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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部4章『現理の円舞曲』タカマガハラ-憎愛の惑星
206/224

#24

>>Towa


 尖塔の屋上まで上ってきた。ここからだとタカマガハラの街が一望できる。

 豪華な神殿と、さっきまで居た幹部用の豪華な官舎。最初に案内された神官用の官舎も、幹部用と見比べれば見劣りするけど、それでも立派な造りだ。

 でも街中に目をやると、そこにあるのはみすぼらしいプレハブやバラックのような民の住居。


 宗教ってみんなが幸せになるためのものだと思ってたけど、ここにあるのは搾取と貧富の差でしかない。この星へ移住した昔の人達は何を求めてこんな過酷な環境の星へ移り住んだんだろうか。こんな未来が欲しかったんだろうか。

 塔の下から聞こえてくる、白々しい理想を語る演説を聴くとはなしに聞きながら、そんな事を考えていた。


「トワ、大丈夫だと思うけど……一応、周囲の警戒お願いね?あなたが最期の砦だから」

「わかってる。まかせて」


 アイリスが言う様に、私はいつでもレゾナンスシールドを発振できる体勢でアキラの横に陣取っている。

 場所は尖塔の最上部で、黒巫女が空でも飛んでこない限りは階段から接近してくるはずだとアイリスは言っていた。

 でも、本当に飛んできたりしないんだろうか?


「アリサ」

「なんですか、トワ様」


 ブレードを構えたアリサはフォワードとして私達よりも少し下、階段の踊り場に陣取っている。

 アリサを危険な最前線に晒すのは嫌だけど、黒巫女が刀を使うなら自分が先陣を切るのがベストだとアリサは主張した。そうだ、アリサに聞かないと。


「テロマーって、空飛べる?」

「……えっと……トワ様?私、そういう鳥人間的な機能は付いてないんですけど……」

「良かった」

「え、ええ……良かったです。でも、ちょっとでもそんな不思議人間だと思われてたんですか……?」

「いや、テロマーならある日そんな能力に目覚めるかもよ?」

「ないです!……ないですよね?」

「いや、私達は知らないよ?叩きのめしてから黒巫女に聞いてみたら?」


 そう言って笑うアイリスは、私達とアリサの中間に陣取っている。そして、アリサがいる踊り場の前方に少し距離を置いて二つの「蒼」イグナイトを設置してある。

 スイッチ起動だと間に合わないので、アイリスが銃撃して発動させるためのものだ。イグナイトで一瞬でも時間が稼げれば、アリサ達の安全につながるんだけど。

 ともかく、これが私達が黒巫女を迎え撃つための布陣だ。あとはいつ来るかだけど……。


「ところでトワ、あの――」


 アイリスが何かを言いかけたときだった。突然階下から轟音が響き渡り、塔が激しく揺れた。これ……爆発!?


「アリサ!何か見える!?」

「いえ、こちらは……煙が上がってきていますが……」

「トワ!」


 アイリスの声に塔から下を見下ろす……と。あれは……。


「演説してたテラス、爆破されてる」


 さっきまで守り手が演説していた三階あたりのテラスから炎と煙が上がっている。

 よく見るとテラス部分は下に落下していて……神官が群衆を近づけないようにしていたおかげで、民には被害はなさそうだけど、あれじゃ守り手の人達は……!


「……そっちを先に狙ってくるとは……!」

「もしかして……私の予知が彼女に気取られた……?」


 アリサが何か言いかけた瞬間、再び爆発が起きた。今度は2カ所……いや、3カ所同時?

 尖塔が揺れている。このままでは危ないと思い、アキラに少し階段を降りるように指示して、私は周囲の様子を……あっ!

 何かが飛んできて……尖塔の屋上部分に引っかかった。これ……フックロープ!?


 ということは……黒巫女が来る!声を上げてアイリスに警告する?いや、今は先に……!


 私が短く歌ったレゾナンスシールドの起動歌が碧の障壁を産み出すのと、フックロープで飛び込んできた人影が黒い刃を打ち下ろしたのはほぼ同時だった。


 ――重いっ!


 シールドは黒い刀の一撃を防いでくれたけど、衝撃までは完全に拡散しきれなかったようで、私は階段から転げ落ちそうになった。

 でも、下にはアキラがいる。踏みとどまらないと!


「ほう、良い判断だ。反応も人間離れしているな。ギルドの護衛は腑抜けばかりだと思ったが」


 屋上に悠然と立ち、私にそう言い放ったのは……長い黒髪に赤い瞳。

 黒い上着と深紅の袴を身につけた、まさに黒巫女と呼ぶのに相応しい、女性の姿だった。


「アイリス!アリサ!」


 私は黒巫女の言葉には応えず、盾を構えたまま、二人の姉の名を呼ぶ。


「トワに……手を出すなぁぁ!!!」


 アイリスの絶叫と共に、立て続けに赤いエネルギー弾が私の横をかすめて黒巫女を襲う。だけど、黒巫女は手にした刀でそれを全て切り払ってしまう。

 うそ……あの刀、ブラスターの弾を掻き消してる!?


「トワ様っ!」


 そう言って階下からアリサが私に駆け寄ろうとした時だった。

 尖塔が激しく震え、再度の爆発音が耳をつんざく。体全体が不安定な揺れに包まれる中、足元から嫌な軋む音が響き渡った。


 次の瞬間、塔全体が傾き始めたことが判った。まるで空洞の天上に引っ張られたかのように上部が一瞬浮き上がり、その後に一気に重力に飲み込まれるように崩れ落ちる感覚が伝わってくる。

 体が壁に押しつけられる、これ……塔が倒れてる!?


 なのに、傾き揺れる足場がまるで安定した地面であるかのように黒巫女は平然と佇みこちらを赤い瞳で見つめている。

 どういうバランス感覚なんだろう、アレ。


 私がそんな事を考えているうちに、塔の崩落を確認した黒巫女は塔から飛び降りる様に姿を消した。私の横をアリサが駆け抜けていく。


「追います!アイリスさんとトワ様はアキラを!」


 そうだ、アキラ!慌ててアキラを探すと、バランスを崩して数段階段を転げ落ち、アイリスに抱きとめられていた。

 あのまま転げ落ちたら大変……だけど、このままここにいても塔ごと崩れる!着地の衝撃をなんとかしないと、私達はともかくとしてアキラは死んでしまう。

 衝撃……そうだ!


「アキラ、来て!」

「は、はい!」

「トワ!?」


 ごめん、アイリス。ちょっと無茶する!私の言葉によろめきながら上がってきたアキラを抱きしめ、私は屋上へ向かう。

 そして……そのまま一気に塔の外へ飛び出した!


「きゃあああ!!」


 アキラの悲鳴を聞いて、やっぱり女の子なんだな……という場違いな感想を抱きながら、私はレゾナンスシールドを地面に向けて展開する。

 これなら、衝撃を殺せるはず。そして、私の体をクッションにすれば……!



 落下は一瞬で終わり、私達は地面に叩き付けられた。シールドのおかげで衝撃の大半は殺せたけど、それでも十分じゃ無い。

 抱きとめたアキラの体と地面に押しつぶされそうになって、一瞬、息が詰まった。


 でも、アキラは無事のようだ。よかった……。そう思った瞬間だ。


 視界の端に黒い影が映った。

 見上げると……崩れ落ちた塔の瓦礫が、私達めがけて落ちてきている!


 ブラスター?間に合わない。

 シールド?体の下だ。


 私にはアキラを強く抱きしめることしかできなかった。瓦礫の落下はまるでスローモーションの様に見える。

 何も出来ない私に、瓦礫が迫る。


 ――あれ?走馬灯的な感じじゃなくて、本当にゆっくりじゃない、あれ。


「トワ、早く!イグナイトの効果が切れる前に逃げるよ!」


 私と同じタイミングで飛び降りていたアイリスが、私達の手を引いて立ち上がらせてくれた。

 手を引かれながらその場を離れた私が振り返ると、蒼い輝きを放つ停滞フィールドに包まれていた瓦礫が、輝きの消失と共に本来の時間の流れを取り戻し……一気に崩落した。


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