#18
一通り話し終わった「守り手」の人……そういえばこの人、名乗りもしなかったね。ともかく、その人に対してアイリスは感情のこもらない声で言った。
「それで、私達にお話とは?」
「いえ、ですからタカマガハラの――」
「それはもう結構です。ではこちらから質問をさせて頂いても?」
「は、はい。私でお答えできることなら」
暗にお前らには興味も関心も無いとアイリスは言っているのに、守り手の人はそのニュアンスを感じ取れないらしい。たぶんこの人達が権力を握ってもタカマガハラは何も変わらないんだろうな。そんな事を思った。
「噂で黒巫女という不吉な存在について聞きました。彼女が、あなた方の指導者ですか?」
「……!違います!姫巫女様はそのような不吉な存在ではありません!あのお方は私達の理念に賛同してくださいました!偽りの予言も姫巫女様によって――」
アイリスの言葉にとんでもない、とでも言いたげな様子で興奮し、そう口走った守り手の人。
私のお姉ちゃんはやっぱりすごい。一度質問しただけで、欲しい答えを殆ど引き出してしまった。
それにしても、姫巫女と黒巫女は同一人物らしい。そして、指導者ではなく実働部隊的な立ち位置で、予言を止めたのもやっぱり黒巫女で確定のようだ。
興奮した様子でなおも自分達の正当性を語る守り手の人を手で制し、アイリスは冷たい声で告げた。
「私達は内政干渉を禁じられている身なので、あなた方にも神官長にも協力はできません」
「では、何故降臨されたのですか!?タカマガハラを救いに来て頂いたのではないのですか!?」
「いいえ。ここへ来たのは個人的な理由です」
「個人的な……理由……?」
「トワ、帰ろう」
「うん」
これ以上話しても得るものは無いし、むしろ巻き込まれるだけだ。私とアイリスは守り手の人をその場に残して小部屋を出た。
……でも、どうやってここから帰ったらいいんだろうか。かなり入り組んだ道だったけど、お姉ちゃんなら道順を覚えて……あ、困った顔をしてる。
覚えてないんだね、アイリスも。適当に出口を探そうかと思っていると、私達が出てきた扉が開き……アキラが姿を現した。
「帰り道、ご案内します」
アフターフォローしてくれるんだ。アキラ、良い子だ。彼に案内されて人気の無い神殿内を進む。
行きは声を掛けても無反応になってたけど、今はどうだろうか。
「なんか、ごめんね」
「いえ……ボクも『清き信仰の守り手たち』の活動が本当に正しいのか、悩んでいて……」
「アキラもメンバー?」
「メンバーというか……あの人達は、ボクが次の神官長になるんだって」
それ、もしかして幹部ってやつじゃない?思いも掛けない告白にアイリスも驚いている。
その後、アキラに色々と話を聞いた。彼はヒラ神官の両親から産まれた普通の神官候補だけど失脚した先々代の神官長のひ孫に当たるらしくて、「守り手」から現体制に対する改革の旗印として担ぎ上げられているそうだ。
アキラ自身もタカマガハラの現状には思うところがあるけど、守り手のやり方では問題は解決できないと感じていたらしい。あれ、もしかして守り手の人よりアキラの方が頭がいいんじゃない?
「そんな時でした。天から姫巫女様が降臨されたのは……」
アキラの話は続く。一月ほど前、裏表のある守り手の理念に嫌気が差し始めていたアキラの前に姫巫女が現れたらしい。
姫巫女はこの星の産まれだと告げた上で巫女頭に会えるかとアキラに尋ねたものの、彼女の言う巫女頭の名が先々代……つまりアキラの曾祖母らしく、随分と前に老衰で亡くなったと教えると少し動揺したそうだ。
でもその会話からアキラは姫巫女は時間を超えた存在で天から戻ってきたのだと確信したと言っていた。
しかし、天から……ということは、やっぱり姫巫女が黒巫女で、C3強奪犯の「彼女」で確定だね。亜光速航行していたら、地上の人とは流れる時間も違うだろうし。
でも、私達が御遣い様だと言われるなら、天から降りてきた「彼女」も御遣い様だと呼ばれるんじゃない?そう思ってアキラに聞くと、予想外の答えが返ってきた。
「姫巫女様は言われました。我はこの地で生を受けし巫女の血筋に連なる者であり御遣いではない。真なる御遣いは我が後にタカマガハラを訪れるであろう、って」
「ちょっと待って?姫巫女は私達が来ることを予想してたの?」
「いいえ、予想ではありません。姫巫女様には、予知の力が……開祖ヒコマロ様と同じ力があるのです」
開祖が予知能力を持っていたらしいと言うことはさっき情報共有したときにアリサに聞いた。かなり長生きだったらしいので、開祖がテロマーであった可能性が高いという推測付きで。でも、姫巫女にも予知能力があるの?
「C3を奪えばギルドから追っ手が掛かることは予想できる。だから、必ずしも予知という訳じゃ……」
「ぎるど……というのは良くわかりませんが、姫巫女様は御遣い様達が来られる日時と、御遣い様の容姿も正確に予知されましたよ。白い衣を纏った、金髪で青い瞳の、とてもお美しいお方だって」
その予言に出てくる人って、アリサだよね?
ということは、姫巫女も本当に予言が出来るってことか……。巫女の血筋ということは開祖の血を受け継いでいる可能性もあるんだろうか。
「予言のことは神官長様の耳にも入ったみたいで、僕たちがお迎えに上がる前に先にアカサカ様が向かわれたみたいですけど」
「姫巫女に続いて、私達まで守り手に取り込まれたら大変だからね。そっか、それであんなに反応が早くて、初手から歓迎ムードだったのか……」
思ったよりも長話になったので、官舎にたどり着いてしまった、アキラにはまだ聞きたいことがあるので、彼を部屋に招き入れた上で話を続けて貰うことにした。
姫巫女との出会いで、アキラは彼女のタカマガハラを救いたいという強い意志を感じたと言う。姫巫女はどんな犠牲を払ってでも、この星を救うのだと言ったそうだ。
その言葉にアキラは守り手とは違う、本当の改革を感じ取り、姫巫女が助力する守り手の活動に再び協力することを決めたのだと。
「姫巫女はどんな活動してる?」
「はい、姫巫女様は自らの正当な権利を主張されるために、地剣を手にされました」
「やはり一振り無くなっていたのは、黒巫女のせいでしたか」
アキラの言葉に答えたのは……扉を開けて入ってきたアリサだった。




