#12
>>Iris
姿を現した私達に気付いたのか、「タカマガハラの民」達はこちらに目を向けてきた。
敵意をもたれないように注意し、微笑みを浮かべながらゆっくりと近づく。ゆっくり歩きながら観察すると、いくつかのことが判った。
アリサの前にいるのは全部で8人。4台のビークルが止まっており、8人のうち半分は儀式的で華美な服装を纏い、残りの半分は飾りの少ない簡素な衣装を身に着けている。
派手な格好をした4人は、どうやら車に乗り合わせてきたわけではなく、それぞれが専用の運転手を仕立てたビークルで到着したようだ。
となれば、彼らはこの惑星におけるVIPにあたる人物と見て間違いないだろう。その服装と発言内容から推測するに、宗教指導者――恐らくこの惑星の支配層だ。
この惑星の成り立ち、すなわちカルト教団による入植という情報と合わせて考えると、ここが宗教国家である可能性は極めて高い。
そして、指導者と思われる4人の内訳が男女2人ずつである点から、少なくとも形式的には男女同権を重んじていると考えられる。
「おお、これほど尊き御光をまとわれた方が、御遣い様のご令妹にあらせられるとは。なんと神々しきお姿、実にお二方とも天の恵みを体現されております。ようこそ、天の御意に導かれしタカマガハラの地へ。心より謹んでお迎え申し上げまする」
……そして、厄介な事にも気が付いた。8人のうち簡素な服を着ている4人はアリサや私達の事を畏敬の表情で見つめている。
しかし、今私に対して声を掛けてきた指導者は表面上は敬意を払う様な表情こそ浮かべているが、その目はまるで私達を値踏みするように見つめている。
歓迎するという言葉に嘘は無いようだけど、おそらく彼らは本当は私達を「神の御遣い様」だとは考えていないに違いない、おそらく、私達を何かに利用しようとしている。そんな気がした。
まさかスゥ局長がこの展開を読んでいたとまでは思わないけど、これは管理官としての政治力が限界まで試されるミッションになりそうだ。
頭痛を感じながらも、表面上は柔和な……御遣い様スマイルを浮かべ、私はアリサの元へ歩みを進めた。
「……なぁ、あの背の低い方の御遣い様……瞳が赤いぞ」
「ああ、黒巫女と関係あるんじゃ……」
「本当に御遣い様なのか?」
「でも、『八柱』の方々がそうおっしゃってるし……」
後ろに控えている質素な衣装の男達が小声で話しているのが聞こえる。セレスティエルの聴力を知らなければ聞こえないと思う距離だけどね、しっかり聞こえてるよ。
「八柱」と言うのは指導者達の事だろうか?出向いてきているのが4人しかいないけど。
いや、それよりも気になるのは「黒巫女」という言葉。私と同じ赤い瞳を持つ人物。巫女ということは女性だろう。
……つまり、その特徴は、アリサの幻視と合わせるとミッション受領時に聞いたC3強奪犯のものと同じだ。宗教国家における巫女と言う尊称とは裏腹に「黒巫女」と呼ぶ彼らの口調には不安や嫌悪のようなものが浮かんでいるようにも思えた。
そんな事を考えていて初めて気が付いた。この「民」達は全員黒い髪に黒い瞳を持っている。これがもし偶然では無く、タカマガハラの民の人種的な特性だとしたら……赤い瞳の「黒巫女」は限りなく黒いという事になる。
思わぬところで手がかりが得られたが、「黒巫女」が宗教国家の幹部クラスなら……彼女の行いを追求するのは難しくなるかもしれない。
C3強奪の追求と、内政干渉の回避。難しい舵取りが要求される案件だ。まったく、どこまで難易度上げてくれば気が済むのよ、このミッション……。
「アイリス」
「……どうしたの?」
私がげんなりしていると、隣を歩いていたトワが手を引いて小声で話しかけてきた。何か気付いた事があるんだろうか。
「私、かしこまったしゃべりかた出来ない」
「いや……まぁ、ああいうのはアリサに任せておけば良いんじゃないかな。私もこの口調にするし。何せ私達は『御遣い様の妹』らしいからね」
「アリサに期待」
ただでさえストレスフルなミッションなんだ。儀式的なことはアリサに押しつけてしまおう。私はそう決意した。
私達と対峙した八柱とやらの代表者は祭典官のケイジ・アカサカだと名乗った。
六十代ぐらいの男性で表面上は威厳を保った柔和な表情を浮かべているが、視線はには老獪な企みの光が浮かんでいるように思えた。正直、相手にしたくないタイプだね。
他の三人もそれぞれ名乗ったけど、正直アカサカ祭典官の印象がくどすぎて名前を覚える気にもなれなかった。
ただ女性は御巫と言う役職名らしいことは気になった。男女同権だと思ったけど、役割分担があるのだろうか?
それに巫女ではないということは……黒巫女は八柱ではないということか。
「私はアイリス、こちらは妹のトワ。アリサ姉様のお付きとしてきました」
私達は姓や所属を名乗らず、ただのアイリス、トワと名乗った。
姓が違う義姉妹と説明するのも面倒だし、彼らがギルドの事をどの程度知っているかは判らないけど、黒巫女が強奪犯だとしたらギルドと名乗ることはリスクに繋がりかねないと考えたからだ。
お付きと名乗ったのは、アリサに指導者層の相手を任せるという意図だ。アリサも私の名乗りを聞いて理解してくれたようで頷いてくれた。
一瞬、目が恨めしそうだった気はしたけど、自分で「御遣い様劇場」を開幕したんだから責任とって貰わないと。
運転手らしき人達が名乗らないところを見ると、本当に運転以外の役割が与えられていないんだろうね。むしろ公的な場での発言は禁止されているような気配もあるし。
ともあれ、互いに名乗りが済んだのでアカサカ祭典官の招きに応じて彼らの都市「タカマガハラ」へ案内される事になった。
ただ、そこで一悶着があった。彼らが乗ってきたビークルは大型なのに4人乗りだったのだ。私達は3人。向こうは運転手とVIP。誰かの車に私達全員が乗ることはできないし、分散して乗るにしても一台だけ「御遣い様」が乗らない車があるのは儀礼的に問題があるらしい。
八柱が何やら回りくどい言葉で揉めているのを見て、正直どうでも良くなった私は横から割って入った。
「失礼。私はトワと一緒がいいので、こちらの御巫様の車に乗せて頂きたいです。姉様はアカサカ様の車に乗られるのでしょう?」
「ええ、そのつもりです。お願いできますか、アカサカ祭典官」
「御遣い様とご令妹がそうおっしゃるのであれば……」
御遣い様であるアリサがこの場で一番偉いであろうアカサカの車に乗るのは当然だろう。
そして私が選んだ女性は一番年若い……たぶん末席の人で、幼い「妹」が年の近い者に頼ろうとするのは理解も得られるはずだ。
そして客人が乗らない車が2台なら、空荷の2人も面目も保てるだろう。私の言葉にアカサカと若い御巫は快諾、残りの二人は不承不承同意した。




