#19
>>Iris
アキラから聞いた話は衝撃的なものだった。私達の追跡が予知されていた?
確かにギルドの追っ手が掛かることはC3を狙う人間なら承知の上だっただろう。しかし、誰がこのミッションを受けるのかまで予測するのは不可能だ。
……そもそもアキラが予言を聞いたというタイミングだと、私達はこの件に関与すらしていない。いや、それ以前に私がまだ死んでいて、トワとアリサもまだ再会していない時期だ。
なら、それは予測の類いではなく、未来予知としか言い様がないものだ。それもかなり確度の高い。
未来予知なんて普通ならばそんな事はありえない、戯れ言だと切って捨てる与太話だ。だけど、私もトワも、予知能力が本当にある事を知っている。なにせ、姉妹であるアリサがその能力を持っているから。
そしてその力は彼女の出自であるテロマーという種族特性に由来するもので……となると、黒巫女もまたテロマーである可能性が高い。そう思い当たった私は、たった一人でC3襲撃を成し遂げた恐るべき手練れ、という意味が理解できた。
アリサと同レベルの戦闘能力を持ってすれば、並の護衛など存在しないも同じ。彼女」がテロマーなのであれば……単独で襲撃を成功させた事にも合点がいく。
だが納得すると同時に私は同時に背筋が凍る感覚を覚えた。あの、破壊の女神のごとき力が自分に向けられたら……私はそれに対抗できるだろうか?トワを守れるだろうか?
このミッションを破棄して撤退した方が……。そんな事を考えていた時だった。
「姫巫女はどんな活動してる?」
「はい、姫巫女様は自らの正当な権利を主張されるために、地剣を手にされました」
「やはり一振り無くなっていたのは、黒巫女のせいでしたか」
アキラの言葉に応えたのは、部屋に戻ってきたアリサだった。晩餐会に出向いた割には戻ってくるのが早い。何かあったんだろうか?
内心感じていた黒巫女への恐怖を押し殺し、私はアリサに声を掛ける。
「どうしたの?ずいぶんと早いじゃない」
「ごめんなさい、やらかしました。てへぺろ」
何がてへぺろだよ、ホントに。ばつの悪そうな顔でそう言うアリサ。どうやら事態はまだこれ以上に混迷するようだ。
「それで、何があったの?」
「薬を盛られました。自白剤系のやつ」
「ちょっと!?大丈夫なの!?」
平然と、とんでもない事を言い出すアリサ。慌ててアリサの様子を確認したけど、特に不調のようには見えなかったので少し安心した。
そっか、テロマーは薬物への耐性も強いのか……。それにしても神殿の連中、いきなりそう来るか……!
「あの程度は慣れっこです。それより、この子は?トワ様、お得意の連れ込みですか?」
「うん。アキラ」
アリサの慣れっこというのはおそらく過去に受けた拷問の事だろう。当時のアリサは本当に酷い状態だったけど、あれは薬物の影響もあったのかもしれないのか……。
複雑な思いでアリサを見ていると、私達の会話が理解できないのかアキラが呆然とした様子でアリサを見ていた。そうだ、考え込んでいる場合じゃ無かった。説明する事も、聞くべき事も多い。どこから手を付けるべきか。
「私の話は後で。で、そのアキラさんはどういう事情でこちらへ?」
「うん……アキラは、ここの反体制派の旗頭にされてるらしくて、姫巫女の事を色々と聞いてたんだ」
「姫巫女?黒巫女ではなく?」
「アリサ、姫巫女は黒巫女で彼女」
「……なるほど、理解しました」
「事情の説明は後でするから、先にアキラの話を聞いていい?」
「かまいませんけど、私からも質問させて頂ければ」
トワのざっくりとした説明でアリサは理解してくれたらしい。理解が早くて助かるよ、私の妹は。
そして私の確認にも軽く頷いたアリサは、寝台に――アキラの隣に腰掛けて彼に質問を投げかけた。あれ、アリサって男性恐怖症の気がなかったっけ。あれはもう治ったのかな?
まぁ、アキラは美少年だから関係ないのかな。
「それで、地剣を持ち出したのは、予言の停止と関係がありますか?」
「姫巫女様が地剣を佩かれるようになった後から、神官長様が予言を行われなくなったので……ボク達の間では姫巫女様が偽りの予言を止められたんだって……。それに双剣は儀式の間に祀られていましたから」
「予言の停止は、あなた達の願いでもあった?」
「いえ、そんな事は!だって、予言が無くなったら……ボク達はどうしたらいいのか判りません。それに民も皆、不安がっています」
なるほど、予言の停止は守り手と連携した動きではなく、黒巫女の独断と言うことか。そしてアキラの反応を見る限り、守り手もそれを好ましく思っていない。
それもそうか、守り手がクーデターに成功しても「予言」を利用できないと不都合だからね。つまり黒巫女の行動は神官長達主流派にも、反体制派にも害を与えている。そして……なによりも、民にも。
「それで、その黒……いえ、姫巫女はあなた方と行動を共にしているのですか?」
「いえ、姫巫女様は単独で動かれていて、普段どこにおられるのかもわかりません。ですが、時々指示が届いたり、ふらっと現れたりで……」
拠点は不明、そして神出鬼没ということか……。それなら守り手を見張っていても偶然遭遇する可能性は低いかもしれない。
なにせ向こうはこの星出身だから、地の利がある。彼女の居場所を探すにしても、こちらは全く土地勘が無いから圧倒的に不利だ。
「それでアキラ、姫巫女はこれからどうするもりなのか知ってる?」
「そこまでは……ボクにはわかりません。ただ、以前お会いしたときは『宗教統治を終わらせる』って……。もしかしたら姫巫女様が目指しておられるのは『清き信仰の守り手たち』とは違うことなのかもって」
「アキラ、どっちを選ぶ?」
「ボクは……わかりません……」
トワの問いに答えるアキラの言葉は消え入りそうに小さかった。たぶん、彼で私達にここまで話してくれるのは、黒巫女の目指しているものが本当に正しいのかどうか判断が付かないからなのだろう。
アキラの目には、私達に縋りたいという気持ちが浮かんでいるようだった。だけど、私達はこの星の行く末には関与しない。いや、できない。
「アキラ、さっきも言ったけど……私達はこの星の事には関与できない。そういう掟に縛られているから」
「……そう、ですよね……」
打ちひしがれたように俯くアキラ。無理も無い。アキラは私達の星の基準ですら成人年齢になっていない。そしてこの星の成人年齢である20歳となるとまだまだ時間が必要な……本当の子供なんだ。
それなのに権力闘争に巻き込まれ、自分で考えることを求められている。そして藁にもすがる思いで手を差し伸べた私達が、彼の助けになれないと冷たく突き放した。
アリサとトワが私の方をじっと見つめている。わかってるよ、私の大事な妹達。
「でも、姫巫女個人を止めることなら、出来るかもしれない。だから私達に力を貸してくれる?」
そう、内政干渉はギルド憲章で禁じられているけど、今回私達のミッションにはC3強奪犯の討伐を……明言されてはいないが、私の裁量で含めることは可能だろう。
なら、姫巫女でも黒巫女でもない、C3強奪犯としてなら。彼女が何を考え、何を目指しているのかは判らないけど……まず一旦立ち止まらせて、話を聞くぐらいならスゥ局長も見逃してくれるだろう。
問題は黒巫女が話を聞いてくれるかどうかだけど……彼女は私達が来るのを待っていた感がある。なら、いきなり攻撃してくる事はない……と信じたい。




