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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部4章『現理の円舞曲』タカマガハラ-憎愛の惑星
198/220

#16

>>Alyssa


 晩餐会へは私一人で出向くことになりました。トワ様は参加したいとおっしゃったのですが、アイリスさんが気になる事があるので街へ出たいと強く主張されたのです。

 私は、それならトワ様だけでも一緒に晩餐会へ……とお誘いしたのですが、フられてしまいました。よよよ。


 晩餐会の会場は儀式の間だそうです。

 案内されて一番最初に目に入ったのは、神官長の後ろにある祭壇と、二振りの刀……を掲げるための金具があるにもかかわらず、一振りだけ掲げられた白い刀。

 アカサカが言っていた二振りの神剣の片割れでしょうか?一振り欠けているのは解せませんが、見たところ帯刀している人間はいないようです。……私を除いて。


「御遣い様、ようこそお越しくださいました。我らの宴に足をお運びいただけるとは、誠に光栄に存じます。ささやかな宴ではございますが、どうか我らの歓びをお受け取りくださいませ。……おや、ご令妹様のお姿が見えませぬが、いかがなされましたかな?」

「申し訳ありません。まだ体調がすぐれないようで、休ませております」

「それはさぞおつらいことでございましょう。心を込めたお食事を後ほどお部屋へお届けさせましょうぞ。それでは、どうぞお席へお付きください。皆お話を伺えるのを楽しみにしておりました」


 アカサカもそうでしたが、このサエキという神官長も十二分にタヌキです。

 宴席に着席している面々を確認すると、神官長と巫女頭、それに八柱……いえ、一人足りませんね。見ると出迎えに来ていた末席のリナとかいう御巫がいませんでした。

 一瞬、不審に思いましたが、よく考えれば閉鎖的なこの星にはゲストを呼んで宴席を設ける機会など存在しません。元々十人分の座席しか用意されていないので、座席の数を合わせるために末席であるリナを外したのでしょう。


 トワ様達の分はどうするつもりだったのかと思って卓を見ると、一番の下座にちょこんと二つの椅子が置かれていました。まさかあそこに座らせるつもりだったのでしょうか?

 あまりの非礼にイラっとしましたが、ここは我慢です。それにしてもアイリスさん、危機感知力が高いですよね。これなら宴席に参加せずに街へ出たのは正解でしたよ。


「御遣い様、お席へご案内させて頂きます」


 そう言って声を掛けてきたのは扉の脇で控えていた女性。白い上着に赤い……これは袴ですね。儀式用の衣装を纏った若い女性でした。これが、巫女という人なのかもしれません。


「あら、ありがとうございます。素敵なお召し物ですね。もしかして巫女様でいらいっしゃいますか?」

「はい、未熟者ですが巫女を務めさせて頂いております。さぁ、こちらへ」


 やはり巫女でしたか。ですが彼女が纏う衣装には「黒」の要素がありません。ということは、黒巫女というのはその身に纏う衣装が由来なのかもしれませんね。

 案内された席に付き、配膳の準備が整うのを待つ間、神官長と腹の探り合いをするのも面倒なので先に話題を振ってごまかすことにします。


「壁に掛けられている刀、とても美しいですね。あれが神剣でしょうか?」

「え、ええ……」


 神官長の答えは歯切れが悪いです。アカサカから神剣は二刀一組と聞いていましたが、それが欠けている事をあまり指摘されたくないのでしょう。

 まずは小手調べといきましょうか。


「アカサカ祭典官様に伺いましたが、何でもヒヒロカネと呼ばれる不思議な金属で打たれた刀だとか……」

「さように御座います。ヒヒイロカネは天の御業により成りし霊鋼。その刃は浄められし天の火にて鍛えられ、神域に輝きしもの。我らが想いを力に変えうる霊鋼にございます。我らが開祖様が起源の星(オリジンスター)の聖域より持ち帰られた神剣として、代々この地に伝えられておりまする」


 願いを力に?どこぞの星でサイキックウェポンの類いが開発されているという噂は聞いたことがありますが……素材ベースでそれはないでしょう。

 それに起源の星(オリジンスター)とはまたフかしますね、この人。それ、大空白どころかそれ以上昔の話じゃないですか。

 どこにも記録が残っていないからと思って適当な事を言ってますよね、きっと。


「アカサカ様から、神剣を使った剣舞を行われると聞き及んでおります。さぞ神聖な舞なのでしょうね。機会があれば拝見したいものです」

「それは光栄に御座います。剣舞は、予言の神儀に欠かせぬ神業。理想を体現する天剣と、現実を体現する地剣の二振りが……」


 言いかけて慌てて口をつぐむ神官長。私があえて「二振り」と言わないであげたのに、自分で口にしてしまうとは。

 なら、あえてそこを突いてみましょうか。


「あら、二振りですか?今は一振りだけのようですが」

「それは……その……そう、儀式、儀式のために持ち出しておりまして。ですので、剣舞も今はお見せできず……」

「あら、そうなのですね。それは残念です」


 この狼狽え方、神剣にトラブルがあったと自白しているようなものじゃないですか。

 さきほど口を滑らせた件もそうですが……やはりこの星の人間、腹黒さはともかくとして権謀術数の類いには疎いようです。まぁ従順な信徒を相手に偽の預言で好き放題できるなら権謀術数も必要ないでしょうしね。


 そんな事を言っているうちに配膳が終わったのか、室内にいた二人の巫女が八柱と神官長夫妻に酒をつぎはじめました。

 見ると食器類は皆クリスタル製です。通貨の件もありますし、この星では水晶が沢山産出するのかもしれませんね。そして……もしかしたら、この食器類の中にもC3製のものが混じっているのかもしれません。


 そんな事を考えていると私のところには八柱達とは別の巫女が酒を注ぎに来てくれました。どうやら私の専属のようです。

 クリスタルで作られた杯に注がれたのは濁った酒、いわゆるどぶろくというやつでしょう。ペレジスで嗜んだ酒類と比べると洗練されているとは言えませんが、独特の甘い香りが鼻腔をくすぐります。そして、微かに漂う他の香りも。


 ……ここの連中は権謀術数に疎いと思いましたが、前言撤回です。まさか、初手からこう来るとは思いませんでした。


「では、この度の御降臨の恵みに深く感謝を捧げつつ、杯を掲げさせて頂きまする」


 神官長の言葉に、巫女頭と八柱……いえ、七柱は杯を掲げます。私は微笑みを浮かべ、その様子を見つめています。杯は持たずに。


「どうなされましたかな、御遣い様」

「神官長様?このような格式高い宴で杯に何か余分なものが混じっているようでは、神々にも失礼ではありませんか?」

「……!!」


 どぶろくの強い香りに混じっていたのは、微かですが特異な薬品臭。これはおそらくチオペンタールに類する薬剤ですね。

 アカサカから儀式でトランス状態に陥るために聖酒を使うとは聞いていましたが……酒に混入させてこれだけ匂いがするということは、トランス状態を通り越して、意識混濁や判断力低下を狙っているとしか思えません。


 むろんテロマーである私にはこの手の薬品は効果がありませんが……飲むと不味いんですよ、これ。

 ええ、この手の薬品(自白剤)はベルンハルトに毎日の様に日替わりで飲まされていましたから、匂いも味も身をもって知っているのですけどね。


 昔の苦い――味覚的に――思い出に内心顔をしかめつつ、私は宴席に居る人間の表情を確かめました。私の言葉に反応しているのは神官長とアカサカのみ。

 巫女頭を含む他の人間は私が何を言っているのかわからないという顔をしています。となると、首謀者はあの二人ですか。


 この分だと食べ物にも何か仕込まれている可能性があります。効果はなくてもおかしなものを食べさせられるのは業腹ですし、黒巫女に繋がる手かがりもいくつか手に入れました。

 ここは「穏便」に退席させて頂くとしましょう。


「皆様、今宵の宴に感謝を。僭越ですが私も剣舞を嗜みますので、一舞い披露させて頂きますね」


 私はそう言うと、腰の後ろに装備していたレゾナンスブレードの柄を手に取ります。


「Blade of the storm, to my voice give heed,」

 「――Resonant blade, my path thou shalt lead!」


 起動歌に反応して形成される蒼き共鳴の刃。


 席上の全員が驚愕の表情で私とブレードを見つめています。私はにっこりと微笑むと、薬物入りの酒を皆の前で飲み干して見せ、空になった杯を掲げた後……頭上に放り投げます。

 そして私が振るう光の刃が空中で舞うように踊り――卓上に落ちた杯は綺麗に10等分されていました。


「これが『御遣い』の贈り物です。どうぞ、大切にお持ち帰りくださいませ。ああ、私の不興を土産に添えて、ね」


 声もなく呆然としている神官長達を尻目に、私は儀式の間を後にしました。……黒水晶(モーリオン)ギルドに属する者として、水晶を斬った事に若干の罪悪感を感じながら。


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