#13
私とトワが乗り込む事になったビークルは他の惑星では見たことの無いデザインだった。これは一体何だろう?
黒を基調としたビークル本体は旧式だけどそれはまだいい。だけど、どうしてビークルの後ろが神殿と合体したようなデザインになってるんだろうか。全体に金色の彫刻が施され、上部には動物を象ったような彫像が取り付けられている。
もちろんそれは実用性なんて皆無で、見るからに信仰の象徴だというのは判るけど……なぜ車に神殿を乗せるんだろうか。全く理解できない。
とても独特な価値観で、これがカルト由来なのかと私は頭が痛くなった。
「格好いい」
「あら、ご令妹さま、御霊輿を気に入っていただけましたか?」
「うん」
「御霊輿、って言うんですか?」
「はい。天の神様に近しい存在となった者を運ぶ車だと伝えられているんですよ」
自分達を神に近い存在だなんて平然と口にするとは、烏滸がましいというかなんというか。
私自身もセレスティエルという人を超えた能力を与えられた身ではある。だけど、それをもって「神に近しい」なんて考えた事は一度もなかったし、この力はトワを守るためのギフトでしかないと思っていた。
だけど、この連中は……。
「どこから乗るの?」
「後ろです。この観音開きになったお社を開いて……」
御巫がそう言って車体後部の神殿らしき部分を開くと、内部には向かい合わせになった座席が二つ。内部にもゴテゴテとした飾り付けが付いているけど……いや、座りにくいでしょう、それ。
興味深げに内部を覗き込んでいるトワの姿に軽くため息をつき、私は告げた。
「じゃあトワは御巫様とこっちに乗って。私は助手席でいいから」
「いいの?」
「ええ、興味あるんでしょ?」
「うん。ありがとう、お姉ちゃん」
「あら、アイリス様はお優しいいのですね」
……いや、優しいというよりもこんな所に乗りたくないだけなんだけどね。
御巫の言葉に、考えを顔に出さないように苦労して「御遣い様スマイル」で応えた私は、軽く会釈して助手席へ向かった。
歩くのと大差ないスピードで進むビークルは、ゆっくりと地下へのスロープを下ってゆく。
私達の乗ったビークルは車列の最後尾で、アリサの乗ったビークルは先頭に位置している。やはり八柱とやらの順列が関係しているのだろう。
地下通路に灯されている明かりはC3の輝きではないのか、どこか冷たく堅い光を放っていた。それもそうか、ここにはギルド支部も存在しないロストプラネットだ。私達の文明とは異なる技術体系で照明を灯していてもおかしくはない。
薄暗い通路進む車列を見ていても退屈なので、私は運転手に話しかけることにした。本当に聞きたいことをいきなり切り出すのはまずいので、まずは当たり障りの無い話題から。
「御巫様、素敵な方ですね。どのようなお方なのですか?」
「えっと、リナ様、ですか?サスガ家のご令嬢であらせられ……」
「私、かしこまった話し方は苦手なので、普通で結構ですよ」
運転手は私がいきなり話しかけてきたことに一瞬驚いたような表情を浮かべたけど、それでも会話には応じてくれるようだ。
無理をしてかしこまった口調で話されるとこちらも肩が凝るので、普通に話して貰うように頼んでおく。
「あ、ありがとうございます。リナ様はとてもお優しい方で、私達信徒にも分け隔てなく接して頂いています。いえ、もちろん他の八柱の方々がその、問題がある訳ではなく……」
「大丈夫です、他言はしません」
「……すみません」
どうやら宗教支配は万全というわけではなく、信徒の間には八柱に対する不満の様なものがあるようだ。
なるほど、アカサカが私達を利用しようと考えているのはこの辺りに理由がありそうだ。「御遣い様」の降臨を大々的に公表し、威厳の回復や信仰の強化をもくろんでいるといったところだろうか?
アリサ、うまく立ち回れるだろうか……いや、むしろあの子は私より得意だよね、こういう権謀術数の類いは。
今はそれよりも情報収集だ。本命に近づくためのジャブを放ってみよう。
「リナ様は御巫というお役目なのですよね?巫女様とは違うのでしょうか?」
「ええ、御巫様というのは八柱で女性神職の方が就かれるお役目でして。巫女様というのは次世代の神官長候補にお仕えする、若い未婚の女性神職方のお役目になります」
なるほど、御巫と巫女は系統の異なる職位ということか。言うならば御巫は女性閣僚、巫女は次期当主の婚約者と言ったところなんだろう。
問題は、その巫女に「黒」が付くと言うことだ。ここからは慎重にいかないと。私は思案して、次の言葉を探した。
「巫女様には『色』がおありなのですか?」
「色……ですか?」
「ええ、例えば白とか、金とか、赤とか。『黒』とか」
さぁ、どう反応する?私はさりげない風を装って運転手の表情を観察する。白、金、赤と色を順に挙げたときにはにこやかだった表情が、黒と言う言葉を耳にした途端、一瞬で引きつった。
「な、なんのことでしょうか……巫女様には色なんて、そんな事は……。その、どうして……どこで……それを?」
「私、御遣いなので、耳はいいんです。運転手さん、さっき私のことを見て言ってましたよね。赤い瞳の黒巫女って」
私があえて末席の御巫であるリナのビークルを選んだ理由。それは、先ほど私を見て黒巫女だと言っていた二人の片割れが、このビークルの運転手だったからだ。
立ち位置的に、ビークルの持ち主はリナかもう一人の御巫のどちらかだと思ったけど、助手席に乗り運転手の顔を見た時点で私は自分が賭けに勝ったことを知った。
そして今、直球で疑念をぶつけた訳だ。これなら言い逃れはできないだろう。
「申し訳ございません!御遣い様を神殿に敵対する不吉な黒巫女などと……非礼をお詫びいたします、ですから、どうか家族だけは……!」
「いや、私何も怒ってないし、失礼じゃないからね?それに私、神殿の人でもないからね?」
運転手は怯えた様子で、ハンドルを握る手が震えている。少しでも緊張をほぐそうと私も普段の口調に戻したけど、どれほど効果があることやら……。
だけど、彼の言葉でいくつかの情報が手に入った。まず黒巫女は神殿と敵対している不吉な存在だということ。そして……神殿が、意に沿わぬ信徒を容赦なく粛正しているであろうということ。
私のミッション内容に関連するのは前者の情報だが、後者の情報を放置していていいものだろうか?いや、だが指導者層の行いに介入することは完全に内政干渉だ。いくらここがギルドの影響下にないロストプラネットだとはいえ……。
黙り込んでしまった運転手を横目に見ながら、私はどうしたものかと思案した。ふと前方を見ると、開けた空間が目に入る。どうやら地下都市に到着したようだ。




