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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部4章『現理の円舞曲』タカマガハラ-憎愛の惑星
207/224

#25

>>Alyssa


 黒巫女を追って塔を飛び降りた私と彼女が降り立ったのは……奇しくも昨夜、私が「剣舞」を披露した儀式の間でした。

 天井が崩落し、階下から火の手が上がっているのがわかります。これが……幻視で視た、回避不能なあの光景なのでしょう。


「小娘一人で追ってくるとは、良い度胸だ。名を聞こう」


 私の前に立つ人影は……黒い小袖に深紅の袴。はだけ右の肩口には血のにじむ刀傷が見えます。

 堂々たるその姿は……彼女こそが黒巫女。


 いきなり斬りかかってこない所をみると、何か思うところがあるのかもしれませんね。この場にトワ様はいませんが、代わりに私が黒巫女の話を聞いておくのも良いでしょう。


「アリサ・シノノメ。でも、小娘呼ばわりは心外ですね。貴女の方が小娘だと思いますよ」

「ふふふ……こう見えても私は既に齢70歳を超えているのだよ」


 黒巫女の外見は私とそう変わりません。おそらくは16~7歳といったところでしょうか。それを70歳だと名乗るとは……やはり、彼女はテロマー。


「あら、なら私の半分以下じゃないですか、小娘さん?」

「何……?まさか……」


 私は彼女の事をテロマーだと予測していましたが、彼女は私がテロマーだと思っていなかったのでしょうか。私の言葉に一瞬怪訝そうな表情を浮かべ、そして何かを理解した様に目を細めて私の顔を見つめました。


「はじめまして、テロマーのお嬢さん。初めて出会う同胞が敵というのは残念ですが。それで、貴女のお名前は?」

「……カレン・キサラギ」


 キサラギ。それはアキラと同じ姓。そういえば黒巫女は……カレンは、自らの正当性を主張していたとアキラは言っていました。なら、彼女もまたこの星の統治者に連なる者の一人なのでしょう。

 聞きたいことは山ほどありますが、、刀を正眼に構えたカレンはそれ以上語る気はないようです。なら……ここから先は、剣で語り合いましょうか。

 私はレゾナンスブレードの出力を最大にするため、再度起動歌を歌い……そして告げました。


「じゃあ始めましょうか、カレン」



 何合か打ち合ってみて、私はカレンへの認識を改めました。

 彼女はこの星で既に十名以上の人間を手に掛けています。ですから、私は彼女の剣を人斬りの振るう殺人剣だと予想していました。ただ壊し、傷つけ、殺すための荒々しい剣。

 これまでにも何度もそのような相手と対峙したことがあります。シンジケートやマフィアの使い手達。用心棒崩れの殺人狂。ペレジスの闇社会にはそんな人斬りの剣を振るう連中は何人も居ました。


 ですが……カレンの剣はそうではありませんでした。

 確かにカレンの振るう剣は剛剣です。ですがその澄んだ剣先は剣を通じて自らと向き合うかのように真っ直ぐで、敵を倒すことよりも自らの理想を体現することを目的とした……まるで求道者の剣ではないですか。

 なぜこのような剣の使い手が、人斬りという強引で破滅的な手段を用いるのでしょうか。カレンならば……もっと違う方法を採れたのではないでしょうか。

 そんな気がしました。


「……アリサと言ったか。なかなかやるな」

「そちらこそ、見直しました」

「私と一合以上打ち合える人間は初めてだ」

「人間では無いでしょう?お互いに」

「……それもそうだな。だが……お前は負ける」

「……かもしれませんね」


 カレンの指摘に、私は同意せざるを得ませんでした。

 剣技で劣っているつもりはありません。

ですが……手にした獲物の性能差が大きすぎます。そもそも、航宙船の装甲すら融断するエネルギー量を持つレゾナンスブレードと実体剣が打ち合えていること自体がありえないことです。


 そして、さらには……打ち合う度に、私のレゾナンスブレードの輝きが揺らぎ、明滅を繰り返しています。

 明らかにブレードのエネルギー制御が異常を来していることは考えるまでもなく判りました。このままでは、あと数合も打ち合えばブレードは力を失うでしょう。

 しばしの揺らめきの後、安定を取り戻したブレードを見やりながら、私はカレンに声を掛けます。


「これは、ヒヒイロカネの力ですか?」

「そうだ。ヒヒイロカネは不滅の金属。そして貴様らの使うエネルギー武器を阻害する力を持つ」

「なんですか、そのチートアイテム。まさか起源の星(オリジンスター)から持ち出したというのは……」

「それは知らんがな。開祖を名乗る凡夫がどこからか盗んできたものらしい」


 盗品!?宗教儀式に使われる伝説の神剣が?なんですか、それ。

 盗品だと知らずに神剣の事を神聖だなんだと自慢げに語っていたアカサカの事が少し可哀相になりました。


「降伏するか?大人しく星を出て行くなら見逃してやらんでもないぞ」

「それも考えましたけど。私達が出て行くと、あなたはアキラを殺すでしょう?」

「……もちろんだ」

「なら、私は引けません」

「愚かなことだ」


 そう言うとカレンは再び地剣を構え、鋭い突きを放ってきました。思わずブレードで受けそうになりますが、防御で消耗するのは得策ではありません。

 飛び退ってその一撃を回避しますが……正直分が悪いですね。防御から回避に切り替え、カレンの隙をうかがいますが、そう簡単に隙を見せてはくれません。

 この事態を打開する方法は――



 ――何度目かの攻防のあと……ついにその時が訪れてしまいました。私の斬撃をカレンの地剣が防ぎ、ブレードが大きく揺らめきます。

 そして……柄元に埋め込まれたC3がギシリと悲鳴を上げ、小さなひびが入ったのが見えました。……おそらく、あと一合打ち合えばブレードが砕けてしまうでしょう。


「どうやら終わりのようだな」

「高かったんですけどね、この剣」

「余裕だな?」

「そうでもないですよ」


 私はそう言うと、ブレードを構え、最期の一撃を繰り出します。カレンは余裕でその一撃を受け流し……私はそのままカレンの横を駆け抜け、崩れ落ちた壁の前に転げ込みます。


「……ほう。狙っていたのか?」

「ええ。落ちた先が儀式の間で助かりました。倉庫だったら、モップで戦わないといけないところですからね」


 立ち上がった私の手の中で、レゾナンスブレードの柄に埋め込まれていたC3が静かに砕け散りました。


 そして……もう一方の手には、崩れ落ちた壁の残骸に埋もれていた白い太刀。

 ブレードをその場に投げ捨て、両手で抜刀した私の前に現れたのは……カレンの手にある漆黒の地剣と対を成すかのような、純白に輝く刃でした。


「理想を体現する天剣『アマテラス』。貴様に使いこなせるか?」

「ええ、あなたが地剣を使いこなす程度になら」


 (理想)(現実)の刃を構え、私とカレンは再び相対します。


黒巫女、カレン・キサラギは第1部で一度登場しています

彼女が登場するのは ep98 インターミッション『交差軌条』バジャー1-燈虚の星船」です

https://ncode.syosetu.com/n0802lr/98/

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