#28
>>Towa
私達は坑道の先にある非常用の脱出口から地表に出る事ができた。
タカマガハラの民も多くはこちらに逃げ延びてきている。地表の環境は厳しいものだからあまり長居できないけど、鎮火して煙が収まるまでは辛抱だ。
それよりも気になるのはアリサの事。アリサが黒巫女を追って飛び出してからかなりの時間が経つけど、未だに連絡が無い。アリサのことだから黒巫女に負けたりしてないと信じてるけど……少し心配になってきた。
「アイリス、アリサは大丈夫?」
「大丈夫よ、きっと。信じてあげて?」
「うん。信じてる……けど」
信じてはいるけど、不安な気持ちは抑えられない。それぐらい黒巫女は……カレンは強かった。
彼女に切りつけられた時の感触が忘れられない。盾越しでも伝わる気迫と殺気を思い出すと、今でも背筋が凍る。
「戦闘中かもしれないから、コールはできないしね……メッセージを送るという手もあるけど、あの子のフォトンタブは眼鏡型だからね。受信アイコンが視界に入ると邪魔になりかねないし」
「待つしかない?」
「今は……そうだね。でも、待つだけだとトワも気が滅入るでしょ?ちょっと体を動かそうか?」
アイリスはそう言うと、離れたところで神官と話していたアキラの所へ歩いて行った。
「アキラ、ちょっと教えて欲しいんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「さっき『屑水晶』を地表に捨てるって言ってたよね?どこへ捨てたか判る?」
「えっと……モリサキさん、わかりますか?」
「いえ、私にも……。誰か知っている者がいないか聞いてみます」
アキラも、彼女が話していたモリサキという神官も知らないらしい。でも確か屑水晶ってC3の事だよね?
しばらくすると、普段採掘をしているという民が場所を教えてくれた。私達がいる坑道出口から少し離れた、昼側に近い所にあるクレーターの中にまとめて捨てているらしい。
「トワ、見に行ってみようか」
「うん」
ここで待っていてもする事は無いので、アイリスの後についてクレーターの方へ向かってみた。
近づくにつれ、心臓の鼓動が激しくなるのが判る。これ……C3の気配……?
「……アイリス……ちょっと……待って」
「どうしたの?顔色悪いよ?」
「すごい……C3……気持ち悪いぐらい……」
私はC3が近くにあるとその存在を感じることが出来る。たぶん、エトワールとしての力だと思うけど……でも、この反応は初めてだ。
体が、心が、魂が……持って行かれそうになる。でも、一体どれだけのC3があればこんな事になるんだろうか?
「じゃあ、私が見てくるからトワはアキラの所へ戻ってる?」
「……大丈夫……少しおちついた。ゆっくり歩けば、大丈夫」
C3は決して私の敵じゃない。だからC3は私を傷つけたりしないけど……。
そんな事を考えながら、アイリスに手を引かれてクレーターの斜面をゆっくりと上がる。そして、頂上に到達した私が見たのは――。
「……嘘でしょ」
「……すごい」
私もアイリスも絶句してしまった。
そこにあったのはクレーターの中程まで埋め尽くされた、無数のC3。昼側に近いせいで眩い恒星の光を浴びて、数え切れない程のC3が幻想的な輝きを放っていた。
「これ……私達の故郷で産出するC3の10年分ぐらいあるんじゃない?ここの人達、手堀りだよね?」
「たぶんSランクもある。いくつも」
「一財産どころじゃないよね、それ。……あとトワ、ここで絶対歌っちゃ駄目だからね?」
「わかってる。歌ったら、死ぬ」
たぶんここで歌ったら、私の全てがC3に持って行かれてしまう。それは歌うまでも無く判った。
そして、その後もとんでもない光景と、捨てられた「屑」が持つ莫大な価値に唖然としながらクレーターの中を見つめていた私達だったけど、通信機のコール音で我に返った。
「アリサ!?」
『トワ様、アイリスさん、ご無事ですか?』
「それはこっちの台詞だよ!黒巫女……カレンっていう名前らしいけど、あいつはどうなった?」
『カレンは……私の友は……死にました』
「死んだ?それに、お友達?どういうこと……?」
『……詳しいお話は後で』
「わかった。そういえば街が火事になって、今坑道を通って外に避難してるんだけど、煙は大丈夫?」
『街の火災、収まっていますよ。多少煙は残っていますが、問題はなさそうです』
「じゃあ私達も戻るから、神殿……の跡地で合流。それでいい?」
『わかりました。それまでにお話しすることをまとめておきます』
アリサは黒巫女を倒したんだろうか?その割には友だと言ったり、少し沈んだ声で話したりしてたけど……。
その話は後で聞けるみたいだから、今はとりあえず街へ戻れるなら、そちらを優先しよう。地表は空気が薄いし放射線も強いからね。私達ならともかく、民には厳しいだろうし。
私達はクレーターいっぱいのC3に別れを告げ、アキラの元へと戻った。
その後、私達は民と一緒にタカマガハラへ帰還した。
街の火事は思ってたよりも燃え広がらなかったみたいで、煙も大半は地上へ排出されていた。延焼しなかった理由は火災現場を見てわかった。
燃えていた家屋の周囲が何も無い更地になっていて、その外側には延焼していなかったから。避難する前にアイリスが周囲の建物をブラスターで建物を破壊していたおかげで、燃える物が無くなって自然に鎮火したんだ。
「破壊消火ってやつだね。ダメ元だったけど、上手くいってよかったよ」
そう言ってアイリスは笑っていたけど、咄嗟の時にそれを思いついてちゃんと効果を出すなんて……さすが私のお姉ちゃんだ。
超おばあちゃんはこの功績だけでもアイリスを復職させるべきだよね。
その後、合流したアリサが黒巫女カレンの事を話してくれた。
なんでもカレンはこの星が滅びる未来を視て、それを防ぐために活動していたらしい。滅びの原因までは語らなかったけど、アリサの推測ではこのまま宗教統治が続くと遠からずタカマガハラは衰退して滅亡していただろうということだった。
だからカレンは、宗教統治を根絶するために過激な行動に出て……最期は巫女である自分もろとも、滅びの未来を消し去ったんだ……って。
正直、私にはカレンの考え方は理解できなかった。宗教統治がこの星にとって良くないものだったことは私にも判る。
でも、それを終わらせるために、どうしてリナみたいな罪の無い人まで殺さないといけなかったんだろう。もっと他の方法はとれなかったのかって。
「トワ様……カレンは、他人の助けを受けることを良しとしない、不器用な子でした。あの子が悩み抜いてたどり着いた、自分なりの出来ることが……これだったんだろうと思います」
アリサはそう言ったけど、たぶんアリサ自身も納得はしてないと思う。
だって、アリサはカレンの事を友と呼んでいたから。そしてカレンがこの星を外部に開かれた状態にして欲しいと言い残したと、アリサは言った。
「じゃあC3を強奪したのって、私達を……ギルドの人間をここへおびき寄せて、宗教という拠り所がなくなった星の行く末を託すため?」
「カレンは何も語りませんでしたが……おそらくは。カレンはC3の価値を知っていましたから、ギルドの人間であれば、この星に存続する価値があることを見いだせると信じていたのでしょう」
確かにギルドの人間でなければ水晶とC3の見分けは付かないのは事実だ。だって、アキラ達もC3の事を屑水晶って呼んでたぐらいたしね。
でも、私達のミッションはタカマガハラを見つけてC3を取り戻すこと。アイリスは……どうするんだろうか。
「アイリス、どうするの?」
「その事だけど……トワ、アリサ、私に一任してくれない?」
「私は、かまわない」
「……アイリスさん、何かあったときは私も責任を……」
「アリサ、ごめん。これは私がモーリオンギルドの幹部として認められるかどうかの試験でもあるんだ。だから、今回の判断も、その結果も、責任も。私が背負わないといけない。ううん。私に背負わせて欲しい」
「……そこまで言われるなら。でも、減刑嘆願には協力しますよ?」
「アイリス、悪い事するの?」
「……かもね」
そう言うとアイリスはアキラを呼びに行った。
「アキラ、この星の今後についてだけど、誰か代表を決めておいて欲しいんだけど」
「はい、それは当然だと思います。でも幹部はみんな死んでしまったので……年長のモリサキさんとか……」
「アキラ、私は……あなたに代表になって貰いたいんだけど、ダメかな?」
「ボクですか!?ボク、まだ12歳で子供ですよ!?」
アイリスがアキラを星の代表に指名したことに私は驚かなかった。だってアキラは、火災から避難するときもちゃんと民を導いていたし、資質は十分にあると思ったから。
アイリスもその事を指摘し、近くに居たモリサキという神官も、その他の神官もアイリスの言葉に同意していた。
「アキラ様はキサラギの血を引く方。この先、我らが掟や予言の導き無しに生きるとしても……少なくとも導き手は必要です」
「でも、ボクでいいんですか?ボクは……」
「アキラ。あなたは、大丈夫」
黙っていようと思ったけど、私もつい口を出してしまった。自分でも根拠の無い大丈夫だとは思うけど……それでも、アキラには大丈夫だと思って欲しかったから。
「トワ様……わかりました。ボクに何ができるかはわかりませんが」
アキラが代表を引き受けてくれる事になり、アイリスはタカマガハラの代表としてアキラに提案を行った。
ひとつは今タカマガハラに放置されているC3の買い取りについて。これからタカマガハラを復興するには資金も資材も大量に必要だ。だから、あのC3を持ち出して支援物資化するという提案だ。
アキラも神官達も、屑水晶が高価な品だと聞いて驚いていたけど、今の彼らにとってC3は無用の長物なのでこの話は簡単に受け入れられた。そしてもう一つの提案は……。
「この星を、ギルドの直轄地に……ですか?」
「うん。期限付きで。復興が軌道に乗って星が経済的に自立できるまでは、私達のギルドの庇護下に入った方がいいと思う。C3……あなた達の言う屑水晶を流通できるのは、ギルドだけだから」
「この星を……いつかは、ボク達タカマガハラの民のものとして、必ず取り戻せますか?」
「ええ、誓うよ」
アイリスはそう言うとフォトンフラッグを展開した。
「アキラ、これはギルドの幹部である二等管理官の証。このフラッグにかけて誓うよ。タカマガハラを必ず貴方たちの手に戻すと」
「誓いがひとつで足りなければ……私も誓いましょう。フラッグと、この地剣に……カレンとの約束に」
そういうとアリサもフラッグを展開し、フラッグに重ねるようにカレンが振るっていた刀を高く掲げた。
「……わかりました。お二人を信用します」
そうして星の行く末についての話し合いは終わり、残った問題について話し合うことになった。
そう、奪われたC3の行方についてだ。アキラ達はカレンが拠点にしている場所を知らないと言っていたし、カレンも手がかりになるものは持っていなかった。
だけど、アリサは心当たりがあるという。
「私達がアルカンシェルを駐機している場所、あの周辺だと思います。確証はありませんが、カレンの視た光景が共鳴で私に伝わったように感じました」
なんでもアリサが言うには、この星が炎上するビジョンはカレンが視たものを、テロマー同士の共鳴でアリサが受け取っていた可能性があるらしい。
そして、アキラの位置がカレンに知られていたのも、アリサの幻視がカレンに共有されていた可能性があると。アリサが言う場所の説明を聞いていたアキラが、何かを思い出した様に口を挟んできた。
「それ、もしかして夜側に近い整地された土地ですか?」
「ええ、そうです。航宙船や往還艇を止めるのに丁度良い場所になっていました」
「もしかしたら、ご先祖様がこの地へ降り立ったと言い伝えられる場所かもしれません。最初に造られた街があるって、経典で見かけたことがあります」
「街?それらしいものは何も無かったけど……」
アイリスが言う様に、あそこは本当に何も無かった。もの凄く風が強いだけで、建造物の残骸とかも何も見当たらなかった。
「最初の街も地下に造られたと聞きます。街と言っても、ほんの数ブロックぐらいで……すぐにタカマガハラの建造が始まったと」
「地下施設!そうか、タカマガハラが地下都市なんだから、発着場の管制施設が地下にあってもおかしくないか……」
「とりあえず、見に行く?」
私の提案に、アイリスとアリサと……アキラが頷いた。どうやら、アキラも一緒に来るようだ。




