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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部4章『現理の円舞曲』タカマガハラ-憎愛の惑星
190/217

#8

>>Towa


 アリサが操船するブリーズでタカマガハラの軌道ステーションに向かう。

 近づいてみて改めて判ったけど、軌道ステーションは完全に機能を喪失しているようで明かりの一つも付いていなかった。


 ステーションの昼側は構造体が崩壊して骨組がむき出しになっている部分も多い。

 でも夜側に面した側は原形を保っていて、ドッキングポートの一つにはアルカンシェルより一回り大きいサイズの古い航宙船が停泊……いや、あれってステーションに船体がめり込んでない?


「なるほど、アルカンシェルが言った自航不能ってこういうことか。随分と無理な接舷したみたいね」

「アリサ、ぶつけないでね」

「大丈夫です、フルマニュアルでもエレガントに接舷してみせますとも」


 管制からの通信や誘導がないから、アリサは全て手動で操船している。アイリスも凄いけどアリサもそれに匹敵するぐらい凄いよね。何でも出来るし。

 私も何か出来るようにならないとな……。そんな事を考えているうちに、ブリーズは軌道ステーションに接舷した。


「エアロックの電源が切れていますね。開きそうにありません」

「船外活動して昼側から入る?」

「それは最終手段かな……。この手の扉は緊急時に備えて手動で開けられるようになってるはずだけど……あった、これだね。たぶん開けたら空気ごと吸い出されちゃうから先にブリーズの機内を減圧しておくよ。酸素供給(エア)フィールドの残量はOK?」

「はい、大丈夫です」

「私も」

「トワ、使いかけのユニットじゃないよね?」

「うん、新品」

「なら大丈夫だね」


 そう言うとアイリスは扉の脇にあったパネルを開き、中のレバーを確認している。

 さして力を込めた風でも無いけど、エアロックの扉が開き……ブリーズの機内に残っていた僅かな空気がステーション内に吸い出されていく。


『じゃあ、まずはあの航宙船から調べよう。でもブリーズを無人にする訳にもいかないから……トワ、残ってここを守ってくれる?』

『……わかった』

『よろしくね、トワ』


 アイリスはああ言うけど、きっとそれは優しい嘘だ。

 ここには敵が居る可能性があって、その敵は手練れらしい。アリサもアイリスも戦いは手慣れたものだけど、相手が相手だから私がいると足手まといになる。

 それが判っているから、私はアイリスの言葉に頷くしか出来なかった。せめてレゾナンスシールドを使いこなせれば、少しは役に立てるのに……。後で練習しておかないといけないな。



『ブリッジは結構損傷してるね……ステーションにぶつけた影響かな』

『もしかしたら、事故ではなく証拠隠滅なのかもしれませんね』

『もしそうだとしたら、随分と乱暴な証拠隠滅だね……』


 私が決意を新たにしている間にもアイリスとアリサは航宙船の探索を進めていた。無線で入ってくる連絡を聞く限りでは奪われたC3に関する手がかりは無いようだった。


『トワ、船内探索終了。老朽化の影響でそこかしこが壊れてるけど、最近まで動いてた形跡はあるね。それ以外は特にこれと言った手がかりは無かったけど……たぶん、船内に居たのは一人だと思う』

『どうして?』

『船内設備が一人分しか使われてないんだよ。クルーレストとか、食器類とか』

『全ての設備を専有できるのに決まったものしか使わないというのは、几帳面というか、ストイックな強奪犯ですね……』


 そういうものなんだろうか。私がアルカンシェルを一人で使ってたときは……そういえば、ラウンジとかブリッジとかいろんな所で寝てたかも。

 でもベッドを買ってからはちゃんとベッドで寝てたよ?ソファで寝るとずり落ちるし、床で寝ると冷たいからね。


『トワ、続けてステーション内の索敵だけ先に済ませておくね。そっちは異常ない?』

『ない。暇』

『索敵終わったら一緒に探索しようね。じゃ、ちょっと待っててね。アリサ、手分けしていこう』

『承知しました』


 しばらく二人が色々な場所を回っている声が無線から聞こえていたけど、やはり人の気配はないようだ。でも、索敵が終わるまでは油断禁物だからね。なにせ相手は手練れらしいし。

 そう思っていたきだった。ステーションの外がひときわ明るく光ったのは。


 なんだろう、この光は?私は反射的に恒星の方を見た。すると……恒星の表面が一部分だけ明るく輝いてる……?明るく輝いた部分は、他の部分と比べて異様に白く、熱を放っているように見えた。

 私が唖然とみている間にそれがゆっくりと均一な輝きへと戻っていく。


『アイリス、外!光った!』

『外?どういうこと?』

『恒星が一部分、白く光った』

『トワ様、それもしかしてフレア爆発では』

『ここの主星は赤色矮星に性質が近いからね、気まぐれにフレアが発生するんじゃないかな』

『大丈夫?影響ない?』

『アルカンシェルはレゾナンスフィールド展開できるよね?荷電粒子が届くまでに何時間かかかるだろうし、船内に戻れば大丈夫だよ』


 アイリスが大丈夫だと太鼓判を押してくれたことで、異常な光に一瞬焦った私の心は平静を取り戻した。

 そうか、あれは自然現象なんだ。恒星のフレアっていのは聞いたことがあるけど、それを目で見ることができたのは貴重な体験だったのかも。



『索敵終了……というか、本当に何も無いね、ここ』

『ええ、軌道ステーションとしての機能もほぼ死んでますね。ただの駐機場ですね、これは』

『じゃあ、私も探索に出ていい?』

『いいけど、昼側が崩れてて危ないから一緒に探索しよ?一旦戻るから待ってて』

『わかった』


 しばらくして二人が戻ってきたので、全員揃って探索に出た。だけど、本当に見るものがない。

 数少ない調度品の類いも無重力のせいで周囲を漂っているし、書類やデータ類のようなものも見当たらない。

 フォトン生成装置も壊れているみたいで機材を触っても反応しない。これは本当に外れかな?


 そう思いながら航宙船の突っ込んだブロックへ入った私は、ある事に気が付いた。雑然とした周囲の情景の中で、なぜかゴミ箱だけが普通にぽつんと置かれている。


『アイリス、あれ』

「ん?ゴミ箱がどうかした?」

『あれだけ、ちゃんと置かれてる』

『……言われてみれば、そうですね。でも、どうしてでしょう』

『中、見てもいい?』

『ちょっと待って。ブービートラップの可能性もあるこら。アリサ?もしかしてトラップ解除とか出来たりしない?』

『アイリスさん、私を何だと思ってるんですか?そんなもの……出来るに決まってるじゃないですか』

『知ってたけどさ、アリサってホントなんなんだろうね』

『それ、褒めてませんよね?』


 そう言いながら、アリサはゴミ箱に近づくと慎重に周囲を調べ始めた。いや、本当に何でも出来るんだなぁ、アリサ。


『ワイヤー類やセンサーは見当たりませんね。ゴミ箱自体も固定されている訳では無く、誰かがここにそっと置いたような印象ですが。中、確認してみますね……えっと、中身はゴミですね』

『まぁ、ゴミ箱だからね』

『見てもいい?』


 私の言葉にアリサは頷いた。危険は無いということだろう。ゴミ箱の中に入っていたのは……空になったスラリー(ドロドロ)のチューブが沢山。

 あと、見たことの無い食品のパッケージがいくつか。食べ物のゴミばっかりだった。


『ここは発着デッキですから、以前の利用者が捨てていったものかもしれませんね』

『デッキクルーがいる規模のステーションじゃないからね。ステーションが稼働していた頃に利用客がセルフで捨てていったんじゃないかな』


 二人の話を聞きながら、私はふと気になってスラリー(ドロドロ)のチューブを手に取った。消費期限は……私が記憶している今日の日付よりも先。つまり、これは最近製造されたものということだ。


『アイリス、アリサ』

『どうしたの?お腹空いた?』

『違う。これ、最近のやつ』


 そう言って私がパックを手に、記載されていた消費期限を示すと二人もそれを見て眉をひそめた。


『ということは……この航宙船に乗ってきた人物が、わざわざ船内からゴミを持ち出して捨てていったということですか?えらく几帳面ですね』

『船内の様子と合わせて考えると、これを捨てたのは強奪犯ってことかな?』

『たぶん、そう。あと、これ』


 そう言って私が示したのは見知らぬ食品のパッケージ。宇宙食じゃなくて地上で食べるための保存食だと思うけど、あまり美味しそうに見えない食品の絵が描かれている。裏に書かれた消費期限がESTで表示されていて……それは50年ぐらい前の日付だった。


『ステーションの荒廃具合から見ればこの施設が50年前まで使われてたとは思えないね……ということは、これも強奪者が行きに捨てていったものってことかな?』

『几帳面にもほどがあるでしょう……』

『でも、これが同じ人物が捨てたゴミだとしたら、その人物は少なく見積もっても50年以上前にここを立ち、最近戻ってきたって事になるね』

『この船、そんなに長く宇宙を飛び回れるようには見えませんが……』

『構造的に短距離しか飛べないし、そんなに何度も飛べるほど耐久性があるようにも見えないね。実際、いろんなところが壊れてたし。もしかしたら、この船に乗っていた人物は――』

『普通に旅をしてた?』

『かもしれないね。ロストプラネットの人間が文明圏を普通に旅してたとか、ちょっと想像できないけど』


 私の言葉にアイリスは頷いた。普通に旅をして、帰路にまるで手土産の様にC3を奪って帰った人物。いったいどんな人で、何をしたかったんだろうか。

 それ以上は手がかりは無さそうだったので、私達は一旦アルカンシェルへ戻ることにした。


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