#1
>>Towa
タカマガハラを離れ、ジャンプドライブを起動したアルカンシェルはオラクル近郊の宙域まで戻ってきた。
天体とは違いオラクルは重力圏が小さいから、近くても安全にジャンプアウトが出来る。
惑星だと1光日ぐらい距離が必要だけど、オラクルの場合はアルカンシェルだと通常航行でも小一時間で着く距離だね。
あとはミッション報告をすればこの件は終わり……と思っていたんだけど、アリサが何やら難しい顔をしている。
「アリサ、どうしたの?」
「オラクルに戻る前に行っておきたい措置があります。あと、調べたいことも」
「あー、措置の方は判るけど……調べ物?」
「ええ、でもまずは措置のほうを。トワ様、よろしいですか?」
「うん、いいよ」
アイリスは「措置」が何か判ってるみたいだけど、私には判らない。でもまぁアリサが必要だと言うなら必要なことなんだろう。
なので、私は深く考えずにアリサに返事をした。うん、これは丸投げじゃなくてちぃ姉ちゃんであるアリサへの信頼ってやつだ。
「では失礼して……アルカンシェル、通信設定の変更を。まず、私達が持っているC3通信デバイスの接続先を全てあなたに変更。以降全ての通信はアルカンシェルをプロキシとした代理通信で行います。可能ですか?」
[Affirmative.]
「では早速措置を。では続いて機器からの通信についてモニタリングを。現在、私達のフォトンタブから外部へのデータ送信は検知されていますか?」
[Negative.]
「よろしい。では次にアルカンシェル経由でギルドネットにアクセスしますが、今から私が良いというまで、データはフォトンタブへ通さずに解析処理に回してください」
[Yes, Lady. Ready to Connect.]
「ではアクセスを開始します」
アリサが何か作業を進めてるけど、それが何か私には良くわからない。
プロキシって……確かネットに接続するときに代理で使うものだよね?直接接続すると危険なところへアクセするのに使うとスクールで習った気がする。
でも、今繋いでるのはギルドネットだよね?アリサの意図がわからないので、アイリスに視線で説明を求める。
「アリサは今、盗聴対策をしようとしてるんだよ。ほら、スゥ局長が盗聴してる可能性があるっていう話、前にしたでしょ?」
「超おばあちゃんは超ストーカー?」
「いや、それ聞かれてるかもしれないからね?まぁ、ともかくどういう手段で盗み聞きしてるか、アリサは確認しようとしてるんだよ」
私達の事なんか盗み聞きしても仕方ないと思うんだけどなぁ。まぁ、聞かれるのは気持ちよくないから、アリサがなんとかしてくれるならそれにこしたことはないけど。
そんなことを思っていると、いくつかのサイト閲覧指示を出していたアリサが新しい指示を出した。
「では今収集したデータのフォーマットチェックを。通常の通信プロトコルにはない追加データがあればそれを抽出してください。該当する追加データはありますか?」
[Ready...Find.]
「やはり『使い魔』が紛れ込んでいましたか……。アルカンシェル、その追加データは全てのデータに共通していますか?」
[Affirmative.]
[But with Some Differences.]
「では、その追加データの構造を可視化してください」
アリサは指示を続けている。相変わらず何を言ってるのかわからないので、アイリスに熱視線を送って追加の解説を求めてみる。
「アリサはギルドネットにアクセスする際に、外部から盗聴プログラムが紛れて来ないか確認してたみたいだけど、どうやらそれが当たりだったみたいだね。ほら、今画面に出てるあれが『使い魔』って呼ばれる半自立型のプログラムだよ。見た感じだと……あれが周囲の音声を記録して、ギルドネットに持ち帰るようになってるみたいだね」
「ほほう」
超おばあちゃんは超面倒くさいことを仕込んでるらしいということはわかった。そしてアリサの指示は仕上げに入ったようだ。
「ではアルカンシェル、今のパターンに基づき、『使い魔』の侵入をブロック。また類似する追加データが発生した場合は同様の処理プロセスを経て自動的に検疫を。できますか?」
[Affirmative.]
「ではフォトンタブへの通信は通常状態へ復帰。さすがアルカンシェル、優秀ですね」
[Thanks, Lady.]
どうやら措置とやらは終わったらしい。でも、アリサはまだ思案しているようすだ。
「アリサ、上手くいった?」
「ええ、使い魔を使う盗聴はこれでブロックできると思いますけど……ギルドネットを介したリアルタイム通信は正直手の打ちようがありませんね。オラクルがノードに組み込まれてますし」
「……良くわからない」
「ごめんなさい、えっと……メラニーが盗聴できる方法がまだ残ってるということです」
「超ストーカー……」
「まったくです」
アリサはため息をついたけど、まぁある程度対策が出来たら上出来じゃないだろうか。次にアリサは調べたいものと言って、一振りの刀を取り出してきた。
「アリサ、その剣」
「はい、カレン……黒巫女から引き継ぎました」
見覚えあると思った。
私、それで思いっきり切りつけられたんだよね。今思えばほんと良く生きてたもんだ。確かタカマガハラの神剣だって言ってたけど、そうか、宗教統治が終わったから神剣もお役御免になったんだろうね。
でも、引き継いだと言うことは……。
「アリサ、巫女になるの?」
「いえ、引き継いだのは……呪いですよ。傷ついた現実と共に生き続けるという」
巫女の立場かと思ったら、もっと大変なものを引き継いだとアリサは言う。それ、本当に大丈夫なんだろうか?
アリサがカレンみたいに苦しむなら、その剣は捨てた方がいいんじゃないかな。
「大丈夫?辛くない?」
「……ええ、大丈夫です、トワ様」
「私、アリサの隣で支える」
「トワ様っ!それってプロポーズですか!?わかりました、すぐにタカマガハラへ戻って式を挙げましょう!宗教統治は終わりましたけど、でも神前式とか素敵ですよね!私、ウェディングドレスが良いと思ってましたけど、シノノメ家は伝統的に白無垢で式を挙げると聞いたことがあります!」
大変そうなものを引き継いだアリサを心配したけど、実は心配いらなさそうで安心した。いつも通りっていいよね。




