアリサ、この剣はなんて言う名前なの?」
「天剣の方はカレンがアマテラスと呼んでいましたが、こちらは判らなくて。知ってそうな幹部は全滅しましたから、タカマガハラでは確認もできませんでした」
「アリサ、ここ……鍔元に銘みたいなものがあるよ。意匠化されてて読みづらいけど……『月読』?文字かな?記号かな?読めるものなのかな」
「たぶん、古語だと思います。問題はどう読むか……なのですが」
私はおそらくこの銘が、謎の多い「神剣」のことを知る手がかりになるだろうと考えていました。古代の航宙船であるアルカンシェルなら銘を解読できると踏んではいたのですが……問題はメラニーの存在です。
アルカンシェルに戻ってすぐ銘について聞くことも考えましたが、神剣についてメラニーにあまり不要な情報を与えたくはありません。
なにせ彼女は純粋な味方とは思えませんし、もし敵対することがあれば神剣はこちらの切り札になりうる可能性がありましたから。なので先に盗聴対策を行ったわけです。
おそらくある程度の防諜効果は望めると思いますので、ようやく本題に入ることができます。
そんな訳で、私はアルカンシェルに刀身を提示し、指示を行いました。
「アルカンシェル、映像スキャンを。この刀身に刻まれている銘を解析してください」
[Yes, Lady.]
[Scanning...Analyzing ...... Complete.]
[This Pattern is “TSUKUYOMI".]
「ツクヨミ……?」
「読みが判ればアルカンシェルのデータバンクで調べられるね」
アイリスさんはそう言うと早速フォトンタブでデータバンクを検索しています。私は地剣……ツクヨミの折れた刀身をまじまじと見つめました。
「ツクヨミ?」
声を掛けると、黒い刀身がぬらりとした光を放ちました。……まるで意思を持つかのように。
ですが柄を握った手には何の感情も伝わってきません。この剣に意思がある訳ではない。私はそう思うことにしました。
それにしても正直、ちょっと気持ち悪いですよね、黒い刀身って。ああ、白い刀身のアマテラスとか、青く輝くレゾナンスブレードの方がよほど私に似合うと思うのですが。
どうして私に宿命づけられた剣はこんなにどす黒いのでしょうか。
「その剣、アリサに似合ってる」
「どこがですか!?」
「アリサ、影の支配者だし。ときどき腹黒いし」
「トワ様っ!?それ酷くないですか!?私、傷つきました!慰謝料として即時の入籍を求めます!」
「そういう所が黒いって言われるのよ、アリサ」
「アイリスさんまで!?どうして!私、こんなにも清廉潔白で可憐な美少女なのに!」
そう口にしてから気付きました。カレン……出会った当初は苛烈なイメージでしたが、あの子の本質は理想を夢見る可憐な乙女だったのかもしれません。
黒き理想の乙女と、白き現実の乙女……そんな言葉が脳裏に浮かびます。
ええ、決して腹黒き現実の乙女ではありません。
「ところでツクヨミについて判ったよ」
アイリスさんの言葉に現実へ引き戻されました。
説明によるとツクヨミとは古代に起源の星で信仰されていた月神の名で、太陽神であるアマテラスと対になる神だそうです。
三貴神の一柱と言うことですが、黒い刀身は夜を意味しているのでしょう。……よかった、腹黒い神様とかじゃなくて。
そしてツクヨミもアマテラスも、名前が失われたもう一柱の神も、皆同じ神様から産み出された姉弟神だとか。
ということは、タカマガハラで謳われていた神剣がオリジンスターからもたらされた……と言う伝承にはある程度の真実味があったということなのでしょうか?確かカレンは神剣は開祖が盗んできたと言っていましたが……。
「オリジンスターにまつわる伝承ねぇ?そもそもオリジンスター自体が伝説なのに、その星の伝承ってどれだけ眉唾モノなのよ」
「伝説の伝説?」
「それ、もはやフィクションだよね……」
地剣の銘から神剣の由来を探ろうとする試みは早々に挫折してしまいました。
神剣の素材であると言われるヒヒイロカネのあり得ない特性……1000年を経て劣化せず、鋼鉄をも切り裂き、そして人の想いに反応する特性。さらにはエネルギー兵器への圧倒的なアドバンテージ。
ロストテクノロジーというよりは、オーバーテクノロジーの類いではないかと思える謎の素材には強い興味を惹かれますが……。
その後、アルカンシェルに神剣の来歴やヒヒイロカネについても質問を行いましたが、結果はいずれもデータ無し。そしてオリジンスターについても当然データはありませんでした。
神剣にしてもヒヒイロカネにしても現物がここにあるとは言え、さすがにそれ以外の手がかりが少なすぎます。まぁ、来歴がどうであれ強力な武器であることは間違いないのですが。
本来であれば私が回収した、砕けて結晶構造のような形状になったアマテラスの破片やツクヨミの折れた刃先をギルドに提出して成分分析に掛けるのが正攻法なのでしょうけど……。
私はどうしてもそんな気になれず、結果としてツクヨミの刃先は鞘の中にしまったまま、アマテラスの破片も私室に保管したままになっています。
「知ってそうな人、いない?」
「可能性があるとしたら……スゥ局長かな?」
「嫌ですよ、メラニーに頭下げて物を聞くなんて。それにツクヨミのことはメラニーには秘密にします」
「アリサ、いつの間にかすごい局長アンチになったよねぇ。あと知ってるとしたら……機姫カルティア?」
確かにデータベースちゃんなら知っている可能性はあるかもしれません。なにせ、1000年以上前から存在している、機族の姫だそうですし。でも、機姫カルティアは面会予約を取るだけでも数年待ちだと聞いていますし、そう簡単にコンタクトは……。
「そういえば、機姫がまた来いって」
「ああ、そういえばそんな話してたよね。でもそれ、何時の話?」
「……わからない。たぶん、50年ぐらい前」
「トワ!?ちょっとそれ待たせすぎじゃない!?」
「いつでもいいって言ってた」
「いや、限度ってものがあるでしょ……。じゃあ、ギルドへの報告が終わったらクレリスへ行って、ちゃんと謝って話を聞くこと。アリサもそれでいい?」
「うん」
「いいというか、願ったり叶ったりです」
まさか行列が出来る機姫カルティアに予約済みとは、さすがトワ様です。でも問題はその予約が50年経っても有効かどうか、ですよね……。




